【弁護士解説】金銭消費貸借契約書についての留意点など

執筆:弁護士 髙林 寧人 フィンテックチーム

 金銭消費貸借契約は、金融機関から金銭を借り入れる場合や役員に対する貸付を行う場合など、様々な場面で締結されます。

 金銭消費貸借契約書を作成する際に留意しておくべき事項などについて、弁護士が分かり易く解説します。

1. 金銭消費貸借契約とは?

 「消費貸借」とは、受け取った物を消費してこれと同じ種類・品質・数量の物を返すことであり(民法第587条)、金銭消費貸借契約とは、この消費貸借契約のうち、特に受け取る物が金銭であるものを意味します。

 なお、賃貸借においては、貸した物自体をそのまま返すことになりますが、対して、使用貸借においては、受け取った物自体は消費してしまうことから返すことはできませんので、同種の物を返すことになります。

 例えば、賃貸借においては、交付した1万円札(記番号△△☓☓)それ自体を返すことになりますが、消費貸借においては、当該1万円札を返す必要はなくて別の1万円札で返しても良いということになります。

 

2. 金銭消費貸借契約の要件

 金銭消費貸借契約が成立するための要件は次の2つです(民法第587条)。

① 借主が貸主に対して同額を返還することを約束したこと
② 借主が貸主から金銭を受け取ったこと

 上記要件②のとおり、金銭消費貸借契約は、貸主から借主に金銭を交付しなければ、成立しないことになります。なお、このように、実際に物を渡さなければ契約が成立しないという性質の契約のことを「要物契約」といいます。

  もっとも、近年の民法改正により、金銭消費貸借契約を口頭ではなく書面(電磁的記録を含みます。)でなすのであれば、実際の金銭の交付がない段階においても有効に成立することとなりました(民法第587条の2第1項、諾成的金銭消費貸借契約)。

  金融機関から受ける融資契約など、あらかじめ金銭消費貸借契約書を取り交わしてその後あらかじめ取り決めた日において金銭の交付がなされるのが一般的ですので、現実の金銭消費貸借契約の多くは、実際の金銭の交付がない段階で有効に成立しているといえます。

 

3. 金銭消費貸借契約の効果

 上述のとおり、多数と思われる諾成的金銭消費貸借契約の場合、貸主が実際に金銭を交付する前の段階で金銭消費貸借契約が有効に成立していることになります。

 

 実際に金銭を交付する前の段階において、借主は、金銭消費貸借契約を一方的に解除できます(民法587条の2第2項前段)。この規定は強行規定と考えられていますので、仮に金銭消費貸借契約において金銭授受前の解除権行使ができない旨の条項を定めていても、当該条項は無効となる可能性があります。なお、貸主は、借主が金銭授受前の解除権行使によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求できます(民法第587条の2第2項後段)。

 

 また、実際に金銭を交付する前の段階において、貸主・借主のいずれかが破産手続開始の決定を受けたときは、金銭消費貸借契約は効力を失います(民法第587条の2第3項)。

 

 実際に金銭を受け取った後は、借主は、貸主に借りた額と同額の金銭を返還する義務を負います。

 

4. 金銭消費貸借契約書における主要な条項

(1)  金銭消費貸借についての合意

 当事者間の合意は契約成立の基本ですので、貸主が金銭を貸し付けること及び借主がこれを借り受けることについての同意を記載します。

 

(2)  貸付金額など

 具体的な貸付金額を記載します。

 貸付実行日、貸付方法(銀行振込など)も記載しておきます。

 

(3)  利息

 民法上は無利息が原則とされていますが、実務上は利息を付すケースが大半です。

 利息を請求するためには、貸主・借主の双方が商人である場合を除いて、金銭消費貸借契約書において利息の計算方法を明記しておく必要があります(民法第589条第1項、商法第513条第1項)。

 

 なお、金銭消費貸借契約の適用利率については、以下のとおり、元本額に応じた上限利率が設けられており(利息制限法第1条)、当該上限金利を超過する部分の利息の定めは無効となります。

