
(※2020年2月27日に公開。2024年6月14日に記事内容をアップデートいたしました。)
2020年2月27日 公開
2024年6月14日 更新
第1 はじめに
1 収納代行サービスとは
近年、フィンテック企業や大手の企業によって多様な決済サービスが提供されていますが、その中でも比較的古くから用いられている決済サービスとして、収納代行サービスがあります。これらは、金銭の支払義務を負う債務者が、遠隔地にいる債権者に代金を支払うに際して、債権者の依頼を受けた事業者を介して決済を行うという点に特徴があります。
代表的なものとしては、以下のようなケースで収納代行サービスが用いられています。
利用者が、コンビニエンスストアを介して、電力会社に電気利用料金の支払いを行うケース
ECプラットフォームサービスのユーザー(購入者)が、プラットフォーマーを介して、販売者に商品代金の支払いを行うケース
また、以下のような、収納代行サービスに類似するサービスも存在します。
代金引換サービス
商品を購入した者の自宅等へ商品を搬送する際に、商品を搬送する運送業者が、商品の販売者から依頼を受け、商品の引渡しに際して購入者から代金を受け取り、販売者に対し受け取った代金を渡すもの
回収代行サービス
ある事業者が提供した財・サービスの代金回収を、他の事業者が代行するもの(例えば、携帯電話会社が、携帯電話に搭載されたコンテンツの提供者から依頼を受け、電話料金等の支払いを受ける際に、併せてコンテンツの使用料金の支払いを受けるもの)
2 収納代行サービスを取り巻く法規制
収納代行サービスは、資金決済法が制定される前から存在していたサービスであり、資金決済法が制定される際にも金融審議会で議論が行われましたが、2009年の制度整備の段階では規制の対象外となり、将来の課題とすることが適当とされていました。そして、現状、多くの事業者がこの収納代行サービスを通じてビジネスを行っており、今や収納代行サービスは一般の生活にも定着しているといえます。
しかし、資金決済法の制定から10年が経過し、改めて収納代行サービスについての規制の必要性が議論されたことを受けて、2020年の法改正により、収納代行サービスの一部が規制対象となりました。
本稿では、これまでの収納代行サービスを取り巻く規制の概要や改正までの経緯、改正内容、改正法が事業に与える影響、そして今後予想される規制の動向について説明していきます。
収納代行サービスをビジネスに取り入れている事業者の方や、収納代行サービスを取り入れた新規ビジネスを検討中の方は、是非ご一読ください。
第2 従来の収納代行サービスに関する規制について
1 「為替取引」との関係
収納代行サービスは、遠隔地にいる債権者と債務者との間の決済手段として利用されるサービスであるため、これまで銀行や資金移動業者でなければ行うことができない「為替取引」(銀行法第2条第2項第2号、資金決済法第2条第2項)への該当性が問題になります。
為替取引に関する法律上の定義は存在しませんが、為替取引の意義を示した最高裁判例によると、以下の3要件を満たす場合には、「為替取引」に該当すると考えられます。
(1) 隔地者間の資金の移動を行うこと
(2) 直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用すること
(3) 上記(1)及び(2)を内容とする依頼を引き受けること、または引き受けて遂行すること
収納代行サービスは、金銭債権の債務者が、第三者たる事業者を介して、遠隔地に所在する債権者に対して決済を行っており、当該事業者が資金を移動していると評価できることから、これが上記「為替取引」の要件を満たすのではないかと指摘されていました。
2 実務上の取扱い
このような指摘がある一方で、収納代行サービスは、その利便性の高さから一般の国民生活に定着していき、銀行や資金移動業者以外の多くの事業者が収納代行サービスを行うようになりました。
このとき使われた法律上の手法としては、債務者と債権者とを介在する事業者に対して、債権者が「代理受領権限」を与えてしまうというやり方です。すなわち、債権者と収納代行サービスを行う事業者(以下「収納代行サービス事業者」といいます。)との間の契約において、債権者が債務者から金銭を受領する権限を、収納代行サービス事業者に与えてしまうのです。
こうすることで、収納代行サービス事業者は債権者の代わりに債務者から金銭を受領することをサービスの主な内容としており、必ずしも資金を移動することが目的ではないため、為替取引には該当しないと説明されます。
