
執筆:弁護士 岡野 琴美 (フィンテックチーム)
(※2023年9月27日に公開。2024年6月12日に記事内容をアップデートいたしました。)
2023年9月27日 公開
2024年6月12日更新
取締役会は、会社の業務執行に関して、重要な事項の意思決定を行う場です。
取締役会で何を決定するのかについては、会社法で厳格に定められています。取締役会決議が必要な事項について、決議を経ていなかった場合、当該行為が無効となってしまったり、取締役の責任が問われることとなったりするリスクがあります。このように、取締役会を開催するにあたっては、決議事項についてきちんと理解をして、決議漏れがないようにすることが大切です。
本記事では、取締役会の決議事項を中心に、取締役会の開催方法や注意点などをふまえて解説していきます。
1.取締役会とは
取締役会とは、すべての取締役で組織される機関のことをいい、その職務として、①会社の業務執行の決定、②取締役の職務の執行の監督、③代表取締役の選定及び解職を行います(会社法(以下「法」といいます。)362条1項、2項)。
原則として、取締役会を設置するか否かは会社が決めることができますが、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は、取締役会を設置することが義務付けられています(法326条2項、327条1項)。
2.取締役会の決議事項
(1)決議事項の概要
取締役会では、会社法によって株主総会決議が必要であると定められている事項を除き、会社に関する一切の事項を決議することができます(法295条2項、3項)。そして、その中でも、特に重要な事項については、取締役会で決議を経なければならないと定められています。
一般的に、「取締役会の決議事項」と言われるのは、この取締役会で決議しなければならないと会社法で定められている事項(法定決議事項)を指すことが多いため、本記事では、「取締役会の決議事項」とは、この法定決議事項を意味するものとします。
(2)「決議事項」と「報告事項」
決議事項とは、上記のとおり、取締役会の決議を経なければならないと定められている事項のことです。
一方で、報告事項とは、文字どおり、「報告」をすれば足りる事項をいいます。代表取締役と業務執行取締役は、3カ月に1回以上、自己の職務の執行状況について取締役会に報告をしなければなりません(法363条2項)。よって、取締役会は、最低でも3カ月に1回、すなわち年に4回は開催しなければいけないということになります。
(3)決議事項の内容
①会社法362条4項で定められている事項
会社法は、第362条4項で定める事項について、取締役会が取締役に委任することはできないとしています。よって、以下の事項は、必ず取締役会の決議を経なければなりません。
a. 重要な財産の処分及び譲受け(1号)
b. 多額の借財(2号)
c. 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任(3号)
d. 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(4号)
e. 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項(5号)
f. 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(6号)
j. 定款の定めに基づく取締役会決議による役員及び会計監査人の会社に対する責任(法423条1項)の責任の免除(7号)
②重要な財産の処分・譲受け(1号)
上記のとおり、重要な財産の処分・譲受けは、取締役会決議事項とされています。何をもって「重要な財産の処分」や「重要な財産の譲受け」といえるのかについて、会社法は明確な基準を示していませんが、判例は、「重要な財産の処分」の判断基準として、「重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。」としています(最判平成6・1・20民集48巻1号1頁)。
この判例では、会社の総資産の1.6%に相当する保有株式の譲渡について、その額の大きさや、当該譲渡が営業のために通常行われる取引ではないことなどを考慮し、「重要な財産の処分」にあたると判断されました。
なお、実務上では、「重要な財産」該当性判断の一基準として、総資産の1%という数字を参考にすることが多いと言われています。
③多額の借財(2号)
会社が多額の借財を行うこともまた、取締役会決議事項とされています。何をもって「多額の借財」と判断されるのかについては、上記「重要な財産の処分」や「重要な財産の譲受け」と同様に、会社法において明確な基準は定められておらず、ケースバイケースで判断されています。参考として、裁判例は、「多額の借財に該当するか否かについては、当該借財の額、その会社の総資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。」(東京地判平成9・3・17判時1605号141頁)としています。
④会社法362条4項以外で定められている事項
会社法では、法362条4項以外にも、取締役会決議事項について個別の定めをおいています。代表的なものとしては、以下のものがあります。
①要綱を定款で定めた種類株式の内容の決定(法108条3項)
②譲渡制限株主の譲渡承認(法139条1項)
③自己株式の取得価格等の決定(法157条2項)
⑤株式の分割(法183条2項)
⑦株主総会の招集の決定(法298条4項)
⑧代表取締役の選定及び解職(法362条2項3号、3項)