元本額

上限利率

10万円未満

年20%

10万円以上100万円未満

年18%

100万円以上

年15%

※営業的金銭消費貸借の元本額の特則

 営業的金銭消費貸借とは、貸主が業として行なう金銭の消費貸借です。

 例えば、借主が、貸金業者から、まず6万円を借り受け、後に7万円を追加で借り受けた場合、当該7万円に対する利息については、元本額を13万円(=6万円+7万円)として計算しますので、摘要の上限利率は、年20%ではなく年18%となります(利息制限法第5条第1号)。

 また、借主が、同一の貸主から個別に6万円と7万円を同時に借り受けた場合、その各利息は13万円についての上限利率である年18%が適用されます(利息制限法第5条第2号)。

 

(4)  返済期日、返済方法

 借主が負う返済義務の内容として、返済期日と返済方法を定めます。

 

 返済方法には、以下の2つがあります。

① 一括返済
各返済期日には利息のみを支払い、最終の返済期日に元本を一括で返済します。

② 分割返済
各返済期日において利息の支払いと元本の返済を行い、最終の返済期日に残元本を全額返済します。 各返済期日に返済する元本額についての計算方法の定めが必要になります。 月々の支払額の元利の内訳と残元金の金額を明確にした一覧表(元利均など返済表)を作成して金銭消費貸借契約書に添付しておくことも考えられます。

 

(5)  遅延損害金

 遅延損害金とは、元本・利息などの支払が遅れた場合に借主が貸主に対して支払うべき損害賠償金です。

 

 貸主が返済期限を過ぎて請求すれば、それ以後は、返済が遅れたことによる借主が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率による遅延損害金を請求できます(民法第419条、404条)が、実務上、金銭消費貸借契約を締結する際には、遅延損害金についての約定利率を定めるのが一般的です。

 

 なお、利息と同様、遅延損害金についても、以下のとおり元本額に応じた上限利率が設けられており(利息制限法第4条)、営業的金銭消費貸借については、上限利率は、一律、年20%となっています(同法第7条)。

 

元本額

上限利率

営業的金銭消費貸借の場合

10万円未満

年20%

10万円以上100万円未満

100万円以上

上記以外の場合

10万円未満

年29.2%

10万円以上100万円未満

年26.28%

100万円以上

年21.9%

 

(6)  期限の利益の喪失

 期限の利益とは、期限が到来するまでの間、法律行為の効力の発生、消滅または債務の履行が猶予されることによって、当事者が受ける利益をいいます(民法第136条)。

 金銭消費貸借契約においては、期限までは返済しなくてもよいという点では借主の利益であり、他方、期限までの利息を得ることができるとの点では貸主の利益となります。

 貸主としては、借主が元本・利息の支払を怠るなど、金銭消費貸借契約上の債務不履行を起こした場合、借主が倒産する前に一刻も早く貸した金銭を回収しなければなりませんので、債務不履行などの発生を条件として、借主の期限の利益を失わせる旨の条項を定めておくのが一般的です。

 借主が期限の利益を喪失した場合、借主は、貸主に対して残債務を一括して返済しなければなりません。

 

(7)  相殺

 貸主が借主に対して債権を有する一方で、借主も貸主に対して債権を有する場合、双方の債務が弁済期にあれば、それぞれが相殺を主張して債務を消滅させることができます(民法第505条1項)。

 特に、銀行が貸主となる金銭消費貸借契約の場合には、銀行の借主に対する貸付債権と、借主の銀行に対する預金債権の相殺が問題になり得ます。

 実務上は、銀行側からの預金債権との相殺を認める一方で、借主側からの相殺は認めないとするケースが多いようです。

 

