執筆:弁護士 髙林 寧人(フィンテックチーム)
『信用購入あっせんとは①‐類型等‐』はこちらから
『信用購入あっせんとは②‐個別信用購入あっせん‐』はこちらから
『信用購入あっせんとは③‐包括信用購入あっせん‐』はこちらから
前回の記事では、信用購入あっせんのうちの包括信用購入あっせんについて解説しました。
本記事では、包括信用購入あっせんの中でも、割賦販売法(以下「割販法」といいます。)の2020年改正によって新設された制度である、認定包括信用購入あっせんと少額包括信用購入あっせんについて解説していきます。
1. 認定包括信用購入あっせん
(1) 新設の背景
包括信用購入あっせん業者は、カード等を発行し又は発行したカード等の限度額を増額する際には、包括支払可能見込額を算定するための調査を行わなければならず、また、この調査の結果、算定された包括支払可能見込額(に一定率を乗じた金額)を超える極度額(いわゆる「限度額」)を設定してはなりません(割販法30条の2)。
包括支払可能見込額調査の対象となる項目は、年収、預貯金、信用購入あっせんに係る債務の支払の状況、借入れの状況、その他包括支払可能見込額の算定に必要な事項であって客観的に判断することができるもの、です(割販法施行規則39条)。
包括信用購入あっせん業者は、包括支払可能見込額の調査においては、指定信用情報機関が保有する特定信用情報を使用しなければならず(割販法30条の2第3項)、また、特定信用情報を使用して、自社だけでなく利用者の他社における信用購入あっせんに係る債務状況も確認する必要があります。
もっとも、近年、情報通信技術が発展したことにより、各事業者独自の方法によっても適切な与信審査を行うことが可能となり、また、キャッシュレス推進の観点から、このような新技術を用いた与信審査方法を許容すべきとの要請が高まりました。
そこで、割販法の2020年改正により、認定包括信用購入あっせんが新設されるに至り(割販法30条の5の4)、認定包括信用購入あっせん業者は、事前に認定を受けた方法による独自の与信調査を行うことが可能となりました。
(2) 割販法による規制
(ア) 参入規制
上記のとおり、認定包括信用購入あっせんの新設により、認定包括信用購入あっせん業者は、包括支払可能見込額の調査に代わる利用者支払可能見込額調査を行うことが可能となりました。
もっとも、認定包括信用購入あっせんの認定は、あくまでも与信調査に係る手法の認定にすぎず、包括信用購入あっせんを営むこと自体の認定ではありません。
すなわち、認定包括信用購入あっせん業者となるためには、包括信用購入あっせんに係る登録が前提となります(割販法31条)。
(イ) 行為規制
上記のとおり、認定包括信用購入あっせん業者であっても、包括信用購入あっせん業者であることには変わりはありませんので、認定包括信用購入あっせん業者に対しては、包括支払可能見込額調査に係る規定(割販法30条の2・30条の2の2)を除き、包括信用購入あっせんに係る各規定が適用されます。
① 利用者支払可能見込額の算定
認定包括信用購入あっせん業者は、包括支払可能見込額に代えて、利用者支払可能見込額を算定しなければなりませんが(割販法35条の5の5)、この算定に当たっては、必ず認定の与信方法によるべきことになります(割販法30条の5の5)。つまり、認定包括信用購入あっせん業者は、従来の支払可能見込額調査の方法による与信手法を実施することができません(※)。
なお、利用者支払可能見込額の算定に当たっては、特定信用情報の利用が必要です。
その他、認定包括信用購入あっせん業者は、利用者支払可能見込額の算定に関する記録を作成し保存しなければならず、また、この算定実績等について、定期的に経済産業大臣に報告しなければなりません(割販法35条の5の5第4項)。
② 利用者支払可能見込額を超える限度額の設定の禁止
認定包括信用購入あっせん業者は、一部例外を除き、カード等を交付・付与しようとする場合又は極度額を増額しようとする場合には、利用者支払可能見込額を超える極度額を設定できません(割販法30条の5の6)。
2. 少額包括信用購入あっせん
(1) 新設の背景
情報通信技術の発展に伴い、少額の決済サービスも登場することとなりました。
しかしながら、このようなサービス事業者にとっては、認定包括信用購入あっせんにおける文脈同様に、指定信用情報機関への登録を含む与信調査方法等の割販法上の規制等が過度な参入障壁となっており、加えて、登録制における資産要件等についても疑問視されました。
そこで、一定の少額の与信サービスに関しては、異なる与信調査方法を許容すべきであるし、包括信用購入あっせんとは別の資格とすべきとの要請が高まり、少額包括信用購入あっせんが新設されました(割販法35条の2の3)。
