【弁護士解説】事業者によるSNS・ソーシャルメディアリスクマネジメントの必要性と具体的対策(3)

執筆:弁護士 山本 大介メタバース / エンターテインメント チーム

 今回は、第2回に引き続き、具体的な検討を行っていくとともに、ソーシャルメディア関連規程の整備の重要性をご説明します。

目次

第1回 概要
第1 インターネットとSNSの地位
第2 事業者によるSNS利用のメリットと潜むリスク

第2回 各論ⅰ
第3 個別具体的な対策
⑴ 公式アカウントの投稿による炎上
⑵ 従業員などの内部者の投稿による炎上
⑶ 著作権や広告規制等の法令に違反する宣伝広告による炎上

第3回 各論ⅱ
⑷ 第三者による不適切な投稿による炎上
⑸ 内部者又は第三者による告発投稿による炎上
⑹ 従業員個人の安全を脅かすリスク
第4 おわりに-ソーシャルメディアポリシー・ガイドライン・利用規約の制定の重要性-

⑷ 第三者による不適切な投稿による炎上

 近時、爆発的に増加しているこのケースは、これまでとは異なって事業者側に非がないか、非がごくわずかであるにもかかわらず、運用の変更や店舗の閉鎖を余儀なくされることもあり得ます。ただし、例えば、「従業員が不適切なことをしていたのを見た」といった投稿のケースでは、本当に非がないかは投稿直後では分からないことが多いので、事実無根の言いがかりであると判断して直ちに事実関係を否定することは非常にリスキーです。他方で、投稿を鵜呑みにしてしまうことも適切ではありません。そこで、まずは、事実関係の調査を行う旨の表明にとどめておくことが賢明でしょう。調査の結果、事実であることが判明した場合には、⑸を参照してください。

 他方で、投稿内容が虚偽であることが判明した場合には、その旨を公表して、速やかにお客様や取引先の誤解を解く必要があります。きちんと誤解が解ければ、自ずと炎上は収まっていきます。さらに、明らかに事業者側に非がないケースでは、再発や模倣犯を防ぐためにも法的措置も検討する旨を表明してもよいでしょう。

 また、近時社会問題となっている飲食店などの店舗内でのいたずら、嫌がらせのようにすぐに不適切な投稿であるとわかるケースでは、他のお客様に対し不安を与えてしまったことを謝罪するとともに、対応方針の公表、投稿者への厳正な対処の宣言を行うことが有効です。さらに具体的に、警察への被害届の提出や刑事告訴(器物損壊罪(刑法261条)や威力業務妨害罪(刑法234条、233条))、損害賠償請求など法的措置も検討する旨を表明し、速やかに実行に移してもよいでしょう。このとき、煽動的な文言としないことに注意してください。過度なリンチを誘発するおそれがあるだけでなく、現に投稿とは全く無関係の者が投稿者であると誤解されてしまい、別の大きな被害を招いてしまった事例も存在しています。また、不適切な投稿を行った方であっても、プライバシー権の保護を受けますから、投稿者のプライバシーを侵害しないよう配慮してください。

 被害者であったはずの事業者が加害者ともなってしまうことは当然避けなければなりません。

 なお、これらの表明に関し、公式サイト上に掲載することも考えられますが、お客様に当該不適切投稿を思い起こさせてしまうという副作用もありますので、掲載期間を短めにするか、目立たないところに掲載するといった工夫が求められます。

 そして、そういった対応を行うことで、本人や関係者から謝罪の申し出がなされることもあり得ます。この場合、投稿者の年齢や属性、不適切さの程度と社会の反響、事業者に生じた損害及び逸失利益(不適切投稿がなければ得られたはずの利益)の額並びに信用へのダメージの度合いといった種々の事情を総合的に考慮し、受け入れるかどうかを検討することとなります。

 このとき示談金などの金銭の支払いも併せて提案されるかもしれません。確かに、最大の被害者は、不適切行為を受けた事業者ですが、その事業者を利用しているお客様も、嫌悪感や不快感といった精神的な打撃を受けていることが多いです。そのため、示談金による解決は、万一それが明るみになった場合には、いわば「お金で丸め込まれた」という印象をお客様に与え、炎上の矛先が事業者に向いてしまうリスクがあることに留意してください。

⑸ 内部者又は第三者による告発投稿による炎上

 事業者の法令違反行為や不適切な対応の事実が、有力な証拠とともに投稿された場合がこのケースの典型例です。この場合、事実関係の調査を行う旨の表明から更に進んだ対応が求められます。事実であることが強く疑われる場合には、事実である可能性があるという認識を示したうえで、先んじてお騒がせをしてしまったことについて謝罪を述べておくことも有効です(調査の結果、万一精巧に捏造されたものと判明した場合であっても、「事業者が事実と捉えて謝罪するのもやむを得ないだろう」といった事業者に同情を寄せる意見の方が力をもつと考えられます。)。

