【弁護士解説】連載:労働基準法概説(4)‐労働契約の終了‐

執筆:弁護士 髙林 寧人 フィンテックチーム

連載:労働基準法概説(1)』はこちらから

連載:労働基準法概説(2)』はこちらから

連載:労働基準法概説(3)』はこちらから

 労働契約の終了といっても様々な類型や場面があり、使用者は、適切な法的知識のもと、個別具体的に、必要な手続きを履践していく必要があります。

 本記事では、労働契約の終了に関する基礎知識について、弁護士が分かり易く概説します。

1. 労働契約の終了

 労働契約の終了とは、何らかの原因で労働者との労働関係が消滅することです。

 労働契約の終了の類型は、以下に大別されます。

自動終了:定年への到達、期間の満了などの一定の事実に基づく労働契約の終了

任意退職:労使間の合意又は労働者側の一方的意思に基づく労働契約の終了

解  雇:使用者側の一方的意思に基づく労働契約の終了

 以下、上記の各類型に従って個別に確認していきます。

 

2. 自動終了

 自動終了とは、定年への到達、期間の満了などの一定の事実に基づく労働契約の終了、です。

 自動終了の原因は、様々ありますので、以下、個別に確認していきます。

 

(1)  定年への到達

(ア) 定年とは

 定年とは、労働者がその年齢に達すると自動的に労働契約が終了するとの制度です。

 就業規則において、あらかじめ定めた年齢に達したことによって労働契約が終了する旨を規定していれば、労働契約は、労働者がその年齢に到達したことをもって、使用者の意思表示を要することなく当然に、終了します。

 

(イ) 高年齢者雇用安定法

 平成6年の高年齢者雇用安定法の改正により、60歳を下回る定年は禁止となりました(同法第8条)ので、60歳を下回る定年の規定を就業規則に設けた場合、当該規定は、同条項違反により、無効です。

  また、65歳未満を定年としている使用者においては、65歳まで安定した雇用を確保できるようにすべく、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止、のいずれかの措置をとる必要があります(高年齢者雇用安定法第9条第1項)。

 使用者は、これに違反した場合、厚生労働大臣から指導・助言・勧告を受けることがあり、当該勧告に従わなかったときは、その旨を公表されることがあります(高年齢者雇用安定法第10条)。

 

(2)  休職期間の満了

 就業規則において、「休職期間が満了しても復職できなければ退職とする。」などの規定を設けていた場合、労働契約は、休職期間の満了によって、当然に終了します。

 復職できないか否かの判断基準について、片山組事件の最高裁判決(最判平10・4・9判時1639号130頁)は、労働契約上、職種や職務内容が特定されていない労働者については、「現実的に配置可能な業務」がある場合であってその業務を行える程度まで回復していれば、復職は不可能ではない、としました。

 使用者としては、休職期間満了が近づいた段階で、労働者に対し、休職期間満了日を伝えるとともに、主治医の診断書などの提出を求め、「現実的に配置可能な業務」があるか否かを見極めることとなります。

 

(3)  労働者の死亡

 労働契約上の地位は一身専属的であり、相続の対象にはなりませんので、労働契約は、労働者の死亡をもって、当然に終了します。

 なお、使用者は、遺族から請求を受けた場合、7日以内に給与を支払い、積立金、保証金、貯蓄金、その他金品を返還しなければなりません(労基法第23条)。

 

(4)  期間の定めある労働契約(有期労働契約)における期間の満了(雇止め)

(ア) 雇止めとは

 民法上、期間の定めある契約については、期間満了により当然に終了するのが原則ですので、有期労働契約についても、当該期間が満了すれば、使用者又は労働者による特段の意思表示なしに自動的に、終了します。

 これを「雇止め」といいます。

 雇止めは、解雇に類似するところがありますので、労働契約法第19条は雇止めを一定制限しており、一定の要件を満たした有期労働契約は、従前と同一の労働条件で更新されたものとみなされます。

 

(イ) 雇止めに関する手続的ルール(厚生労働省告示第357号「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」

 使用者は、以下のいずれかに該当する有期労働契約(ただし、あらかじめ更新しない旨が明示されているものは除かれます。)について、雇止めする場合には、期間満了の30日前までに、その予告をしなければなりません。

3回以上契約更新しているもの

雇入れ日から1年を超えて継続勤務しているもの

 また、使用者は、雇止め又は雇止めの予告がされた労働者が雇止めの理由についての証明書の交付を請求したときは、遅滞なく、これを交付しなければなりません。

 

3. 任意退職

 任意退職とは、労使間の合意又は労働者の一方的意思に基づく労働契約の終了、です。

 任意退職は、合意退職と辞職に大別されます。

 

(1)  合意退職

 合意退職とは、使用者と労働者との合意によって労働契約を終了させること、です。

 労働者が退職を申し込み使用者がこれを承諾することもあれば、使用者が合意退職を申し込み労働者がこれを承諾することもあります。

  なお、就業規則の作成義務がある使用者においては、就業規則に合意退職に関する事項を規定しておく必要があります(労基法第89条第3号)ので、「従業員が退職日の30日以上前に退職を願い出て会社がこれを承諾したときは、退職とする。」などの規定を整備しておくことになります。

 

(2)  辞職

 辞職とは、労働者が自身の一方的意思によって労働契約を終了させること、です。

 近年、いわゆる「退職代行サービス」が認知されてきていますが、このサービスを利用した退職はこの辞職に該当するといえます。

 労基法には辞職についての規定がありませんので、基本的には民法に従うことになります。

 辞職に関する法律上のルールをまとめると、以下となります。

無期の労働者(正社員など)

