【弁護士解説】クラウドファンディングの法務~各類型の概要と法規制~ 第1回

執筆:弁護士 岡野 琴美フィンテックチーム

第1 はじめに

 近年、スタートアップや中小企業の資金調達手段として注目を集めているのが「クラウドファンディング」です。クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人々から資金を募る仕組みであり、従来の銀行融資やベンチャーキャピタルからの投資とは異なる、新たな資金調達の選択肢として活用事例が増えています。

 特に、起業間もないスタートアップ企業の場合、従来の資金調達が難しいケースもあり、クラウドファンディングは有効な調達手段となり得ます。しかし、その活用にあたっては、クラウドファンディングの類型ごとに異なる仕組みや法規制を正しく理解しておくことが不可欠です。

 クラウドファンディングは、法律で定義等されているわけではないですが、本記事においては、その仕組みに応じて、主に①寄付型、②購入型、③貸付型、④投資型の4つの類型に分類します。

 本記事は、第1回として、クラウドファンディングの基本的事項に加え、「寄付型クラウドファンディング」と「購入型クラウドファンディング」に焦点を当て、その仕組みと法的留意点について解説します。

 第2回では、「貸付型クラウドファンディング」、第3回では「投資型クラウドファンディング」について解説いたしますので、第2回以降もぜひ御覧ください。

 

第2 クラウドファンディングとは

(1)定義

 クラウドファンディングという言葉は、「群衆(crowd)」と「資金調達(funding)」を組み合わせた造語であり、不特定多数の者から資金を募り、特定のプロジェクトや事業を実現する手法を指します。クラウドファンディングについて明確な法的定義が存在するわけではなく、さまざまな解釈があるものの、一般的には、「何かを実現したい」とプロジェクトを立ち上げた企画者に対し、賛同した者がインターネットを通じて金銭的な支援を行い、その資金をもとにプロジェクトが遂行されるという仕組みを表す言葉として使用されています。

(2)普及の背景

 クラウドファンディングが急速に普及した背景には、インターネットの普及により、資金需要者が、不特定多数に対して情報提供をすることが低コストで、かつ容易にできるようになったことが挙げられます。

 従来、資金調達といえば、銀行からの融資や投資家からの出資が一般的でしたが、こうした方法では信用力や実績が必要となることもあり、特に創業間もないスタートアップ企業にとっては利用が難しいケースが多くありました。

 一方、クラウドファンディングでは、企画者がインターネットで自らのプロジェクトの魅力や社会的意義を訴えることで、賛同する不特定多数の個人や企業から小口出資を広く募ることができ、これまで資金調達の機会が得られなかった層にも調達のチャンスが広がりました。

(3)クラウドファンディングのメリットと活用事例

 上記のとおり、クラウドファンディングのメリットとしては、社会的な賛同を得られるプロジェクトであれば、金融機関からの融資やベンチャーキャピタルからの投資、スポンサー企業からの支援等、従来の資金調達が難しい場合でも、企画者の思いに賛同した一般の人から大きな資金を調達することができることが挙げられます。他の資金調達方法と比べて、1人ひとりの支援者が負担する資金が少額であることから、プロジェクトの収益性よりも、その実現による社会的価値が評価される点に、他の資金調達手段にはない特長があるといえるでしょう。

 実際に、クラウドファンディングは、災害支援、地域振興、動物保護活動といった公益性の高いプロジェクトにも広く活用されており、最近では、地方自治体が活用する動きもみられます。

 また、クラウドファンディングは、比較的賛同者を得られやすいエンタメの分野にも適しているといえます。代表的な活用事例は、映画『この世界の片隅に』です。この映画は、クラウドファンディングによって3,900万円を超える製作費の資金調達に成功し、最終的には第40回日本アカデミー賞「最優秀アニメーション作品賞」を受賞するなど、大成功を収めました。

(4)資金調達の流れ

 クラウドファンディングは、一般に、以下の流れで実施されます。

①プロジェクト実施者が、一定のプロジェクトおよびそのプロジェクトの遂行に必要な調達目標金額を定め、クラウドファンディングサービスのプラットフォーム上に掲示する。

②一定の期間内に、同プロジェクトに賛同する不特定多数の第三者(資金提供者)から資金提供を募る。

③(プロジェクト実施者は調達した資金で同プロジェクトを遂行し、資金提供の対価や事業による収益を資金提供者に対して提供する。) 

※類型によっては①と②のみの場合もあります。

 

