執筆:弁護士 中牟田 智博
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1.株式発行による資金調達の際に締結する契約書
スタートアップが投資家からエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)を受ける際には、下記の3種類の契約書を締結するのが一般的です。
(1)投資契約書
今回の資金調達ラウンドにおける基本的な条件を定める契約です。当該ラウンドに出資する投資家との間で締結します。
(2)株主間契約書
優先株式の株主が有する権利の内容(事前承諾権、先買権、共同売却権、役員選任権など)を定めます。
優先株式の株主との間で締結します。
(3)株主分配に関する合意書
主に将来のM&Aに向けて、株主間における対価の分配方法をあらかじめ整理しておくための契約です。
全ての株主との間で締結します。
本稿では、上記3種類の契約書のうち、投資契約書に焦点を当て、各条項の意味を解説します。
2.投資契約書の主な役割
投資契約書は、会社が投資家から出資を受けるにあたって、取引の前提となる事項を一つひとつ明文化するための書類です。
内容は多岐にわたりますが、概ね以下のような役割を果たします。
- 出資条件の明確化 :いつ・いくらで・どのような株式を発行するかを明確にする
- リスク分担の合意 :万が一、会社の状況が契約時の説明と異なる場合の責任を定める
- 投資家保護の仕組み :払込前提条件や表明保証などにより、投資家が安心して出資できる環境を整える
- 資金の適正使途の担保:調達した資金が事業目的に沿って使われることを確認する
投資契約書は投資家から提示されるひな形を使って作成されることが多いですが、条項の意味を理解せずにサインしてしまうと、思わぬ理由で資金調達が白紙に戻ったり、後々の会社の経営に大きな影響を及ぼしたりしかねません。
3.投資契約書の各条項の解説
(1)株式の発行の概要
今回の資金調達で発行する株式の種類・数・1株あたりの払込金額(発行価格)・払込総額などの基本情報を定めます。
株式の内容(普通株式か優先株式か)によって、後の分配権や議決権が異なるため、どのような種類の株式を発行するかは特に重要なポイントです。
株式の発行の概要はタームシートを用いて交渉されることが多く、タームシートの段階で合意した大枠を後から覆すことは困難である場合が多いため、早めに弁護士に相談することが大切です。
(2)発行決議
株式を新規発行するためには、株主総会における適法な決議が必要です。
この条項では、払込期日までに必要な発行決議を完了させることを会社が約束します。
もし決議が無効だった場合、株式の発行自体が無効になる可能性もあるため、決議の手続きは正確に行う必要があります。
(3)払込手続
ア.株式の払込金額の払込の方法と期限
投資家が出資金を振り込む方法(振込先口座など)と、払込期日(いつまでに振り込むか)を定めます。
イ.株式の発行後の手続
払込が完了した後、会社は速やかに株主名簿の更新や、株式の発行に関する登記申請を行う必要があります。
この条項では、払込後の株式発行手続を会社が適切に実施することを義務づけます。
(4)表明保証
表明保証は、投資契約書の中でも特に重要な条項の一つです。「表明」とは事実の告知、「保証」とはその事実が真実であることの約束を指します。
ア.発行会社及び経営株主による表明保証
会社および経営株主が、投資家に対して「当社はこういう状態にあります」と事実を申告し、その内容が正確であることを保証します。
主な内容は以下のとおりですが、契約ごとに千差万別であり、細かい表現の違いによって大きな違いが生じますので、慎重な交渉が必要な条項です。
- 会社の設立・存続の適法性
- 資本構成
- 財務諸表の正確性
- 許認可及び法令等の遵守
- 訴訟・紛争がないこと
- 知的財産権を適法に保有していること
- 反社会的勢力との関係がないこと
- 重要な契約の有効性
もしこれらの表明保証の内容が虚偽であった場合、会社や経営株主は損害賠償等の責任を負う可能性があります。
そのため、契約書にサインする前に、自社の状況を正確に棚卸しすることが重要です。
イ.投資家による表明保証
投資家側も、自らが適法に出資できる立場にあること(例:ファンドの組成が適法であること、出資に必要な社内決議が完了していること)を表明保証します。
ウ.払込期日までの誓約事項
表明保証の内容は、契約締結時点だけでなく、払込期日まで継続して真実である必要があります。
この条項では、払込期日までの間に表明保証の内容に変更が生じた場合、会社は速やかに投資家に通知する義務を負うことを定めます。
(5)払込の前提条件
「払込期日までに一定の条件がすべて満たされている場合に限り、投資家は払込義務を負う」という仕組みを定めます。
主な前提条件は以下のとおりです。
- 発行決議が適法に行われていること
- 株主間契約書、株主分配に関する合意書が締結されること
- 発行決議や契約締結を承認する決議の議事録を投資家に提出すること
- 表明保証がすべて真実かつ正確であること
- 会社に重大な悪影響をもたらす事象が発生していないこと
(6)資金使途
調達した資金をどのような目的に使うかを明示する条項です。
「採用費・公告宣伝費・システム開発費」など、具体的な用途をあらかじめ合意しておきます。
明示した目的以外の目的で使用することは禁止され、目的に従って資金を使用したことを証明する書類の提出が義務付けられる場合もあります。
(7)経営株主による株式の買取り
表明保証が虚偽であった場合や、重大な契約違反があった場合に、投資家が保有する株式を経営株主が一定価格で買い取ることを義務づける条項です。
この条項は、投資家のリスクヘッジとして設けられますが、経営株主にとっては過大な負担となる可能性があります。
具体的にどのような場合に買取義務が生じるのか(トリガー事由)、買取価格の算定方法、買取義務を負う対象等について、弁護士を通じて丁寧に交渉することが重要です。
(8)他の契約の制限
この条項は「最恵待遇条項」とも呼ばれます。
内容は、「今後、第三者との間で、本契約の投資家に対する内容よりも有利な条件で投資契約を締結した場合、本契約の条件も自動的にその有利な内容に変更される」というものです。
たとえば、後のラウンドで一部の投資家にのみ、株主間契約によって取締役の選任権が設定された場合、最恵待遇条項があると、先に出資した投資家に対しても、同様に取締役の選任権が付与されます。これにより、先発投資家が後発投資家と比べて不利にならないよう保護されます
この条項は投資家の利益を守る一方で、会社にとっては後続ラウンドの柔軟性を制約する可能性がありますので注意が必要です。
4.弁護士への相談ポイント
投資契約書の内容は複雑ですが、各条項の解釈が将来の経営に大きな影響を及ぼしえます。
以下のタイミングや場面で、弁護士に相談することを強くおすすめします。
- タームシートを受け取ったとき:条件の有利・不利を正確に判断し、交渉ポイントを整理してもらう
- 投資契約書のドラフトを受け取ったとき:表明保証や買取義務の範囲が適切かを確認してもらう
- 次回ラウンドを検討するとき:既存の投資契約書との整合性を確認してもらう
監修
弁護士 小名木 俊太郎
企業法務においては 幅広いサービスを提供中。ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。
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