【弁護士解説】東南アジア諸国の民事訴訟手続 vol.6 フィリピンにおける上訴手続

執筆:弁護士 靏 拓剛、弁護士 水谷 守国際チーム

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はじめに

以前のフィリピンの訴訟手続に関する記事では、主に第一審手続を概観しました。

今回は、当事者が第一審判決に不服がある場合の不服申立手続(上訴手続)について概観します。

概要

フィリピンでも、日本と同様、三審制が採用されています。したがって、第一審判決に不服がある当事者は、控訴審裁判所に対して控訴を申し立て、審理のやり直しを求めることができます。また、控訴審判決に不服がある当事者は、最高裁判所に対して上告を申し立て、審理のやり直しを求めることができます。

控訴手続

控訴申立て

フィリピンにおいて、控訴は2種類あります。一つは、First Level Court(日本における簡易裁判所のような、小規模な裁判を取り扱う裁判所)が第一審裁判所となった場合の控訴、もう一つは、地方裁判所が第一審裁判所となった場合の控訴です。

会社が当事者となるような事件は地方裁判所が第一審裁判所となることがほとんどであるはずですので、本稿では、地方裁判所が第一審裁判所となった場合の控訴について述べます。

第一審判決に不服がある当事者が、控訴を申し立てる場合、控訴通知書(notice of appeal)を裁判所に提出し、さらにその写しを相手方に交付する必要があります。また、訴訟手数料を支払う必要があります。

控訴期間(控訴を申し立てることができる期間)は、原則として第一審判決日から15日以内です。

控訴が申し立てられると、裁判記録は地方裁判所から控訴裁判所に送付されます。記録が適切に送付された後、その旨が控訴人に通知されます。控訴人は、原則としてこの通知から45日以内に控訴の理由を詳細に記載した控訴理由書を提出する必要があります。なお、控訴審では、裁判所が例外的に証拠提出を認めるような場合を除き、証拠を提出することはできません。

控訴の理由として典型的なのは、法律判断の誤り(法律の解釈や適用の誤り)や事実判断の誤り(事実に対する判断の誤り)などです。

 

控訴答弁書の提出

被控訴人は、原則として控訴人の主張書面を受領してから45日以内に、これに対する答弁書を裁判所に提出することができます。ただし、裁判所が例外的に認めるような場合を除き、証拠を提出することはできません。

控訴審での審理

控訴人は、被控訴人の答弁書を受領してから20日以内に、被控訴人が答弁書の中で主張する論点のうち控訴理由書で取り上げていなかったものについて、主張を補充する書面を提出することができます。

そして、裁判所は、裁判所の判断または当事者からの申立てに基づき、口頭弁論を聞くことができます。なお、弁論の順序等の裁判の進行方法は、すべて裁判所が決定します。

全く期日が開催されず書面審理のみで終わることが多いです。

控訴審判決

控訴裁判所の審理後、判決がされます。例えば、

  • 控訴には第一審判決を覆すほどの合理的な理由がないので、控訴を棄却する。

  • 控訴には合理的な理由があるので、第一審判決を変更する。

  • 控訴には合理的な理由があるので、第一審裁判所に再度審理させる。

などです。

控訴手続の所要期間

控訴申立てから控訴審判決までの期間は、控訴裁判所が期日を複数回開催するか等様々な事情によって変わりますが、一般的に、2年程度はかかります。

上告手続

上告申立て

控訴審判決に不服がある当事者が、上告を申し立てる場合、上告申立書を裁判所に提出しなければなりません。

上告期間(上告を申し立てることができる期間)は、原則として控訴審判決日から15日以内です。

控訴審同様、例外的に証拠の提出が認められる場合はありますが、原則として証拠を提出することはできません。

上告の理由

日本と同様、上告審は法律審(事実を認定することはせず、法令の解釈・適用についてのみ審理・判断する手続)です。そのため、法律判断の誤りは上告の理由となりえますが、事実判断の誤りは原則として上告の理由となりえない点に注意が必要です。

つまり、上告審では事実関係について争うことができないと考えておくべきです。そのため、控訴審までに自分の主張する事実関係を裁判所に認めてもらっておく必要がありますが、前述のとおり、控訴審では証拠の提出ができません。したがって、第一審でしっかりと事実関係を争い、自分の主張を認めてもらうことが何よりも重要です。

上告の受理・不受理の決定

上告審では、最高裁判所が必ず審理を開始するとは限りません。

上告申立書を受け取った最高裁判所は、まず、上告を受理するかどうかを審査します。そして、理由が不十分である場合や形式的に不備があるような場合は、上告申立てが受理されることなく、却下されます。

つまり、最高裁判所は、この段階で、上告の理由について慎重に吟味し、審理を開始すべきか否かを判断するのです。

上告審での審理

上告審での審理方法は、事案ごとに裁判所が決定します。法律上、被上告人に答弁書の提出義務はありませんが、裁判所が提出を求める場合があります。また、弁論の実施についても裁判所が判断します。

上告審判決

上告申立てが受理された場合、最高裁判所の審理後、判決がされます。例えば、

  • 上告には控訴審判決を覆すほどの合理的な理由がないので、上告を棄却する。

  • 上告には合理的な理由があるので、控訴審判決を変更する。

  • 上告には合理的な理由があるので、控訴審裁判所に再度審理させる。

などです。

上告手続の所要期間

上告申立てから控訴審判決までの期間は、最高裁判所が上告申立てを受理するか否か、どのように審理が進められるか等によって変わりますが、判決が出るまでに1年程度はかかるものと考えておくべきです。

まとめ

以上のとおり、フィリピンでは三審制が採用されており、第一審判決に不服があれば上訴手続によって再度争うことができます。しかしながら、控訴審や上告審で判決が覆るケースは多くありません。また、控訴審や上告審では、主張できる事項や提出できる証拠に制限があります。

したがって、第一審判決に全力を注ぐことが何よりも大切です。

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