この手法の優れた点としては、債務者に二重払いの危険がないことが挙げられます。すなわち、収納代行サービス事業者に代理受領権限が与えられていますので、債務者が当該事業者に支払いを行えば、その時点で債務者の債務が弁済により消滅することとなります。仮に収納代行サービス事業者がそのお金を持ち逃げして債権者に受領した金銭を支払わなかったり、倒産したりした場合であっても、債務者は再び金銭を支払う必要はありません。通常、債務者が一般消費者で、債権者が事業者であることが多く、一般消費者の利益が守られており、反対に信用リスクに晒されているのが事業者であったことから、この手法は広く受け入れられてきました。
3 規制当局の態度
規制当局である金融庁は、平成21年報告書(※1)において、収納代行サービスが一般の社会に定着し、これまで大きな問題が起きてこなかったことや、収納代行サービスに関する規制のあり方について共通して認識を得ることが困難であったことから、「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当と考えられる。ただし、制度整備を行わないことは、利用者保護が十分であることを意味するものではなく、収納代行サービスが銀行法に抵触する疑義がないことを意味するものでもない」として、問題の解決を先延ばしにするような態度を示していました。
もっとも、このような金融庁の態度からすると、少なくとも債務者を一般消費者とし、債権者を事業者として、収納代行サービス事業者に対して、金銭の代理受領権限が設定されている限りにおいては、特段問題視される可能性が低いことを示しています。
第3 収納代行サービスに関する規制の改正経緯
1 規制当局の態度
令和1年報告書(※2)では、割り勘アプリ(例えば、オンライン上で、債権者(宴会幹事)に代わって事業者が債務者(宴会参加者)から債権(参加費)の回収を行うサービス等をいいます。)のように、収納代行の形式をとって、実質的に個人間の送金を行う新たなサービスが登場していることが指摘されています。このような新たなサービスは、これまで主に想定されていた債権者が事業者であるサービスとは異なり、債権者が一般消費者であり、収納代行サービス事業者が介在することによる信用リスクを一般消費者が負担することとなります。
金融庁は、このような収納代行サービスを取り巻く環境の変化を踏まえ、「それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えられる」との態度を示すようになります。
2 2020年の法改正に基づく見解
上記の経緯を経て、2020年の改正法では、従来より収納代行サービスとされてきたもののうち、一定の要件に該当する取引については、為替取引に該当すると示され、また、資金移動業府令では当該要件が明確化されました。
具体的には、あるサービスが、以下の要件を満たす場合、当該サービスは「為替取引」に該当するものと定められています(資金決済法第2条の2、資金移動府令第1条の2)。
① 金銭債権を有する者(以下「受取人」という。)からの委託、受取人からの金銭債権の譲受けその他これらに類する方法により、
② 当該金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、
③ 当該受取人に当該資金を移動させる行為(当該資金を当該受取人に交付することにより移動させる行為を除く。)であって、
④ 受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であり、かつ、以下の要件のいずれかを満たすこと
(ア) 受取人が有する金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者(第三号において「債務者等」という。)から弁済として資金を受け入れた時(他の者に資金を受け入れさせる場合にあっては、当該他の者が弁済として資金を受け入れた時)までに当該債務者の債務が消滅しないものであること
(イ) 受取人が有する金銭債権が、資金の貸付け、連帯債務者の一人としてする弁済その他これらに類する方法によってする当該金銭債権に係る債務者に対する信用の供与をしたことにより発生したものである場合に、当該金銭債権の回収のために資金を移動させるものであること
(ウ) 次に掲げる要件のいずれにも該当すること
i. 受取人がその有する金銭債権に係る債務者に対し反対給付をする義務を負っている場合に、当該反対給付に先立って又はこれと同時に当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該反対給付が行われた後に当該受取人に当該資金を移動させるものでないこと
ii. 受取人が有する金銭債権の発生原因である契約の締結の方法に関する定めをすることその他の当該契約の成立に不可欠な関与を行い、当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人の同意の下に、当該契約の内容に応じて当該資金を移動させるものでないこと
