【弁護士解説】医療広告ガイドラインのポイント

執筆:弁護士 早崎 智久メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム

 病院やクリニックでも患者を集めるために広告をすることができます。しかし、他のお店とは違って、病院やクリニックの場合、特に厳しい広告ルールがあります。この内容をまとめたものが医療広告ガイドラインです。

1 こんな広告していませんか?

 病院やクリニックでも、多くの患者さんに来てもらおうと様々な広告がされています。インターネットだけでなく、電車やバスの広告、雑誌の企画広告など、私たちもよく目にします。

 特にスマートフォンの普及で、インターネット広告が広く行われるようになりました。最近は、SNSを活用した広告も増えています。

 こんな広告を見かけることもありますが、NGです。

・キャンペーン! 8月1日まで初診料はタダ
・最高峰の治療方法●●を提供します

 どこがNGなのか、分かりますか?

 もし、はっきりと「ここがNG。理由は・・・」と言えない方は、この記事を読んでいただき、医療広告ルールのポイントをしっかりと理解するのがおすすめです。

ここでは、病院・クリニックの広告ルールのポイントを、分かりやすく解説します。

2 病院・クリニックの広告ルールの概要

⑴ 広告ルールのきほん

 病院やクリニックの広告は「医療広告」といわれます。つまり、「お医者さん、歯医者さんの広告」のことです。一方で、「薬や化粧品の広告」のことは「薬機広告」といい、ルールも別です。まずはここをしっかり区別しましょう。

・病院やクリニックの広告 = 医療広告
・医薬品や化粧品などの広告 = 薬機広告

 また、ありとあらゆる広告は、「景品表示法」(正式には「不当景品類及び不当表示防止法」)という法律のルールを守る必要がありますが、医療広告や薬機広告には、さらに厳しく特別なルールがあります。

 つまり、

・普通の広告のルール   = 景品表示法
・医療広告        = 景品表示法+医療法
・薬機広告        = 景品表示法+薬機法

  

 こんな感じに、景品表示法にプラスアルファでルールが追加される、ということです。

  

 景品表示法のルールはとてもシンプルです。基本的なこと=商品やサービスの内容、価格などで嘘や大げさなをことを表示しない、ということを守っていれば、違反を防ぐことができるのがほとんどです。

 しかし、プラスアルファのほうは、より複雑なルールになっているので、知らないと違反になってしまいます。

・景品表示法     = シンプルで基本的なルール
・医療広告、薬機広告 = 複雑で専門的なルール…知らないと違反になる

 そこで、次に、医療広告のプラスアルファを説明します。

⑵ 医療広告ルールの全体イメージ

 「医療広告」は、医療法という、お医者さんのための法律が、プラスアルファの特別なルールを定めています。

 見たことがない方も多いと思いますので、一度、医療法の第6条の5を見てみましょう(あとで分かりやすく説明しますので、ぱっと見で大丈夫です)。

第6条の5
1 何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。

2 前項に規定する場合には、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を阻害することがないよう、広告の内容及び方法が、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。 一 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告をしないこと。 二 誇大な広告をしないこと。 三 公の秩序又は善良の風俗に反する内容の広告をしないこと。 四 その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準

3 第一項に規定する場合において、次に掲げる事項以外の広告がされても医療を受ける者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合として厚生労働省令で定める場合を除いては、次に掲げる事項以外の広告をしてはならない。
 一 医師又は歯科医師である旨
 二 診療科名
 三 当該病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに当該病院又は診療所の管理者の氏名
 四 診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無
 五 法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは診療所又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨
 六 第五条の二第一項の認定を受けた医師である場合には、その旨
 七 地域医療連携推進法人(第七十条の五第一項に規定する地域医療連携推進法人をいう。第三十条の四第十二項において同じ)の参加病院等(第七十条の二第二項第二号に規定する参加病院等をいう)である場合には、その旨
 八 入院設備の有無、第七条第二項に規定する病床の種別ごとの数、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の従業者の員数その他の当該病院又は診療所における施設、設備又は従業者に関する事項
 九 当該病院又は診療所において診療に従事する医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴その他の当該医療従事者に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの
 十 患者又はその家族からの医療に関する相談に応ずるための措置、医療の安全を確保するための措置、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置その他の当該病院又は診療所の管理又は運営に関する事項
 十一 紹介をすることができる他の病院若しくは診療所又はその他の保健医療サービス若しくは福祉サービスを提供する者の名称、これらの者と当該病院又は診療所との間における施設、設備又は器具の共同利用の状況その他の当該病院又は診療所と保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に関する事項
 十二 診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報の提供、第六条の四第三項に規定する書面の交付その他の当該病院又は診療所における医療に関する情報の提供に関する事項
 十三 当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る)
 十四 当該病院又は診療所における患者の平均的な入院日数、平均的な外来患者又は入院患者の数その他の医療の提供の結果に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの
 十五 その他前各号に掲げる事項に準ずるものとして厚生労働大臣が定める事項

