
執筆:弁護士 原田雅史(フィンテックチーム)
(※2023年2月22日に公開。2024年6月27日に記事内容をアップデートいたしました。)
1.はじめに
2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」といいます。)において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレートガバナンスに関する開示」などに関して、制度整備を行うべきとの提言がなされました。
この提言を受けて、2022年11月7日、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正案が公表され、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」といいます。)の記載事項について、改正がされました。当該改正については、2023年3月31日以後に終了する事業年度にかかる有価証券報告書等から適用されています。本記事においては、改正の概要について紹介します。
2.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1 サステナビリティ全般に関する企業の取り組みの開示
有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」に関する事項を記載することとなりました。なお、「ガバナンス」「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとします。
また、サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できることとされています。さらに、4つの構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられるところです。ただし、記載にあたっては投資家が理解しやすいよう、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることも有用だとされています(※1)。
開示事項 | 内容 | 重要性に応じた記載 |
---|---|---|
ガバナンス | サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続 | 重要性に応じた記載の限定なし |
リスク管理 | サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程 | 重要性に応じた記載の限定なし |
戦略 | 短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性がある サステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組 | 重要なものについて記載 |
指標及び目標 | サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報 | 重要なもの人ついて記載 |
具体的な記載方法として、金融庁から「記述情報の開示の好事例集」が公表されています。ここでは環境(気候変動関連等)に関するテーマのものについて、4つの要素について推奨される開示内容が提示されており、また、多くの具体例が記載されており、記載内容を検討するにあたり有用なものと考えられます(2022年の事例集はコチラ 、2023年の事例集はコチラ )。
2 人的資本、多様性に関する開示
人的資本(人材の多様性を含みます。)については、必須記載事項として、サステナビリティ情報の記載欄の「戦略」「指標及び目標」において記載が求められることとなりました。また、女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を有価証券報告書等においても記載を求めることとされました。
人的資本、多様性に関する開示についても、「記載情報の開示の好事例集」が公表されています(2022年の事例集はコチラ 、2023年事例集はコチラ )。
3 サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み
サステナビリティ情報の開示における考え方等については以下の通りまとめられています。
「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1・Scope2のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること
「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること
なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことが予定されているとのことですが、2024年2月時点において改訂はされていません。
3.将来情報
サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、将来情報に関する経営者の認識及びその前提となる事実や仮定等について合理的な記載がされる場合や、将来情報について社内で適切な検討を経た上で、その旨が、検討された事実や仮定等とともに記載されている場合(※2)には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことが明確にされました。
また、サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、その詳細な情報について、任意開示書類を参照することができることを明確化し、また、任意開示書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該任意開示書類の参照自体が有価証券報告書等の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことが明確化されました。「任意開示書類」については、企業が公表する統合報告書、サステナビリティ情報のデータブックに加え、CDP(Carbon Disclosure Project)への回答などの国際的な枠組みによる任意開示が含められます(※3)。さらに、「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類(東証の上場規則に基づき提出が求められるコーポレートガバナンスに関する報告書など。)も含まれ得るとされています(※4)。なお、有価証券報告書で参照されるのは、過去の統合報告書となることが多いところ、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照することも考えられるとされています(※5)。もっとも、将来公表予定 の書類を参照する際は、投資者に理解しやすいよう公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれるとも指摘がされているところです(※6)。
4.コーポレートガバナンスに関する開示
取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)及び政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要について、記載を求めることとしています。
5.その他
EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正を行います。
6.まとめ
改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の規定は、既に適用されており、非上場会社について適用を否定しておらず、有価証券報告書提出企業であれば本改正の適用を受けるものと考えられます。具体的な開示内容でお困りの方は、初回は無料相談となっていますので気軽にご連絡いただければと思います。
(※1)「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」 に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブコメ」)No.83
(※2)社内で合理的な 根拠に基づく適切な検討を経ている場合には、 その旨と、検討内容(例えば、当該将来情報の記載に当たって前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要を記載することが考えられます(パブコメNo.201)。
(※3)パブコメNo.232、No.233
(※4)パブコメNo.234
(※5)パブコメNo.242以下
(※6)同上
(※7) パブコメNo.73以下
2023年2月22日 公開
2024年6月27日 更新