第3 寄付型クラウドファンディング

(1)概要

 寄付型クラウドファンディング(CF)は、資金提供者がプロジェクト実施者に対して、無償で資金提供を行う形式のクラウドファンディングです。

 寄付型CFの特長は、プロジェクトが成功しても、原則として資金提供者に経済的な対価が交付されない点にあります。この点が、後に説明する購入型や投資型のクラウドファンディングとの大きな違いです。

 資金提供者は、プロジェクトの収益性ではなく、当該プロジェクトの趣旨や社会的意義に賛同し、その活動を支援することを目的として資金を提供します。

 このような寄付型CFの「寄付」という性質上、寄付型CFは、災害復興支援や地域振興、動物保護活動、途上国支援、感染症対策など、公益性の高いプロジェクトとの親和性が特に高いといえます。

 また、寄付型CFは、プロジェクト実施者が対価を用意する必要がないため、参加最低金額を1円から設定するなど、敷居を低くすることが容易であり、多くの人々が少額から支援できる点も特徴の一つです。

(2)法的規制と留意点

 寄付型CFは、資金提供者が任意に資金を提供しているといえるため、法的には、民法上の贈与契約と整理することができます。

 本類型は、寄付を募るプロジェクト実施者や、当該寄付の場を提供するクラウドファンディングサービス事業者(CF事業者)が配当や株式等の有価証券への投資勧誘を行うわけではないため、プロジェクト実施者やCF事業者に金融商品取引法は適用されず、また、その他適用される特段の法規制も基本的にはありません。

 さらに、資金提供者についても、寄付行為そのものに課される法的規制はないと考えられます。

 もっとも、実務上、寄付型CFには以下の留意点が存在します。

ア 税務上の取扱い

 プロジェクト実施者が受領した寄付金は課税対象となるため、個人であれば所得税、法人であれば法人税等の税金が発生することになります。

 調達額が高額であった場合には、かなりの贈与税が生じる可能性もあります。このため、寄付型CFを実施する場合は、調達資金の税務上の取扱いについて、あらかじめ確認することが望ましいです。

イ 返礼品の取扱い

 寄付型CFでは、経済的な対価の提供が行われないことが前提となりますが、感謝状や限定イベントの招待といった非金銭的な返礼品が提供されるケースがあります。金額によっては、返礼品に対する課税が生じる可能性がありますし、寄付額ではなく購入型として規制となることもありえますので、事前に確認しておくことが望ましいでしょう。

(3)活用事例

 寄付型CFが活用された具体的な事例としては、2016年4月に発生した熊本地震や2024年1月に発生した能登半島地震の復興支援策として活用された事例や、新型コロナウイルス感染症拡大防止活動を支援する基金の募集策として活用された事例が挙げられます。

 後者では、公益財団法人東京コミュニティー財団が、2020年4月から約3か月間にわたり、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に取り組む個人・団体・事業者・医療機関・自治体等の感染症防止活動費用を助成するための資金を募り、約2万人から総額約7億2,000万円もの寄付を集めることに成功しました。

 

第4 購入型クラウドファンディング

(1)概要

 購入型CFは、資金提供者が、プロジェクト実施者に資金を提供し、その対価として製品やサービスをプロジェクト実施者から受領する形式のクラウドファンディングであり、現在、日本国内において最も多く利用されている類型と言われています。

 購入型CFは、多くの人が魅力を感じやすい対価を設定しやすいという観点から、特にプロジェクト実施者が製品開発やサービス提供を行う場合に適しており、新商品開発やコンテンツ制作、イベント開催費用の調達等、多様な用途で利用されています。

 例えば、すでにファンの多い漫画作品を原作とするゲーム化プロジェクトや、人気アーティストによる音楽制作プロジェクトなどでは、完成後の製品・コンテンツを資金提供者に対する対価として提供することで、多くの支持を集めています。

(2)法的規制と留意点

ア プロジェクト実施者における法規制

 購入型CFは、寄付型CFと異なり、資金提供者が経済的な対価を受け取ることを前提としており、資金提供者は、資金提供によってプロジェクト実施者から対価を購入しているということができるため法的には、対価の売買契約と整理することができます。

 よって、売主の立場であるプロジェクト実施者は、以下の法規制の適用を受けることになります。

(ア)特定商取引法に基づく規制

 「特定商品取引法」とは、通信販売などの消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルール等を定めている法律です。購入型CFでは、プロジェクト実施者がインターネット上のプラットフォームを通じて商品・サービスを販売することになるため、特定商取引法上の「通信販売」に該当し、同法の適用を受けることになります。

 同法の規制対象となることにより最も注意が必要なのは、「特定商取引法に基づく表記」を行う義務(同法第11条)です。売主であるプロジェクト実施者は、資金調達に際し、同条に基づき、販売業者の代表者名・住所、商品の販売価格、送料、代金の支払時期・方法、商品の引渡時期、返品・キャンセルに関する事項などをあらかじめ表示しておく必要があります。

