【弁護士解説】VTuber事務所が守るべき新常識!「取適法」と「フリーランス保護法」を分かりやすく解説

執筆:弁護士 箕輪 洵 メタバース / エンターテインメントチーム



1.はじめに:なぜVTuber業界で「法律」が今重要なのか

VTuber業界は、企業(事務所)と個人(クリエイター・タレント)の「業務委託契約」によって支えられています。しかし、これまでは「口頭での発注」や「過度な修正指示」、「報酬の支払い遅延」といったトラブルが少なくありませんでした。

こうした「立場の弱いフリーランス(受託者)への不当な扱い」を是正するために誕生したのが、フリーランス保護法と、下請法をより強化した取適法です。

これらを守らない場合、50万円以下の罰金といった直接的なペナルティだけでなく、「社名の公表」という、ファンビジネスにおいて致命的なレピュテーションリスク(評判の低下)を負うことになります。



2. 「フリーランス保護法」の概要とVTuber業界への影響

正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。2024年11月1日からすでに施行されています。

(1)対象者

  • 発注者[1]法人・個人事業主(VTuber事務所など)
  • 受注者:従業員を使用せず、一人で働くフリーランス(VTuber、イラストレーター、2D・3Dモデラー、MIX師など)


(2)事務所に課される義務と禁止事項

特にVTuber事務所が注意すべきポイントは以下の通りです。

① 全ての取引において必須(単発の依頼など)

●取引条件の明示義務

VTuberに仕事を依頼する際、書面(またはメール、SNS、LINE等)で、以下の内容を「直ちに」伝えなければなりません。

  • 発注者およびフリーランスの名称(ニックネームやビジネスネームでも構いません)
  • 業務委託をした日
  • 業務内容(例:新衣装のイラスト制作)
  • 納品日
  • 納品場所(例:メールアドレス(○○@○○)に送付)
  • 成果物について検査する場合は、検査を完了する期日
  • 報酬額
  • 支払期日
  • 金銭以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関すること

② 継続的な取引において必須(1か月以上の業務委託)

●60日以内の報酬支払い

成果物を受け取った日から数えて60日以内に、できる限り短い期間で報酬を支払わなければなりません。

●7つの禁止行為

特にイラストレーターに対するイラストの「無限修正」の依頼などは要注意です。

  1. 受領拒否:注文したものを受け取らない(「やっぱりいらなくなった」というのはNGです)
  2. 報酬の減額:後から一方的に報酬の金額を下げる
  3. 返品:受け取った後に、理由なく突き返す
  4. 買いたたき:相場より著しく低い金額を押し付ける
  5. 購入・利用強制:事務所のグッズを無理やり買わせる
  6. 不当な経済上の利益の提供要請:委託料の範囲に含まれないイラストの知的財産権を無償で譲渡させる
  7. 不当な給付内容の変更・やり直し:フリーランスに非がないのに、無償で何度も修正させる


③ 長期的な取引において必須(6か月以上の業務委託)

  • 育児介護等と業務の両立への配慮義務(第13条):申出があった際、打合せの時間の調整や納期調整など、必要な配慮を検討・実施しなければなりません。
  • ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条):相談窓口の設置や、ハラスメントを行ってはならない方針の周知などが必要です。
  • 中途解除等の事前予告義務(第16条):契約解除や不更新(更新しない場合)は、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。



3. 取適法:2026年1月施行「従業員基準の追加」とは?

2026年から「下請法」は「取適法」へと名称を変え、適用範囲が拡大します。これにより、これまで資本金が少ないことから下請法の対象外であった事務所も、新たに規制対象となる可能性があります。

●従業員基準の新設

これまで、下請法が適用されるか否かについては、委託取引の種類に応じ、「資本金」の額を基準に決せられていました。しかし取適法では、新たに「常時使用する従業員数」が判定基準に加わります。

