執筆:弁護士 井川 湧理(フィンテックチーム)
『金融サービス仲介業とは~第1回 制度の概要~』はこちらから
金融サービス仲介業について、前回の記事では制度趣旨や概要について解説しました。
本記事では、金融サービス仲介業の法規制について、詳しく見ていきます。
1 兼業規制
(1)規制の概要
金融サービス仲介業の新設により、既存の仲介業務(銀行代理業者、保険募集人・保険仲立人、金融商品取引業者、貸金業者)を金融サービス仲介業という登録によっても行うことができるようになりますが、既存の仲介業者として許認可を得ている者は金融サービス仲介業を行うことのできる主体から除外されており、既存の仲介業と同じ分野で金融サービス仲介業の登録を受けることはできないこととなっています。
上記兼業規制の趣旨としては、「銀行・証券・保険の各分野において、ある仲介業者が既存の仲介業者と新たな仲介業の両方の許可・登録を受け、両方の立場で仲介行為を行い得ることとした場合、仲介業者がいずれの立場でいかなる規制に基づいて仲介行為を行っているのか顧客に混同をもたらすおそれがある」からとされています(※1)。
(2)既存の仲介業者が金融サービス仲介業の登録を受けようとする場合
既存の仲介業者が金融サービス仲介業の登録を受けようとする場合、既存の仲介業者が既に行っている仲介業務と同じ分野で金融サービス仲介業の登録申請をすること自体は可能ではあります。金融サービス仲介業の登録審査の継続中は既存の仲介業者としての許認可の効力が存続し、当該業登録を受けたことによって、当該分野における既存の仲介業者としての許認可が失効するとされています。
例:貸金業者が、貸金業貸付媒介業務について金融サービス仲介業登録を受けた場合、貸金業の登録が失効する
(3)金融サービス仲介業者が既存の仲介業の登録を受ける場合
金融サービス仲介業者が既存の仲介業の登録を受ける場合、上記同様、登録を受けること自体は可能ですが、登録申請を行う仲介業で行える業務が金融サービス仲介業として登録した業務から除外されることとなります(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律16条4項。以下法令名を省略します)。また、仮に、1つのみの業務を登録している金融サービス仲介業者が、当該業務に係る既存の仲介業者となった場合、金融サービス仲介業の登録自体が失効することとなります(法16条6項)。
例:
① 貸金業貸付媒介業務及び預金等媒介業務についてのみ金融サービス仲介業の登録を受けた者が、銀行代理業の登録を受けた場合、金融サービス仲介業の登録は失効せず、預金等媒介業務についてのみ登録が失効する
② 預金等媒介業務についてのみ金融サービス仲介業の登録を受けた者が、銀行代理業の登録を受けた場合、金融サービス仲介業の登録が失効する
2 保証金供託義務
(1)規制の概要
前回の記事でも触れましたが、既存の仲介業者の場合、所属制があります。すなわち、仲介業務に関してトラブルが発生し、顧客に損害が生じた場合には、所属する金融機関等が当該損害を賠償する責任を負うこととされています。
一方で、金融サービス仲介業は所属制がないため、金融サービス仲介業者自身が顧客への損害賠償責任を担保する必要があります。
そこで、金融サービス仲介業者は原則として保証金を供託する義務を負っており(法22条1項)、これにより顧客への損害賠償責任を担保しています。また、当該制度は、顧客への損害賠償責任の担保の他、一定の資力がなければ金融サービス仲介業として業登録ができないという点で、参入規制としても機能していると考えられます。
(2)例外
上記の保証金供託義務には、以下のように全部又は一部の保証金を供託しないという例外もあります。
ア. 保証委託契約の締結
金融サービス仲介業者のために、保証金が内閣総理大臣の命令に応じて供託される旨の契約を締結し、かつ、その旨を内閣総理大臣に届け出たときは、保証金の全額又は一部の供託をしないことができます(法22条3項、4項)。
イ. 金融サービス仲介業者賠償責任保険契約の締結
金融サービス仲介業者が、金融サービス仲介業者賠償責任保険契約を締結し、内閣総理大臣の承認を受けたときは、保険金の額に応じて保証金の一部の額を供託しないことができます(法23条)。こちらは、契約の相手方が保険会社であり、また前者と異なり一部の供託義務が免除されるものである点には留意が必要です。
(3)保証金の額
