【弁護士解説】NFT連載記事「弁護士がNFTを発行して分かったこと」 第1回 NFTと法律

執筆:弁護士 熊谷 直弥、弁護士 吉岡 拓磨Web3チーム

1.  はじめに

(1) 2021年のNFTブームの振り返り

 2021年は世界的なNFTブームになった年となりました。2021年3月、デジタルアーティストであるBeepleの「The First 5000 Days」がイギリスの老舗オークションハウスであるChristie’sで競売にかけられ、約70億円で落札されました。また、同月、米Twitter社を創業したジャック・ドーシーは、Twitterに投稿された最初のツイートを、NFTとしてオークションサイトのValuableに出品し、約3億円で落札されたことでNFTが一気に話題となりました。実際、世界全体のNFT市場全体の取引高は、2021年に176億ドル(約2兆円)となり、2020年の8,200万ドル(約97億円)から200倍に増加したという報告があります(※1)。

 そして、NFTブームは日本でも例外ではありませんでした。数々の著名人やスポーツチームがNFT商品の販売を開始し、NFTアートをオークションに出品するケースが多くなりました。また、NFT取引所も続々と開設されています。2021年3月に、「Coincheck NFT(β版)」がリリースされました。6月には、LINEが「NFTマーケットβ」の提供を開始し(2022年4月13日からNFT総合マーケットプレイス「LINE NFT」の提供が開始されます。)、8月には、GMOが「Adam by GMO」の提供を開始するなど、多数のNFT取引所が開設されました。

(2) 法律事務所がNFTを発行しようと思った理由

 弊所では、従前から産業別チームとして、ブロックチェーン技術を用いたビジネス全般の法律問題を調査・研究し、また、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の準会員及び一般社団法人日本セキュリティ―トークン協会(JSTA)の正会員として活動をしてきました。さらに、集積された知見及び研究結果を基にNFT関連のビジネスに対して、クライアントに対して法務サポートを提供してまいりました。

 2021年のNFTブームに伴い、弊所でもお客様からNFT関連ビジネスのご相談が急増しました。お客様に対して、実際に法務サポートをしていると、法務的な観点はもちろんのこと、NFTの発行手続やNFTの利用方法など、法務的な部分だけでなくビジネス的な部分の理解が必要だと認識するケースがしばしばありました。そのため、今までよりNFTビジネスへの理解をさらに深め、クライアントが直面する法務課題やビジネスを展開する際の障壁やリスクについての理解を深める必要があると強く認識するようになりました。

 そこで、実際に自らがNFTを発行することにより、その過程において直面する課題について調査・研究することにより、集積した知見をクライアントへと還元できればよいと考え、今回のNFT発行に至りました。

2.  NFTの国内法上の位置づけ

(1) NFTを「保有」すること及び「移転」することの意味

 そもそも、NFTとは、ブロックチェーン上で発行される固有の値や属性をもたせた代替性のないトークンのことをいいます。NFTに限ったことではありませんが、トークンの機能やトークンに表章される権利はさまざまであり、それぞれのトークンの性質に応じて、法的課題を整理する必要があります。

 NFTに関するご相談を受ける際やインターネット上の情報などで、NFTを「所有」するという表現をしばしば耳にします。しかし、民法上、所有権の客体は「物」であるとされ(民法206条)、「物」とは「有体物」(法85条)をいうとされていることから、ブロックチェーン上のデジタルデータとして存在するに過ぎないNFTは、民法上の「物」には該当しません。そのため、NFTについて、現時点では、民法上の「所有権」は観念できないと考えられています。NFTに所有権が観念できないということの意味については、例えば、NFTを勝手に移転され、占有を奪われたとしても、民法上の所有権に基づく返還請求権を行使できないことになります。

 厳密にはNFTを「所有」できないものの、特定のNFTを自身の管理するウォレット上で保管し、自由に譲渡等をできる人は確かに存在するため、この状態を便宜上、「保有」と呼ぶことにしましょう。

