タイでも、日本と同様、テレビ・屋外看板・SNSなどで幅広く化粧品の広告が展開されています。
広告は商品等の売上げを大きく伸ばすことのできる可能性を秘めていますが、その規制は複雑であり、違反があった場合には行政処分などを受けるリスクがあります。
したがって、広告に関するルールの概要を把握しておくことが大切です。
そこで、今回は、化粧品広告に対象を絞って、規制の概要を整理します。
化粧品とは
まず、「化粧品」とは、塗布・滴下・噴霧など人体(歯や口腔内を含む)に接触させて使用することを予定した製品であり、清潔にし、美化し、魅力を高め、外見を変え、体臭を矯正し、またはその保護や良好な状態の維持を目的とする製品をいいます。
ただし、疾病の治療・予防や、身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とする製品は、化粧品に含まれません。そのような目的を有する製品は、医薬品として扱われます。
化粧品広告を規制する主要な法令
化粧品広告を規制する主要な法令は、消費者保護法と化粧品法です。
1.消費者保護法
まず、消費者保護法は、消費者保護を目的とした法令であり、広告全般に関するルールを定めています(消費者保護法22条〜)。
消費者保護委員会が執行を担当しており、広告一般のチェックや違反時の措置を行っています。
2.化粧品法
次に、化粧品法は、製造・輸入・表示・広告など、化粧品に関するルールを包括的に定めた法令です。
食品医薬品局(Food and Drug Administration。以下「FDA」といいます。)が執行を担当しており、化粧品広告のチェックや違反時の措置などを行っています。
消費者保護法による広告規制
消費者保護法は、広告全般に関するルールを定めており、化粧品広告に限らずあらゆる広告に適用されます。
消費者保護法による広告規制については、コラム「タイにおける食品広告規制の概要」にまとめていますので、そちらをご参照ください。
化粧品法による広告規制
化粧品法では、化粧品広告において、不公正な表現、社会全体に悪影響を及ぼすおそれのある表現を用いてはならないこととされており、その例示として、虚偽又は誇大な表現などを列挙しています(化粧品法第41条)。また、これに加えて、健康への危険、公序良俗への違反、又は、不快感・迷惑を生じさせるおそれのある表現も禁止されています(化粧品法第42条)。
これらを整理すると、以下のとおりとなります。
1.虚偽または誇大な表現
事実と異なる内容や効果を過大に謳う表現は禁止されています。
例えば、「絶対に〇〇できる」、「永久に効果が続く」などの断定的表現がこれに該当します。また、使用前後の比較写真も、結果が誇張されている場合や恣意的な比較である場合など、虚偽または誇張とされる可能性があります。
なお、常識的にみて「明らかにありえないほどの」誇張表現や、「明らかに」フィクションである表現は、一般消費者に誤解が生じず禁止されていませんが(例:「月の光を閉じ込めたような透明感」など。化粧品法第41条)、許容される誇張・フィクションであるかどうかは厳格に判断されます。
2.重要な内容に関して誤解を招く表現
製品の本質に関して誤解を生じさせる表現は禁止されています。
例えば、根拠のない統計データや専門機関のお墨付きと称する表現で消費者に実際以上の効果を信じ込ませることは違法となります。広告内でテスト結果や実験データに言及する場合、その試験機関名や条件など詳細を明示しなければなりません。
3.医薬品的な効果を謳う表現
治療・予防など医薬品のような効果を謳う表現は禁止されています。
例えば、「にきびを治す」、「傷が治癒する」といった治療効果は、化粧品の広告では許されません。
4.性的能力への効果を謳う表現
性的能力の向上を示唆することも禁止されています。
例えば、「この香水を使えば異性を虜にできる」などの表現は許されません。
5.法令や倫理への違反を促したり、文化の衰退を招いたりする表現
法令や倫理への違反を促す表現や、国家の文化や伝統に反するような広告表現も禁止されています。
