
執筆:弁護士 井川 湧理 (フィンテックチーム)
1 増資と減資
(1)増資とは
増資とは、企業が自己の資本金を増加させることをいいます。
方法としては、①投資家から出資を受ける対価として会社は株式を発行し、既存又は新しい投資家から出資を受ける、②剰余金・準備金を組み入れる、の2つの方法があります。なお、①の場合、株式の発行を行う必要があることから株式会社の資金調達方法であり、合同会社等株式会社以外の法人の場合にはご注意ください。
(2)減資とは
減資とは、増資とは反対に企業が自己の資本金を減少させることをいいます。
資本金を減少させるには、会社法に規定された手続を経なければなりません(会社法第447条・同法第449条)。
従来の商法では、減資には、有償減資と無償減資という区別がありましたが、現行の会社法ではこのような区別はありません。
この有償減資は、拠出資本を株主に返還する場合等に行うことがありましたが、現行の会社法の中で行う場合には、資本金を減少させ「その他資本剰余金」を増加させ、その後「剰余金の配当」を行うことで、株主に還元する額の「その他資本剰余金」を減少させるという手続きを経ることになります。
本記事では、減資は上記の定義、すなわち従来の商法でいう無償減資であることを前提とします。
2 メリット・デメリット
(1)増資
(ア)メリット
(a)企業の信用の向上
資本金の額が大きくなることで、資金力のある企業であり、信用が高まる可能性があります。これにより、金融機関からの融資を受けやすくなったり、新規の取引先を獲得しやすくなったりする場合もあります。
(b)許認可の取得要件を満たせること
特定建設業許可の場合は2000万円以上の資本金が必要等、一定の許認可には資本金の額が取得要件となっている場合があるため、資本金を増加させることで要件を満たすことができます。
(イ)デメリット
(a)株主の持株比率の希薄化
株式の発行を伴う増資を行った場合、新たに株式を発行することになるため、既存株主の持株比率が減少します。
特に経営株主からすると、持株比率は経営権に重要な影響をもたらすため、持株比率を把握しながら増資を行うよう注意が必要になります。
(b)株主の排除は困難であること
一度株式を交付してしまうと、当該株を取り戻すには非常に工数がかかります。
株主が株式の譲渡に応じない場合や株主と音信不通になってしまう場合等、様々ケースがあり得ます。スクイーズアウト等により、強制的に株を取り戻すことも不可能ではありませんが、費用面、工数面等企業にとって負担の軽いものではありませんので、株式発行による増資の際には細心の注意が必要です。
(c)税金が増加する場合があること
資本金が1億円以上等一定の額以上になると、企業が都道府県に払う外形標準課税の対象となる等、税金が増える可能性があります。
(2)減資
(ア)メリット
(a)節税
資本金を1億円以下にする等、一定の額を下回る資本金とすることで、企業が都道府県に払う外形標準課税の対象外となる等税制優遇を受けることができます。
(b)欠損金の補填
破綻には至らない欠損金がある場合、減資をすることで欠損金を補填することができます。
欠損金が多いと金融機関からの資金調達が困難になる可能性があるところ、欠損金を補填することで、このようなリスクを回避できる場合があります。
(イ)デメリット
(c)企業の信用の低下
増資とは反対に、資本金の額が低いことで、企業としての信用が低くなるおそれがあります。特に取引関係の新規の企業の場合には、資本金の額も判断要素の一つになり得ますのでご留意ください。
3 手続きの流れ
(1)増資
前述のように増資には、①新株発行と②剰余金・準備金の組み入れの大きく二つの方法がありますが、①新株発行には、いくつか種類がありますので、簡単にご説明します。
(ア)増資の種類
(a)第三者割当増資
特定の第三者に新規に株式を割り当てる方法です。株主割当増資と異なり、第三者には既存株主も新規投資家もなり得、全体の株式数が増加するため、持株比率に変動が生じます。
特定の相手に株式を割り当てられるため、自社にとって不都合な株主が増えることはありませんが、既存株主の持株比率が低下したり、新規投資家の場合投資契約書等の調整に時間を要する場合があったり、いくつかのデメリットもあります。
(b)公募増資
第三者割当増資や株主割当増資と異なり、株主を特定せずに広く募る方法です。
調達できる金額が大きくなる可能性もありますが、自社にとって不都合な株主等意図しない相手が株主となってしまうリスクがあります。
(c)株主割当増資
自社を除いた既存の株主に対し、それぞれの持株比率に応じた株式を割り当てる方法です。
既存投資家が難色を示さない限り、スピーディーに行えるケースが多い反面、調達金額が既存株主の資金に依存するというデメリットがあります。
(イ)第三者割当増資の流れ
ここでは一般的によく使われる非公開会社における第三者割当増資の手続きの流れを具体的に解説いたします。