(8)  その他の一般条項

 上記のほか、以下のような一般条項を定めることがあります。

① 秘密保持
当事者間でやり取りされる情報を第三者への開示することなどを禁止します(公的機関への開示など、一部例外があります)。

② 反社会的勢力の排除
反社会的勢力に該当しないことや、暴力行為をしないことなどの表明保証・誓約を定めたうえで、相手方がこれに違反した場合には直ちに契約を解除し、また、損害賠償を請求できる旨などを定めます。

 

(9)  (連帯保証人がいる場合)連帯保証に関する事項

 金銭消費貸借契約では、保証人を求めることも少なくありません。

 保証人は、借主(主債務者)がその債務を履行しない場合には、借主に代わってその履行の責任を負います(民法第446条)。

 特約がなければ、借主の負担する元本はもちろん、その利息や損害賠償などの付随的債務についても支払う責任を負います(民法第447条第1項)。

 

 保証人には、通常の「保証人」、連帯して債務を保証する「連帯保証人」があります。

 通常の「保証人」は、借主(主債務者)がその債務を履行しない場合にのみ貸主に対して債務の履行責任を負います(民法第446条)ので、貸主が保証人に対して債務の履行を請求したときには、まず借主に対して催告をするよう請求できます(民法第452条:催告の抗弁権)。また、通常の「保証人」は、貸主が借主に対して催告を行った後であっても、借主に弁済の資力があるなどを証明したときは、まず借主の財産に強制執行するよう請求できます(民法第453条:検索の抗弁権)。

 一方、「連帯保証人」は、上記の催告の抗弁権、検索の抗弁権がありませんので、借主が債務を履行しない場合、貸主から債務の履行を請求されれば、弁済しなくてはなりません(民法第454条)。

 金銭消費貸借契約書において借主による返済に保証を付す場合は、連帯保証とするのが一般的です。

 

 昨今の改正民法により、個人を保証人とする根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約、をいいます。)については、極度額(保証人が支払責任を負う金額の上限となる金額、をいいます。)の定めが必須とされ(民法第465条の2第2項)、極度額の定めがない場合には、当該保証契約は無効となることになりました。

 そのため、金銭消費貸借契約書において、保証の対象を金銭消費貸借契約に基づく「借主の一切の債務」とする場合、極度額の定めが必要となります。

 

 また、金銭消費貸借契約に関する個人根保証契約の元本は、当該契約締結日から3年後に確定するのが原則ですが(民法第465条の3第2項)、元本確定期日は、契約の定めによって契約締結日から5年後までに先延ばしすることも可能です(同条1項)。

 そのため、貸主側としては、当該金銭消費貸借契約書における返済期間が3年を超えるのであれば、伸長した元本確定期日の条項をおくことも有意といえます。

 

(10) (抵当権の設定がある場合)抵当権の設定

 借主が元本・利息などの支払を怠った場合に、不動産を競売して弁済に充てられるように「抵当権」を設定するケースがあります。

 抵当権を設定する場合には、被担保債権の内容や登記手続などについて、金銭消費貸借契約書に明記しておきます。

 

(11) 収入印紙の貼付

 金銭消費貸借契約書は印紙税の課税文書に該当しますので、当該契約書に記載の金額に応じた印紙税の納付が必要です(電子契約の場合は不要です。)。

 収入印紙を貼らなかったからといって、当該金銭消費貸借契約が無効となるわけではありませんが、本来貼付すべき税額の3倍に相当する過怠税の対象となりますので、収入印紙の貼付を忘れないよう注意が必要です。

 

5. おわりに

 金銭消費貸借契約書がないと、相手方から、受領した金銭は貸付金ではなくて贈与金である、などと主張されてしまうリスクがありますし、このように、相手方が貸付金であることを否定すれば、金銭を交付した側がその他の証拠をもって貸付金であること主張・立証しなければならなくなります。

 無用な紛争の発生を防止するためには、金銭消費貸借契約についての法的性質などを理解し、金銭消費貸借契約書に必要十分な条項を盛り込んでおくことが重要となります。

★「一般的な金銭消費貸借契約書テンプレート」はこちら★

執筆者

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)