【弁護士解説】タイにおける株主総会運営の実務

執筆:弁護士 靏拓剛弁護士 公文 大国際チーム


タイにおいても、株主総会は会社の最も重要な意思決定機関として位置づけられており、取締役の選解任、定款変更、増資・減資、配当など、会社の根幹に影響を与え、方向性を決定づける事項は、株主総会決議によって決定される。


しかし、非公開会社の中には、株主総会を開催せず議事録だけを作成している会社や、株主総会で決議すべき事項について取締役や一部の株主の判断によって処理している会社も散見される。こうした状態は、コンプライアンス違反やガバナンスの空洞化を招き、会社の内部的紛争にも繋がりかねない。
そのため、株主総会のルールを理解し、適切に開催していくことが大切であり、本稿ではタイの非公開会社における株主総会について概観する。


■株主総会の種類

まず、タイには、定時株主総会と臨時株主総会の2種類の株主総会があります。

1.定時株主総会(Annual General Meeting / AGM)
タイでは、会社は会計年度終了後4ヶ月以内に株主総会にて財務諸表の承認を受けることが義務付けられています(タイ民商法1171条1項、1197条1項。以下、タイ民商法を「CCC」といいます)。
そのため、少なくとも年に1回、株主総会を開催しなければなりません。

例えば、会計年度が1月1日から12月31日であれば、毎年4月末までには株主総会を開催しなければなりません。

2.臨時株主総会(Extraordinary General Meeting / EGM)
定時株主総会とは別に、取締役は、必要に応じて、いつでも臨時株主総会を開催することができます(CCC1172条1項)。
ただし、損失が資本金額の半額に達したときは、臨時株主総会を開催し、株主にこれを報告しなければなりません(CCC1172条2項)。

この点、一定の条件を満たす株主も、取締役に対し、臨時株主総会の開催を求めることができます。
具体的には、総株式数の5分の1以上を保有する株主は、招集の目的を記載した要求書を提出して、臨時株主総会の開催を求めることができるのです(CCC1173条)。
この要求書が提出された場合、取締役は、遅滞なく臨時株主総会を開催する必要があります。また、もし取締役が臨時株主総会を開催しない場合、要求書を提出した株主は、自ら臨時株主総会を開催することができます(CCC1174条)。
なお、この「総株式数の5分の1以上の保有」という条件を一人の株主が単独で満たす必要はありません。複数の株主が連名で臨時株主総会の開催を要求し、その株主らの保有する株式の合計が総株式数の5分の1以上である場合も、この条件は満たされます。


■株主総会の会議形式での開催

タイでは、株主が物理的に集合して株主総会を開催するのが原則です。

この点、書面決議(集合せず、株主が書面上で決議事項につき同意する方法)での開催が認められていないことに注意が必要です。
他方、オンラインでの株主総会の開催は認められていますが(2020年4月18日付緊急勅令)、オンラインで株主総会を開催するためには次の要件を満たす必要があります。

【株主総会のオンライン開催の要件】

・所定のセキュリティ基準の充足
・出席者の本人確認の実施
・記名投票・秘密投票の両方を可能とすること
・書面による議事録の作成
・出席者の音声又は音声映像の記録
・出席者の通信ログの記録

ただオンラインで出席者を繋げばいいというわけではないので、オンラインでの開催を検討するのであれば、十分に前もって必要事項の確認や準備を進めておくことをおすすめします。なお、オンラインミーティング時に広く用いられているZoom、Google Meets、Microsoft Teamsは、上記の「所定のセキュリティ基準」を満たすものとされています。

■招集手続

1.招集通知の送付

株主総会を開催するときには、定時株主総会であれ臨時株主総会であれ、株主に対して招集通知を送付しなければなりません(CCC1175条1項)。
この招集通知は、「受領の証明を伴う郵便により」送付しなければならず、一般的に配達証明郵便(Registered Mail)が用いられています。
ただし、オンラインでの開催の場合は例外的に電子メールによる送付も可能とされています(2020年4月18日付緊急勅令)。

