タイにおける医薬品広告規制

執筆:弁護士 靏拓剛弁護士 公文 大国際チーム



これまでのコラムでは、タイにおける食品広告に関する規制、及び、化粧品広告に関する規制を取り上げてきました。今回は、医薬品広告に関する規制について概観します。


医薬品とは

医薬品とは、次のいずれかに該当するものをいいます。

(1) 国が定める薬局方(公定規格)に掲載されている物質
(2) 人又は動物の疾病・病気の診断・治療・緩和・処置・予防を目的とする物質
(3) 医薬品化学物質又は半製品の医薬品化学物質(つまり、医薬品の原料となる物質)
(4) 人又は動物の身体の健康・構造・機能に影響を与えることを目的とする物質

ただし、上記の(1)、(2)、又は(4)に該当する物質であっても、以下の場合には医薬品に該当しません。

  • 特定の農業用途または工業用途を目的とする場合。
  • 食品、化粧品もしくは医療行為に使用される機器の部品などとしての使用を目的とする場合(これらの用途の場合は、別の法令による規制あり)。
  • 人体に直接実施しない疾病の研究・分析・検証のために実験室において使用することを目的とする場合。

注意しなければならないのは、医薬品に該当するかどうかは、その製品の用途に従って判断されることです。すなわち、ある製品を食品や化粧品として製造・販売しているつもりであっても、その製品の広告で疾病の治療や身体の健康に影響を与えることなどを目的とするかのような標榜をした場合には、上記の(2)や(4)に従って、その製品は医薬品であると判断されるおそれがあります。そして、医薬品であると判断されれば、当然ながらその製品の製造・販売・広告なども医薬品に関するルールに従っておこなわれるべきだったということとなります。つまり、結果として医薬品に関するルールに違反していたということにもなりかねません。
したがって、食品や化粧品などを広告するときには、医薬品であると誤解されるような表現を避けるよう注意しなければなりません。


医薬品の種類

医薬品は、おおよそ次の4つに区分されます。

  • 危険薬
  • 特別管理薬
  • 家庭用医薬品
  • 上記のいずれにも該当しないその他の医薬品(以下、便宜的に「一般用医薬品」といいます)

危険薬や特別管理薬は、薬剤師や医師の関与のもとで使用されるべきものとして、当局が指定する医薬品です。危険薬は、薬剤師による症状等の確認、用法用量・注意事項の説明等を経なければ販売できない薬であり、特別管理薬は、医師の処方箋がなければ販売できない薬です。

他方、家庭用医薬品と一般用医薬品は、薬剤師や医師の関与なく自由に薬局で買える、一般的で安全性の高い医薬品を指します。

そして、広告においても、対象となる医薬品がこれらのうちどれに該当するかによって、規制の内容・態様が変わります。


医薬品の広告に関する法令

医薬品広告を規制する主要な法令は、消費者保護法と医薬品法です。
まず、消費者保護法は、消費者保護を目的とした法令であり、広告全般に関するルールを定めています(消費者保護法22条〜)。
消費者保護委員会が執行を担当しており、広告一般のチェックや違反時の措置を行っています。

次に、医薬品法は、製造・輸入・販売・広告など、医薬品に関するルールを包括的に定めた法令です。
食品医薬品局(Food and Drug Administration。以下「FDA」といいます。)が執行を担当しており、医薬品広告のチェックや違反時の措置などを行っています。
また、FDAから医薬品広告について複数の告示やガイドラインが発出されていることにも注意が必要です。


消費者保護法による広告規制

消費者保護法は、広告全般に関するルールを定めており、医薬品広告に限らずあらゆる広告に適用されます。
消費者保護法による広告規制については、コラム「タイにおける食品広告規制の概要」にまとめていますので、そちらをご参照ください。



医薬品法による広告規制

1.下位規則等による具体化
医薬品広告についても、食品広告や化粧品広告と同様、下位規則類が重要な位置を占めています。
すなわち、医薬品法上の広告に関する規定を具体化・詳細化する様々な規則、告示、ガイドラインが発出されており、その中でも特に重要なのが、The Regulation of the FDA Office on Criteria for Drug Advertising B.E. 2545 (2002)(以下「2002年規則」といいます)です。

