【弁護士解説】連載:システム開発紛争の基本問題(10)システム開発契約における契約解除の問題

執筆:弁護士 森田 芳玄AI・データ(個人情報等)チーム

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連載:システム開発紛争の基本問題(2) 請負契約と準委任契約の区別の判断基準について(後編)』はこちらから
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1.はじめに

 システム開発業務を委託/受託するに際してトラブルに巻き込まれてしまうことは意外にあるものです。そのようなときに後悔しないように、本連載では事前に対処するべき事項や、実際にトラブルになってしまった際の対処法などをできる限りやさしく解説してゆくことを目的としています。

 第10回目は、システム開発契約における契約解除の問題について検討してみたいと思います。

 

2.契約解除の基本の確認

 まず、前提として契約解除の基本の確認をしてみたいと思います。よく「契約を締結してしまったけれど考え直してやっぱりキャンセルしたい」という話を聞きますが、当事者間の合意の下で契約をいったん締結した以上は、相手方の承諾なく自由にキャンセル(すなわち契約の解除)はできないのが原則となります。もし契約をいつでも自由に解除できてしまうとなると、契約の成立を前提として行動している当事者に思わぬ損害が生じてしまいかねず、取引の安全が守られないことになってしまうためです。なお、一定の取引では契約成立後にキャンセルができるクーリングオフ制度が認められていることがありますが、それは特定商取引法など法律上特別に認められている場合ということになります。

 そのような前提の下で、契約解除が認められる場合というのは、大きく分けると以下の場合になります。①合意解除(合意解約)、②法律上認められる場合の解除、③契約で認められる場合の解除の3種類です。

 本稿では、システム開発契約の問題に沿って上記の3種類を検討したいと思います。

 

3.合意解除(合意解約)

 合意解除は、当事者の合意に基づき契約を解除する場合となります。当事者が合意しさえすればいつでも自由に解除できるものではありますが、反対にいえば当事者が合意できなければ以下に述べる法律上の解除か契約上の解除しかできないことになります。

 たとえば契約において「両当事者の協議により契約を解除することができる」というような条項がありますが、これは純粋にその文言だけをみるならば合意解除ができるということを確認的に規定したものであると解釈されます。

 

4.法律上認められる場合の解除

(1)債務不履行解除(民法第541条、第542条)

 債務不履行解除については、文字どおり債務を履行しないことによる解除の場合を指します。この場合の履行をしないというのは、納期に遅れた場合(いわゆる履行遅滞の場合)や、契約上の義務が履行できない場合(いわゆる履行不能の場合)のみならず、契約上の義務の履行が不十分な場合(いわゆる不完全履行の場合)や、契約上認められているプロジェクトマネジメント義務などの付随義務を果たしていない場合など、両当事者間の契約に基づく債務を履行していない場合が広く対象となります。

 しかしながら、ここで留意すべきなのは、契約上の債務をわずかに違反しているにすぎない場合にまで、債務不履行として解除できるかというとそうではありません。基本的には、契約を継続していても無意味になるような重大な違反事由がある場合にのみ解除が認められるとされています。

 

(2)請負契約において認められる解除

 システム開発契約の場合には請負契約と準委任契約が主な契約類型となるかと思いますが、まずは請負契約において認められる解除についてみてゆきます。

 一つ目は、請負人の契約不適合責任による解除です(民法第636条)。これは従来はいわゆる瑕疵担保責任と呼ばれていたものであり、受託者が契約の内容に適合しない成果物を引き渡した場合に、委託者の方が解除できるとするものです。しかしながら、この場合もほんのわずかな不適合があるに過ぎない場合にまで解除が可能とされるわけではなく、基本的には履行の追完請求、報酬の減額、損害賠償請求などでは対応できないような重大な事由がある場合に解除できるものとされています。

 二つ目は、委託者(注文者)に認められる契約解除です(民法第641条)。これは、仕事の完成前においては、委託者においていつでも契約を解除できるとするものです。ただし、受託者に対して損害の賠償をしなければならない点については留意が必要です。

 

(3)準委任契約において認められる解除

 システム開発契約の場合には準委任契約によって行われる場合も多いと思いますが、その場合に認められる解除についてもみてゆきます。

 準委任契約の場合、法律上は委任契約の条文が準用されることになるのですが、委任契約においては、各当事者はいつでも契約解除することができるとされています(民法第656条・第651条)。ただし、以下の事由がある場合には、相手方の損害を賠償しなければならないこととされています(民法第651条第2項。やむを得ない事由がある場合は除く。)。

 ①相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

 ②委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

 システム開発契約で考えるならば、契約の途中で解除することは基本的には「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」に該当するものと考えられるため、解除することにやむを得ない事由があるような場合でない限りは、ほとんどの場合には損害賠償の問題になると考えられます。

 

5.契約で認められる場合の解除

 最後に、法律上は規定がないものの、契約で認められる場合の解除があります。システム開発契約に限るものではありませんが、契約上よく見られる解除に関する条項としては以下のものが挙げられます(網羅的に挙げているものではなく、あくまでよく見られる条項を一例として挙げている点にはご了承ください。)。

 ①反社会的勢力に該当した場合には契約解除ができるとする条項

 ②一定の信用不安に関する事実(強制執行、手形の不渡り等)に該当した場合には契約解除ができるとする条項

 ③継続的な契約において、一定期間前の事前告知をすることにより、一方当事者からいつでも契約解除することができるとする条項(中途解約条項)

 これらの条項は、たいていの場合契約書のひな型に記載されていることが多いため、法律上も認められている所与のものと勘違いしがちでありますが、法律上当然に認められているものではありません。したがって、かりに上記のような条項が契約書に記載されていない場合には、法律上認められる債務不履行などの別の事由に該当しない限りは契約解除できないという点には留意する必要があります。

 

6.まとめ

 以上、システム開発契約における契約解除が可能な場合を整理しました。契約はいつでも自由にキャンセルできると勘違いしがちでありますが、そうではなく、両当事者の合意によらない場合には、法律か契約に規定がない限り解除できない点に留意が必要です。

 とりわけ、システム開発契約のようにある程度の期間、関係が継続するような契約形態においては、何らかの事情により契約関係を解消したいと考える事態が生じることがしばしばあるかと思います。その観点でいえば、契約上解除できる条項はできるだけ記載しておくことが重要ということになります。

 

以上

執筆者

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