上記要件は、一見非常に複雑に見えますが、その内容は、従来の収納代行サービスに関する見解と整合するものであるといえます。
第4 改正法の事業への影響について
1 債権者が事業者等である収納代行サービスについて
次の(1)~(3)を全て満たすサービスについては、上記改正法の内容から、これまでと同様に資金決済法の規制は及ばず、収納代行サービスとして、登録や免許は不要であり、銀行や資金移動業者以外であっても行うことができるものと考えられます。
(1) 前提として、原因取引たる契約関係によって発生した債権債務関係が存在すること
(2) 債権者が、サービス提供者(事業者)に対して代金の代理受領権限を付与すること
(3) 事業者は、(2)における代理受領権限に基づいて債務者から代金を受領し、自身の手数料を控除して債権者に支払う。また、当該支払時点で代金支払債務の弁済は終了すること
2 個人間の収納代行等サービス(債権者が一般消費者である収納代行等サービス)について
債権者が個人であるサービスについては、特に改正法の影響に注意する必要がございます。以下、サービスの内容ごとに分けて検討いたします。
(1) 割り勘アプリ
割り勘アプリとは、例えば、オンライン上で、債権者(宴会幹事)に代わって事業者が債務者(宴会参加者)から債権(参加費)の回収を行うサービス等をいいますが、このようなサービスは、前述のとおり、実質的に個人間の送金に該当するサービスとして指摘され、資金移動業と同視できることから、改正法により規制の対象となることになりました。
よって、収納代行サービスとして行うことはできず、資金移動業の登録等を検討する必要があります。
(2) エスクローサービス
個人間の収納代行サービスのうち、次の①から③のような特性を有するエスクローサービス(物品等を売買する際に取引の安全を保障する仲介サービスで、売買の当事者以外の第三者が決済を仲介して、代金を一時的に預かり、物品の引渡し等と引き換えに代金の支払いを完結できるもの等をいいます。例えば、フリマアプリやシェアリングサービス等で行われています。)は、第3の2で示した要件のうち、要件④(ウ)ⅰに該当する行為であるとされており、改正法によっても、規制の対象とはなっていません。
このエスクローサービスについては、売買契約等の当事者間に生じる信用リスクをサービス提供者に付け替えているだけであるとの指摘や、仮にエスクローサービスに為替取引に関する規制を適用した場合、利用者保護上重要な役割を果たしているエコシステムに支障が生じる可能性があるとの指摘を受け、規制が先送りにされたものと考えられます。
一方で、エコシステムへの留意は、利用者保護に懸念を生じさせない範囲にとどめるべきであり、債務者が債権者に支払うべき資金をサービス提供者が保持する以上、利用者保護のためにその保全が図られることが必要との指摘もあり、エスクローサービスについての制度整備については、今後引き続き検討されると予想されます。
① 金銭債権を生じさせる原因取引が、物品の販売若しくは貸付け又は役務の提供であること
② 債務者に対する物品の給付又は役務の提供に先立ち、債権者に対して、当該債権者から資金を収受した旨の通知がなされること
③ 債務者に対する物品の給付又は役務の提供後、債権者に資金が移転されること
(3) プラットフォームサービス
第3の2で示した要件のうち、要件④(ウ)ⅱは、いわゆるプラットフォームサービスを想定して規定されたものであり、ECプラットフォームでの売買契約等、オンラインプラットフォーム上で、債務者と債権者との間で契約が成立する場合、当該契約の成立に不可欠な関与を行うプラットフォーム事業者が、債権者の同意に基づき資金を受け入れる場合を想定しているものと考えられます。このようなプラットフォームサービスについても、改正法の規制の対象とはなっていません。
なお、どのようなことを行っていれば「契約の成立に不可欠な関与」(資金移動業府令1条の2第3号ロ)を行ったと言えるかについては、個別事例ごとに実質的に判断されるべきものですが、例えば、多数の者が参加して取引を行うことが可能なプラットフォームを提供する事業者が、利用規約において当該プラットフォームの利用条件や取引成立条件を定めているような場合には、「契約の締結の方法に関する定め」をしており、「契約の成立に不可欠な関与」を行っているものと考えられるとされています(2021年パブコメ(※3)No. 69 〜 72)。
第5 今後の動向について
今回の法改正では、収納代行サービスのうち、実質的に個人間送金に該当する一部のサービスのみが資金移動業として資金決済法で規制されることになりました。
