【弁護士解説】連載:労働基準法概説(1)

執筆:弁護士 髙林 寧人 フィンテックチーム

 雇用について、欧米諸国においては、職務属性を中心に理解されてきましたが(ジョブ型雇用)、日本においては、人属性を中心に理解されてきました(メンバーシップ型雇用)。

 このような経緯から、日本の労働法制は、欧米諸国とは異なる独自の規定を含むに至っています。

 バブル経済の崩壊後、労働市場についての改革が一定進められてはきましたし、近年は、日本においてもジョブ型雇用の導入に向けた議論が活発化してはいますが、依然として、日本独自の雇用形態の根幹は維持されたままです。

 企業の発展のためには、労働者が安心して働ける環境の整備が重要であり、企業が労働基準法(以下「労基法」といいます。)の内容を正しく理解することの重要性は揺るぎません。

 本記事では、労基法について、弁護士が分かりやすく概説します。

1. 「労働法」とは

 実は、日本において「労働法」という名称の法律は存在しません。

 「労働法」という語は、労働に関するルールの総称を意味する俗称として用いられていることになります。

 

 講学上、「労働法」は、以下に大別されます。

講学上の分類

具体的な法律

個別的労働関係法
:使用者と雇われる個人との関係を扱う法

労働基準法、労働契約法、男女雇用機会均等法など

集団的労働関係法
:使用者と労働組合との関係を扱う法

労働組合法、労働関係調整法

労働市場法
:労働力の求人者と求職者が取引相手を探す場を扱う法

労働者派遣法、職業安定法、雇用保険法、雇用対策法など

 

2. 労働基準法とは

(1)  労働基準法の目的

 労基法は、個別的労働関係法に分類される、「労働法」の中でも中核となる法律であり、労働条件の最低ラインを定めるものです。

 労基法の目的は、使用者による不当な搾取を防ぎ、労働者が人たるに値する生活を営むために必要な収入を確保することです(労基法第1条)。

 実は、民法にも「雇用」という章があり、そこでも、労働契約についてのルールが定められています。

 もっとも、民法のみによると、雇用期間を定めていなければいつでも労働契約の解約を申入れることが可能となりますし、また、契約自由の原則が妥当しますので、例えば、賃金を時給1円と設定することも可能となってしまいます。

 労働者の多くは、賃金に依存して生活を営んでおり、使用者に対して弱い立場にありますので、もし使用者側が一方的に労働条件を設定できるとなってしまうと、労働者は、最低限の生活費すら得られないという窮地に陥りかねません。

 そこで、このような事態を回避すべく、労基法は、労働契約についての全国一律の最低基準を定めています(例外的に、最低賃金の金額などは都道府県ごとに設定されます。)。

 

(2)  労働基準法の効力

(ア) 民事的効力

 使用者と労働者とは、合意により、労働契約において、自由に労働条件を設定できるのが原則ではありますが、上述のとおり、労基法は、労働契約についての全国一律の最低基準を定めていますので、もし合意した労働条件が労基法の定める基準を下回っている場合には、当該合意の労働条件は無効となり(強行的効力)、両者の労働条件は、労基法の定める基準の内容に修正されます(直律的効力、労基法第13条)。

 

(イ) 刑事的効力

 労基法に違反する行為の一部は犯罪とされており、違反した場合には、刑事罰を受ける可能性がありますので、注意が必要です。

 法定刑とその対象となる主な行為は、以下のとおりです。

法定刑

対象となる行為

1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金(労基法第117条)

・強制労働をさせる行為

1年以下の懲役又は50万円以下の罰金(労基第法118条)

・労働者からの中間搾取
・最低年齢未満の児童を労働させる行為
・坑内労働の禁止、制限違反

6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(労基法第119条)

・解雇予告義務違反
・解雇予告手当の支払義務違反
・違法な時間外労働をさせる行為
・賃金(残業代)の不払い
・休日の付与義務違反
・休憩の付与義務違反
・有給休暇の付与義務違反
など

30万円以下の罰金(労基法第120条)

・労働条件の明示義務違反
・休業手当の不支給
・就業規則の作成、届出義務違反
など

 

(3)  労働基準法の対象となる労働者

(ア) 原則

 労基法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法第9条)であり、つまりは、労務提供の対価として金銭の支払を受ける従業員のことです。

 企業の役員や業務委託を受けるフリーランスなどは、「労働者」とはなりません。

 もっとも、労基法における「労働者」か否かは、あくまでも仕事の態様などの客観的な実態に即して判断されますので、形式的には、業務委託契約が締結されていたとしても、当該仕事の態様などの客観的な実態によっては、労基法における「労働者」と判断され得ることになります。

 労基法上の「労働者」か否かは、企業の指揮命令下での労務提供の有無、交付の金銭の労務対価性の有無、その他の補強的要素の有無から、総合的に判断されます。

 なお、例えば、外資系企業が日本法人を設立して日本国内で労務提供をする者と労働契約を締結するケースについてですが、労働者が労務を提供すべき地が日本である場合には日本の労働関係法令が適用されますので、当該労働契約は労基法の適用を受ける可能性が高くなります(ただし、当該労働契約に最も密接な関係がある地の法が他にあることを示し得る場合は除かれます。法の適用に関する通則法第12条)。

 

(イ) 例外的に労基法の規定の一部又は全部が適用除外となる労働者

 以下のとおり、例外的に、労基法の一部又は全部の規定が適用除外となります。

適用除外となる労基法の規定

対象となる労働者

解雇予告・解雇予告手当の規定(労基法第21条)

・日雇い労働者
・2カ月以内の期間を定めて使用される労働者
・季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される労働者
・試用期間中の労働者(雇入れ後14日以内に限る。)

労働時間・休憩・休日に関する規定(労基法第41条)

・農林、水産関係の事業に従事する労働者
・管理監督者、機密の事務を取り扱う者
・監視又は断続的業務に従事する労働者(労働基準監督署の許可を受けた場合)

労働時間・休憩・休日・割増賃金の規定(労基法第41条の2)

・高度プロフェッショナル制度が適用される労働者

変形労働時間制・フレックスタイム制・36協定・高度プロフェッショナル制度の規定など(労基法第60条第1項)

・18歳未満の者

一部規定を除く全規定(労基法第116条第1項)

・船員

全規定(労基法第116条第2項)。

・同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人

 

3. おわりに

 本記事では、労基法の総論について概説しました。

 次回以降は、労基法における主要なルールについて個別的に概説していきます。

連載:労働基準法概説(2)』はこちらから

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