【弁護士解説】連載:システム開発紛争の基本問題(1) 請負契約と準委任契約の区別の判断要素について(前編)

執筆:弁護士 森田 芳玄AI・データ(個人情報等)チーム

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1.はじめに

 システム開発業務を委託/受託するに際してトラブルに巻き込まれてしまうことは意外にあるものです。そのようなときに後悔しないように、本連載では事前に対応しておくべき事項や、実際にトラブルになってしまった際の対処法などをできる限り易しく解説していくことを目的としています。

 第1回目の今回は、請負契約と準委任契約の区別の判断の前提として、両契約の違いについて解説します。

2.請負契約と準委任契約の違い

 システム開発業務を委託/受託する場合、「業務委託契約書」というタイトルの契約書を締結することが多いかと思います。しかしながら、私人間の契約関係に適用される民法には「業務委託契約」という名称の契約については記述されていません。そこで、「業務委託契約」が民法で規定されている「請負」契約なのか「準委任」契約なのかが問題となります。なぜなら請負契約とされるか準委任契約とされるかによって、法律上の取扱いが異なってくるためです。そこでまずは、前提として請負契約と準委任契約では、法律上何が異なるのかをみてゆきたいと思います。

(1) 請負契約

請負契約とは、当事者の一方(すなわち受託者側)がある仕事を完成することを約し、相手方(すなわち委託者側)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約(民法第632条)です。これは建築の請負契約をイメージするとわかりやすいのではないかと思います。施主は建物の建築を建築業者に依頼し、建築業者はその建物の建築を完成させることを約束し、完成したら報酬が支払われる、というのはまさに請負契約の典型例です。
 なお、システム開発では、受託者のことを「ベンダー」と呼び、委託者のことを「ユーザー」と呼ぶこともしばしばあります。

(2) 準委任契約

 準委任契約とは、当事者の一方(すなわち委任者側)が事務をすることを相手方(すなわち受任者側)に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずるとされる契約(民法第656条)です。これはなぜ「準」委任契約なのかといいますと、通常の委任契約というのは、「法律行為」(契約の締結など)を委任する場合に適用されるものだからです。システム開発業務において委託される業務内容は、法律行為ではなく事務処理行為なので、委任契約そのものではなく「準」委任契約ということになります。ただし、準委任契約も委任契約の条項が準用されることとされています。

(3) 両者の違い

 それでは、請負契約と準委任契約では何が異なるのでしょうか。両者の違いとして概ね以下のようなものが挙げられます。

①仕事の完成の有無
 まず、一番大きな違いは、請負契約の場合には仕事の完成が求められるのに対して、準委任契約についてはあくまで事務処理を行うことを委託されているので、委託された作業を行えばよく、何らかの仕事の完成までが求められているわけではありません。

②報酬の請求時期
 上記と関連し、報酬の請求については、請負契約の場合、原則として仕事の完成をしない限り報酬を得ることはできないこととされています(契約内容によっては、仕事の完成前に着手金や中間金が支払われることになっている契約もありますが、そのような契約ももちろん有効です。)。
 一方で、準委任契約の場合には、依頼されている事務処理を実行すれば、その分の報酬を請求することができます。また、それだけではなく、業務が途中で終了した場合であっても、その作業した割合に応じて報酬を請求することができるのが大きな違いです(民法第648条第3項)。
 なお、一般的には、請負契約の場合には、請け負うことになる案件につき一括して○○○万円という形で報酬が決められることが多く、準委任契約の場合には、作業を行う時間単位や1か月単位などの作業期間単位で報酬が決められることが多いのではないかと思います。これは上記のような性質の違いに起因するものと考えられます。

 

③解除の可否
 請負契約では、委託者側は、仕事が完成しない間はいつでも損害を賠償して契約の解除をすることができるという規定があります(民法第641項)が、受託者側が解除できるとする規定はありません。
 一方で、準委任契約の場合には、両当事者はいつでも契約を解除することができるのが原則とされつつ、相手方に不利な時期などに解除する場合には、相手方の損害を賠償しなければならないとされています(民法第656条によって準用される民法第651条)。
 なお、請負契約の場合には、解除の効果として遡及効があり、原状回復義務が生じるのが原則となりますが、準委任契約の場合には、その解除は将来に向かってのみ効力が生じるとされているため(民法第656条によって準用される民法第652条によって準用される民法第620条)、原状回復義務は生じません。

 

④再委託の可否
 委託された業務を再委託できるか否かについては、準委任契約の場合には、委託者側の許諾を得たときや、やむを得ない事由があるときでなければ、再委託できない旨が規定されています(民法第656条によって準用される民法第644条の2第1項)。これは、委任が原則として当事者間の信頼関係に基づくものであることから、再委託できないことを原則としたものです。
 一方で、請負契約については、そのような規定がありませんので、原則として再委託は自由に行ってもよいこととなります。ただし、業務委託契約書では、請負契約の場合においても、委託者の事前承諾がなければ再委託できないこととされている例が多くありますが、このような規定も有効となります。

 

⑤瑕疵担保責任について
 2020年4月1日から改正民法が施行され、これにより業務委託契約についても影響がありました。その一つが、請負契約について瑕疵担保責任の規定がなくなり契約不適合責任として整理されたことです。
 改正前の民法における瑕疵担保責任とは、一般的には成果物に瑕疵(通常有するべき品質や性能が欠けている状態)がある場合に、受託者側が無償で修補したり、代金減額や損害賠償をしたりしなければならない責任のことを指し、無過失責任(つまり、受託者に落ち度がなくても負わなければならない責任)とされていました。また、瑕疵の程度によって委託者による解除も可能とされていました。
 この度の民法改正により、その瑕疵担保責任が契約不適合責任に整理され、基本的には、契約の内容に適合していない場合に受託者が追完、代金減額、損害賠償などの責任を負うものとされ、このためには受託者の帰責事由が必要とされることになりました(委託者による解除権も債務不履行の場合に認められる解除権と同様のものとして認められることになりました。)。
 したがって、現在においても瑕疵担保責任のような責任がまったくなくなったわけではなく契約不適合責任として残ってはいるものの、従来は請負契約では瑕疵担保責任があり準委任契約では瑕疵担保責任がない、という明確な違いを挙げることができましたが、現在では瑕疵担保責任という用語が使われなくなったという点に留意が必要です。

(4) まとめ

 以上に請負契約と準委任契約をまとめましたが、完成義務を負うこと、それにより完成後でなければ原則として報酬請求権が発生しないとされていることから、受託者(ベンダー)側の立場からすると、概して準委任契約の方が好まれる傾向にあります。

 しかしながら、実際の業務委託契約書を見ると、請負契約とも準委任契約とも判然としない契約書があったり、そもそもきちんとした契約書が締結されていない場合すらあります。そのような場合に、委託者と受託者の契約関係が請負契約と準委任契約のどちらであると判断されるのかが問題となります。次回の記事ではその判断要素について解説したいと思います。

監修
弁護士 小名木 俊太郎
(企業法務においては 幅広いサービスを提供中。ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。)

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