しかし、収納代行に関して、事務ガイドライン(資金移動業者)(※4)には、以下のような記載があります。
「法第2条の2の規定は、同条に定める行為であって、内閣府令で定める要件に該当するものが為替取引に該当することを確認するものであるところ、今後新たなビジネスモデルが登場する可能性等もあることから、同条に定める行為に該当しない行為及び同条に定める行為には該当するが内閣府令に定める要件に該当しないものが将来にわたって直ちに為替取引に該当しないことを意味するものではなく、事業者の行為為が為替取引に該当するかは、その事業者が行う取引内容等に応じ、最終的には個別囲体的に判断することに留意する。」
上記記述から、現行法下においては、収納代行が今後の規制対象とならないことまで保証されているものではないといえ、今後も決済サービスの機能や実態を把握した上で、必要に応じてさらなる法規制が整備される可能性があります。
第6 小括
従来、実務では、収納代行サービスを行うにあたり、収納代行サービス事業者の代理受領権限の有無について特に関心が寄せられることが多かったように思います。しかしながら、令和1年報告書において明らかになったとおり、規制当局としては、代理受領権限の有無のみならず、その存在を前提として、①債権者が事業者か一般消費者か否かという点や、②債権者が一般消費者に該当するとしても、その経済的な効果等を検討し、利用者保護という観点から適切といえるかという点等を考慮して、サービス毎にきめ細かく検討しようとする姿勢を示しています。
令和1年報告書では、繰り返し「利用者保護」といった言葉が用いられ、「利用者保護」が確保されているかという観点から、当該収納代行サービスについて規制を及ぼすべきかを検討しています。そのため、サービス設計に当たっては、形式的な法律構成のみならず、実質的な「利用者保護」の観点からも検討が必要となります。
また、上記のとおり、収納代行サービスは、今後さらなる法規制が整備されることが予測されますので、資金決済法を中心とする法規制の動向には、今後とも注意をしておく必要があります。収納代行サービスは、登録や免許が不要であり、気軽に参入しやすいサービスである一方で、現行の規制内容を理解したうえで適切なビジネス設計をしなければ、資金決済法等の関連法令に違反してしまうといったリスクも含んでいるのです。
収納代行サービスをビジネスに取り入れている事業者の方や、収納代行サービスを取り入れた新規ビジネスをご検討中の方は、収納代行を取り巻く法規制を理解・把握したうえで、事業を展開していくことが求められているといえるでしょう。
第7 終わりに
資金決済法の改正により、法規制に抵触しない形で収納代行サービスを展開したいがビジネス設計が難しいというご相談や、現行のサービスが改正法に抵触していないか不安があるというお悩み等、収納代行に関するご相談は、近年ますます増えてきているように思います。
弊所では、フィンテックチームを中心に、日頃からフィンテック企業のサポートをさせていただいているとともに、収納代行サービスに関する議論の動向や公的見解に関しても、随時積極的に情報を収集しております。
現行の法規制をふまえたビジネススキームのご提案やコンサルティングをはじめ、既に運用されているスキームに関するアドバイスや、収納代行サービスの内容に即した利用規約の作成、そしてサービスが法規制の対象となる場合に必要な登録・届出等の手続に至るまで、あらゆる面から貴社の事業をサポートいたします。
収納代行サービスはもちろんのこと、フィンテックに関するお困りごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
<参考資料>
※1 「資金決済に関する制度整備について -イノベーションの促進と利用者保護-」(平成21年1月14日 金融審議会金融分科会第二部会)
※2 「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告」(令和1年(2019年)12月20日 金融審議会)
※3 「令和2年資金決済法改正に係る政令・内閣府令案等」に関するパブリックコメント
※4 事務ガイドライン(資金移動者関係)
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/14.pdf
監修
弁護士 原田 雅史
(上場企業(自動車部品関係)で企業内弁護士として経験したのち、GVA法律事務所に入所。現在は主にフィンテック分野に注力し、フィンテックビジネスのスキーム構築に関するアドバイスや業登録などのサポートをしている。一般社団法人Fintech協会の送金・決済分科会の事務局も務める。 その他、ファイナンス、下請取引、海外案件なども対応。)