4 厚生労働大臣は、第二項第四号若しくは前項の厚生労働省令の制定若しくは改廃の立案又は同項第九号若しくは第十三号から第十五号までに掲げる事項の案の作成をしようとするときは、医療に関する専門的科学的知見に基づいて立案又は作成をするため、診療に関する学識経験者の団体の意見を聴かなければならない。 

 法律なので、文字で書かれているのはもちろんですが、間違いのないように厳密に書いてあるので、とても読みにくいです。

 なので、これを分かりやすく、また厚生労働省令の内容も追加して整理すると、以下のようになります。

1 嘘の広告は禁止
2 以下の広告も禁止
 ① 他と比較して優秀だという広告
 ② 大げさな広告
 ③ 公序良俗に反する広告
 ④ その他の厚生労働省のルールに違反する広告
  ⅰ 治療に関する体験談
  ⅱ 治療の効果   
  ⅲ 不適切なビフォーアフター写真   
  ⅳ 費用を強調する広告
  ⅴ 景品で誘引する広告
  ⅵ 薬機法に違反する広告
3 医療広告では以下の内容だけ広告できる
 ① 医師/歯科医師であること
 ② 診療科名
 ③ 病院・クリニックの名称・電話番号・住所・管理者の氏名
 ④ 診療日・診療時間、予約の可否
 ⑤ 法令の指定を受けた病院・クリニック、医師・歯科医師であること
 ⑥ 医師少数区域経験認定医師であること
 ⑦ 地域医療連携推進法人の参加病院であること
 ⑧ 病院・クリニックの施設・設備・従業員に関すること
 ⑨ 医療従事者の氏名・年齢・性別・役職・略歴
 ⑩ 病院・クリニックの管理・運営に関すること
 ⑪ 紹介可能な他の医療機関に関すること
 ⑫ 医療の情報提供に関すること
 ⑬ 提供される治療方法(限定的)
 ⑭ 平均的な入院日数・手術件数・分娩件数・患者の数など
 ⑮ 厚生労働省令で認める以下のこと
  ⅰ 健康保険病院、船員保険病院、国民健康保険病院等であること
  ⅱ 法令の規定等による事業を実施する病院等であること
  ⅲ 医療従事者以外の従業員に関する事項
  ⅳ 健康診査の実施
  ⅴ 保険指導・健康相談の実施
  ⅵ 予防接種の実施
  ⅶ 治験に関する事項
  ⅷ 介護サービスに関する事項
  ⅸ 患者の受診の便宜のためのサービスに関する事項
  ⅹ 機能評価係数Ⅱの評価に関する病院情報
  ⅺ 病院等の開設者に関する事項
  ⅻ 外部監査に関する事項
  xⅲ 医療機能評価の結果
  xⅳ 産科医療補償約款に基づく補償
  xⅴ ISOの認証取得
  xⅵ Joint Commission International の認定取得
  xⅶ 看護師の特定行為
  xⅷ 都道府県知事の定める事項

 これでも、ずらっと列挙されていて読みにくい、と感じると思いますが、要するに、医療広告は、

・原則として、列挙された事項しか広告できない(上記表の3)
・嘘の広告、比較優良広告などやってはいけない広告方法がある(上記表の1、2)

ということです。

 ただ、これだけで正しく理解するのは大変なので、広告の参考のために分かりやすく解説したものが、「医療広告ガイドライン」です。

⑶ 「限定解除」

 医療広告では、重要なポイントがもうひとつあります。「限定解除」と呼ばれるものです。

 上で見たように、医療広告では広告できる事項が限られています(限定されている)。この「限定されている」ことを、条件を守ることで「解除」する=「広告できるようになる」ことを、「限定解除」といいます。

 「限定解除」というワードがわかりにくいのですが、

・条件を満たせば、広告できる事項が増える

と理解すれば十分です。

 以下では、医療広告ガイドラインのポイントを解説します。

医療広告ガイドライン 厚生労働省

医療広告ガイドラインに関するQ&A 同

医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第4版) 同

◎関連する情報
最近、動物病院(獣医師)の広告ルールが改正されましたが、医療広告のルールに沿ったものになりました。限定解除のルールも共通していますが、分かりにくいからなのか、獣医療広告ガイドラインでは「限定解除」という言葉は使われていません。
 ・「獣医療広告ガイドライン」 農林水産省
 ・「獣医療広告ガイドラインQ&A」 同

3 「広告」になるのはどんなとき?