少額包括信用購入あっせん業者は、通常の包括信用購入あっせんの登録を受けることなしに、限度額を10万円以下とする包括信用購入あっせん業を営むことが可能となり(割販法35条2の3第1項)、また、包括信用購入あっせんに係る規定の一部の適用を受けないこととなりました(同条2項)。
(2) 割販法による規制
(ア) 参入規制
上記のとおり、少額包括信用購入あっせんを営むためには、通常の包括信用購入あっせんとしての登録は不要であり、少額包括信用購入あっせん業者としての登録のみを受ければ足ります(割販法35条の2の3)。
なお、少額包括信用購入あっせんの登録と通常の包括信用購入あっせんの登録とは両立しませんので、登録少額包括信用購入あっせん業者が通常の包括信用購入あっせん業者の登録を受けた場合には、登録が消除されます(割販法35条の2の15第1項1号)。
また、少額包括信用購入あっせん登録は、認定包括信用購入あっせん登録とも両立しません。
財政面に関する要件については、通常の包括信用購入あっせんについては、資本金又は出資の額が2000万円以上であること(割販法33条の2第1項3号、割賦令5条2項)及び資産の合計額から負債の合計額を控除した額が資本金又は出資の額の90%以上であること(割販法33条の2第1項4号)が求められています。
これに対し、少額包括信用購入あっせんについては、「純資産の合計額から負債の合計額を控除した額が経済産業省令で定める要件を満たさない法人」(割販法35条の2の11第1項3号)とされており、資本金又は出資の額の要件は設けられておらず、より緩和した純資産要件となっています。
具体的には、純資産額がマイナスでないこと、かつ①登録時に親子会社合計の純資産比率90%以上であること、②事業開始の日から5年以内に純資産比率90%以上であることが見込まれること又は③事業開始の日から5年以内に純資産額が1000万円以上であることが見込まれることのいずれかに該当することとされています(割販法35条の2の11第1項3号、割販法施行規則68条の10)。
(イ) 行為規制
少額包括信用購入あっせんについては、認定包括信用購入あっせんと同様、包括支払可能見込額調査に代えて利用者支払可能見込額の算定を行うという制度ですので、与信審査規制については、基本的に、認定包括信用購入あっせん業者と同様です。
少額包括信用購入あっせん業者は、認定包括信用購入あっせんと同様、利用者支払可能見込額の算定をしなければならず(割販法35条の2の4)、登録に際して申請した方法によって利用者支払可能見込額を算定します(割販法35条の2の9第1項4号)。
また、一部例外を除き、カード等を交付・付与しようとする場合、極度額を増額しようとする場合に算定された利用者支払可能見込額を超える極度額を設定できません(割販法35条の2の5)。
3. おわりに
本記事では、包括信用購入あっせんの中でも、割販法の2020年改正によって新設された制度である、認定包括信用購入あっせんと少額包括信用購入あっせんについて解説しました。
いずれも、情報通信技術の発展に伴う、キャッシュレス推進からの規制緩和といえますが、認定包括信用購入あっせんが包括信用購入あっせん業者としての登録を前提とするものであるのに対し、少額包括信用購入あっせんは、これを前提としません。
既存の包括信用購入あっせん業者が規制緩和を受けようとする場合には認定包括信用購入あっせんによることを検討することとなり、他方、包括信用購入あっせん登録を受けていない少額決済を扱う業者などは、少額包括信用購入あっせん業者としての登録を検討することになろうかと思います。
各制度には個別的なメリット・デメリットがありますので、サービス提供者は、どの制度設計によるべきかを慎重に判断することが必要といえます。
※ 2024年3月7日に一般社団法人Fintech協会から公表された「規制改革に向けた提言」では、以下のような問題点が指摘されている。「認定事業者が、新しいサービスへの参入や新顧客へのアプローチ等を計画しようとした場合、当然のことながら、新規事 業等に関連する蓄積データを有していない。そのため、そのような蓄積データによらずに構築された、認定された与信手法を用いて新規事業等に関し与信審査することができない。また、支可調方式の与信手法も実施できない結果、新しい取り組みを断念せざるを得ない。そのような問題点があるため、事業者も新規に認定を取得するリスクを取ることができなくなっている。」
監修
弁護士 原田 雅史
(上場企業(自動車部品関係)で企業内弁護士として経験したのち、GVA法律事務所に入所。現在は主にフィンテック分野に注力し、フィンテックビジネスのスキーム構築に関するアドバイスや業登録などのサポートをしている。一般社団法人Fintech協会の送金・決済分科会の事務局も務める。 その他、ファイナンス、下請取引、海外案件なども対応。)