【弁護士解説】獣医療と遠隔診療について

執筆:メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム

1 はじめに

 GVA法律事務所では、メディカル、美容、ヘルスケア領域に関して専門チームを設け、各分野について、人に関するサービス・動物に関するサービスの別を問わず、多様なサポートをさせていただいております。

 本稿では、動物関連ビジネスと法の関係性の第3弾として、獣医療に関する遠隔診療についてご紹介いたします。

2 家畜における遠隔診療について

(1) 従前の状態

 家畜に関する遠隔診療については、家畜伝染病予防に基づく飼養衛生管理基準により、家畜の所有者は農場ごとに担当の獣医師又は診療施設を定めたうえで、定期的に家畜の健康管理について指導を受けるものとされています。そして、畜産業においては、畜産場が広大な土地に設置されていることとの関係性から、現在でも広く遠隔診療が行われています。今後も、さらに迅速かつ的確な飼養衛生管理を促進するため、遠隔診療の積極的な活用が望まれているところです。
 特に、養殖業では、魚病対策に関する遠隔診療において、初診からの遠隔診療が可能とされているところ、獣医師による家畜の遠隔診療についても初診から可能とすることが望まれてきました(規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申~デジタル社会に向けた規制改革の「実現」~」令和3年6月1日)。

(2) 最近の流れ

 上記の推進会議を受けて、令和3年12月15日付の「家畜における遠隔診療の積極的な活用について(通知)」(農林水産省消費・安全局長)において、家畜の伝染性疾病の予防や食品の安全、農家の収益性向上につながる獣医療の提供を目的として、遠隔診療の積極的な活用にかかる留意点が通知されました。
 同通知では、家畜の遠隔診療の積極的な活用における留意事項として、以下の2つが定められています。

  1. 畜産農家において、群の一部に対面での診療が行われていない家畜が含まれている場合であっても、初診から遠隔診療(要指示医薬品の処方を含みます。)が可能であること

  2. ただし、以下の場合のような遠隔診療による対応が困難又は不適切と考えられる場合は、対面での診察への切り替えや、管内の家畜保健衛生所等への連絡を行う必要があること

    (ア) 家畜伝染病等が疑われる場合

    (イ) 正確な診断のために触診を要する場合

    (ウ) 畜産農家の情報通信機器の扱いが不慣れであり、正確な情報が得られない場合

 また、同通知では、その他の留意事項として、以下の2つが定められています。

  1. 遠隔診療をより適切かつ安全に行うため、遠隔診療を行う獣医師は、送付された検体の検査や、より高度で情報量の多い情報通信技術を活用するなどの手段を用いて、診療に必要な情報を入手すること

  2. 地域の家畜保健衛生所の家畜防疫員及び飼養衛生管理基準に定める農場ごとの担当獣医師等の関係者は、家畜への過剰投薬の防止等の観点から、相互に診療に関する医薬品の処方、使用等の情報を共有し、連携して医薬品を慎重に使用するように努めること

 同通知により、家畜への遠隔診療も、一定の条件のもとで初診から可能とされることになりました。

3 遠隔診療における動物用医薬品の取扱いについて

(1) 家畜の動物用医薬品の取扱について

 上述の「家畜における遠隔診療の積極的な活用について」の通知において、家畜に対する遠隔診療をより積極的に活用していくための留意事項が示されました。これに伴い、令和4年8月16日付で「家畜における遠隔診療の積極的な活用にかかる家畜の動物用医薬品の取扱について」(農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課長)が発出されました。同通知により、獣医師の診断に基づく指示等の家畜の動物用医薬品の取扱いについて、改めて以下のとおり整理がなされたことになります。

(2) 獣医師法第18条について

 獣医師法第18条は、「獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」と規定しています。

 つまり、家畜の動物用医薬品の使用は、

  1. 獣医師の診察により、獣医師自らが家畜に使用する。

  2. 獣医師の診察により、当該獣医師が調剤等した動物用医薬品を、家畜の所有者が自己の所有する家畜に使用する。

  3. 獣医師の診察に基づく指示により、家畜の所有者が、動物用医薬品販売店から動物用医薬品を購入・郵送し、自己の所有する家畜に使用する。

 という3形態が一般的とされています。
 また、獣医療法第5条第1項は、「開設者は、自ら獣医師であってその診療施設を管理する場合のほか、獣医師にその診療施設を管理させなければならない。」と規定されており、本項を根拠に、診療施設を管理する獣医師が、離島等にある診療施設の複数の貯蔵設備を管理したうえで、遠隔診療の後、当該貯蔵庫から動物用医薬品を指示・処方することもあります。

(3) 家畜の所有者に対する予めの指示・処方

 以下のように、獣医師が、農場での家畜の診療に必要な動物用医薬品の量と期間を予見できる場合、獣医師は家畜の所有者に対して予め動物用医薬品を指示・処方することがあるとされています。

  1. 家畜伝染病予防法第12条の3に基づく飼養衛生管理基準に定める農場ごとの担当獣医師であるなどの理由から、定期的な指導を行っている場合

  2. 過去の郡内の事故発生率や繁殖成績等を獣医師が正確に把握できている場合

 この場合、獣医師は、動物用医薬品の適正な使用に必要な事項について注意及び指導を行う必要があります。また、家畜の所有者は、この場合においても消費者からの国産畜産物への信頼確保の観点から、症状の経過等に応じて、動物用医薬品を使用する際には、改めて獣医師の診断を求めるといった動物用医薬品の慎重な使用に努めている旨が指摘されています。実際の運用上においては上記のような観点に留意する必要があるものと考えられます。

(4) その他

 国産畜産物への信頼確保と農場経営の実態把握という目的だけでなく、飼養衛生管理基準において記録の作成及び保管として「投薬その他の措置の状況」が対象となっていることからも、家畜の所有者は生産資材である動物用医薬品の在庫管理を実施しなければなりません。
 また、獣医師は、予め診断等した場合と改めて診断を行った場合の双方について診療簿に記録をする必要があります。
 これらの手続きをもって、動物用医薬品の使用履歴等の明確化が可能となります。

4 おわりに

 本稿では、動物に対する遠隔診療や、動物用医薬品の取扱いについて、最新の動向を簡単にご説明させていただきました。

 同分野は、今後ますますの活用が期待される分野であるため、最新の情報を取り入れることが重要になります。

 GVA法律事務所では、最新の獣医療関連の情報に基づく事業サポートをしておりますので、動物関連のご質問についてもお気軽にご相談ください

ペット関連商品と法の関係性の第1弾『ペット関連商品と薬機法』はこちらから
ペット関連商品と法の関係性の第2弾『ペット関連商品と広告規制』はこちらから

監修
弁護士 早崎 智久
(スタートアップの創業時からIPO以降までの全般のサポート、大手企業の新規事業のアドバイスまでの幅広い分野で、これまでに多数の対応経験。 特に、GVA法律事務所において、医療・美容・ヘルスケアチームのリーダーとして、レギュレーションを踏まえた新規ビジネスのデザイン、景表法・薬機法・健康増進法などの各種広告規制への対応、医療情報に関する体制の整備などが専門。)

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