 それでは、NFTを保有していることは、現在の法制度の枠組みではどのように整理されるのでしょうか。ここで観賞用途のデジタルアートのNFTを念頭に置いた場合、次のとおり著作権による整理が可能です。

 「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項1号)であり、NFT自体は、ブロックチェーン上に記録されるデータにすぎず、思想又は感情を創作的に表現したものではないため、「著作物」には該当せず、著作権法上の保護の対象にはならないと解されています。しかし、NFTはデジタルコンテンツや現物資産等のアセットを客体として、アセットに関する権利を紐づけたものであるため、アセットに関する権利についても、取引対象として考慮することが必要になります。

 例えば、Aが創作したデジタルコンテンツをNFT化して、Bに譲渡した場合はどのような権利関係になるでしょうか。まず、NFTに所有権は観念できないため、AからBへのNFTの譲渡があっても、所有権は譲渡されないことになります。

 著作権については、NFTそれ自体の著作権は認められないものの、Aが創作したデジタルコンテンツには著作権が発生し、創作者であるAに帰属していることになります。そして、NFTの譲渡によりAからBにデジタルコンテンツの著作権が譲渡されるかというと、そうではありません。NFTの譲渡により当事者が何を譲渡したのかということは、取引当事者間での合意により決定されます。具体的には、デジタルコンテンツを閲覧・視聴する権利(単に著作物を閲覧・視聴することができることは、著作権法上、明文の根拠があるものではありません。)や、デジタルコンテンツをコピー・配信・二次創作する権利等の権利が譲渡される事例があります。何らの合意もなければ、NFTの譲渡により、Aが創作したデジタルコンテンツの利用権が譲渡されたと解釈されることが多いと考えます。なぜなら、著作権法第61条第2項では、翻案権や二次的著作物の利用に関する原著作者の権利等も譲渡を受けたい場合には,これらの権利譲渡も特に掲げて明確な契約を締結すること(特掲)が要求されていますし、実務的には著作物が表現された有体物が譲渡されても著作権自体は譲渡されないことが多いからです。取引のパターンとしては、当事者間の契約、著作権者が一定の利用条件をあらかじめ設定すること、NFTプラットフォームの利用規約内で合意すること等により合意形成がなされるケースが想定されます。

(2) NFTと法規制~JCBAガイドライン参照~

 どのようなNFTに対して、どのような法的規制が及ぶかという点については、大きな関心があるところだと思います。NFTの金融規制上の法的分類を行う場合、トークンの機能やトークンに表章される権利等を踏まえて個別具体的に検討する必要があります。この点については、JCBAが公表しているNFTビジネスに関するガイドラインが参考になります。法規制の詳細については、ここで記載すると長くなるため省略しますが、要約すると以下のとおりです。

 NFTを保有することにより利益の分配がある場合、例えば、NFTを保有することにより、NFTに表章された権利に関するアセットから生じる利益の分配を受けることができる場合には、当該NFTは電子記録移転権利その他の有価証券に該当するおそれがあり、金融商品取引法の規制対象となる可能性があります。また、NFTが決済手段等の経済的機能を有している場合、前払式支払手段、暗号資産、為替取引の一部に該当するおそれがある、資金決済法の規制対象となる可能性があります。さらに、ゲーム等でNFTのアイテムの販売にあたり有償ガチャの仕組みを導入することは、その販売方法次第では、賭博罪(刑法第185条)や賭博場開帳図利罪(同第186条第2項)に該当する可能性があります。また、NFTに表章したキャラクターやアイテム等を無料で配布するなどのキャンペンーンを行う場合、当該NFTは「景品類」に該当するおそれがあり、NFTが経済的価値を有するが故に、不当景品類及び不当表示防止法の規制対象となる可能性があります。


(※1)Yearly NFT Market Report Free/Pro · 2021
https://nonfungible.com/reports/2021/en/yearly-nft-market-report

監修
弁護士 小名木 俊太郎
(企業法務においては 幅広いサービスを提供中。 ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。)

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