【弁護士解説】連載:システム開発紛争の基本問題(9)システム開発における「完成」の意義

執筆:弁護士 森田 芳玄AI・データ(個人情報等)チーム

連載:システム開発紛争の基本問題(1) 請負契約と準委任契約の区別の判断要素について(前編)』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(2) 請負契約と準委任契約の区別の判断基準について(後編)』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(3) 仕様の重要性について』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(4) プロジェクトマネジメント義務』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(5) 準委任契約について』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(6) 損害賠償請求について』はこちらから
連載:システム開発紛争の基本問題(7)段階的契約について』はこちらから

連載:システム開発紛争の基本問題(8)システム開発契約と下請法について』はこちらから

1.はじめに

 システム開発業務を委託/受託するに際してトラブルに巻き込まれてしまうことは意外にあるものです。そのようなときに後悔しないように、本連載では事前に対処するべき事項や、実際にトラブルになってしまった際の対処法などをできる限りやさしく解説してゆくことを目的としています。

 第9回目は、システム開発契約における「完成」の意義について確認してみたいと思います。

 

2.契約上の「完成」の意義

 システム開発契約においては、請負契約と準委任契約のいずれかの類型で締結される場合が多いかと思いますが、「完成」が問題となるのは主として請負契約の場合となります。なお、請負契約と似て非なる契約類型に成果完成型の準委任契約がありますが、この場合には「成果の引渡しと同時」に報酬請求ができるものとされており、仕事の「完成」が契約内容とはされません(民法第648条の2第1項。第5回目の記事を参照。)。

 そこで請負契約においては、仕事が完成することにより報酬請求ができることになりますので、とりわけ受託者にとっては完成したか否かが報酬を請求できるようになるか否かという点で重要になってきます(なお、厳密には成果物の引渡しが必要な場合には、引渡しと同時に請求することができることになります。民法第633条。)。

 他方で、委託者においても仕事が完成する前のトラブルについては債務不履行責任の問題となるのに対して、仕事が完成して引き渡された後については契約不適合責任の問題となるという違いが生じます。さらには、委託者においては、仕事の完成前であればいつでも契約の解除ができることとされている点も完成の有無により大きな違いが生じる点です(民法第641条。ただし、損害を賠償する必要があります。)。

 

3.システム開発契約における「完成」とは

 それでは、システム開発契約において「完成」とされるのはどのような場合になるのでしょうか。これについては、「工事が予定された最後の工程まで一応終了した」といえるか否かによって判断されるというのが請負契約の一般的な基準とされています。システム開発契約については、建築工事などと異なり物理的に確認できるものではないものの、上記の枠組みで判断されることが多いとされています。

 そこで、受託者が開発したシステムを納品し、委託者において検収作業まで行われて合格した場合には、「完成」とされることには異論がないかと思いますが、受託者が納品をしたにもかかわらず委託者が意図的に検収をしない場合には「完成」とされないことになるのでしょうか。この点に関しては、受託者が納品をしたにもかかわらずいつまでたっても委託者が検収をしないことにより「完成」を先延ばしできるということは適当ではありません。そこで、受託者側においてなすべき作業を終えて「予定された最後の工程まで一応終了した」といえる場合には完成と認められることになるものと思われます。ただしもちろん受託者側において仕様書に沿った作業を一通り終えていることが前提となります。

 なお、下請法においては、受領拒否が禁止されていることと、代金の支払いは成果物の「受領した日」(すなわち検収が完了した日ではないことになります。)から60日以内に行わなければならないとされている点に留意が必要です。

 

4.システム開発契約の特殊性

 ところで、システム開発の現場においてよく指摘されることとして、「バグ」の存在があります。すなわち、システム開発においてバグを完全に取り去ることは不可能に近く、システムを運用してゆく中でバグが見つかることは、むしろ当然の前提になっていると思われます(それゆえ、システム開発契約においては、その開発自体を行う契約とともに、開発後の保守や運用を目的とする契約が行われることが多いものと思われます。)。

 そうすると、そのようなバグがある場合には、委託者側はシステムが「完成」していないと主張することができるのでしょうか。

 この点に関しては、上記のとおり完成とされるためには「予定された最後の工程まで一応終了した」といえるか否かが完成とされるかどうかの基準とされることから、バグがなくなったことをもって「完成」である、すなわちバグがあるから「完成」ではなく、報酬は支払わない、という主張は認められないということになります。この点は、委託者側において留意すべき点になります。

 

5.部分的な「完成」の場合の規律

 なお、請負契約の場合、仕事が全部「完成」したか否かで報酬請求の可否が決まるのかというとそうではなく、例外があります。すなわち、仕事の結果のうち可分な部分の給付によっても委託者の方が利益を受けるような場合には、その可分な部分を仕事の「完成」とみなすことができ、その割合に応じた報酬請求ができることとされています。ただし、このような請求ができるのは次の場合とされています(民法第634条)。

①注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。

②請負が仕事の完成前に解除されたとき。

 

6.まとめ

 受託者が行うべき作業を終えたにもかかわらず、委託者が検収を行わずに報酬を支払わないというケースがしばしばあります。しかしながら、仕事が「完成」したかしていないかについては、委託者における検収の有無とは別に「予定された最後の工程まで一応終了したか」という観点で判断されます。したがって、委託者においては検収作業を保留することによって報酬の支払いを先延ばしにすることは認められないことになります。他方で、受託者としては、請負契約においては、完全にバグをなくす作業までは必要ではないものの、仕様書に沿って最後の工程まで終了させなければ報酬請求ができないのが原則である点には留意が必要です。

以上

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