【弁護士解説】ついに解禁!医家向けSaMD(プログラム医療機器)の一般人向け広告!

執筆:弁護士 五反田美彩メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム

 2024年3月、医家向けSaMDである「発作時心臓活動記録装置用プログラム」「高血圧症治療補助プログラム」「禁煙治療補助システム」について、一般人向け公告が解禁されました。その内容を解説します。

1.はじめに

 2024年3月7日、「発作時心臓活動記録装置」「発作時心臓活動記録装置用プログラム」「高血圧症治療補助プログラム」「禁煙治療補助システム」について、一般人向け広告が解禁されました。
 今回は、SaMD広告規制緩和と題して、医家向け医療機器の広告規制の概要、今回解禁された広告規制緩和の内容について見ていきます。

2.医家向け医療機器の広告規制について

(1)医家向け医療機器とは

 医家向け医療機器とは、「医師、歯科医師、はり師等医療関係者が自ら使用することを目的として供給される医療機器で、一般人が使用するおそれのないものを除き、一般人が使用した場合に保健衛生上の危害が発生するおそれのあるもの」のことをいいます(医薬品等適正広告基準第4.5(2))。これには、原理及び構造が家庭用電気治療器に類似する理学診療用器具等があると解説において示されています(医薬品等適正広告基準解説)。
 基本的には、医師等が病院で使用するか処方しているものは医家向け医療機器、にあたると考えていただいて問題ありません。

(2)医家向け医療機器の広告規制

 上記のような医家向け医療機器については、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告を行ってはならないとされ、具体的には、以下の内容の広告以外はNGとされています。

①医事又は薬事に関する記事を掲載する医薬関係者向けの新聞又は雑誌による場合

②MRによる説明、ダイレクトメール、若しくは文献及び説明書等の印刷物(カレンダー、ポスター等医薬関係者以外の者の目につくおそれの多いものを除く。)による場合

③主として医薬関係者が参集する学会、後援会、説明会等による場合

④その他主として医薬関係者を対象として行う場合

 簡単に言えば、一般の人が目にするような広告は一切できません。

(3)一般人向け広告が可能な医療機器

 このように、医家向け医療機器では一般人向け広告は原則として禁止されていますが、以下の製品については、例外的に一般人への広告が認められています。

・血圧計

・コンタクトレンズ(ただし、薬剤含有コンタクトレンズを除く。)

・体温計

・自動体外式除細動器(AED)

・パルスオキシメータ

・補聴器

・設置管理医療機器

発作時心臓活動記録装置

発作時心臓活動記録装置用プログラム

高血圧症治療補助プログラム

禁煙治療補助システム

 今回、冒頭に記載した通り、「発作時心臓活動記録装置」「発作時心臓活動記録装置用プログラム」「高血圧症治療補助プログラム」「禁煙治療補助システム」は、2024年3月7日の事務連絡で一般人向け広告が解禁されました。

 今回の規制緩和は、上記の通り、個別のプログラム・システムについて規制緩和の対象とするものであり、医家向けSaMD全般について、一般向け広告を許したものではないことには留意が必要です。
 ただ、今後もこの流れをくむのであれば、新たな医家向けSaMDが発表された場合、個別のプログラム・システムを指しながら、規制緩和するべきか否かの判断がなされるものと思われます。

3.今回の規制緩和について

 それでは、今回の規制緩和について、「高血圧症治療補助プログラムの適正広告ガイドライン」「禁煙治療補助システムの適正広告ガイドライン」に着目して、その内容を見ていきましょう。

 上記に述べた通り、今回の広告規制緩和は、個別のプログラム・システムに関するものになりますが、今後も同様の医家向けSaMDについて規制緩和がなされる可能性を考えると、本ガイドラインは、医家向けSaMDを開発・提供しようとする企業にとって参考になるものと思います。

(1)対象となる広告

 本ガイドラインの対象となる広告は以下に定める、広告三要件を満たすものになります。

①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
③一般人が認知できる状態であること

 そのため、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、チラシ、交通機関、屋外広告、ウェブサイト及びソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、アプリケーションストア等のすべての媒体を活用した広告並びにポスター及び不特定多数の使用者に配布される印刷物、タブレット等のデジタルツール等、あらゆる媒体であっても、このすべての要件を満たせば、それは広告になり、本ガイドラインが適用されます。また、一般消費者向け広告を作成するために事業者間で提供される広告素材、データ等も本ガイドラインの対象です。