 最初に、広告ルールを守らなければならない場合を確認しましょう。

 広告ルールは、作成して配布したり、公開するもの(表示するもの)が「広告」になるときに適用されます。

 では、どんな場合に「広告」になるのでしょうか?

⑴ 「広告」の2要件

 医療広告ガイドラインによると、表示するものが、次の2つのどちらにも当てはまると「広告」になります。

❶ 患者に受診などをしてもらおうと誘引する意図があること(誘引性)
❷ 医師・歯科医師などの氏名/病院・クリニックの名称が特定可能であること(特定性)

❶は、病院・クリニックに来てもらおうとして表示をする場合のことです。お客さんを増やそうとして表示をすれば、これには当てはまります。

❷は、医師・歯科医師の名前や病院・クリニックの名称が表示されていることです。

 そして、ここで、広告ルールに詳しい人なら、「なぜ2要件なのか?」と思います。ふつう、広告になるのは、上の2つに、

➌ 一般人が認知できる状態にあること(認知性)

 という3つ目の要件を加えた3要件になるのがごくごく一般的だからです。

 現在の医療広告ガイドラインでは、このことには触れられていませんが、従来、認知性がないとして規制の対象になっていなかったホームページにもルールを適用させようという意図があるように思われます。

 もっとも、つい最近改正された獣医療ガイドラインでは、認知性が無いものとして、動物病院のホームページが例として挙げられています。つまり、一般人のほうからインターネットで検索しないと表示されないので、ホームページだけでは広告にならない、とされているのです。

 しかし、医療広告ガイドラインでは、最近の改正でも2要件のままとされ、ホームページも除外されていませんので、特定性がないから広告にならない、と考えないほうがいいでしょう。

 ただ、これを見ただけではイメージが付きにくく、「広告」になるケースはたくさんあります。医療広告ガイドラインには、「広告」にならないケースが具体例として書かれています。

 「広告」にならない場合がわかれば、「それ以外は「広告」になる」とわかるので、以下では、この「広告にならないケース」をみながら、❶と❷の要件がどのように判断されるのかみてみましょう。

⑵ 「広告」にならないケース

 ① 学術論文、学術発表など

 論文や学会での発表は、執筆した獣医師の名前や動物病院の名称が記載されることもありますが、飼育者などを来院させるためではなく、研究成果を発表するために執筆されます。そのため、❶の誘因性がありません。

 ② 新聞や雑誌などの記事

 新聞や雑誌の記事は、獣医の名前や動物病院の名称は表示されています。そのため、❷の特定性はあります。

 しかし、新聞広告や雑誌広告とは異なり、記事は、新聞社や出版社が企画して、医師などにインタビューして執筆されます。そのため、患者を来院させるために執筆されるものではないので、❶の誘因性がありません。そのため、「広告」にはなりません。

 ただ、「記事」っぽい見た目でも、出版社に掲載費を支払って掲載を依頼する場合(いわゆる「記事広告」の場合)は、患者を来院させるために表示されたものになるので、この場合は❶の誘因性もあることになり、「広告」になります。

 ③ 患者などが自分で掲載する体験談(口コミ)

 クチコミサイトや、Googleマップの口コミ欄などに、飼育者が自分から投稿することがあります。この場合も、動物病院や獣医が関与していなければ、❶の誘因性がないので広告にはなりません。

 ただ、病院のほうから頼んで投稿してもらったり(いわゆる「サクラ」)すると、❶の誘因性があるので「広告」になります。「記事っぽいもの」と同じ構図です。

 ④ 病院内の掲示、施設内で配布するパンフレット

 病院で行っている治療法を記載したポスターを病院の壁に貼る、または記載したパンフレットを院内に置く場合は来院した飼育者しか見られないので「認知性」が無いと思われますが、医療広告ガイドラインでは、受診している患者しか見られないので、❶の誘因性がないとされています。そのため、このケースも「広告」にはなりません。

