ラブアンにおけるビジネス

執筆:弁護士 吉岡 拓磨、マレーシア法弁護士 (Not admitted in Japan) Saiful Aziz国際チーム



はじめに

国際的に効率的なコーポレート・ストラクチャーを検討する企業にとって、マレーシアにおけるオフショア型の法人ストラクチャーは有力な選択肢となり得ます。マレーシアの連邦直轄領であり、国際ビジネスおよび金融の専門拠点であるラブアンは、戦略的な地理的位置、優遇税制、柔軟な会社制度を兼ね備えており、その候補地の一つとなります。また、ラブアン法人が、一定の要件を満たす場合、マレーシアが締結する広範な二重課税防止協定(DTA)の適用を受けることが可能です。

1989年に国際オフショア金融センターとして指定されて以降、ラブアンは、クロスボーダー投資、ウェルスマネジメント、国際取引を促進することを目的としたビジネスフレンドリーな法域へと発展してきました。その規制枠組みは、主として以下の2つの主要法令により構成されています。

(i) 会社の設立、管理および企業活動を規律するラブアン会社法1990年(Labuan Companies Act 1990:LCA)

(ii) ラブアンにおける事業活動の課税を規律するラブアン事業活動税法1990年(Labuan Business Activity Tax Act 1990:LBATA)

これらはいずれも、ラブアンで設立された法人を監督・執行する唯一の規制当局であるラブアン金融サービス庁(Labuan Financial Services Authority:LFSA)の監督下に置かれています。


なぜラブアンなのか

ラブアンは、英国コモンローをモデルとした法制度を採用しており、予見可能性、透明性、強固な投資家保護体制を提供しています。これらの特徴は、クロスボーダー取引を行い、安定した法的枠組みを求める国際的な企業や金融機関にとって特に高く評価されています。ラブアンではマレーシア人株主の参加義務がなく、外国人個人または外国法人による100%出資が可能です。このため、海外投資家はラブアン法人を自らの裁量で設立・運営することができます。

また、ラブアンでは、一部の事業活動について低い法人税率が認められていますが、いわゆるタックスヘイブンのように規制が緩和されているわけではありません。ラブアン金融サービス庁(LFSA)は、会計基準や定期的な報告義務、マネー・ローンダリング防止(AML)対策、ならびに信託会社や金融機関といった規制対象事業者に対する実質的支配者情報の開示を厳格に求めています。このように、税務上のメリットを享受しつつも、一定の透明性とガバナンスが確保されている点が、法的安定性を重視する投資家にとってラブアンの大きな特徴といえます。

さらに、2022年のLCA改正により、それまで原則として外貨建取引に限定されていたラブアン法人の取引について、一定の範囲でマレーシア・リンギットの利用が認められるようになりました。この改正は、マレーシア国内との取引関係を有する企業にとって大きな実務上の意義を有し、為替変動や通貨換算コストに伴う為替リスクの低減、財務管理の予見可能性の向上、ならびに管理負担や銀行手数料の軽減につながります。現在リンギットでの取引が認められている具体的な活動には、一般的な取引、給与や賃料などの現地運営費用の支払、マレーシアの専門家サービスの利用、国内投資、ならびに認可を受けた金融サービス業務が含まれます。


利用可能なラブアン法人の種類

ラブアンは、柔軟かつ国際志向の法域を求める企業向けに、複数の会社形態を提供しています。その中でも、実務上最も一般的に利用されているのが、ラブアン会社法1990年(LCA)に基づく株式有限責任会社(Labuan company limited by shares)です。この会社形態は、国際取引、サービス事業などに幅広く利用されており、設立および運営の柔軟性が高い点が特徴です。

株式有限責任会社では、柔軟な株式構成が認められており、会社の資本金は、リンギットを除く外貨建てで設定することができます。最低1名の株主および1名の取締役で設立が可能であり、法人取締役の選任も認められています。また、居住取締役の要件はなく、取締役会や株主総会は世界のどこで開催しても差し支えありません。このような制度設計により、海外投資家は現地に常駐することなく、ラブアン会社を柔軟に管理・運営することが可能です。

もっとも、新たにラブアン法人を設立する以外にも、既存の外国法人がラブアンを活用するための選択肢も用意されています。外国法人は、外国ラブアン会社として登録することにより、元の本店所在地を維持したまま、ラブアン内またはラブアンを通じて事業を行うことができます。さらに、一定の要件を満たす場合には、外国法人が本店所在地をラブアンへ移転し、ラブアン所在法人として取り扱われることも可能です。移転後の会社は、現地で新たに設立されたラブアン法人と同様の法的地位および運営上の恩恵を享受します。

