
執筆:弁護士 髙林 寧人 (フィンテックチーム)
1 割賦販売とは
「割賦販売(自社割賦)」とは、用語の意味としては、分割払の方法による販売行為を指しますが、全ての分割払による販売行為が規制対象である「割賦販売(自社割賦)」になるわけではありません。以下では、割賦販売法(以下「割販法」といいます。)が規制する「割賦販売(自社割賦)」について説明します(以下「割賦販売」は、規制対象となる「自社割賦」を指すものとします。)。
2 割賦販売の種類
割賦販売の種類としては、以下の2つに大別されます。
・割販法第2条第1項第1号:
販売代金等の対価が、2ヶ月以上の期間かつ3回以上の分割払により支払われるもの
自社割賦カード等の「カード等」が交付されるものを「分割方式」、「カード等」が交付されないものを「個別方式」といいます(自動車の販売業者が長期の分割払で販売する場合等)。
1号の場合、「分割方式」「個別方式」いずれの場合であっても、販売契約時に「毎月3万円の3回払い」等と、個別の商品毎に弁済期及び弁済時期が定まります。
・割販法第2条第1項第2号:
いわゆる「リボルビング方式」と呼ばれるもの
一定時期毎の債務残高を基準として定まった金額を支払うものをいいます。たとえば、毎月債務残高の20%の割合で弁済金を定める方式です(「定率リボルビング方式」と呼ばれるもの。)。
上記を整理すると以下のようになります。
| 販売契約時に、各取引についての、約定の弁済時期及び各弁済額を確定 | 弁済額は、カード契約に従い、一定時期(例:毎月末)における債務残高を基準として定まる |
カード等の交付あり | 分割方式(割販法第2条1項1号) | リボルビング方式(割販法第2条1項2号) |
カード等の交付なし | 個別方式(割販法第2条1項1号) | ― |
中崎隆『詳説 改正割賦販売法』(金融財政事情研究会、103頁、平成22年)から引用
3 割賦販売の特徴
割賦販売は、販売業者と消費者の2者間の取引ですので、割賦販売法の類型の中でも最もシンプルな取引態様といえます。クレジット会社等の第三者の仲介なしに販売業者自らが商品代金を分割払で受領しますので、「自社割賦」とも称されています。
割賦販売は、販売業者と消費者の2者間で行われるという比較的小規模な取引類型であることから、消費者被害も少ないと考えられます。
そこで、割賦販売には、登録や許可のような参入規制はなく、割賦販売における規制の対象については、指定制が採られており、具体的には、予め指定されている54種類の商品、8種類の権利、11種類の役務に限定されています(割販法第2条第5項、割販法施行令第1条・別表1の1~1の3)。事業者としては、まずは販売予定の商品等が指定商品等に該当するかを確認することになります。
また、規制対象となる割賦条件についても、2ヶ月以上の期間かつ3回以上の分割払に限定されています。ただし、リボルビング方式の場合、このような期間・回数の限定はありません。
4 割賦販売の規制
上のように、割賦販売については、規制が緩和されてはいますが、代金の支払いが延払になることや1回当たりの支払額が小さくなることによって消費者が支払能力を超えて商品の購入等をしやすくなること(誘因性)、約款を用いた長期の契約のような場合に商品の引渡時期や解除の条件等に複雑な特約が付くために消費者にとって契約内容が不明瞭になること(複雑性)は否定し得ません。
そこで、消費者が複雑な割賦販売の条件を理解し比較検討した上で購入方法を選択できるようにすべく規制が設けられています。
⑴ 規制の主体
割賦販売に係る規制の主体は、販売業者です。
⑵ 割賦販売条件の表示義務
割賦販売業者は、割賦販売を行おうとする相手方に対し、契約締結前に割賦販売条件を表示しなければならないとされています(割販法第3条第1項~第3項)。割賦販売条件について広告をする場合にも、割賦販売条件を表示する必要があります(割販法第3条第4項)。
割賦販売条件とは、たとえば、現金で販売した場合の価格、割賦販売で販売した場合の価格、割賦の支払期間、割賦の支払回数、割賦の手数料率のことをいいます。
割賦販売条件の表示に用いる用語については、一般社団法人日本クレジット協会の自主規制規則における標準用語が参考になります(一般社団法人日本クレジット協会「割賦販売に係る自主規制規則」第5条(3)、別表1)。
割賦販売条件の表示については、相手方に「示す」ことで足りるとされており、書面を交付する必要まではないとされています。
表示の方法については、表示する文字サイズや手数料率の表示の仕方等の遵守すべき事項が規定されており(割販法施行規則第1条の2第1項)、これに加え、一般社団法人日本クレジット協会の自主規制も遵守する必要があります(同規則第4条~第7条)。
表示義務違反の場合には、50万円以下の罰金が科されることとなっています(割販法第53条第1号~第3号)。
⑶ 書面交付義務
割賦販売業者は、割賦販売の方法により指定商品等の販売等契約を締結したときは、購入者に対し、遅滞なく、割賦販売に係る事項について当該契約の内容を明らかにする書面を交付しなければなりません(割販法第4条第1項・第2項)。なお、所定の方法による同意を得たうえでの電磁的方法による交付が容認されています(割販法第4条の2)。
割賦販売に係る事項については、たとえば、割賦販売価格や賦払金額(割賦販売の1回の支払分の金額)、その支払時期及び方法、商品の引渡時期、契約の解除に関する事項、割賦販売業者の名称や住所、契約年月日や商品の種類・数量等です(割販法施行規則第5条~第8条)。
書面交付の不備等書面交付義務に違反した場合には、50万円以下の罰金が科されることとなっています(割販法第53条第3号)。
⑷ 民事ルールの特則
消費者保護の観点から、民事ルールの特則として、契約解除の制限(割販法第5条)、損害賠償額の制限(割販法第6条)が設けられています。
割賦販売業者が割賦販売に係る契約を購入者等の支払義務の不履行により解除する場合には、20日以上の相当な期間を定めてその支払いを書面で催告することが義務付けられており(割販法第5条第1項)、これに反する特約等は無効とされています(割販法第5条第2項)。
上の手続きを経て割賦販売に係る契約を解除した場合であっても、民法上の法定利率による遅延損害金の額を超える金銭の支払いは請求できないものとされています(割販法第6条第1項)。
5 おわりに
割賦販売は、割賦販売法の類型の中でも最もシンプルな取引態様といえますし、登録や許可のような参入規制もありませんので、導入しやすい手段といえます。
自社商品の割賦販売の導入を検討するに際しては、まずは当該商品が指定商品等に該当するかを確認し、該当する場合には、想定する分割払の形態について割賦販売の規制が適用されるかを確認することになります。
規制を受ける場合には、行為規制を履践していく必要があります。
割賦販売においては、消費者は販売業者に対して売買契約の中で直接支払停止等の抗弁やクーリング・オフの主張が可能であったり、スキームによっては個別信用購入あっせんや前払式割賦販売(割販法第11条)に該当する場合もあったりしますので、注意が必要です。
監修
弁護士 原田 雅史
(上場企業(自動車部品関係)で企業内弁護士として経験したのち、GVA法律事務所に入所。現在は主にフィンテック分野に注力し、フィンテックビジネスのスキーム構築に関するアドバイスや業登録などのサポートをしている。一般社団法人Fintech協会の送金・決済分科会の事務局も務める。 その他、ファイナンス、下請取引、海外案件なども対応。)