保証金の額は、金融サービス仲介業務の状況及び顧客等の保護を考慮して、政令で定める額とされ、政令に委任されているところ(法22条2項)、具体的には以下のとおり定められています(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律施行令26条。以下「施行令」といいます。)。
① 事業開始の日から最初の事業年度の終了の日後三月を経過する日までの間
⇒ 1,000万円
② 各事業年度(最初の事業年度を除く。)の開始の日以後三月を経過した日(改定日)から当該各事業年度終了の日後三月を終了する日までの間
⇒ 1,000万円+各事業年度の前事業年度の年間受領手数料(事業年度において金融サービス仲介業務に関して受領した手数料、報酬その他の対価を合計した金額)の5%の金額
3 金銭その他の財産の預託禁止
(1)規制の概要
金融サービス仲介業者は、いかなる名目によるかを問わず、その行う金融サービス仲介業に関して、顧客から金銭その他の財産の預託を受け、又は当該金融サービス仲介業者と密接な関係を有する者として政令で定める者に顧客の金銭その他の財産を預託させてはなりません(法27条)。
預託を禁止されている対象について、銀行、金融商品取引業者(有価証券等管理業務を行う者に限る。)、信用金庫、保険会社・少額短期保険業者、信託会社及び資金移動業者等(金融サービス仲介業者等に関する内閣府令29条、同府令41条。以下「府令」といいます。)以外の者であって、以下のいずれかに該当する者をいうとされています(施行令30条1項)。
- 当該金融サービス仲介業者の親族(施行令30条1項1号)
- 当該金融サービス仲介業者の役員又は使用人(同項2号)
- 当該金融サービス仲介業者の親法人等又は子法人等(同項3号)
- 当該金融サービス仲介業者の総株主等の議決権の100分の50を超える議決権を保有する個人(同項4号)
- 前各号に掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者(同項5号。現時点では、本条項について、内閣府令等では定められてないかと思われます。)
(2)制度趣旨
当該規制は、金融サービス仲介業者が顧客から金銭等の預託を受けることについて、金融サービス仲介業の業務は「媒介」に限定されること、金融サービス仲介業者のビジネスとして、金融機関への送客サービスや、利用者が様々な金融商品・サービスを比較検討した上で自身に最も適したものを選択できるサービス等が想定されていることにかんがみれば、金融サービス仲介業者の事業運営上、顧客資産の預託を受ける必要性は高くないと考えられるため、設けられています。(※2)
4 情報提供義務
(1)事前明示事項
金融サービス仲介業者は、次の事項については、金融サービス仲介業務を行う際、顧客に対して必ず事前に明示する必要があります(法25条1項各号、府令33条1項各号)。
① 金融サービス仲介業者の商号、名称又は氏名及び住所(法25条1項1号)
② 業務の種別(同条1項2号)
③ 金融機関等からの代理権がない旨その他金融サービス仲介業者の権限に関する事項(同条1項3号)
a 金融サービス契約の内容の変更又は解除の申出を受けること(府令33条1項1号)
b 金融サービス契約の証書その他これに準ずる書面の発行(府令33条1項2号)
c 保険媒介業務を行う場合にあっては、顧客から保険契約に関する告知又は通知を受けること(府令33条1項3号)
d 保険媒介業務を行う場合にあっては、保険事故による損害を填補する責任があるかどうかを判断すること又は当該填補すべき額を決定すること(府令33条1項4号)
④ (27条の趣旨)いかなる名目によるかを問わず、その行う金融サービス仲介業に関して顧客から金銭その他の財産の預託を受けることができないこと(法25条1項4号)
⑤ 金融サービス仲介業者の損害賠償に関する事項(法25条1項5号)
⑥ その他内閣府令で定める事項(法25条1項6号。金融サービス仲介業者の登録番号、顧客が締結しようとする金融サービス契約に係る相手方金融機関の商号、名称又は氏名、顧客が締結しようとする金融サービス契約につき顧客が金融サービス仲介業者に支払う手数料(報酬、費用その他いかなる名称によるかを問わず、手数料と同種のものとして金融サービス契約に関して顧客が支払うべき対価を含む。)の額若しくはその上限額又はこれらの計算方法の概要(これらを明示することができない場合にあっては、その旨及びその理由)等。府令33条2項各号)