これらの会社形態を用いて、ラブアン法人は、取引、コンサルティング、電子商取引、金融サービス、投資、リース、資産管理など、幅広い事業活動を行うことが認められています。このように、会社形態の選択肢の多様性と事業範囲の広さを兼ね備えている点が、ラブアンを地域拠点や国際的な資産・事業ストラクチャリングのための有力な法域として位置づけています。



ラブアンにおける税制優遇

ラブアン法人の課税については、マレーシアの一般的な法人税制とは別に、ラブアン事業活動税法(LBATA)が適用されます。この制度の下では、ラブアン法人の事業内容に応じて、適用される税務上の取扱いが区分されています。銀行業、マネジメント業務、ライセンス業務、一般的な商取引など、実際に事業活動を行う「取引活動」を営むラブアン会社については、一定の条件を満たすことを前提として、監査済純利益に対して3%の優遇税率が適用されます。

もっとも、この低税率は無条件で認められるものではなく、実質的な事業活動が行われていることが求められます。その判断基準として設けられているのが、いわゆる経済的実体要件(Economic Substance Requirements)であり、主として以下の3つの要素から構成されています。


1.現地常勤従業員

事業内容や規模に応じて、ラブアン法人において十分な数の常勤従業員を雇用していることが求められます。これらの従業員は、対象となる年度を通じて実際にラブアン法人で勤務している必要があり、その勤務実態は、タイムシートや勤怠管理記録などの資料によって確認されます。


2.従業員の適格性基準

    2025年1月1日の改正により、ラブアン法人における常勤従業員については、いわゆる「適格性基準(Fit and Proper)」を満たしていることが求められています。具体的には、当該従業員が、誠実性・信用性、業務に必要な知識および経験、ならびに財務上の健全性といった点において、担当業務に照らして適切であることが求められます。ラブアン法人は、優遇税率の適用を受けるため、これらの基準を踏まえ、従業員が適格性基準を満たしているかについて自己評価を行う義務があります。


    3.現地での支出

    会社は、毎年、ラブアンにおいて一定水準の運営費用を実際に支出していることが求められます。必要とされる支出額は事業内容によって異なり、例えば、株式の保有のみを行う純粋な持株会社の場合には、年間最低RM20,000が目安とされています。一方で、取引を行う会社や規制対象となる事業を営む会社については、これよりも高い水準の支出が求められることがあります。


    コンプライアンス

    ラブアン法人は、一定のガバナンスおよびコンプライアンス要件の下で運営されます。ラブアン会社法1990年(LCA)および関連規制により、ラブアンにおいて法人を設立・維持するためには、ラブアン金融サービス庁(LFSA)の認可を受けたラブアン信託会社を通じて手続を行うことが制度上求められています。

    ラブアン信託会社とは、LFSAのライセンスの下で、ラブアン法人の設立手続、登録事務所の提供、会社秘書業務、ならびに各種規制・コンプライアンス対応を担う専門のコーポレート・サービス事業者です。日本の制度に即していえば、登記・会社管理・規制対応を一体的に担う専門機関に近い存在であり、ラブアンではこのような認可事業者を介在させることで、法人の透明性と規制遵守を制度的に確保しています。

    その一環として、すべてのラブアン法人は、認可を受けたラブアン信託会社を通じて登録事務所を設置することが義務付けられており、当該登録事務所が規制当局との公式の連絡窓口となります。また、各ラブアン法人は会社秘書役を任命する必要があり、複数の秘書役を置く場合には、そのうち少なくとも1名はラブアンに居住していることが求められます。

    ラブアン法人は、年次登録料および更新料の支払が義務付けられています。金額は、会社の種類、保有ライセンス、追加的な規制要件により異なります。標準的な会社の場合、最低額は約RM2,600ですが、最新の金額についてはLFSAまたはラブアン信託会社を通じて確認する必要があります。これらに加え、各信託会社は、会社秘書役、登録事務所、コンプライアンス仲介業務に関するサービス料を独自に設定しており、その額はサービス提供者により異なります。