例えば、「他人の恋人も奪うことができる」といった表現や、仏教への不敬となりうる表現などは許されません。
6.国民の分裂を招いたり、国民の団結を阻害したりする表現
国民の団結や社会の安定を害するおそれがある表現も禁止されています。また、政治的・宗教的対立を煽るような宣伝や、根拠なく公衆に恐怖や不安を与える表現も用いることができません。
例えば、「選挙での勝利を導く」や「上流階級の肌」といった表現は許されません。
7.健康への危険、公序良俗への違反、又は、不快感・迷惑を生じさせるおそれのある表現
健康への危険を及ぼすおそれのある表現、公序良俗を害するおそれのある表現、不快感や迷惑を与えるおそれのある表現も禁止されています。
他の禁止事項に該当する表現と類似しますが、例えば、「赤ちゃんにも絶対に安心」や「一日に何度でも使える」など、誤った使用を誘発するおそれのある表現、過度な肌の露出を含む表現、王室を想起させる表現や、仏教への不敬となりうる表現などが該当します。不快感や迷惑を与えるおそれのある表現としては、例えば、「使わない人は醜くなる」といった根拠なく不安を煽る表現や、特定の肌の色や体型への侮辱的な表現などが該当します。
8.大臣規則により禁止される追加表現
上記に加え、2024年11月20日に公布された規則(同年11月22日施行)では、大きく分けて以下の2つの表現が明示的に禁止されています。
(1)体内で使用されるものであるとの誤解を招く表現の禁止
その製品が「身体の内部」で使用されるものであると誤解させるおそれのある表現は禁止されます。例えば、鼻腔内や耳の奥など、身体の開口部から内部へ挿入して使用することを示唆する表現が該当します。ただし、歯磨きや洗口液など例外もあります。
(2)注射や深部への浸透を示唆する表現
注射、針、注入器などを用いて、表皮を超えて深部まで成分を送るような器具と一緒に使用すべきであると誤解させるおそれのある表現は禁止されます。例えば、「注射して血液に届けることで効果的に肌を明るくする」といった表現が該当します。
マニュアルやガイドライン
FDAは、化粧品広告に関するマニュアルを公表しています(2024年9月に改訂されています)。
その中では、用語の使用基準が規定されており、例えば、美白、シワ改善などについて「使用可能な表現例」と「違反とされる表現例」を列挙しています。例えば、次のとおりです。
許容される表現の特徴
- 外観(見た目)の改善を示唆する表現(〜に見せる)
「肌を明るく見せる」、「肌のトーンを均一に見せる」
- 補助的効果を示唆する表現(〜を助ける、目立たなくする)
「乾燥によるカサつきを防ぐサポート」、「小ジワを目立たなくする」 - 印象改善を示唆する表現
「生き生きとした印象の肌へ」、「フレッシュな印象を与える」
許容されない表現の特徴
- 医療的な効果があるかのような表現
「肌細胞を再生する」、「シミを治す」 - 永続的な効果があるかのような表現
「シワを永久に消す」、「半永久的な美白」 - 身体的な機能を変化させるかのような表現
「皮膚構造を変える」、「メラニン生成を止める」 - 数値的な保証をするかのような表現
「7日でシワが消える」、「使用者の90%が改善」
また、FDAは、このマニュアルとは別に、製品の種類ごとに許容される表現や許容されない表現を例示したガイドラインも出しています(2025年3月発布)。例えば、ヘアケア製品に関しては以下のとおりです。
許可される表現の例
- 髪がさらさらになる
- 髪にツヤが出る
許可されない表現の例
- 毛髪細胞を再生・修復する
- 抜け毛を止める、改善する
したがって、これらのマニュアルやガイドラインは、化粧品広告を検討するに際して必須の参考資料となります。
化粧品と医薬品の境界
冒頭で触れたとおり、化粧品は疾病の治療・予防や、身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的としない製品であり、そのような目的を有する製品は医薬品として扱われます。