なお、食品広告や化粧品広告の場合、どのような表現を用いてよいか、どのような表現を用いることができないか、どのような注意・警告を明示しなければならないか、といった点について整理したガイドラインやマニュアルが存在します。
ところが、医薬品広告には、このようなガイドラインやマニュアルはありません。その代わり、後述するとおり事前審査が必須とされており、厳格な事前審査を経て承認された内容・表現しか用いることができないこととなっています。

2.禁止される表示
医薬品法上、広告上で次のような表示を用いることは禁止されています(医薬品法第88条)。

(1) 疾病や痛みが奇跡的に又は完全に治療・緩和・処置・予防できるという誇大な表示。
医薬品の効果は個人差がありますし、副作用を伴うものも少なくありません。そこで、効果の万能性や確実性を謳うような表現は禁止されます。例えば、「服用すれば必ず改善する」や「絶対に痛みが消える」といった表現は禁止されます。

(2) 虚偽又は誇張した効能の表示。
広告上での効能は科学的根拠のある範囲内でのみ表示することができ、科学的根拠のない効能を表示したり、科学的根拠のある範囲を超えた表示をしたりすることは許されません。例えば、「臨床試験では100%有効だった」や「No.1の医薬品」といった表現は禁止されます。また、データの一部だけを強調したり、条件付きの実験結果を一般化したりすることも、(基本的に)禁止されます。

(3) 実際には含まれていない成分を含むかのような表示、又は、実際の含有量よりも多く含有するかのような表示。
言うまでもなく、このような広告は成分や品質に対する誤解を招きかねないので、禁止されます。また、微量にしか含まれていない成分を、含有量を明示せずに「含んでいる」と表示することも問題となりがちです。

(4) 堕胎薬又は強力な月経促進薬と誤解させるおそれのある表示。
堕胎や強力な月経促進は生命や健康上の重大なリスクを伴うため、適切な医学的判断のもとでおこなわれるべきものです。一般消費者が自分で簡単に対応できると誤解してしまうと、医療機関に行かず自らの判断で(広告の医薬品かどうかにかかわらず)不適切な薬を使って対応しようとしてしまうおそれもあります。また、これらはセンシティブであり受診や相談をためらいがちな問題でもあるため、一般消費者が他の医薬品の場合よりも盲目的に広告を信じてしまうおそれもあります。そこで、このような表示は禁止されています。例えば、「望まない妊娠に対応する」や「月経周期を確実に調整する」といった表現です。

(5) 性的強壮薬又は避妊薬と誤解させるおそれのある表示。
性的能力に関する問題も受診や相談をためらいがちな事項ですし、自己判断での使用によって生命や健康上のリスクを引き起こしかねません。また、避妊薬であるかのような誤解が生じた場合、望まない妊娠という重大で不可逆的な結果に直結するおそれもあります。そこで、このような表示は禁止されています。例えば、「男性としての自信をサポートする」や「特別な夜に女性を守る」といった表現です。

(6) 危険薬又は特別管理薬の効能の表示。
危険薬や特別管理薬については、広告すること自体は禁止されていません。
しかしながら、広告の中でその薬の効能を表示することが禁止されます。
効能を表示しなければ広告としての意味がない場合がほとんどだと思いますので、この意味において、危険薬や特別管理薬は広告が禁止されているに等しいといえます。

(7) 第三者による薬の効能の保証や推薦の表示。
医師、芸能人、インフルエンサーなどを医薬品広告に用いること自体は禁止されていません。
しかしながら、その人たちが広告の中で「よく効きます」、「飲んですぐ効く」、「おすすめです」などと言うことは効能の保証や推薦に該当し、禁止されます。一般人の体験談形式のものも同様です。

(8) 当局が指定する特定の疾病や症状について効能がある旨の表示。
当局は、特定の疾病又は症状について、治療・緩和・処置・予防が可能である旨の広告を禁止する対象として指定する権限を有しています(医薬品法第77条)。したがって、当局が指定する疾病や症状に対する効能がある旨の広告は、禁止されます。現在、この指定がされている疾病の例としては、ガン、糖尿病、麻痺(脳卒中)、結核、ハンセン病、心疾患などがあります。

3.禁止される表示に関する例外:医療従事者のみに向けられた直接広告
広告が一般消費者向けである場合、前項に記載した表示を用いることはできません。
しかしながら、広告が医師や薬剤師といった医療従事者への「直接広告」である場合は、上記の(1)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)は禁止されません。