    設立手続

    前述のとおり、ラブアンでは複数の法人形態が認められていますが、実務上最も一般的に利用されている株式有限責任会社に焦点を当てます。この法人形態は、制度の柔軟性が高く、設立手続も比較的簡便であることに加え、外貨建てでの取引が可能である点から、国際取引、サービス事業を行う企業に特に適しています。

    ラブアン法人を設立するにあたっては、上述したように、ラブアン金融サービス庁(LFSA)の認可を受けたラブアン信託会社を任命することが制度上必須とされています。この信託会社は、ラブアン法人の登録事務所として機能するほか、設立時および設立後における各種規制対応を担い、顧客に対するデューデリジェンスを通じてLFSA規制への適合を確保する役割を果たします。

    設立手続の次の段階として、会社名の予約を行います。会社名は原則として自由に決定することができますが、不適切と判断された場合には、LFSAが承認を拒否する裁量を有します。名称予約手数料はRM50で、通常は24時間以内に承認され、承認された会社名は3か月間留保されます。

    会社名が承認された後、設立に必要な書類を作成します。具体的には、定款(Memorandum and Articles of Association)、任命された信託会社による法定遵守宣誓書、各取締役の同意書、その他LFSAが定める法定書式が含まれます。設立手数料は払込資本額に応じて異なり、資本金がRM50,000以下の場合はRM1,000からとなり、資本額が増加するにつれて段階的に増額されます。取締役や会社秘書役の登録といった法定された届出については、通常、別途の手数料は課されません。なお、ライセンスが必要とされる事業を行う場合には、設立前に所要の許認可を取得しておく必要があります。

    すべての設立書類の提出、手数料の支払、ならびにデューデリジェンスが完了すると、LFSAは通常24時間以内に法人設立を承認します。設立後、ラブアン法人は、ラブアンに登録事務所を維持し、会社秘書役を任命するとともに、株主名簿、取締役名簿、秘書役名簿などの法定帳簿を備え置く必要があります。現在、標準的なラブアン法人の年間登録・維持費用はRM2,600とされています。

    株式有限責任のラブアン法人は、投資家にとって実務的かつ効率的なオフショア・ビークルを提供するものです。設立および維持管理については、認可を受けた信託会社を通じて行う必要がありますが、法人自体は、取引、資産管理、金融取引などの日常的な事業活動を独立して運営することが可能です。外貨建資本を前提としつつ、一定の範囲でリンギットによる取引にも対応できる点から、この法人形態は、運営上の利便性と高いコンプライアンス水準を兼ね備えた、国際投資家や企業にとって魅力的な選択肢といえます。


    ラブアン法人の留意点

    ラブアンは、国際ビジネスに適した制度設計や税制上のメリットを有する一方で、すべての企業にとって最適な法域というわけではありません。とりわけ、日本企業が検討する際には、制度上の制約や実務上の負担を十分に理解しておく必要があります。以下では、ラブアン法人を活用するにあたって、特に留意すべき点を整理します。

    1.経済的実体要件の充足

      ラブアン法人の税制上の魅力としてよく挙げられる優遇税率は、あくまで一定の条件を満たした場合に限って適用されるものです。
      特に経済的実体要件を充足しない場合やその立証が不十分であると判断された場合には、税率の優遇を受けられなくなる可能性があります。また、要件の充足については毎年自己評価が求められ、監査や説明対応の負担も生じます。安定的に要件を維持できない事業や、短期的なプロジェクトには不向きといえます。


      2.マレーシア本土における事業活動の制限

      ラブアン法人は、国際ビジネスを対象とした特別な法域として位置づけられており、原則としてマレーシア本土において事業活動を行うことはできません。マレーシア国内の顧客を対象とした販売やサービス提供、現地での契約締結や収益活動は認められておらず、これらを行うためには、別途、マレーシア本土法人の設立等が必要となります。

      クアラルンプールなどにおいて連絡事務所やマーケティング拠点を設置し、顧客との打合せや市場調査といった非取引的活動を行うことは認められていますが、これらはあくまで補助的な活動にとどまります。マレーシア本土市場を主要な事業対象とする企業にとっては、この点がラブアン法人の大きな制約となり得ます。


      まとめ

      ラブアン法人は、国際取引や投資を目的とする企業にとって有力な選択肢となり得ますが、優遇税率は経済的実体要件の充足が前提であり、信託会社を通じた運営やマレーシア本土での事業制限などの留意点も存在します。制度の利点と制約を正しく理解した上で、自社の事業内容に適合するかを慎重に検討することが重要です。

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