【弁護士解説】ペット関連商品と広告規制

執筆:メディカル・ビューティー・ヘルスケアチーム

ペット関連商品と法の関係性の第1弾『ペット関連商品と薬機法』はこちらから

1 はじめに

 GVA法律事務所では、メディカル、美容、ヘルスケア領域に関して専門チームを設け、各分野について多様なサポートをさせていただいております。

 本稿では、ペット関連商品と法の関係性の第2弾として、獣医療に関する広告規制についてご紹介いたします。

2 獣医療法上の規制について

 獣医療法(以下「法」といいます。)は、広告について以下のように規制しています(法第17条)。

第十七条 何人も、獣医師(獣医師以外の往診診療者等を含む。第二号を除き、以下この条において同じ。)又は診療施設の業務に関しては、次に掲げる事項を除き、その技能、療法又は経歴に関する事項を広告してはならない。
 一 獣医師又は診療施設の専門科名
 二 獣医師の学位又は称号
2 前項の規定にかかわらず、獣医師又は診療施設の業務に関する技能、療法又は経歴に関する事項のうち、広告しても差し支えないものとして農林水産省令で定めるものは、広告することができる。この場合において、農林水産省令で定めるところにより、その広告の方法その他の事項について必要な制限をすることができる。
3 農林水産大臣は、前項の農林水産省令を制定し、又は改廃しようとするときは、獣医事審議会の意見を聴かなければならない。

 薬機法と同様に、獣医療法の広告規制も、具体的な規制は法律からは明らかではないため、農林水産省から発出されている「獣医療に関する広告の制限及びその適正化のための監視指導に関する指針(獣医療ガイドライン)」(平成26年11月25日、以下「本ガイドライン」といいます。)を確認する必要があります。

 また、法第17条は、「何人も」と規定しており、獣医療に関する広告規制の対象は、獣医師のみならず、獣医師以外の者が獣医療について広告をする場合にも及びます。そのため、獣医師のみならず、獣医療を取扱う事業者の皆様におかれましても、本ガイドラインの内容を十分にご理解いただく必要があります。

 本稿では、本ガイドラインの内容をまとめておりますので、獣医療ビジネスを行う事業者の皆様は、是非ご参照ください。

3 獣医療に関する広告の制限及びその適正化のための監視指導に関する指針

(1) 規制の趣旨と概要
 獣医療法の広告規制の趣旨は、獣医療について十分な専門知識を有しない飼い主が不利益を被ることを防止することにあります。
 そのため、獣医師又は診療施設の業務に関しては、その技能、療法及び経歴に関する事項を広告することはできません(法第17条第1項)。
 ただし、専門科名及び学位又は称号並びに法第17条第2項の規定により省令で定めるものは広告が可能な事項とされています。
 そして、ここでいう法第17条第2項の規定により省令で定めるものとは、獣医療法施行規則(以下「規則」といいます。)第24条の定めであり、具体的には以下のとおり規定されています。

第二十四条 法第十七条第二項前段の農林水産省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 獣医師法第六条の獣医師名簿への登録年月日をもって同法第三条の規定による免許を受けていること及び第一条第一項第四号の開設の年月日をもって診療施設を開設していること。
二 医薬品医療機器等法第二条第四項に規定する医療機器を所有していること。
三 家畜改良増殖法第三条の三第二項第四号に規定する家畜体内受精卵の採取を行うこと。
四 犬又は猫の生殖を不能にする手術を行うこと。
五 狂犬病その他の動物の疾病の予防注射を行うこと。
六 医薬品であって、動物のために使用されることが目的とされているものによる犬糸状虫症の予防措置を行うこと。
七 飼育動物の健康診断を行うこと。
八 家畜伝染病予防法第五十三条第三項に規定する家畜防疫員であること。
九 家畜伝染病予防法第二条の三第四項に規定する家畜の伝染性疾病の発生の予防のための自主的措置を実施することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人から当該措置に係る診療を行うことにつき委託を受けていること。
十 獣医療に関する技術の向上及び獣医事に関する学術研究に寄与することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人の会員であること。
十一 獣医師法第十六条の二第一項に規定する農林水産大臣の指定する診療施設であること。
十二 農業保険法第十一条第一項に規定する組合等(以下「組合等」という。)若しくは同条第二項に規定する都道府県連合会から同法第百二十八条第一項(同法第百七十二条において準用する場合を含む。)の施設として診療を行うことにつき委託を受けていること又は同法第十条第一項に規定する組合員等の委託を受けて共済金の支払を受けることができる旨の契約を組合等と締結していること。
2 法第十七条第二項後段の農林水産省令で定める制限は、次のとおりとする。
一 前項第二号及び第四号から第七号までに掲げる事項を広告する場合にあっては、提供される獣医療の内容が他の獣医師又は診療施設と比較して優良である旨を広告してはならないこと。
二 前項第二号及び第四号から第七号までに掲げる事項を広告する場合にあっては、提供される獣医療の内容に関して誇大な広告を行ってはならないこと。
三 前項第四号から第七号までに掲げる事項を広告する場合にあっては、提供される獣医療に要する費用を併記してはならないこと。

