
1.はじめに
令和3年6月9日付けで公布された、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」により、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」といいます。)が改正されました。同改正では、「産後パパ育休」制度の創設や育児休業の分割取得等の改正も行われ、本記事執筆時点(令和5年3月時点)で既に大部分の改正内容は施行されています。
当該改正は、出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び労働者に対する個別の周知・意向確認 の措置の義務付け、育児休業給付に関する所要の規定の整備等の措置を講ずることを趣旨として行われたものですが、本改正では、上記施行済みの内容に加え、常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主に対する育児休業の取得状況の公表が義務付けられており、当該改正内容については、令和5年4月1日より施行となりますので、該当する中小企業等は注意が必要です。
本記事では、現行の制度及び対応すべき改正内容について解説していきます。
2.従来制度について
従来制度では、育児休業の取得状況については、「プラチナくるみん企業」のみ公表が必要とされていました。くるみん企業とは、「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(以下「くるみん認定」といいます。)を受けた証であるくるみんマークを表示する企業ですが、くるみん認定を既に受けており、更に、より高い水準の取り組みを行い一定の基準を満たすことで特例認定(プラチナくるみん認定)を受けた企業がプラチナくるみん企業です。
3.改正内容について
上記のとおり、現行制度では、プラチナくるみん認定企業を除き、事業者は、特段育児休業の取得状況について公表義務を負っていませんでしたが、今回の改正により、常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主も育児休業の取得状況として厚生労働省令で定めるものを年に1回公表しなければならないものとされています(育児・介護休業法22条の2)。したがって、一般の中小企業であっても、当該要件に該当する企業においては、育児休業の取得状況の公表義務を負うことになります。
育児・介護休業法
(育児休業の取得の状況の公表)
第二十二条の二 常時雇用する労働者の数が千人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、毎年少なくとも一回、その雇用する労働者の育児休業の取得の状況として厚生労働省令で定めるものを公表しなければならない。
(1)常時雇用する労働者
この「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形態を問わず、従事期間の定めなく雇用されている労働者を指すとされており、期間の定めなく雇用されている者や一定の期間を定めて雇用されている者又は日々雇用される者であってその雇用期間が反復更新されて事実上期間の定めなく雇用されている者と同等と認められる者(すなわち、過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者又は雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者)は当該労働者に該当するものとされています(厚生労働省「(事業主向け)説明資料『育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~』」参照(以下「事業主向け説明資料」といいます。))
(2)公表の方法
育児休業の取得の状況の公表は、インターネットの利用その他の適切な方法により行うこととされています(育児・介護休業法施行規則71条の3。厚生労働省Q&AQ9-1)。
「インターネットの利用」とは、自社のホームページや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」というウェブサイトの利用等を指します(事業主向け説明資料参照)。
(3)公表すべき内容
以下の①又は②のいずれかの割合(上段が分子、下段が分母を表します。)を公表する必要があります(育児・介護休業法施行規則71条の4。厚生労働省Q&AQ9-2参照)。
①
公表前事業年度(※1)においてその雇用する男性労働者が育児休業等(※2)を
したものの数
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
公表前事業年度(※1)において、事業主が雇用する男性労働者であって、
配偶者が出産したものの数
②
公表前事業年度(※1)においてその雇用する男性労働者が育児休業等(※2)を
したものの数及び小学校就学の始期に達するまでの子を養育する男性労働者を
雇用する事業主が講ずる育児を目的とした休暇制度(※3)(育児休業等及び子の
看護休暇を除く。)を利用したものの数の合計数
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
公表前事業年度(※1)において、事業主が雇用する男性労働者であって配偶者が
出産したものの数
なお、実務上のポイントとして、公表に当たっては、公表する割合と併せて、以下の事項も明示すべきものとされております。
当該割合の算定期間である公表前事業年度の期間
上記①(育児休業等の取得割合)又は②(育児休業等と育児目的休暇の取得割合)いずれの方法により算出したものか
また、育児休業を分割して2回取得した場合や、育児休業と育児を目的とした休暇制度の両方を取得した場合等であっても、当該休業や休暇が同一の子について取得したものである場合は、1人として数えます。
加えて、事業年度をまたがって育児休業を取得した場合には育児休業を開始した日を含む事業年度の取得、分割して複数の事業年度において育児休業等を取得した場合には最初の育児休業等の取得のみを計算の対象とします。
なお、公表する割合は、算出された割合について小数第1位以下を切り捨てたものとし、配偶者が出産したものの数(分母となるもの)が0人の場合は、割合が算出できないため「-」と表記するものとされております(以上、事業者向け説明資料参照)。
4.まとめ
以上のとおり、今回の育児・介護休業法の改正により、男性の育児休業の取得状況の公表義務について、これまで対象では無かった中小企業等も対象となります。当該改正内容は令和5年4月1日より施行となりますので、上記要件に該当する企業様は厚生労働省の各種資料等もご参照の上ご対応ください。
(※1)
公表前事業年度:公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度。
(※2)
育児休業等:育児・介護休業法2条1号に規定する育児休業及び同法 23 条2項又は 24 条1項の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置が講じられた場合の当該措置によりする休業。
(※3)
育児を目的とした休暇: 目的の中に育児を目的とするものであることが明らかにされている休暇制度。育児休業等及び子の看護休暇は除く(例えば、失効年休の育児目的での使用、いわゆる「配偶者出産休暇」制度、「育児参加奨励休暇」制度、子の入園式、卒園式等の行事や予防接種等の通院のための勤務時間中の外出を認める制度(法に基づく子の看護休暇を上回る範囲に限る)など)。