(2)広告時の留意事項

 本ガイドラインでは、具体的には、以下の事項に留意して広告を行うように定めています。

ア.名称関係

 承認又は認証(以下「承認等」という。)を受けた販売名又は一般的名称を使用しなければなりません。
 愛称または略称を使用する場合、承認等を受けた販売名又は一般的名称と同一性を誤認させることがない範囲で使用し、同広告中に承認等を受けた販売名又は一般的名称も記載し明示しなければなりません。
 また、「家庭用」等の医家向け医療機器でないと誤認されるような記載は禁止されています。

イ.製造方法関係

 以下に記載するような、実際の製造方法と異なる表現もしくはその優秀性について事実に反する認識を与えるおそれのある表現をしてはいけません。

①製造方法等の優秀性について

 「最高の設計技術」、「最先端の開発方法」、「近代科学の粋をあつめた設計開発」、「理想的な設計開発」等最大級の表現に類する表現は、その優秀性について事実に反した誇大な認識を与える可能性があるので禁止です。

②特許に関する表現について

 特許に関する表現は、事実であっても医療関係者等の推せんに抵触するため禁止です。

③研究についての表現

 研究内容を述べる場合は、事実を正確に、強調せずに表現しなければなりません。

ウ.使用目的又は効果、性能及び安全性関係

①効果性能等/の表現の範囲

 使用目的又は効果、性能についての表現は、明示的又は暗示的であるか否かにかかわらず承認等を受けた効果性能等の範囲を超えてはなりません。
 また、医師の診断もしくは治療によることなく治癒ができるかの表現は、一般消費者を対象とする広告に使用してはなりません。

②形状、構造及び原理についての表現の範囲

 虚偽の表現、不正確な表現等を用い、効果性能等又は安全性について事実に反する認識を得るおそれのある広告をしてはなりません。

③操作方法又は使用方法についての表現の範囲

 操作方法や使用方法について、承認等を受けた範囲をこえた表現、不正確な表現等を用いて、効果性能等又は安全性について事実に反する認識を得させるおそれのある広告をしてはなりません。

④効果性能等又は安全性を保証する表現の禁止

 効果性能等又は一般消費者に対する安全性について、具体的効果性能等又は安全性を摘示して、それが確実である保証をするような表現をしてはならないとされています。
 具体的には、以下の表現が禁止されています。

ⅰ 効果性能等又は安全性の保証表現

 「根治」、「全快する」、「安全性は確認済み」等の表現を用い、疾病の要因、患者の性別、年齢等の如何を問わず効果性能等が確実であること又は安全であることを保証するような表現は禁止です。
 効果性能等又は安全性を保証する表現については、明示的、暗示的を問わず出来ません。

ⅱ 臨床データ等の例示について

 臨床データや実験例等を例示することは、一般消費者に対して説明不足となり、かえって効果性能等及び安全性について誤解を与えるおそれがあるので原則として行うことができません。

ⅲ 使用体験談等について

 使用者の感謝の言葉等の例示及び「私も使っています」等の使用体験又は体験談的広告は、客観的裏付けとはなりえず、かえって一般消費者に対し効果性能等又は安全性について誤解を与えるおそれがあるため、以下の場合を除いて禁止です。

 ・高血圧症治療補助プログラムについて、使用感、操作感を説明する場合。
  ただし、使用感、操作感のみを特に強調する広告は、消費者に当該製品の効果性能等又は安全性を誤らせるおそれがあるため行わないこと。

 ・タレント等が単に製品の説明や呈示を行う場合。

ⅳ 安全性の表現について

 「安全です、安心してお使い下さい。」、「安全性が高い」等と漠然と記載したものは、それが確実である保証をするような表現にあたるため禁止です。

ⅴ 効果性能等又は安全性について最大級の表現又はこれに類する表現の禁止

 高血圧症治療補助プログラムの効果性能等又は安全性について、最大級の表現又はこれに
類する表現は禁止です。具体的には、以下の表現は禁止です。

 ・最大級の表現

 「最高の効き目」、「日本一」、「売上げNo.1」等の表現は禁止

 ・「強力」、「強い」の表現

 効果性能等の表現で「強力な●●」、「強い●●」の表現は、原則禁止

 ・安全性の表現

 「比類なき安全性」、「絶対安全」等のような最大級の表現は禁止

 ・新発売等の表現

 製品自体についての「新発売」、「新しい」等の表現は、製品発売後 12 ヵ月間を目安に、同期間のみ使用出来ます。

ⅵ 効果性能等の発現程度についての表現の範囲

 効果性能等の発現程度及び速効性、持続性等についての表現は、医学上認められている範囲をこえないものにしなければなりません。効果性能等の保証的表現にならないようにしなければなりません。

