タイにおける食品広告規制の概要

執筆:弁護士 靏拓剛弁護士 公文 大国際チーム



タイでも、テレビCM、店頭ポスター、屋外看板、SNSなど、様々な媒体において様々な広告が展開されており、広告を目にしない日はありません。
広告は商品等の売上げを大きく伸ばすことのできる可能性を秘めていますが、その規制は複雑であり、違反があった場合には行政処分などを受けるリスクがあります。
したがって、広告に関するルールの概要を把握しておくことが大切です。
そこで、今回は、食品広告に対象を絞って、規制の概要を整理します。


規制対象となる食品広告

タイにおいて規制対象となる食品広告は、「商業上の利益のために食品やその成分に関する情報を人々に伝える行為」を意味し、文章、音声、写真、絵、ロゴなどあらゆる情報を含みます。
したがって、テレビ、ラジオ、雑誌、看板、ポスター、SNSなど、あらゆる媒体での食品の宣伝が規制対象となります。


食品広告を規制する主要な法令

食品広告を規制する主要な法令は、消費者保護法と食品法です。

まず、消費者保護法は、その名のとおり消費者保護を目的とした法令です。
事業者と消費者との取引に関するルールを包括的に定めており、広告全般に関するルールも含んでいます(消費者保護法22条〜)。
そして、消費者保護委員会事務局(Office of the Consumer Protection Board。以下「OCPB」といいます。)が、広告に関するルールについての複数の告示を公表しています。その中でも最も重要なのが、2023年1月14日から施行されている「証明困難な事実に関する広告文の使用に関するガイドライン/広告文に関する事実証明に関するガイドライン」(以下、「OCPB告示」といいます。)です。

次に、食品法は、食の安全の確保を目的とした法令です。
食品の製造、輸入、販売など、食品に関するルールを包括的に定めており、食品広告に関するルールも含んでいます(食品法40条〜)。
そして、食品医薬品局(Food and Drug Administration。以下「FDA」といいます。)が、2021年3月25日付で、食品広告に関する細目を定めた告示(以下「FDA告示」といいます。)を公表しています。

したがって、食品広告をする場合には、この消費者保護法(とその告示)、及び、食品法(とその告示)、という二側面からの規制に対応する必要があります。


消費者保護法・OCPB告示による一般的な広告規制

消費者保護法による広告規制の概要は、次のとおりです(消費者保護法22条)。

  1. 虚偽や誇大な表現の禁止
  2. 商品やサービスの重要な内容に関して誤解を招く表現の禁止
  3. 法令や道徳への違反を促したり、文化の衰退を招いたりする表現の禁止
  4. 国民の分裂を招いたり、国民の団結を阻害したりする表現の禁止
  5. その他省令に定める表現の禁止

そして、これを具体化するかたちで、OCPB告示が定められています。OCPB告示による広告規制の概要は、次のとおりです。

  1. タイ語でなければならない。外国語を用いる場合はタイ語訳の併記が必要である。
  2. 内容が、媒体に応じて、見やすく、読みやすく、聞き取りやすいものでなければならない。なお、テレビの場合の字幕、ラジオの場合の話速、屋外広告の場合の文字色、紙面の場合の文字サイズなど、媒体ごとの規制も存在する。
  3. 消費者が理解できることを最優先としなければならない。例えば、「無料サービス」と広告する場合、消費者は対価を支払う必要がないと理解するのが通常であり、何らかの条件や制限等がある場合は、それらを明確に表示しなければならない。
  4. 数量、容量、成分などを表示する場合、実際に提供されるものの数量等と一致していなければならない。
  5. 試験や実験の結果を引用する場合、試験等を実施した機関、環境条件等を明確に表示しなければならない。
  6. 事業者や広告主の責任を免除又は制限する内容、事前通知なく条件を変更できる権利を留保する内容など、消費者に不利な表現を使用してはならない。例えば、「画像はサンプルであり、実際の商品とは異なる場合があります。」や「当社は事前通知なく価格等を変更することがあります。」などといった表現が禁止される。
  7. 宗教的信仰などを利用して、悩みを抱えている者を勧誘・誘引するような表現を使用してはならない。
  8. 商品やサービスに関する保証がある場合、保証期間、内容、条件などを明確に表示しなければならない。例えば、「効果が出ない場合は返金します。」といった表現をする場合は、その期間や条件等を明確に表示しなければならない。
  9. 類似品との比較データ、統計、第三者による認証、受賞歴などを引用する場合、これらを証明できる資料を具備しておかねばならない。

以上が、消費者保護法に基づく、広告全般に適用されるルールの概要です。もちろん食品広告の場合もこれを遵守する必要があります。


食品法による規制

食品法による食品広告規制の骨子は、次の2つです。

  1. 食品の品質・有用性・効能について、虚偽を含む広告や誤解を招く広告をしてはならない(第40条)。
  2. 食品広告をする前には、原則として、FDAの事前審査を受け、許可を取得しなければならない(第41条)。
    そして、FDA告示により、これら2つのルールが具体化されています。


食品広告で禁止される表示

FDA告示は、虚偽を含む広告や誤解を招く広告を防止するため、「どのような表示を用いてはならないか」を詳細に定めています。
したがって、広告の内容や謳い文句を検討する際には、禁止されている表示に該当しないか慎重に検討する必要があります。
禁止されている表示の一例は、次のとおりです。