①募集事項の決定
株主総会の特別決議によって、以下の事項を決定します(会社法第199条第2項、同法第309条第2項第5号)。
取締役会設置会社の場合には、株主総会の特別決議による委任がある場合には取締役会による決定が可能です(会社法第200条第1項)。
(a)募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数)
(b)募集株式の払込金額又はその算定方法
(c)金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
(d)募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
(e)増加する資本金及び資本準備金に関する事項
②募集事項の通知、募集株式の申込み、募集株式の割当ての決定及び通知
取締役会非設置会社では、割当の決定についても原則として株主総会の特別決議によります(会社法第204条第2項)。取締役会設置会社の場合の割当ての決定については原則として取締役会決議によります(会社法第204条第2項本文)。定款で定めがある場合にはその定めに従いますのでご留意ください。(会社法第204条第2項ただし書)。
募集株式の割当てを受ける者及びその数が決定した後、払込期日の前日までに通知します。
③出資金の払込み
募集株式の引受人は募集事項に従い、払込期日若しくは払込期間内に出資の全額を払い込み(会社法第208条)、着金日に引受人は募集株式の株主となります(会社法第209条)。
④登記申請
効力発生日から2週間以内に登記申請を行う必要があります。
(2)減資
減資は、株主総会の特別決議を経た後、債権者保護手続きを行う必要があります(会社法第447条第1項、同法第449条第1項)。
①内容の決定
原則として株主総会の特別決議により、以下の事項を決定しなければなりません(会社法第447条第1項・同法第309条第2項第9号)。
(a)減少する資本金の額
(b)減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
(c)資本金の額の減少がその効力を生ずる日
例外として、増資と減資を同時に行う場合、減資の効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らないときは、取締役の決定(取締役会の決議)でも問題ありません(会社法第447条第3項)。
また、定時株主総会において減少する資本金の額を欠損の範囲内とする決議をするときは、株主総会の普通決議でも問題ありません(会社法第309条第1項第9号)。
②債権者保護手続き
次の事項を官報に公告し、知れている債権者へは個別に催告をします(会社法第449条第2項)。なお、定款により公告方法を官報以外の方法としている会社は、官報以外に日刊新聞紙への掲載又は電子公告による公告も行うことで、個別の催告を省略することができます(同条第3項)。
(a)資本金の額の減少の内容
(b)株式会社の計算書類に関する事項として、会社計算規則152条で定めるもの
(c)債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
③効力発生・登記申請
減資の効力は株主総会等で定めた効力発生日に効力が生じますが、債権者保護手続きが終わっていない場合には、効力が生じませんのでご留意ください(会社法第449条第6項)。
なお、効力発生日から2週間以内に登記申請を行う必要があります。
4 留意点
増資において、株式を発行する場合には、投資家と投資契約書や株主間契約書といった株式の効力等を定める契約を締結することが一般的です。
この契約の内容は様々で、会社が一定の事項を行うには投資家の事前の承諾が必要となったり、投資家に取締役の選任権が付与されたりと会社にとって大きな不利益をもたらす可能性がある条項が多く含まれることがあります。
一度割り当てた株式を取り戻したり、株式の内容を変更したりすることは難しい場合が多いので、株式を発行する際に慎重に検討してください。
減資については、債権者保護手続きを完了させるにはおよそ1か月程度の時間を要しますので、お早めに手続きを進めることをお勧めします。
5 まとめ
このように、増資・減資それぞれにメリット・デメリットがありますので、実行の前に今一度ご検討されるとよいかと存じます。
特に新株発行による増資を行う際には、株式の内容や持株比率の希薄化等リスクがある点には十分ご留意ください。投資契約書のレビュー等投資家との交渉は専門家でなければ難しく、会社にとって非常に不利な内容の契約を締結してしまっているケースが非常に多く見受けられます。取返しのつかない契約をする前に専門家にご相談することをお勧めいたします。弊所では、投資契約書等のレビュー・交渉から株主総会手続きや増資・減資に伴う登記申請までご対応できますので、お気軽にお問い合わせください。