
執筆:弁護士 早崎 智久、弁護士 藤村 亜弥(メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム)
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」
第1回 ステルスマーケティング』はこちらから
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」 第2回 化粧品の口コミ広告』はこちらから
『連載:違反事例から学ぶ「メディカル・美容・ヘルスケアの広告規制」 第3回 医薬品的効果を謳った医薬部外品の違反事例』はこちらから
1.はじめに
本連載では、メディカル・美容・ヘルスケア分野の商品・サービスを取扱うにあたってどのような広告が違法とされ、どのようなサンクションが課されるのかについて、問題となった具体的な事例を元に、適用される法律及びそのサンクションを、定期的にご紹介いたします。
第4回目は、医薬品の広告に関して違反となった事例を扱います。
2.特定疾病用の医療用医薬品の違反事例
(1) 事例の概要
ある事業者が、特定疾病用の医薬品を医薬関係者以外の一般人向けに広告したところ、事業者が薬機法上の行政指導を受けました。
(2) 適用された法律
薬機法は、「政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であって、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。」(第67条第1項)と規定し、特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の医薬関係者以外の一般人向けの広告を禁止しています。
事業者が第67条の規定に基づく厚生労働省令の定める制限その他の措置に違反した場合、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はその併科が課せられるおそれがあります(第86条第17号)。
(3) 事例の解説
① 医薬品とは
まず、「医薬品」とは、以下のように定義されています(第2条第1項)。
第二条 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
② 特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品に対する広告規制
薬機法第67条第1項は、特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品のうち、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生じるおそれが高いものについては、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限するなど、適正な使用の確保のために必要な措置を行うことができるとされています。
まず、「特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品」とは何かが重要になりますが、政令によると、「がんその他の特殊疾病」とは、がん、肉腫及び白血病(薬機法施行令第64条)をいうとされています。
そのため、この3種の疾病に関する医薬品の場合は注意が必要になります。
本事例では、この特殊疾病用の医薬品であり、医師若しくは歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生じる可能性が高いものであったにもかかわらず、一般人向けに広告をした事業者が、薬機法第67条第1項に違反するとされたものです。
なお、「医薬関係者以外の一般人を対象とする広告」とは、以下のものを除く広告をいうとされています。逆に言えば、以下の場合のみ、広告が許されます。
(ア) 医事又は薬事に関する記事を掲載する医薬関係者向けの新聞又は雑誌による場合
(イ) MRによる説明、ダイレクトメール、若しくは文献及び説明書等の印刷物(カレンダー、ポスター等医薬関係者以外の者の目につくおそれの多いものを除く。)による場合
(ウ) 主として医薬関係者が参集する学会、後援会、説明会等による場合
(エ) その他主として医薬関係者を対象として行う場合
つまり、主として医薬関係者を対象として広告を行うに伴い付随的に一般人の目に触れてしまう場合を除き、一般人を対象とした広告はすべて禁止されているということになります。
一見、例外的な場合のように思われますが、日本において、特定疾病の代表例である「がん」は、一生のうち2人に1人が診断される確率の病気であるため、身近であり、多くの人にとって関心の高いがんについては、がんに効果があることを謳う商品が多く見られるのが現状です(国立がん研究センター、最新がん統計、2022年6月8日付)。
ですが、商品の効能・効果が高ければ高いほど、一般人向けに広告することが許されていない「特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品」に該当する可能性が高まります。
該当の商品が医薬品にあたるのかどうか、一般人向けに広告していいものなのかどうかについては、広告する前にきちんと確認することが重要です。
③ 医療用医薬品等の広告の制限
医療用医薬品とは、医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品をいいます。
(※なお、医療用医薬品の詳細については、別に解説しておりますのでご参照ください。
『連載:薬機法とは~薬機法の基本~ 第3回 医薬品の販売と薬局① -医薬品の種類-』)
上記②の特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品に限らず、医療用医薬品は、一般人が医師等の指導なく勝手に服用してしまい生命や身体に悪影響を及ぼすことを防ぐため、医薬関係者以外の一般人に対して広告することができないとされています。
特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品とあわせて、一般人向けに広告していいものなのかどうかを、広告する前にきちんと確認する必要があります。
3.本事例から学ぶポイント
① 特定疾病(がん・肉腫・白血病)に使用されることが目的とされており、医師等の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれの大きい医薬品及び再生医療等製品は、一般人向けに広告することができない。
② 特定疾病ではなくとも、医師等が自ら使用し、又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用することを目的として供給される医薬品及び再生医療等製品は、一般人を対象とする広告を行ってはならない。
4. 終わりに
商品やサービスについて適法に提供するためには、薬機法やその他の法律をきちんと把握し、遵守する必要があります。自社の商材がどの法律の適用を受けるのか、当該法律に違反しないためにはどのようなことに気を付ければいいのか、事業者の方々が気を付けるべきことはたくさんあります。
GVA法律事務所では、事業者において薬機法その他関連法規に違反しない広告物を作成するための体制整備のサポート、作成された広告表現に対する弁護士によるリーガルチェックの予防法務から、実際に違反してしまっていた場合の行政対応を含めた事後対応まで、全面的にサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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監修
弁護士 鈴木 景
(都内法律事務所からインハウスローヤーを経て、2017年GVA法律事務所入所。 スタートアップから大手上場企業まで、新規事業開発支援、契約書作成レビュー支援、株式による資金調達、M&AやIPOによるExitの支援など幅広く対応。 対応領域も、医療・美容に関する広告規制対応や、食品関連ビジネス、旅行関連ビジネス、NFT関連ビジネスと幅広い。)