 調査の結果、事実であることが判明した場合には、関係者への処分も視野に入れている旨の表明を行うことも時には有効でしょう。

 ただし、前述のとおり、精巧であっても捏造された証拠である可能性もあるので、処分や法的措置を行う際には十分注意してください。

 なお、告発内容が事実であった場合には、炎上の勢いが増すおそれがありますが、性質上やむを得ませんので、告発内容について改めて深く謝罪を行うとともに、具体的な再発防止策の公表や関係者の処分の状況を表明しましょう。⑷のケースとは異なり、一定期間公式サイト上に謝罪文を掲示しておくことも推奨されます。

⑹ 従業員個人の安全を脅かすリスク

 公式アカウントの運営では、従業員個人にフォーカスしたり、従業員個人が自身の生活の一場面を取り上げて投稿することがあります。これ自体は、社内での雰囲気を伝えられたり、身近に感じてもらうことができる点で有効な手段ですが、その従業員個人が危険にさらされるリスクがあることを忘れてはいけません。

 例えば、従業員の個人情報が公になってしまったり、ストーカー被害の引き金になる可能性などが考えられます。

 投稿を行う前には、顔や氏名など、どういった情報をどこまで取り上げるのか、慎重に判断する必要があります。そのうえで、個人が特定されない方針で投稿を行う場合には、個人の特定につながるような内容を含んでいないかを細部まで気に掛けるようにしましょう。名札や名刺はもちろんのこと、パソコンの画面(アカウント名が表示されているなどのおそれがあります。)などにも十分な注意が必要です。

 他方、個人が特定される可能性がある方針で投稿を行う場合には、当該従業員に対してきちんとリスクを説明したうえで、明確な同意を取得しておきましょう。同意を取得する際には、肖像権に関する同意書や氏名利用に関する同意書など、書面として残しておくことが望ましいです。

 また、従業員がプライベートで実名アカウントも運用している場合には、紐づけられないように注意しましょう。良い写真が撮れたからといって、公式アカウントと実名アカウントで同じ写真を投稿してしまうことは危険です。

第4 おわりに-ソーシャルメディアポリシー・ガイドライン・利用規約の制定の重要性-

 SNSは、メディアとしての地位を確立するとともに、多くの世代において必要不可欠な存在となっています。SNSは、単なる情報の取得と発信のためのツールという無機質なものではなく、日常の生活では接点のない人々との交流を可能にしたり、様々な意見を交わすことで共感を得られたりするような、人間味の溢れるものです。そして、炎上も、人間がもつ感情や感性が色濃く反映された結果のひとつであると考えられます。

 ただし、一口に炎上といっても、多数の受け手が炎上することも仕方ないと感じるものから、なぜ炎上しているのかよくわからない、というものまで様々あります。これは、反感が大きいほど、言い換えれば、共感が得られないものほど前者に傾いていくと考えられます。しかしながら、前者よりも後者の方が、炎上が激しいということも往々にしてあるのが現実であり、炎上の発端や行く末を的確に予想することは容易ではありません。

 そこで、不適切な投稿を根絶して、炎上を可能な限り未然に防ぐべく、上記のようなSNSの特徴とリスクをきちんと把握するとともに、あわせて、実際に発生した炎上ケースを用いてケーススタディを行い、事業者が役員や従業員と一丸となって意識の向上と啓発を行っていくことが大切です。

 そして、そのために重要となるのが、ソーシャルメディアポリシーやソーシャルメディアガイドラインなどのソーシャルメディア関連規程の整備です。

 ソーシャルメディアポリシーは、主に事業者や従業員におけるSNSの利用方針や心構えなどの指針を対外的に宣言するものです。現代社会においては、公式アカウントを運営しない事業者も含めて、ソーシャルメディアに関する心構えを策定しておくことが必須であるといっても過言ではありません。そして、社内労務規程の一部として具体化されたソーシャルメディア規程を策定し、従業員に周知徹底を促すことで、対外的に掲げられたソーシャルメディアポリシーの体現を図っていくことになります。

 もちろん、これらは「作って終わり」ではなく、日々の管理・運営・指導こそが最も重要です。意識の弛緩防止と喚起のために、定期的なコンプライアンス研修を実施することも非常に有効です。

 また、社外の第三者を対象とする、ソーシャルメディア利用規約もあわせて策定しておくと、第三者による不適切投稿の予防や、事後的な対処の円滑化に期待ができます。

 弊所では、ソーシャルメディア関連規程の整備や、コンプライアンス研修の実施についてのご依頼を承っております。また、ソーシャルメディアに関するリスク全般についてのご相談も随時承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

監修
弁護士 箕輪 洵
(スタートアップ企業を中心に、上場企業から中小企業まで企業法務を幅広く対応。知的財産法を得意とし、特にメタバース法務、エンターテインメント法務に注力。)

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