⑨取締役による競業取引及び利益相反取引の承認(法356条1項、365条1項)
⑩計算書類及び事業報告書並びにこれらの附属明細書の承認(法436条1項)
⑤取締役による競業取引・利益相反取引
上記に挙げたもののうち、実務上で特によく問題となるのは、⑨取締役による競業取引及び利益相反取引についてです。
「競業取引」とは、取締役が自己又は第三者のために行う取引のうち、会社の事業の部類に属する取引をいい(法356条1項1号)、「利益相反取引」とは、取締役が自己又は第三者のために会社と行う取引(「直接取引」と呼ばれます。)(同項2号)及び会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において会社と当該取締役との利益が相反する取引(「間接取引」と呼ばれます。)(同項3号)をいいます。
「利益相反取引」とは、要するに、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己又は第三者の利益を図るような取引のことであり、債務の会社の利益を保護するという趣旨から、取締役会決議が必要であるとされています。代表的な例だと、取締役と会社間で行われる売買契約や、株式会社の取締役に対する贈与などがこれに当たります。これらの取引を行う場合には、事前に取締役決議を忘れないように注意しましょう。
取締役会は一部を除いて会社に関する一切の事項を決議することができる
取締役会で決議しなければならないと定められている事項(取締役会決議事項)もある
最低でも3ヶ月に1回は開催する必要がある
取締役会決議事項は多岐にわたるが、利益相反取引は特によく問題となるので注意!
何を取締役会で決議したらよいのか分からない方や、何が利益相反取引などの決議事項に当たるのか分からずお困りの方は、些細なことでもお気軽にご相談ください。
3.取締役会の運営方法
(1)取締役会の招集手続き
取締役会は、原則として、各取締役が招集することができます(法366条1項本文)。ただし、定款や取締役会において、取締役会を招集する取締役を定めたときは、当該取締役が取締役会を招集する権限を持つことになります(同項ただし書き)。この場合、招集権限を持たない取締役は、招集権限をもつ取締役に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができます(同条3項)。また、この請求があった日から5日以内に、請求日から2週間以内の日を期日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合、この請求をした取締役は、取締役会を招集することができるとされています(法366条3項)。
なお、監査役や株主についても一定の場合には取締役会の招集を請求したり、取締役会を直接招集したりすることができます(法367条1項、383条2項)。
取締役会を招集するにあたっては、原則として、取締役会の期日の1週間前までに、各取締役と各監査役に招集通知を発する必要がありますが(法368条1項)、取締役及び監査役全員の同意があるときは、招集の手続きを経ることなく取締役会を開催することができます(同条2項)。また、定款の定めがある場合は、招集期間を定めることも可能です(同条1項括弧書き)。
(2)取締役会の決議要件
取締役会の決議は、原則として、議決に加わることができる取締役の過半数の出席(定足数の要件)と、出席した取締役の過半数の賛成(賛成数の要件)によって行われます(法369条1項)。また、定款に定めることによって、当該決議要件を加重することも可能です(同項括弧書き)。
(3)特別利害関係取締役の取扱い
特別利害関係取締役とは、取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役をいいます。特別利害関係取締役は、決議の公正を図る観点から、議決に加わることができず、定足数にも含まれませんので、注意が必要です(法369条2項、1項)。
具体的には、以下の取締役は、特別利害関係取締役にあたるとされています。
・譲渡制限株式の譲渡承認において、株式譲渡の当事者たる取締役
・競業取引・利益相反取引の承認を受ける取締役
・会社に対する責任の一部免除を受ける取締役
・代表取締役の解職決議における解職の対象たる代表取締役
また、特別利害関係取締役がいる場合、議事録の記載も注意する必要があります。会社法施行規則第101条3項5号は、取締役会議事録において、「決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときは、当該取締役の氏名」を記載しなければならないとしています。
よって、特別利害関係取締役については、なんらかの形で取締役会議事録に記載する必要があります。この点、決議方法の正当性に疑義を残さないためには、議事録に、特別利害関係取締役の氏名だけを記載するのではなく、「なお、取締役○○は本議案につき特別利害関係を有するため、議決に加わっていない。」という一文を記載しておくなどしておくと良いでしょう。また、通常、取締役会の議長となることが多い代表取締役が特別利害関係取締役に該当する場合は、当該議案に限っての議長の交代を記載することも多いです。
(4)取締役会決議の省略
会社法では、例外的に、取締役会の決議を省略する方法が定められており、取締役が決議事項として提案をした事項について、当該提案につき取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案事項を可決する旨の取締役会があったものとみなすことができます(法370条)。