2.招集通知の記載事項

招集通知には、開催場所、日時、議題を記載しておくことが必要であり、特別決議事項がある場合には議案についても記載しなければなりません(CCC1175条2項)。

3.招集通知の送付期限

招集通知の送付期限に関してもルールがあり、議題が普通決議事項のみである場合は開催日の7日前まで、議題が特別決議事項を含む場合は開催日の14日前までに発送しなければなりません(発送期限であり、株主の手元に到達すべき期限ではありません)。

さらに細かく言うと、招集通知の発送日と株主総会の開催日の間に7日又は14日という期間が含まれていることが必要です。例えば、株主総会が4月20日に開催される場合、議題が普通決議事項のみであれば4月12日には招集通知を発送しなければならず、議題が特別決議事項を含む場合は4月15日には招集通知を発送しなければなりません。

なお、以前は招集通知の送付に加えて新聞上で開催をアナウンスすることも必要でした。しかし、2022年のCCC改正(2023年2月7日施行)により、この新聞上でのアナウンスは、無記名式株券を発行している場合を除き不要とされました。したがって、現在は、(無記名株券を発行してなければ)招集通知の送付のみで足ります。


■定足数

株主総会を開催するためには、少なくとも2名の株主(代理人含む)が出席しなければならず、かつ、出席株主が有する株式の合計が、資本金額の 4 分の 1 以上でなければなりません(CCC1178条)。
これに満たずに株主総会で決議をした場合、後述するとおり、その決議が取り消されるおそれがあります(CCC1195条)。


■代理人による出席・議決権行使

タイでは代理人による株主総会への出席や議決権行使も可能とされており(CCC1187条)、代理人による出席や議決権行使を制限することはできません。

なお、代理人の選任は、保有株式数や代理人名など法定の事項が記載され、株主の署名のある委任状によっておこなうべきこととされています。そして、代理人による出席や議決権行使をするためには、この委任状を株主総会の開始時までに提出する必要があります(CCC1188条、1189条)。
実務的には、招集通知を送付する際、委任状の雛形も同送しておく運用が取られています。



■議事の進行

株主総会の議長は、取締役会の議長が務めます(CCC1180条1項)。取締役が1名であれば、必然的にその取締役が議長となります。

ただし、複数人の取締役がいるものの取締役会の議長に関する定めがない場合や、議長となるべき取締役が開始時刻から15分経過しても現れない場合には、株主の決議により議長を選任することとなります(CCC1180条2項)。


■株主総会での決議方法

1.原則:頭数での挙手投票

株主総会での決議方法は、原則として、各出席株主が1つの議決権(つまり、1票)を持つ挙手制での投票です(CCC1182条、1190条)。
この場合、各出席株主が何株を持っているかは関係ありません。1株しか持っていない株主も1,000株を持っている株主も、等しく1つの議決権を持ちます。

2.例外:株式数での秘密投票

挙手投票での投票結果が宣言されるときまでに2人以上の株主が秘密投票(各自の賛否が分からない方法での投票。例えば、投票用紙に賛成・反対・棄権を記入し、回収して集計する方法)によることを求めた場合は、秘密投票によって決議すべきこととなります(CCC1190条)。
秘密投票時には、各自が1つの議決権を持つのではなく、1株が1つの議決権を持つことになります(CCC1182条)。つまり、1株しか持っていない株主は1票のみを持ち、1,000株を持っている株主は1,000票を持つのです。

なお、タイでは、書面投票(株主総会に出席せず、書面を事前に送付しておくことにより投票すること)は認められていません。そのため、議決権を行使するためには、株主本人又は代理人が実際に出席する必要があります。


■株主総会の決議の要件

株主総会での決議の要件は、決議の対象が普通決議事項か特別決議事項かによって異なります。
普通決議事項に関する決議であれば、その議題について議決権を有する出席株主の議決権総数のうち過半数の賛成が要件です。
特別決議事項に関する決議であれば、その議題について議決権を有する出席株主の議決権総数のうち4分の3の賛成が要件です。