(2)顧客の求めに応じた情報開示
金融サービス仲介業者は、顧客から求められたときは、金融サービス仲介業務に関して当該金融サービス仲介業者が受ける手数料、報酬その他の対価の額その他内閣府令で定める事項を明らかにしなければなりません(法25条2項)。
この「内閣府令で定める事項」とは、以下とされています(府令34条各号)。
① 業務の種別ごとに、当該金融サービス仲介業者と金融サービス仲介業務に関して取引関係にある主な相手方金融機関の商号、名称又は氏名及び相手方金融機関から受領した手数料、報酬その他の対価(以下この号において「手数料等」という。)を合計した金額の総額に占める顧客が締結しようとする金融サービス契約に係る相手方金融機関から受領した手数料等を合計した金額の割合
② 当該金融サービス仲介業者が供託している保証金の額、締結している保証委託契約において供託されることとなっている金額又は金融サービス仲介業者賠償責任保険契約の保険金の額
(3)2種類の手数料の開示義務について
前述のとおり、金融サービス仲介業者の事前の明示と顧客の求めに応じて行う情報提供の対象となる事項には、いずれも、手数料に関する情報が含まれていますが、事前の明示事項としての「手数料」とは、金融サービス仲介業者がその仲介行為の対価として顧客から収受するものをいい、顧客からの求めに応じて行う開示事項としての「手数料」とは、金融サービス仲介業者が仲介行為の対価として金融機関から収受するものをいいます。
上記の手数料等の開示は顧客保護に資する一方、仲介業者からするとビジネスモデルに関わる重要な情報であるため、この点に留意しながら、金融サービス仲介業で業登録を行うか、又は既存の仲介業で業登録を行うか検討すべきといえます。
5 誠実公正義務
金融サービス仲介業者は、全ての金融分野において、「顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」とされています(法24条)。
上記の文言は抽象的ではありますが、既存の登録業と比べ、所属制がない分、所属する金融機関等の指導・監督がなく、顧客の利益を担保されているとは言えません。そのため、既存の登録業に比べて、誠実公正義務はより一層重要であると言えます。
そこで、コンプライアンス・マニュアル等において、誠実かつ公正な顧客対応が可能なよう対応フローや社内ルールを整備しておくべきと考えられます。
6 態勢整備義務
金融サービス仲介業者は、金融サービス仲介業務に関し、その金融サービス仲介業務に係る重要な事項の顧客への説明、その金融サービス仲介業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いその他の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じなければならなりません(法26条)。
態勢整備義務は、業務分野を問わず、全ての金融サービス仲介業者が負う義務です。また、行う業務分野ごとに個別の行為規制が設けられているため(法29条~32条)、業務分野に応じて態勢を整備する必要があります。
なお、金融サービス仲介業は、所属制ではないため、所属する金融機関等による指導がない分、既存の仲介業者に比べてより直接的に監督当局からの規制が及ぶようになるものと思われます。
7 おわりに
本記事では、金融サービス仲介業の規制について、ご説明いたしました。
金融サービス仲介業の新設により、多様なフィンテックサービスの提供がしやすくなったとはいえ、保証金供託義務等大きな規制もあり、業登録を行うに際し、入念な検討・準備が必要となりますので、ご留意ください。
次回は、業登録及び金融サービス仲介業のメリット・デメリットについて、ご説明いたします。
※1 金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告 24頁
※2 金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告 25頁
監修
弁護士 原田 雅史
(上場企業(自動車部品関係)で企業内弁護士として経験したのち、GVA法律事務所に入所。現在は主にフィンテック分野に注力し、フィンテックビジネスのスキーム構築に関するアドバイスや業登録などのサポートをしている。一般社団法人Fintech協会の送金・決済分科会の事務局も務める。 その他、ファイナンス、下請取引、海外案件なども対応。)