これは、いわゆる「書面決議」や「みなし決議」と呼ばれるものですが、当該取締役会決議の省略を行う場合には、予め定款の定めがある必要があることには注意が必要です。また、監査役会設置会社においては、監査役が異議を述べたときは、決議の省略は認められません(同条括弧書き)。
(5)取締役会規則とは
会社が取締役会の運営や決議事項について定めた事項をまとめたものとして、取締役会規則があります。取締役会規則は、法律上作成が義務付けられているわけではありませんが、取締役会規則を作成しておくことによって、取締役会の運営や決議事項に関するルールが明確になりますので、取締役会を開催するにあたり、会社法や会社の定款を個々に参照する必要がなくなるといったメリットがあります。
例えば、定款によって招集期間を短縮した場合や、定款によって取締役会の決議要件を加重した場合に、招集期間や決議要件について、取締役会規則に記載をしておくことが考えられます。
そのほか、取締役会規則には、一般的に、取締役会の招集権者、議長、決議事項、報告事項、議事録等に関する事項などが記載されます。
スタートアップ企業では、IPO準備の過程で取締役会規則を整備し、運用することが必要となってきます。
取締役会は基本的に取締役会の1周間前までに招集通知を送る必要がある
原則として、過半数の出席と過半数の賛成によって決議される
特別利害関係取締役の取り扱いに注意する必要がある
あらかじめ取締役会規則を作成しておくことがおすすめ
弊所は取締役会の招集通知や議事録、取締役会規則など、取締役会に必要な書類全てに対応が可能です。書類作成にお困りの方は、お気軽にご相談ください。
4.取締役会決議を経ずに行われた行為の効力
取締役会決議を要する事項が取締役会決議を経ずに行われた事案において、判例は、当該取締役会決議を欠いた行為については、原則して有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときは無効であるとの見解を示しています(最判昭和40・9・22民集19巻6号1656頁)。このように、取締役会決議を経ずに行われた行為の効力は、無効になることもあるのです。
取締役会決議を経ていないことを理由として、決議事項に関する行為の効力が否定されてしまうと、後のトラブルに発展したり、会社の業務の円滑な遂行に支障をきたしたりすることになりかねません。何が決議事項となるのかについては、事前にきちんと確認をし、漏れがないようにしましょう。
5.取締役会議事録の作成及び保管
取締役会の議事については、議事録を作成することが義務付けられており(法369条3項)、その作成方法や保管方法についても、会社法で定められています。
取締役会議事録の作成や保管に不備があった場合、過料の制裁を受けたり(法976条4号・7号)、任務懈怠責任(法423条1項、429条1項)を追求されたりなどの民事上の責任を問われる可能性があるうえに、虚偽の事実が記載された取締役会議事録を用いて登記申請がなされ、不実の登記がなされた場合には、公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)に該当するおそれもございますので、取締役会議事録の取扱いには注意が必要です。
(1)取締役会議事録の作成方法
取締役会議事録は、「書面」又は「電磁的記録」で作成しなければならないと定められています(法371条1項、規則101条2項)。「電磁的記録」は、いわゆる「電子議事録」と呼ばれるものであり、実務上では、Wordで作成した文書を、PDFなどの内容改変ができないファイル形式に変換し、取締役等が電子署名を行うといった方法によって作成されています。
(2)保管方法及び閲覧・謄写請求
取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、会社の本店にて備え置かなければなりません(法371条1項)。
また、株主は、権利を行使するために必要があるときは、会社の営業時間内であれば、いつでも取締役会議事録の閲覧・謄写を請求することができます(同条2項)。もっとも、会社の機関設計が、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社のいずれかに該当する場合、株主が取締役会議事録の閲覧・謄写請求をするためには、裁判所の許可を得る必要があります(法371条3項)。
6.おわりに
以上のとおり、会社法は、取締役会について様々なルールを定めており、全てのルールを漏れなく網羅することは容易ではありません。特に、決議事項については注意が必要で、決議事項に漏れがあったためにトラブルが発生し、後々の業務に支障が生じていると相談にいらっしゃる方も少なくありません。
GVA法律事務所は、議事録や取締役会規則などの取締役会に必要な書面の作成をはじめ、取締役会の運営全般をサポートさせていただくとともに、取締役会決議事項について取締役会決議を経ていなかった場合など、取締役会決議に関して生じた様々なトラブルにも対応いたします。
取締役会決議についてお困りのことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
監修
弁護士 熊谷 直弥
(2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。 所内のWEB3チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務を対応。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。)