この点、ある製品が化粧品と医薬品のどちらに該当するかという判断に際しては、広告上の表現も考慮されます。つまり、広告において疾病の治療・予防などの医薬的な効果があるかのような表現をすると、その製品は医薬品として扱われるリスクが生じるのです。すなわち、化粧品として販売しているつもりであっても、その製品が医薬品(しかも未承認の医薬品)として扱われ、様々な面で医薬品法違反とされかねません。
そのため、化粧品広告においては、医薬的な効果を謳わないよう細心の注意を払う必要があります。
広告の事前承認制度の有無
タイでは、化粧品広告について、事前に当局の審査を受けたり、許可を取得したりする必要ありません。ただし、事後的な監視は厳格であると言われています。
そのため、広告をする前には、後々問題が生じないよう慎重に内容を検討する必要があります。
なお、内容に問題があるかどうかについては、広告する前に、FDA内の化粧品委員会に相談して意見を求めることができます(化粧品法46条)。そして、委員会の意見に従って広告した場合、たとえそれが事後的に違法であると評価されたとしても、その事業者は刑事責任を負わないこととされています(ただし、是正命令などの対象にはなりえます)。
なお、この制度では、申請を受けた場合、委員会は60日以内に回答すべきこととされています。逆に言えば、回答まで60日ほどを要するおそれがあるため、十分な期間的余裕を持って申請することが大切です。
違反時の措置と罰則
化粧品広告の規制に違反した場合、以下のとおり、行政上の命令・制裁や刑事上の制裁を受ける可能性があります。
- 特定の表現の使用停止・修正
問題のある広告表現の使用停止や修正を命じられる可能性があります(化粧品法44条)。
- 広告の差止め・禁止
広告それ自体の掲載・放送を中止するよう命じられる可能性があります。悪質な場合には、特定の製品に関する広告を一定期間全面的に禁止される可能性もあります(化粧品法44条)。
- 訂正広告
消費者に誤解を与えてしまったようなケースでは、訂正広告を掲載して誤解を解消するよう命じられる可能性があります(化粧品法44条)。
- 刑事罰
違法な化粧品広告、及び、上記の命令への違反については、化粧品法や消費者保護法に基づき、禁錮や罰金などの刑事罰が科される可能性があります(化粧品法第84条等)。
この点、実務上、軽微な違反であれば直ちに刑事事件として立件されるには至らず、当局からの広告修正・停止等を命令されるにとどまるケースが一般的です。しかしながら、違反が重大・悪質である場合や、命令に従わない場合には刑事罰が科されるリスクもあります。
なお、たとえ法令には違反していない場合であっても、消費者に危険を及ぼすおそれがある場合には、当局は、広告中で使用方法などに関する注意・警告を表示するよう指示したり、広告媒体を制限したり、広告それ自体を禁止したりする権限を有しています(化粧品法43条)。
まとめ
タイにおける化粧品広告は、化粧品法及び消費者保護法の両面からの規制を受ける複雑な領域です。事前承認制度が存在しない分、広告内容の適否は事業者自身が責任をもって判断しなければならず、違反した場合には刑事罰を含む重大なリスクを負うことになります。タイで化粧品を販売・宣伝する日本企業にとって、現地の規制を正確に理解し、専門家によるリーガルチェックを行うことが、法的トラブルを未然に防ぐための最善策といえるでしょう。
補足:タイにおける比較広告の可否
タイでは、化粧品に限らず、競合製品との比較広告を明示的に禁止する法令はありません。したがって、競合製品と比較して自社の優位性を訴求する広告も、原則的には許されると考えられています。
しかしながら、比較広告は、比較データの客観性・適切性の問題、自社製品の優位性の誇張の問題、競合製品を製造販売している他社の名誉・信用の毀損の問題など、様々な問題をはらみます。
したがって、比較広告それ自体は違法ではないものの、これを適法・適切に行うことは極めて難しく、タイで比較広告を目にすることはまずありません。
以上


