
執筆:弁護士 阿久津 透( AI・データ(個人情報等)チーム )
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1.電気通信事業法の改正とユーザー情報の外部送信規制
2022年6月の国会で改正電気通信事業法が成立し、2023年6月16日から施行されることになっています。
今回の改正では、ユーザー本人の意図しない情報送信によるプライバシーの問題や、ターゲティング広告やプロファイリングを使った利用者への影響について後から検証できる環境を整え、透明性を確保し、利用者情報の利用の状況についての公表や保存についての仕組みについて考えていく必要性といった観点から、情報の送信に関する規制が加わっています。
改正法が成立した際には「“ターゲティング広告”規制など 改正電気通信事業法が成立」といった報道もされていました。
(参照: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220613/k10013669431000.html )
電気通信事業法というと大手の通信会社等を中心に適用される法律であり、自社が適用対象であると認識できていない企業の方も相当数存在するかと思われます。
しかし今回の改正事項のうち、ユーザー情報の外部送信規制に関する規制は、ターゲティング広告やアクセス解析等への影響があり、かなり広い範囲の事業者が適用範囲に含まれ得ますので、2023年6月16日の施行までの間に対応事項を整理しておく必要があります。
この記事を含めて、全5回にわたり改正電気通信事業法の解説を行っていきます。
2.規制対象となりうる事例
ウェブサイトやアプリでサービスを提供している事業者の方のほとんどは、そのウェブサイトやアプリの中に情報収集モジュールやタグ等を設置し、ユーザーの端末情報を自社以外の第三者に送信しているかと思います。
広告配信やアクセス解析のための情報収集モジュールやタグの設置等が典型例です。

(出典:プラットフォームサービスに関する研究会「第二次とりまとめ」)
事業者の方にとっては当たり前のことかもしれませんが、サービスを利用しているユーザーの約70%が、自分が利用しているサービスの提供主体以外に情報送信がされていることを認識できていません。

(出典:株式会社野村総合研究所コンサルティング事業本部「ライバシーポリシー等のベストプラクティス及び通知同意取得方法に関するユーザー調査結果」 )
簡単に言ってしまうと、このような状況はよろしくないだろうというのが今回の規制対応を検討するうえでの出発点となります。
3.規制の概要
このユーザー情報の外部送信規制は、新設された電気通信事業法第27条の12という条文で規定されています。
電気通信事業者又は第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)は、その利用者に対し電気通信役務を提供する際に、当該利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信(利用者の電気通信設備が有する情報送信機能(利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を当該利用者以外の者の電気通信設備に送信する機能をいう。以下この条において同じ。)を起動する指令を与える電気通信の送信をいう。以下この条において同じ。)を行おうとするときは、総務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容、当該情報の送信先となる電気通信設備その他の総務省令で定める事項を当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。
ただし、当該情報が次に掲げるものである場合は、この限りでない。
・・・
ご覧いただいた条文からわかるとおり、非常に複雑な内容になっており、一目見ただけでは誰がどのような場面で何をしなければいけないのかを読み解くことはできません。
この規制は以下の要素に分けると理解しやすいです。
①誰が⇒一定の電気通信役務を提供する、電気通信事業者又は第三号事業を営む者
②何をするときに⇒利用者に関する情報の外部送信をするとき
③何をしなければいけないのか⇒通知、同意取得、オプトアウトのいずれか
これらの要素については1つずつわけて解説していくので、それぞれご確認下さい。
4.最新情報の入手先
最新の情報は、総務省の「プラットフォームサービスに係る利用者情報の取り扱いに関するワーキンググループ」の配布資料や議事概要から確認できます。
このワーキンググループ内で外部送信規律に係る電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説案についての検討がされています。
この外部送信規制に対応するためには、このガイドラインの解説の理解が必須となるので議論の経過を見つつ、法改正対応の準備を進める必要があります。
監修
弁護士 森田 芳玄
(都内の法律事務所にて主に企業法務に携わったのち、2016年GVA法律事務所入所。現在は、企業間紛争、労務、ファイナンス、IPO支援、情報セキュリティ法務を中心としたさまざまな企業法務案件に携わる。情報処理安全確保支援士。ITストラテジスト。システム監査技術者。)