 しかし、同じポスターを路上の掲示板に貼れば「広告」になりますし、同じパンフレットを路上で配ればやはり「広告」になります。

 なお、希望した人にだけ配信する電子メールは、医療広告ガイドラインでは除外されていますので、「広告」になる可能性があります。

 ⑤ 職員募集の広告

 病院の職員募集する広告は、患者に向けられたものではないので、❶の誘因性がないとされています。そのため、このケースも「広告」にはなりません。

⑶ 病院のホームページや医師個人のSNS

 上でも触れましたが、獣医療ガイドラインでは、動物病院のホームページは、飼育者等が検索をしないと表示されないので「認知性」がなく、通常は「広告」にならないとされていますし、SNS(LINEのようなメッセージアプリ系)の場合は、友達登録をしないとメッセージが届かないので、ホームページと同じく「認知性」がないとされます。

 しかし、医療広告ガイドラインでは、「認知性」が広告に該当するかどうかの条件になっておらず、ホームページやSNSも例外として挙げられていませんので、「広告」になるという前提で対応することが必要です。

⑷ まとめ

 表示をするときには、ふつう、病院・クリニックや医師・歯科医師の名前も記載します。なので、❷の特定性が無いケースはあまり無いでしょう。

 また、動物病院や獣医師が、積極的に表示をするときは、ふつう、より多くの人に情報を伝えようと考えるはずですし、たくさんの人に病院に来てもらおうという気持ちがあるので、❶の誘因性が無いケースも少ないです。

 そのため、「広告」になるかならないかは、他の広告でも➌の認知性が問題になることがほとんどですが、医療広告ガイドラインでは、認知性は条件にならないので、表示をするときは、「広告に当たる可能性がある」と考えて、きちんと広告ルールを守った表示にしておくことが安全です。

 ケースごとに「広告」になるのかどうかの判断で迷うときは、ご相談ください。

4 病院の広告でできること

 やろうとしていることが「広告」になる場合は、医療広告ガイドラインのルールを守ることが必要です。

 まず、ポイントの1番目、病院・クリニックの広告では、広告できる内容が決められていることを理解しましょう。

 ここでは、特にポイントになるものを説明します。

⑴ 業務の技能・療法・経歴以外のことは自由に広告できる

 まず、病院・クリニックの業務や治療、医師・歯科医師の経歴とは関係のないこと、つまり、診察や治療、病気の予防とその治療法、また、医師・歯科医師の経歴に関すること以外は、自由に広告ができます。

⑵ 広告してよいとされる事項は広告できる

 次に、以下の事項は広告できます。

 列挙されていますが、要は、患者の主観的な判断で変わらない、あくまで客観的な情報です。

① 医師/歯科医師であること
② 診療科名
③ 病院・クリニックの名称・電話番号・住所・管理者の氏名
④ 診療日・診療時間、予約の可否
⑤ 法令の指定を受けた病院・クリニック、医師・歯科医師であること
⑥ 医師少数区域経験認定医師であること
⑦ 地域医療連携推進法人の参加病院であること
⑧ 病院・クリニックの施設・設備・従業員に関すること
⑨ 医療従事者の氏名・年齢・性別・役職・略歴
⑩ 病院・クリニックの管理・運営に関すること
⑪ 紹介可能な他の医療機関に関すること
⑫ 医療の情報提供に関すること
⑬ 提供される治療方法(限定的)
⑭ 平均的な入院日数・手術件数・分娩件数・患者の数など
⑮ 厚生労働省令で認める以下のこと
 ⅰ 健康保険病院、船員保険病院、国民健康保険病院等であること
 ⅱ 法令の規定等による事業を実施する病院等であること
 ⅲ 医療従事者以外の従業員に関する事項
 ⅳ 健康診査の実施
 ⅴ 保険指導・健康相談の実施
 ⅵ 予防接種の実施
 ⅶ 治験に関する事項
 ⅷ 介護サービスに関する事項
 ⅸ 患者の受診の便宜のためのサービスに関する事項
 ⅹ 機能評価係数Ⅱの評価に関する病院情報
 ⅺ 病院等の開設者に関する事項
 ⅻ 外部監査に関する事項
 xⅲ 医療機能評価の結果
 xⅳ 産科医療補償約款に基づく補償
 xⅴ ISOの認証取得
 xⅵ Joint Commission International の認定取得
 xⅶ 看護師の特定行為
 xⅷ 都道府県知事の定める事項