いつでも辞職の申入れが可能、申入れから2週間の経過により辞職(民法第627条第1項)。

有期の労働者(契約社員、嘱託社員、有期パート社員など)

原則:辞職不可
例外:「やむを得ない事由」(民法第628条)ある場合、期間1年超で労働契約初日から1年経過の場合、辞職可能(労基法附則第137条)。

 

4. 解雇

(1)  解雇とは

 解雇とは、使用者側の一方的意思に基づく労働契約の終了、です。

 労働者側の意思を考慮しない点で、任意退職とは大きく法的性質が異なります。

 解雇の類型は、以下のとおりです。

懲戒解雇:労働者が悪質な規律違反などを行ったときに制裁として行われるもの

普通解雇:懲戒解雇以外のもの
  狭義の普通解雇:労働者に解雇原因があるもの
  整 理 解 雇:労働者に解雇原因がなく使用者側の経営的事情によるもの

 

(2)  解雇の有効性

(ア) 法令における解雇禁止

① 解雇禁止期間

 以下の期間についての解雇は、無効です。

業務上傷病による療養のために休業する期間とその後の30日間

産前産後の休業期間及び休業が明けてから30日間

 

 例外的に、以下の場合であれば、上記の解雇禁止期間は適用されません。

使用者が業務上傷病のため療養中の労働者に対して打切補償(療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合に平均賃金の1,200日分の金銭を支払うこと(労基法第81条))を支払った場合(労基法第19条第1項但書前段)

災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(労基法第19条第1項但書後段)
 ※行政官庁の認定が必要

 

② 差別的・報復的解雇の禁止

 以下の事由を理由とする解雇は、無効です。

【労基法】
国籍・信条・社会的身分(第3条)
企画業務型裁量労働制の適用への不同意(第38条の4第1項第6号)
同法違反の事実の申告(第104条第2項)

【労組法】
労働組合の組合員であること、労働組合への加入・結成など労働組合の正当な活動をしたこと(第7条第1号)
労働委員会に不当労働行為の救済申立てや再審査申立てをし又は労働争議の調整の申請をしたこと(法第7条第4号)

【雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律】
女性労働者が婚姻・妊娠・出産、産前産後休業をしたこと(第9条第3項)
同法に関する紛争の解決につき都道府県労働局長に援助を求めたこと(第17条第2項)

【労働安全衛生法】
同法違反の事実の申告(第97条第2項)

【賃金支払確保法】
同法違反の事実の申告(第14条第2項)

【育児介護休業法】
育児休業や介護休業の申出をしたり実際に休業したりをしたこと(第10条、第16条)

【労働者派遣法】
派遣労働者が厚生労働大臣に対して申告したこと(第49条の3第2項)

【個別紛争解決法】
同法に基づく援助・あっせんの申請をしたこと(第4条第3項、第5条第2項)

 

(イ) 解雇権濫用法理

 労働契約法第16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして、無効とする」とされており、使用者による解雇権の濫用が禁止されています。

 すなわち、上述したような法令で禁止されている解雇に該当しなければ問題ないという訳ではなく、該当しなかったとしても、解雇に客観的に合理的な理由がありかつ解雇が社会通念上相当でなければ、やはり解雇は無効となります。

 解雇を適法に実行するためには、個別具体的な慎重な判断を要しますが、その中でも特に、整理解雇については、労働者側に落ち度がないにもかかわらず行われるものですので、特に厳格に制限されています。

  具体的に、有効な整理解雇のためには、以下の4要件を満たすことが必要と解されています。

1 人員削減を行う明確な必要性があること(経営上の必要性)

2 解雇以外の経費削減手段をすでに講じたこと(解雇回避努力)

3 解雇の対象者が合理的基準で選ばれていること(被解雇者選定の合理性)

4 労働者又は労働組合に対して内容について十分に説明し協議したこと(手続きの相当性)

 

(3)  (解雇が有効であるとして)解雇の予告・解雇予告手当

(ア) 原則

 使用者は、解雇の際、以下のいずれかを行わなければなりません。

 これらの方法をとらずに解雇した場合には、罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金。労基法第119条第1号)があります。

30日以上前の解雇の予告

(上記予告をしない場合)平均賃金の30日分以上の支払い(解雇予告手当)

 

(イ) 例外

 以下については、解雇の予告・解雇予告手当は不要となります。

1 除外認定
以下のいずれかに該当し、使用者が労働基準監督署長の認定を受けた場合(労基法第20条第1項但書、第3項。いわゆる「除外認定」)。
⑴天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
⑵労働者の責めに帰すべき事由による場合

2 特殊な労働者(労基法第21条)
⑴日々雇い入れられる者
 ※期間が1か月超なら必要
⑵2か月以内の期間を定めた労働者
 ※各々の契約期間超なら必要
⑶4か月以内の季節的業務労働者
 ※各々の契約期間超なら必要
⑷試用期間中の者
 ※14日超で引続き雇用なら必要

 

5. おわりに

 労働契約の終了といっても様々な類型や場面がありますので、使用者は、それぞれに応じて個別具体的に適切な手続きを履践していく必要があります。

 特に解雇をする場合、当該解雇が有効であることが大前提であり、解雇の予告・解雇予告手当は、この前提の下でなされるものです。

 解雇の予告・解雇予告手当をなせば解雇も有効になる、という論理関係にはなりません。

 使用者は、解雇を視野に入れる場合には、まずもって、解雇の有効性について精査する必要があるといえます。

執筆者

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)