
執筆:弁護士 早崎 智久、弁護士 藤村 亜弥(メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム)
1.はじめに
本連載では、メディカル・美容・ヘルスケア分野の商品・サービスを取扱うにあたってどのような広告が違法とされ、どのようなサンクションが課されるのかについて、問題となった具体的な事例を元に、適用される法律及びそのサンクションを、定期的にご紹介いたします。
第5回目は、未承認の医療機器の広告に関して違反となった事例を扱います。
2.未承認の医療機器の広告に関する違反事例
(1) 事例の概要
2013年、外国製のカラーコンタクトレンズを輸入した事業者が、医療機器の認証を受けずに当該商品を販売目的で広告したところ、薬機法上の立ち入り検査を受けました。
(2) 適用された法律
薬機法は、「何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であって、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」(第68条)と規定し、承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告を禁止しています。
事業者が第68条に基づく厚生労働省令の定める制限その他の措置に違反した場合、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はその併科が課せられるおそれがあります(第85条第5号)。
(3) 事例の解説
① 医薬品とは
まず、「医療機器」とは、以下のように定義されています(第2条第4項)。
第二条
4 この法律で「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。
そして、コンタクトレンズは、薬機法施行令第1条、別表第1第72の2号において、医療機器として規定されております。
② 未承認の医療機器に対する広告規制
薬機法第68条は、未承認の医療機器について広告をすることを禁止しています。
そして、カラーコンタクトレンズは、指定高度管理医療機器にあたるところ、製造販売にあたっては、登録認証機関の認証を受ける必要があります(薬機法第23条の2の23)。
なお、医療機器についての詳細は「ヘルステックビジネスにかかわる法務知識概要~医療機器編~」をご覧ください。
③ 本事例について
本事例では、外国製のカラーコンタクトレンズを輸入した事業者が、当該カラーコンタクトレンズについて認証を受けることなく、当該カラーコンタクトレンズの特徴を謳って、一般消費者向けに販売目的で宣伝したことから、立入検査をうけています。
カラーコンタクトレンズは、視力補正を目的としないものも多いため、化粧品等に準じるものとして気軽に販売・購入できるものという間違った認識をもつ方もいるかもしれません。
ですが、カラーコンタクトレンズは、視力補正用のコンタクトレンズと同様に、眼球に装着して使用するものであり、視力補正用のコンタクトレンズと同様に高度管理医療機器として薬機法の規制対象になっています。
比較的手軽に見た目の印象を変えることができ、昨今はファッションの一部として利用が拡大しているカラーコンタクトレンズですが、製造・販売する場合には、高度管理医療機器であるということをご理解のうえ、きちんと認証を得ることが必要になります。
カラーコンタクトレンズについては、厚生労働省からも注意喚起がされておりますので、ご参照ください。「おしゃれ用カラーコンタクトレンズについて」
④ 医療機器の「輸入」について
本事例では、未認証のコンタクトレンズを販売したことが問題になっていますが、この他、医療機器を「輸入」する場合には注意すべき点があります。
前述のように、薬機法では、製品ごとに「製造販売」に関する認証等を取得する必要がありますが、輸入した製品を市場に流通させる(=製造販売する)ためには、事業者として「製造販売業の許可」を取得する必要もあります。そして、「輸入」することも「製造販売」に含まれます。
「製造販売」という言葉からすると、製造せずに輸入しているだけの場合は無関係のように思う方も多いのですが、この用語は「製造」でも「販売」でもなく「製造販売」という一つの言葉であって、その内容も、市場に流通させる、という意味なので、輸入することも含まれます。
医療機器自体に対する規制と、医療機器を扱う業者に対する規制という、2種類の規制があることに注意が必要です。
⑤ コンタクトレンズの広告について
コンタクトレンズは高度管理医療機器となり、医師の指示によって使用することを目的とするものですので、「医家向け医療機器」となります。そして、医家向け医療機器については、原則として一般人向けの広告は禁止されています。ただし、コントクトレンズはその例外として一般人向けの広告が認められています。このような製品としては、体温計、血圧計、AED、補聴器などがあります。
このように、医療機器の種類によっては、広告する対象が制限されている場合がありますので、注意が必要になります。
また、コンタクトレンズについては、業界の自主基準があり、広告に表示することが必要な事項など、他の医療機器よりも多い規制が存在していますので、この点についての留意も必要になります。
3.本事例から学ぶポイント
① カラーコンタクトレンズは、視力補正機能がなくとも高度管理医療機器に該当し、製造・販売にあたっては登録認証機関の認証が必要になる。
② 認証を受けていないカラーコンタクトレンズを広告した場合、未承認の医療機器を広告したとして薬機法第68条に違反する。
4. 終わりに
商品やサービスについて適法に提供するためには、薬機法やその他の法律をきちんと把握し、遵守する必要があります。自社の商材がどの法律の適用を受けるのか、当該法律に違反しないためにはどのようなことに気を付ければいいのか、事業者の方々が気を付けるべきことはたくさんあります。
GVA法律事務所では、事業者において薬機法その他関連法規に違反しない広告物を作成するための体制整備のサポート、作成された広告表現に対する弁護士によるリーガルチェックの予防法務から、実際に違反してしまっていた場合の行政対応を含めた事後対応まで、全面的にサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」
第1回 ステルスマーケティング』はこちらから
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」 第2回 化粧品の口コミ広告』はこちらから
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」 第3回 医薬品的効果を謳った医薬部外品の違反事例』はこちらから
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」 第4回 特定疾病用の医薬品を一般人向けに広告した違反事例』はこちらから
監修
弁護士 鈴木 景
(都内法律事務所からインハウスローヤーを経て、2017年GVA法律事務所入所。 スタートアップから大手上場企業まで、新規事業開発支援、契約書作成レビュー支援、株式による資金調達、M&AやIPOによるExitの支援など幅広く対応。 対応領域も、医療・美容に関する広告規制対応や、食品関連ビジネス、旅行関連ビジネス、NFT関連ビジネスと幅広い。)