  • 製造委託等(グッズ製作など):従業員数 300人超の企業
  • 役務提供委託等(アニメ制作、配信サポートなど):従業員数 100人超の企業

VTuber事務所への影響:
「資本金は1,000万円以下だが、スタッフは100人以上いる」といった急成長中の事務所は、2026年から自動的に「委託事業者(旧親事業者)」となり、取適法の厳しい規制の対象となります。



4. 取適法で「新しく禁止される」こと

2026年の改正により、VTuber事務所にとって影響が大きいのは特に以下の点です。

協議に応じない「一方的な代金決定」の禁止:
クリエイターから「コストが上がったので単価を上げてほしい」と価格協議の相談があった際、事務所側が協議を拒否したり、十分な説明をせずに一方的に据え置くことは、それだけで違反となります。



5. VTuber事務所が直面しやすい「具体的トラブル例」

法律の専門用語だけではイメージしづらいため、VTuber業界特有のケーススタディを見てみましょう。

事例A:イラストレーターへの「無限修正」

状況:新衣装の制作を依頼したが、運営側のイメージが定まらず「やっぱり髪色を変えて」「装飾を全部やり直して」と、5回以上の大幅な修正を無償で要求した。

  • 問題点:これは「不当なやり直し」に該当する可能性が高いです。
  • 解決策:契約時に「無料修正は2回まで。それ以降は追加料金が発生する」などと明文化しておくことが考えられます。

事例B:VTuberとの「専属契約」解除

状況:1年以上活動しているVTuberとの契約を、トラブルにより即日解除した。

  • 問題点:6ヶ月以上の継続的な契約の場合、原則として「30日前までの予告」が必要です。
  • 解決策:契約書に解除予告期間を設け、やむを得ない事由がない限り、ルールに従った手続きを行いましょう。

事例C:支払期日の「うっかり忘れ」

状況:経理の処理が間に合わず、イラスト納品から90日後に報酬を振り込んだ。

  • 問題点:60日ルール違反です。遅延利息の支払いを求められるだけでなく、所轄官庁からの勧告の対象になります。



6. 今すぐ事務所が取り組むべき「3つのステップ」

「何から始めればいいか分からない」という方は、まず以下の3ステップを実践してください。

ステップ1:現状の契約フローを確認する

口頭のみで「○○をお願いします!」などと済ませていませんか?

  • 対策:業務委託契約書、または「発注書」のテンプレートを作成し、必ず取引条件を残す仕組みを作ってください。

ステップ2:支払サイトを見直す
「月末締め翌々月末払い(最大約90日)」などの古い慣習は、新法ではアウトです。

  • 対策:納品から60日以内に必ず現金が振り込まれるよう、支払サイトを調整してください。

ステップ3:相談窓口を設置する

フリーランスからのハラスメント相談を受け付ける体制を整えてください。

  • 対策:社内に担当者を置くか、外部の法律事務所などと連携して相談窓口を明示しましょう。



7. まとめ:クリーンな運営が、ブランディングに繋がる

VTuber業界は、夢を売るビジネスです。しかし、その裏側で働くクリエイターやVTuberが不当な扱いに苦しんでいれば、いつかその火種は炎上として表に現れます。

「取適法」や「フリーランス保護法」への対応は、単なる事務作業ではありません。「クリエイターを大切にする、信頼できる事務所である」という姿勢を証明する、ブランディングにも繋がります。


GVA法律事務所がお手伝いできること
法改正への対応は、複雑で手間がかかるものです。「今の契約書で大丈夫かな?」「ハラスメント対策って具体的にどうすれば?」と不安に思われた方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。VTuber業界の商慣習を熟知した弁護士が、貴社の状況に合わせた最適なサポートをいたします。



監修
弁護士 中牟田 智博
(スタートアップ法務を中心に、企業法務と紛争案件を担当。「メタバース・エンターテインメントチーム」に所属。映像制作者としてのバックグラウンドを活かし、クリエイター目線に立った法務サポートを提供。日本芸術センター第10回映像グランプリ優秀映画賞受賞。)



[1] フリーランス保護法の適用対象となる発注者には、特定業務委託事業者と業務委託事業者の2種類がありますが、ここでは詳細は割愛いたします。

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