 上記の事項は、従来制限されてきた広告の中で、飼い主にとって不利益となるおそれが少ないものや、むしろ有益ともいえるものについての規制を緩和することを目的として、例外的に広告可能となっています。

 なお、この規則第24条については、以下の事項に留意して規定されているところです。

① 法令等において用語が規定されている等、その事項の概念及び範囲が明確であるもの
② 法令の施行の円滑化に資するために表示する必要があるもの、又は国の施策として推進されている事項に関するもの
③ 社会的な混乱を招くおそれのないもの

(2) 広告規制の内容
 上記を踏まえ獣医療法上の広告規制の内容について整理をすると、以下のようになります。

(ア) 獣医療法に基づく制限(法第17条第1項)
獣医師(獣医師以外の往診診療者等を含む。)又は診療施設の業務に関しては、
① 獣医師又は診療施設の専門科名
② 獣医師が行う診療に関する獣医学的判断技術に関する能力若しくは治療法又は経歴に関する事項(学位又は称号を除く)
を広告することはできません。

(イ) 獣医療法施行規則に基づく制限(規則第24条第2項各号)
規則第24条第1項各号の広告可能事項についても、広告にあたって以下の制限があります。

① 他の診療施設と比較して優良である旨(比較)の広告(規則第24条第2項第1号)
この制限は、「提供される獣医療の内容が他の獣医師又は診療施設と比較して優良である旨」の広告を制限するものです。
「提供される獣医療の内容が他の獣医師又は診療施設と比較して優良である旨」の広告とは、他の診療施設等と比較して、自らの診療施設等がより優れた獣医療を提供していることを広告することをいいます。
同号には、下記の5つについて比較広告を行うことはできない旨が定められています。
  1. 医療機器を所有していること
  2. 避妊去勢手術を行うこと
  3. 予防注射を行うこと
  4. フィラリア症の予防を行うこと
  5. 飼育動物の健康診断を行うこと

② 誇大広告(規則第24条第2項第2号)
この制限は、「提供される獣医療の内容に関して誇大な広告」を制限するものです。
「提供される獣医療の内容に関して誇大な広告」とは、提供する獣医療の内容について、著しく事実に相違する、又は事実を不当に誇張して表現したり、飼い主を誤認させる広告をいいます。
この点、獣医療の内容が虚偽でなければ問題ないということではないので注意が必要です。また、広告内容について、客観的に事実であると認めるに足りる根拠のない場合は、飼い主を誤認させる広告として扱われます。
同号には、下記の5つについて誇大広告を行うことはできない旨が定められています。
  1. 医療機器を所有していること
  2. 避妊去勢手術を行うこと
  3. 予防注射を行うこと
  4. フィラリア症の予防を行うこと
  5. 飼育動物の健康診断を行うこと

③ 費用(料金)の広告(規則第24条第2項第3号)
この制限は、「提供される獣医療に要する費用」の併記を禁止するものです。
「提供される獣医療に要する費用」とは、診療等の対価として必要な金銭をいいます。技能や療法と併せて費用について広告した場合、低価格競争による獣医療の質の低下や、ひいては社会の混乱を招くおそれがあるため禁止されています。
この点、「低価格で」「料金は相談に応じます。」「より安価な」等の抽象的な表現であっても制限されますので、注意が必要です。
同号には、下記の4つについて併せて費用を広告することはできない旨が定められています。
  1.  避妊去勢手術を行うこと
  2. 予防注射を行うこと
  3. フィラリア症の予防を行うこと
  4. 飼育動物の健康診断を行うこと