 ただし、細かなルールが多いので、上の事項を広告するときも、医療広告ガイドラインのルールをよく確認しましょう。

 繰り返しになりますが、上の事項には、具体的な診療内容や結果が含まれていないことに注意してください。

⑶ 自由診療の内容は一定事項を併記すれば広告できる

 自由診療の内容、医師・歯科医師の技能や治療法は、限定解除により広告できます。

 つまり、上の事項とは異なり、広告するためには一定の条件を守ることが必要になります。

 この「条件」というのは、広告媒体が限られていること、広告と一緒に一定の事項を正しく記載すること(「併記」すること)です。この記載をしないと、違法な広告になりますので、以下の事項を正確に記載するようにしましょう。

 まず、広告媒体から見てみましょう。

広告媒体

① ウェブサイト(ホームページなど)
② メールマガジン
③ 患者の求めに応じて交付するパンフレットなど

 ここでの注意点は、これらは病院、医師などが自ら発信する情報であって、第三者に依頼する広告ではないということです。そのため、バナー広告、リスティング広告は認められていませんし、インフルエンサーなどによるSNSも認められていません。

 次に、併記が必要な事項です。

併記が必要な事項

併記が必要な事項

① 問い合わせ先

診療施設の連絡先(診療時間外の連絡先も必要)

② 通常必要となる診療の内容

診療内容、診療期間・回数

③ 診療に係る主なリスク、副作用など

※長所だけでなく副作用やリスクを分かりやすく表示

④ 費用

診療内容にとって通常必要となる標準的な費用 ※金額が不明確なときは、最低金額~最高金額までの範囲

 

 この一緒に併記する事項で注意が必要なのは、③のリスク、副作用と④の費用です。

 ③のリスクは、あらゆるリスクを書かなければいけないわけではなく、主なリスクや副作用です。詳細な説明まで必要ありませんが、広告を見る人が理解できるように、記載しなければいけません。

 ④の費用も、標準的な費用なので、一般的な金額を記載すれば大丈夫ですが、範囲の場合は、最低額と最高額を記載します。

 この記載を正しくしないと、違法広告になってしまいます。

 正しく記載できているかどうか不安な方は、専門家に相談しましょう。

5 やってはいけない広告

 広告ルールのもう一つのポイントが、禁止されている広告をしないことです。

⑴ 虚偽の広告

 当たり前ですが、広告で嘘をついてはいけません。嘘の広告は「虚偽広告」とされ、絶対に禁止です。ただ、注意が必要なのは、嘘をつくつもりがなかったのに、虚偽広告になってしまうというケースです。

⑵ 比較広告はしないこと

 他の病院・クリニックや医師・歯科医師と比較して、自分のほうが優れているとする広告を、「比較優良広告」といいます。

 この比較優良広告は、それが事実だとしても禁止されています。禁止されるのは「優良広告」なので、「比較広告はいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、広告で比較するというのは、結局、自分のほうが優れている、とアピールするためにします。

 そのため、他の病院や医師などのことを挙げると、比較優良広告になるリスクが高いので、比較広告はしない、というのが安全です。

⑶ 診療の内容・効果に関する体験談は広告できない

 現在、マーケティングでは、SNSマーケティングが流行っています。いわゆる「口コミ」です。

 患者が、自分から口コミ投稿をすることは「広告」ではありませんので禁止されません。しかし、病院や医師らが、患者の体験談を引用することや、患者に依頼して投稿してもらう場合は、「広告」になります。

 そして、患者やその家族が、病院や医師などに受診して、治療の内容や効果について体験したこと、たとえば、「この病院で治療を受けて、身体が元気になりました」といった内容を広告することは禁止されています。

 結局、治療の内容や効果は、それぞれ患者の症状などで違うので、そのような広告は、誤解を招くためです。

 ただ、たとえば「とても清潔な待合室でした」のように、診療の内容や効果とは関係のない体験談は広告できます。

⑷ 費用を強調する広告はできない

 広告では当然に記載できる費用に関する広告も、強調することは禁止されます。

 強調というのは、

 「今なら●円でキャンペーン実施中」

 「期間限定でこの治療法を50%オフで提供します」

 「●療法に△療法をセットですると、割引になります」

 「初診は無料で実施します」

 といった、キャンペーンや値引きに関する表現です。

 つまり、病院・クリニックの広告では、このようなシンプルなキャンペーンなどの広告もできません。

 「強調」と聞くと、フォントが大きかったり、目立つ色を使用したりするようなイメージを持つかもしれませんが、お得な費用を伝えることが、「費用を強調している」ことになります。