ⅶ 本来の効果性能等と認められない表現の禁止

 本来の効果性能等とは認められない効果性能等を表現して、その効果性能等を誤認させるおそれのある広告を行ってはいけません。

エ.使用及び取扱い上の注意について広告に付記し、又は付言すべき事項

①広告(看板等の工作物での広告を除きます。)を行う際には、使用及び取扱い上の注意として、以下を記載・配慮することとされています。

・「管理医療機器」又は/及び「特定保守管理医療機器」であることを明記

・「必ず医師の指導に従って正しく使うこと」又はそれと同意の表現を明記

 「受診不要」などを謳い医療機関の受診が不要であると誤認させるような表現は不適切

・ 「取扱説明書を必ず読むこと」又はそれと同意の表現で明記

・上記3点の表現を付記する際は、文字は判読可能にすること、動画等においては静止した明確な文字で 1 秒以上、十分目立つよう配慮すること

②承認番号等の表記

 印刷媒体、ウェブサイト等視覚的表記が可能な媒体には、必ず製品の承認番号等を明記するものとされています。

オ.他社製品の誹謗広告の制限

 品質、性能、安全性その他について、他社の製品を誹謗するような広告を行うことは禁止です。特に以下の点に留意が必要です。

 ・事実であっても他社の製品について誹謗するような広告は禁止

 ・漠然とした比較、明示的・暗示的な他社製品との比較も禁止

 ・比較広告は自社製品との範囲で名称を明示するときだけ可能

カ.医療関係者等の推せん

 効果性能等に関し、一般消費者の認識に相当の影響を与える国内外の官公庁、医療関係者、病院、診療所、薬局、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推薦し、指導し、又は選用している、あるいは特許を取得している等の広告は禁止です。

キ.懸賞、賞品等による広告の制限

 過剰な懸賞、賞品等射こう心を煽るような広告は行うことは禁止です。

ク.不当に顧客を誘引するおそれのある表現の自粛

 不当に顧客を誘引するおそれのある広告をしてはなりません。

ケ.不快、迷惑、不安又は恐怖を与えるおそれのある広告の制限

 不快、迷惑、不安、又は恐怖感を与えるおそれのある表現や方法を用いた広告は行ってはならないものとされています。
 必要以上に疾病の危険性などをあおって、不安や恐怖感を与えるような広告は出来ません。
 また、電子メールによる広告を行う際には、その方法も規定されています。

 ・製造販売業者又は販売業者の電子メールアドレス等の連絡先を表示すること。
 ・消費者の請求又は承諾を得ずに一方的に電子メールにより広告を送る場合、メールの件名欄に広告である旨を表示すること。

 ・消費者が、今後電子メールによる広告の受け取りを希望しない場合、その旨の意思を表示するための方法を表示するとともに、意思表示を示した者に対しては、電子メールによる広告の提供を行ってはならないこと。

 ・その他の広告メールに関連する法規制にも留意すること。

 その他の広告メールに関連する法規制としては、特定電子メール法、個人情報保護法等に留意する必要があります。

コ.テレビ、ラジオの提供番組等における広告の取扱い

 医療機器製造販売業者が資金提供又は制作内容に関与するテレビ、ラジオの提供番組又は映画演劇等において、出演者が特定の医療機器の品質、効果性能等、安全性その他について言及し、又は暗示する行為をしてはならないものとされています。

4.おわりに

 内容について詳しく見てきましたが、一般人向け広告に関する具体的な規制内容は、医療機器適正広告ガイド に示される医療機器広告への規制と大きく異なるところはありません。そのため、今回のSaMDについても、基本的には、医療機器に関するこれまでの規制内容を意識した広告をすればよいでしょう。

 一般人向け広告規制緩和は、医療機器分野でのDTxを大きく普及させるための第一歩であり、今後も同種の医家向けSaMDについても規制緩和の対象となることが期待されます。

監修
弁護士 早崎 智久
(スタートアップの創業時からIPO以降までの全般のサポート、大手企業の新規事業のアドバイスまでの幅広い分野で、これまでに多数の対応経験。 特に、GVA法律事務所において、医療・美容・ヘルスケアチームのリーダーとして、レギュレーションを踏まえた新規ビジネスのデザイン、景表法・薬機法・健康増進法などの各種広告規制への対応、医療情報に関する体制の整備などが専門。)

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