(ウ) その他の法律に基づく制限
上記以外にも、広告の際には景品表示法や薬機法に違反しないように注意が必要となります。

(3) 広告可能な事項
法第17条及び規則第24条に照らして広告可能な事項をまとめると、以下のとおりとなります。

(ア) 法及び省令に基づき広告できる事項
① 獣医師又は診療施設の専門科名(法第17条第1項第1号)
例:内科、繁殖科等、大動物専門科又は犬・猫専門科等
② 獣医師の学位又は称号(法第17条第1項第2号)
例:獣医学士、獣医学博士等又は新制獣医師等
なお、専門医、認定医については学位・称号に含まれず、広告することは認められません。
③ 技能、療法又は経歴に関する事項のうち、省令で定めるもの(法第17条第2項前段)

  1. 「獣医師法第6条の獣医師名簿への登録年月日をもって同法第3条の規定による免許を受けていること及び省令第1条第1項第4号の開設の年月日をもって診療施設を開設していること」(規則第24条第1項第1号)

  2. 「医療機器を所有していること」(規則第24条第1項第2号)
    もっとも、この項目については薬機法上の広告規制が及ぶため、医療機器が特定可能となる事項(販売名、型式番号等)について広告することは認められず、一般的な名称、導入台数、導入年等にとどめることが必要です。
    例:腫瘍科においてMRIを導入

  3. 「家畜改良増殖法第3条の3第2項第4号に規定する家畜体内受精卵の採取を行うこと」(規則第24条第1項第3号)
    例:供卵牛に多排卵処理後、人工授精により受精卵を採取

  4. 「避妊去勢手術を行うこと」(規則第24条第1項第4号)
    例:犬又は猫の卵巣子宮の摘出による避妊手術を行う

  5. 「予防注射を行うこと」(規則第24条第1項第5号)
    例:犬猫に狂犬病の予防注射を実施しています

  6. 「フィラリア症の予防を行うこと」(規則第24条第1項第6号)
    例:月1回の経口投与でフィラリア症が予防できます。

  7. 「飼育動物の健康診断を行うこと」(規則第24条第1項第7号)
    例:犬の健康診断をお勧めしています

  8. 「家畜伝染病予防法第53条第3項に規定する家畜防疫員であること」(規則第24条第1項第8号)

  9. 「家畜伝染病予防法第62条の2第2項に規定する家畜の伝染性疾病の予防のための自主的措置を実施することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人から当該措置に係る診療を行うことにつき委託を受けていること」(規則第24条第1項第9号)

  10. 「獣医療に関する技術の向上及び獣医事に関する学術研究に寄与することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人の会員であること」(規則第24条第1項第10号)

  11. 「獣医師法第16条の2第1項に規定する農林水産大臣の指定する診療施設であること」(規則第24条第1項第11号)

  12. 「農業災害補償法第12条第3項に規定する組合等(以下「組合等」という。)若しくは農業共済組合連合会から同法第96条の2第1項(同法第132条第1項において準用する場合を含む。)に規定する施設として診療を行うことにつき委託を受けていること又は組合員等(同法第12条第1項に規定する組合員等をいう。)の委託を受けて共済金の支払を受けることができる旨の契約を組合等と締結していること」(規則第24条第1項第12号)

(イ) 獣医師又は診療施設の業務に関して、その技能、療法又は経歴に係わらな い事項
例:診療施設の開設予定日、診療施設の名称・住所及び電話番号、勤務する獣医師の氏名、診療日・診療時間及び予約診療が可能である旨、休日又は夜間の診療若しくは往診の実施、診療費用の支払い方法(クレジットカードの使用の可否等)等

4 おわりに

 獣医療に関するサービスをご提供・ご検討されている事業者の方にとって遵守すべき指針となる本ガイドラインについて、簡単にご説明させていただきました。

 今回ご紹介した事項以外にも、細かく可能例や禁止例等がございますので、本ガイドラインをご参照ください。

 また、事業者の皆様におかれましては、獣医療法の規制を確認することが重要となります。特に、サービスの広告表現については、獣医療法を遵守しているものなのかどうか判断が難しい場面もあるかと思いますので、注意が必要です。GVA法律事務所では、動物関連のご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

監修
弁護士 早崎 智久
(スタートアップの創業時からIPO以降までの全般のサポート、大手企業の新規事業のアドバイスまでの幅広い分野で、これまでに多数の対応経験。 特に、GVA法律事務所において、医療・美容・ヘルスケアチームのリーダーとして、レギュレーションを踏まえた新規ビジネスのデザイン、景表法・薬機法・健康増進法などの各種広告規制への対応、医療情報に関する体制の整備などが専門。)

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