  • 実際には含まれていない成分が含まれているかのような表示。

  • 成分の含有量を実際より多く見せかける表示。

  • 虚偽や誇大な表示。例えば、「世界No.1」、「最高」、「絶対の」、「結果がすぐに出る」といった表現。

  • 疾患を治癒・緩和・予防する効能や体の機能を改善する効能を有するかのような表示。例えば、「血糖値を下げる」、「風邪を予防する」、「肝臓の働きを整える」、「免疫力を高める」といった表現。

  • 美容やダイエットによい効能を有するかのような表示。例えば、「肌を若返らせる」、「体臭を消す」、「余分な脂肪を減少させる」、「リバウンドしない」といった表現。

  • FDAによる評価が未了の学術データや統計データを用いた表示。

なお、これらは、言葉で表示する場合だけではなく、写真や映像で示唆することも禁止されています。例えば、ある人物のBefore/Afterの写真を用いてダイエットによい効能を有するかのように表示することはできません。


食品広告で用いることが義務づけられる表示

他方、FDA告示では、食品の種類に応じて、広告上で必ず表示しなければならない事項も規定されています。その一例は、次のとおりです。

  • 栄養補助食品
    「お子様及び妊婦の方はお召し上がりにならないでください。」や「病気を予防又は治療する効果はありません。」など。
  • アスパルテームなど人工甘味料を用いた食品
    「摂取前にラベルの警告を読んでください。」
  • スナック菓子、チョコレート菓子
    「摂取は少量にとどめ、健康のために運動をしましょう。」

なお、このような表示については、表示するときの文字の色や大きさ、表示する時間の長さなどについてもルールが定められているので、注意が必要です。


食品の種類による追加的規制や業界的な規制

さらに、食品の種類に応じて、追加的な規制が存在する場合もあります。

例えば、乳幼児向け食品(生後12か月頃までの乳児用調製粉乳や、1~3歳児向けフォローアップミルクなど)は、そもそも広告すること自体が禁止されています。

また、栄養補助食品については、FDAが別途、栄養補助食品に関する告示を発出しています。その告示では、成分ごとの含有量制限や機能性表示に関するルールなどが細かく規定されており、広告内容もそれに即していなければなりません。

さらに、法的な強制力はないものの、業界内の自主規制が存在している場合があります。例えば、Coca Cola、Nestle、Unileverなど大手メーカーが共同して、12歳以下の子を対象とする広告の自粛を宣言しています。


事前審査制

また、前述のとおり、食品広告をする場合は、原則としてFDAの事前審査を受けて許可を得る必要があります。

ただし、例外として、事前審査や許可が不要である場合も存在します。その一例は次のとおりです。

  • 企業やブランドのイメージを訴求するだけの広告
  • 客観的な事実のみを提供する広告(ただし、FDA告示の定める一定の条件や証拠を備える必要あり)

もっとも、事前審査が不要かどうかという判断は悩ましいうえ、万が一、内容がルールに違反していた場合には行政処分などのリスクが発生します。そのため、実務上は、事前審査が不要であるような場合であっても、安全策として、FDAの事前審査を受けて許可を得たうえで広告をすることが多いようです。

事前審査の申請時には、予定している広告の詳細をまとめた資料のほか、必要に応じて広告内容を裏付ける根拠資料(試験結果など)を提出する必要があります。
また、事前審査は商品ごとではなく広告ごとに受ける必要があります。例えば、ある商品について、テレビCMと屋外広告をする場合には、テレビCM用の事前審査と、屋外広告用の事前審査の2つが必要です。
なお、事前審査に要する期間は3〜4週間程度とされていますが、追加資料を提出するよう指示されるなど、これよりも長い期間を要する場合もあります。
そのため、余裕を持って申請することが大切です。


違反した場合

食品広告規制に違反した場合、様々なレベルでの処分等を受けるおそれがあります。

行政上は、消費者保護委員会やFDAから広告の停止や内容の修正を命じられる可能性があります。
悪質な場合には、広告だけではなく商品それ自体の販売停止や回収が命じられることもあります。
また、FDAのウェブサイト上で違反事実が公表され、会社の社会的信用に影響が出る可能性もあります。
さらに、禁固や罰金といった刑事罰が科される可能性もあります。


まとめ

以上のとおり、食品広告に関しては、消費者保護法と食品法という二つの法令による規制が存在し、かつ、それぞれ告示によって細目が定められています。そのため、遵守すべき事項が多岐にわたり複雑です。また、どのような表示であれば許容されるのかなど判断が難しい場合もあります。

また、原則的にFDAによる事前審査を経る必要がありますので、スケジュールにも配慮する必要があります。

そのため、食品広告を検討する際には、自社従業員による内部的な検討だけで完結させようとせず、専門家、消費者保護委員会、FDAなどに対して相談や確認をおこないつつ、スケジュールに余裕を持って進めることが大切です。


補足:ステルス・マーケティング

タイでも、ステルス・マーケティング(SNS上でのインフルエンサーによる商品レビューやユーザーレビューなど、宣伝であることを隠して商品等の宣伝を行うこと)が存在します。

この点、日本ではステルス・マーケティングが景品表示法で規制されていますが、タイでは、これを直接的に言及する法令がありません。しかし、タイでも、OCPBが「インフルエンサーを活用した広告も、依然として広告の一種であることに変わりはない」としており、「特に、虚偽、誇大、商品の重要な内容について誤解を招くような広告表現は問題となる」旨をアナウンスするなど、重要な問題として位置づけられています。

したがって、いわゆるステルス・マーケティングを試みる場合も、事前に専門家等への相談をしたうえでおこなうべきでしょう。

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