普通決議事項とされているもの、特別決議事項とされているものの一例は、次のとおりです。

【普通決議事項と特別決議事項の例】

普通決議事項の例特別決議事項の例
・取締役の選解任(CCC1151 条)
・取締役の報酬(CCC1150 条)
・財務諸表の承認(CCC1197 条)
・配当(CCC1201 条)
・会計監査人の選解任(CCC1209条)
・会計監査人の報酬(CCC1210 条)
・定款の変更(CCC1145条)
・増資(CCC1220条)
・減資(CCC1224条)
・解散(CCC1236条4号)
・合併(CCC1238条)


なお、前述のとおり、財務諸表の承認については、株主総会開催日の3日前までに財務諸表の写しを株主に送付しなければならないこととされている点にもご注意ください(CCC1197条2項)。運用としては、招集通知を送付する際に財務諸表の写しも同封しておくべきです。


■議事録の作成

株主総会が開催されたときには議事録を作成しなければなりません(CCC1207条)。

法令は議事録に署名すべき者に関する規定を置いていません。ただし、議長が署名すれば、その議事録の内容が正しいこと、及び、その株主総会が正式におこなわれたことが推定されます(CCC1207条)。
実務上は、議長とともに出席株主のうちの1名が議事録の内容が正しいことを確認し署名するという運用がとられています。


■付属定款上の特別の定めの確認

以上は、株主総会に関する法令上のルールです。

ここで注意しなければならないのは、会社の付属定款によって、株主総会に関する特別のルールが設けられている可能性があるということです。その場合、法令上のルールに従うとともに、付属定款上のルールにも従って株主総会を開催しなければなりません。

例えば、タイの会社の中には、改正前のCCCに倣って、付属定款上に「株主総会を開催するためには、開催日の7日前までに新聞でのアナウンスをしなければならない。」という規定を置いている会社があります。このような規定がある場合、法令上は新聞でのアナウンスは不要となっているものの、付属定款上のルールとして、招集通知の発送に加えて新聞でのアナウンスも必要となります。

したがって、一度、付属定款を確認して、特別なルールの有無を確認しておく必要があります。また、仮にそのようなルールがあり、かつ、会社の実態やニーズに沿わないというのであれば、株主総会にて定款変更の特別決議を行い、ルールを変えることを検討すべきでしょう。


■株主総会の招集や決議に問題があった場合

もし法令上のルールや付属定款上のルールに従わずに株主総会が開催され、決議がされた場合、取締役や株主は、裁判所に対し、その決議の取消しを求めることができます(CCC1195条)。
ただし、この決議取消しを求める申立ては決議があった日から1ヶ月以内におこなうべきこととされており、1ヶ月をすぎれば、もはやルール違反は治癒され、有効な決議として扱われます(同条)。


なお、タイには、日本でいう決議の不存在や無効の確認の訴えといった制度は存在しません。しかしながら、定足数を満たさないまま株主総会が開催された事案(株主が1名しか出席せず、かつ、その株主が資本金額の 4 分の 1に満たない株式しか有していなかった事案)において、「株主総会が開催されたとは評価できない。」として、1ヶ月の期間制限が適用されずその後も決議が存在しない旨を主張できると結論付けた判例があります。したがって、違反の重大性によっては決議から1ヶ月が経過した後も「決議が不存在である」などとされる可能性があります。


■終わりに

以上、今回は、タイの非公開会社における株主総会について概観しました。
タイでも、株主総会は会社の根幹に関わる意思決定をおこなう重要な機関であり、適法な株主総会の開催は会社のコンプライアンス、ガバナンスの基本となります。したがって、まずは会社の付属定款に何らかの特別の定めが置かれていないかを確認し、株主総会の開催の時期や流れを整理しておくことをおすすめします。

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