 違反ケースがとても多いので、特に注意が必要です。

6 ありがちな違反ケース

 以上のルールですが、正しく理解していないとうっかり違反してしまうことが多いです。ありがちな違反ケースを見てみましょう。

⑴ 虚偽広告になってしまうケース 

✕「絶対に安全な手術なので安心です」
…どんなに危険性の低いものでも、「絶対に安全」なことは医学上ありえません。医療広告ガイドラインでも、「絶対に安全」というのは虚偽広告とされています。

⑵ 比較優良広告になってしまうケース

✕「この治療の分野では日本トップクラスの実績があります」
✕「多数のグループネットワークを持ち、全国で最高の医療を提供しています」
…これらは他の病院について触れていませんが、「日本トップクラス」「多数のグループネットワーク・・・全国で」というのは、他の病院よりも優れていることを意味するので、比較優良広告になってしまいます。

✕「芸能人●●さんも絶賛の治療法」
…こちらも他の病院に触れていませんが、著名人の利用を記載すると、その著名人が利用していない他の病院と比較していることになるので、比較優良広告になってしまいます。

⑶ 誇大広告になってしまうケース

✕「東京都知事から認可を受けて運営しているクリニックです」
…問題なさそうですが、医療広告ガイドラインでは、知事の許可を得ているという当然のことを強調するのは誇大広告に該当するとしています。
✕「最先端の医療を提供しています」
…治療法が最先端であるような記載は誇大広告になります。

⑷ 治療に関する体験談を広告するケース

✕「●●病を患っていたAさんもこの治療のおかげで元気になったと話しています」
…文章のように表現しても、「この治療のおかげで元気になった」という部分はAさんの主観に基づく治療効果の体験談になります。

⑸ 費用を強調するケース

✕「7月限定、初診無料キャンペーン実施中」
✕「通常は1万円の治療が初回に限り5000円で提供します」
…治療費が無料であったり、割引になることを強調する広告になっています。

7 違反してしまったらどうなる?

 医療広告のルールに違反すると、各都道府県が調査をし、一般な場合は、行政指導が行われます。具体的には、その広告の内容の修正や中止をするように求められ、再発防止のための方法の報告を求められます。

 ただし、調査に協力しないケースでは、報告をするように命令がなされ、立入調査がなされることもあります。また、指導に従わない場合には、中止命令・是正命令がなされることもあります。

 これらに従わないときは、都道府県から刑事告訴がなされ、訴追の結果、犯罪になるリスクもあり、悪質な違法広告のケースでは、病院やクリニックの開設許可の取消や一定期間の閉鎖命令が出されることもありえます。

 一度の違反で厳しい処分が下される可能性は高くありませんが、何度も繰り返すと相応のペナルティが課されることになります。

 違反広告をしないようにすることが第一ですが、うっかり違反してしまった場合には、指導や指示に従って対応することがもっとも大切です。問題になるような対応をしないためにも、もし、調査が始まった場合には、専門家に相談し、誠実な対応ができるようにすることも有効ですし、再発しないようにするためにも、専門家の協力を検討するのが適切です。

8 ポイントのチェックリスト

 最後に、医療広告ルールのポイントを見てみましょう。

 以下のチェックリストを使って、違法な広告になっていないかを確認しましょう。

1 作成するものが「広告」になるのかどうかをチェックする
※「広告」にならないときはルールの適用はなし
…はっきりしないときは「広告」になる、と考える

2 表現している内容が、広告できる事項かどうか、広告できないことを記載していないかどうかを確認する

3 自由診療の治療内容・効果を広告するときは、
 ・認められた「広告媒体」であること
 ・問い合わせ先がはっきり記載されていること
 ・治療のリスクなどのデメリットの記載があること
 ・標準の費用の記載があること
 ・標準の治療期間や日数の記載があること をちゃんと確認する

4 費用を強調していないことを確認する

5 他の医療機関よりも優れているような表現になっていないことを確認する

6 患者の治療に関する体験談が無いことを確認する

7 大げさな表現になっていないことを最後に確認する

9 迷ってしまったときは

 この記事では、医療広告ガイドラインの全体像やポイントなどをわかりやすく解説しました。

 ただ、実際の広告にルールを当てはめても分からないケースはたくさんあります。私は、数多くの医療機関の広告をチェックして、問題のないように修正するなどのアドバイスをしています。

 病院やクリニックの広告でお悩みの方や不安がある方は、初回相談は30分無料で受けておりますので、お気軽にお問い合わせください

執筆者

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)