すなわち、医療従事者は、疾病、症状、医薬品、医薬品の各成分などに関する専門的知識・リテラシーを有していると考えられます。そのため、医療従事者だけに向けられた広告については、内容に関する規制が緩やかであり、かつ、危険薬や特別管理薬の効能、当局の指定する特定の疾病への効能を表示することも許されているのです。
もっとも、これは完全に自由であるということを意味するわけではなく、もちろん、科学的根拠に基づく正確な情報を提供することは要求されます。

以上のとおり、広告が「一般消費者向けの広告」と「医療従事者への直接広告」のいずれに該当するかという問題は、許容される表示内容に大きな影響を与えます。
そして、この区別は、広告へのアクセス可能性によって判断されます。つまり、一般消費者がアクセスできるような広告であれば、たとえ内容的には医療従事者向けであったとしても、一般消費者向け広告であると判断されるのです。
言い換えると、直接広告に該当するのは、医学雑誌上での広告、医療従事者のみが登録・ログインできる会員制ウェブサイト上での広告、医療従事者のみが参加できるウェビナーでの広告など、その広告にアクセスできるのが医療従事者だけであるものに限られます。

4.禁止される態様
表示のほかにも、次のような広告も禁止されます(医薬品法第89条、90条)。

(1) 礼節を欠く表現、歌や踊りによる表現、患者の苦痛・苦しみを描写する表現(大きな泣き声、傷や怪我の生々しい描写など)。
(2) 景品の付与や、抽選(くじ)による方法。

どの医薬品を選ぶかは、症状や効能を慎重に検討して合理的に判断すべきものです。
上記のような広告は、症状等を踏まえた合理的判断ではなく、おもしろさや不安感などの感情・印象によって、又は、景品などのインセンティブによって医薬品を選ぶことを誘発しかねません。したがって、このような広告も禁止されます。例えば、下品なジョーク、商品名を連呼する歌、病気で日常生活が破綻する描写、Buy 1 Get 1 Free(1箱買えば1箱無料になる)、購入者限定抽選などです。

5.事前審査制
医薬品広告をする場合、食品広告と同じく、事前審査を受けなければなりません(医薬品法第88条の2)。
すなわち、広告をする前に、広告予定の内容や素材(文章・音声・画像など)を当局に提示し、その審査を受けて承認を得る必要があるのです。

また、承認の際、当局は、広告に関する条件を設定することができ、その条件に従って広告しなければなりません(例えば、「妊娠中の使用は避けてください」という文言を表示しなければならない、など)。

さらに、承認時には、承認番号が発行されます。
広告時には、その承認番号を明示し、事前審査を受け承認を得ている旨を広告内で明示しなければなりません。

なお、医薬品法上、事前審査を受ける必要があるのは、「ラジオ、拡声器、テレビ、映画、印刷物によって広告する場合」と記載されていますが、これは例示的な列挙であり、これ以外の媒体で広告する場合も事前審査が要求されます。この点、2002年規則では、「インターネットによって広告する場合」にも事前審査が必要である旨が明示的に規定されています。そのため、ウェブサイト、SNS投稿、ブログ、バナーなど、あらゆる媒体・態様での広告が事前審査の対象となるものと理解しておくべきです。

6.罰則等
医薬品法は、広告規制への違反に対し、以下のとおり、行政的な措置と刑事罰の双方を規定しています。

(1) 広告の停止
まず、当局は、違反広告に対し、広告の停止を命じることができます。

(2) 刑事罰
違反広告をした者に対しては、100,000バーツ以下の罰金が科される可能性があります(医薬品法第124条)。
また、当局からの広告停止命令に違反した者に対しては、3か月以下の禁錮、5,000バーツ以下の罰金、又はその両方が科せられる可能性があります。また、命令違反の状態が継続する場合には、日額500バーツの追加的な罰金が科される可能性もあります(医薬品法第124条の2)。

(3) 消費者保護法上の命令・刑事罰
上記のほか、食品広告等と同様、消費者保護法上の命令や処罰の対象となる場合もあります。


まとめ

今回は、タイにおける医薬品広告規制の概要を整理しました。
医薬品広告規制の特徴として、事前審査制が採用されており、承認を得ることが必須であることが挙げられます。また、食品や化粧品などとして販売している商品であっても、その広告の表現次第では医薬品として扱われるリスクがある点にも注意が必要です。医薬品等の広告を検討する際は、可能な限り余裕を持った動き出しと、事前の専門家への相談が大切です。

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