 また、同法第12条は、誇大広告や虚偽表示を禁止しています。表示事項に対して著しく事実と異なる表示を行ったり、実際のものよりも著しく優良または有利であると買主に誤認させるような表示を行ったりすると同条違反となるため、この点も注意が必要です。

(イ) 契約不適合責任

 契約不適合責任とは、売主が買主に売った商品が、通常有すべき品質や性能を有しない場合に、売主が買主に対して負う責任です。買主は、売買の目的物に契約不適合がある場合、売主に対して当該契約不適合の責任を追及することができます。

 購入型CFでは、プロジェクト実施者自身が、対価である商品やサービスの売主の立場となるため、通常の売買契約の売主と同様に契約不適合責任を負うことになります。具体的には、対価である商品やサービスが通常有すべき品質・性能を有しない場合や、当初説明していた内容と著しく異なる場合には、当該対価について契約不適合があるとして、資金提供者は、プロジェクト実施者に対し、損害賠償請求や解除請求、修補請求等をすることができます。

 クラウドファンディングの特性上、資金調達段階では資金調達額が正確に予測できず、どの程度の水準の商品やサービスを対価として提供できるのかといった、最終的な対価の仕様が不明瞭な場合があります。よって、契約不適合を生じさせないよう、調達の目標金額を下回った場合であっても最低限満たすべき水準の対価を提供することが可能か、あらかじめ検討しておくことが望ましいです。

 また、スキームの法的構成によっては、プラットフォームの提供者であるCF業者が売主となる可能性もあります。誰が売主となるのかによって契約不適合責任の所在が異なるため、プロジェクト実施者だけでなくCF事業者もまた、サービスを提供するにあたり、責任の内容や所在についても慎重に検討をすることが必要となります。

イ CF事業者における法規制

 通常の売買プラットフォームと同様に、プロジェクト実施者と資金提供者との売買取引の場を提供するにすぎない場合は、CF事業者に課される法規制は原則としてありません

 ただし、CF業者が資金提供者から資金を受領し、当該調達資金の一部を手数料として徴収し、残りをプロジェクト実施者に支払うというスキームの場合、CFの行為が「為替取引」に該当する可能性があります(なお、「為替取引」(銀行法第2条第2項2号)とは、顧客から依頼を受けて、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを指します。)。

 「為替取引」を業として行うには資金移動業の登録が必要となるため、業登録をしていないCF事業者は「為替取引」に該当しないようスキームを設計する必要があります。

ウ 資金提供者における法規制

 購入型CFにおいては、資金提供者は商品の購入者であり、特に課される法規制はありません。なお、購入型CFの場合であっても、通常の売買契約と同様に、資金提供者には、商品・サービスの購入に伴う一般的な消費者契約法等の保護規定が適用されることになります。

(3)活用事例

 購入型CFの代表的な活用事例としては、ベースフード株式会社によるプロジェクトが挙げられます。

 同社は、完全栄養食品「BASE PASTA」等の販売を行う企業であり、2016年10月にクラウドファンディングプラットフォーム「Makuake」において、自社商品の「BASE PASTA」を販売する形で購入型クラウドファンディングを実施しました。

 このプロジェクトでは、資金提供者が提供する金額に応じて、同社の商品を対価として提供する仕組みが採られました。結果として、目標金額を超える約100万円の資金調達に成功しています。

 

第5 おわりに

 クラウドファンディングは、従来の資金調達手段に比べ、より広く一般の個人から小口の資金を集めることができる柔軟な仕組みとして、スタートアップ企業にとって非常に魅力的な選択肢となっています。

 しかし、一概にクラウドファンディングといっても、その類型や立場によって適用される法規制が異なるため、自らの負う規制については、事前に十分に理解しておく必要があります。

 当事務所では、クラウドファンディングを活用した資金調達に関する法務支援を数多く行っており、スキーム設計段階から契約書作成、法規制対応まで幅広くご相談を承っております。クラウドファンディングの活用をご検討されている方は、ぜひお気軽にご相談ください

 第2回は、「貸付型クラウドファンディング」について解説します。次回もぜひご覧ください。

監修
弁護士 原田 雅史
(上場企業(自動車部品関係)で企業内弁護士として経験したのち、GVA法律事務所に入所。現在は主にフィンテック分野に注力し、フィンテックビジネスのスキーム構築に関するアドバイスや業登録などのサポートをしている。一般社団法人Fintech協会の送金・決済分科会の事務局も務める。 その他、ファイナンス、下請取引、海外案件なども対応。)

執筆者

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