解雇手当を例外的に払わなければならないケースとは?

執筆:弁護士 金子 知史国際チーム)、労務コンサルタント 浅原 潤国際チーム



 フィリピンでは、雇用主は正当事由(Just Cause)により解雇処分とした労働者に対し、解雇手当やそれに準ずる金銭支給をする必要はありません。正当事由による解雇は労働者の責に帰するものですので金銭的な補償はされません。

 解雇の正当事由(労働法297条)を列挙します。

  1. 重大な違反行為、意図的不服従
  2. 深刻かつ常習的な職務怠慢
  3. 詐取、雇用主の信頼を損なう背信行為
  4. 雇用主、またはその家族に対する犯罪行為
  5. 上記に関連するその他の事由


 しかし、上記の正当事由により従業員を解雇しても解雇手当(直近の半月分の給与×勤続年数)に相当する金銭支給が命じられるケースがあるので注意が必要です。

 まず、上述の正当事由の2(深刻かつ常習的な職務怠慢)に該当することを理由として解雇された労働者が雇用主に対し労働訴訟を起こし、社会正義の観点から労働者への金銭支払いが命じられたケースを紹介します。

【事例1】社会正義の観点から金銭支給が認められた解雇事例

INTERNATIONAL SCHOOL MANILA,vs.EVANGELINE SANTOS,JOSELYN RUCIO AND METHELYN FILLERG.R. No 167286 February5, 2014

 EVANGELINE SANTOS氏(以下サントス氏)はINTERNATIONAL SCHOOL MANILAに雇われたスペイン語教師であった。彼女は長期休暇後復職した。その際担当できるスペイン語のクラスが一つしかなかった。そのため、退職した別のフィリピノ語教員の後任として4つのフィリピノ語クラスもスペイン語クラスと同時に受け持つこととなった。

 サントス氏はフィリピノ語クラスを担当したことがなかったため、責任者が適宜授業の進展や教え方について監督し、必要に応じて、彼女に助言・指導することとなった。しかし彼女のフィリピノ語教員としての技量は実際には学校の求める水準を遥かに下回っていた。

 学校側は年単位の業務改善計画を実施したが、彼女の授業の質や態度にほとんど変化が見られず、改善の兆しが見られないことを確認した。その後学校側は再三挽回の機会を与えたが、それに応える様子のない彼女への処分として解雇を決断した。

 これに対しサントス氏は経験のないフィリピノ語の授業を受け持たせること自体に問題があったと主張した。解雇後、サントス氏は学校側の措置を不当解雇とし、労働訴訟を提起した。結果的に裁判所は正当事由による解雇自体は認めるものの、彼女の長年の20年超の勤務実績を考慮し、社会正義の観点から解雇手当(25年分)に相当する金銭(756,536.55ペソ)と復職に代わる未払い賃金(1,152,817.60ペソ)の支払いを学校側に命じた。

【ポイント】

 労働者の勤続年数が長い場合、正当事由による解雇が認められても社会正義の観点から金銭支給が命じられることがあります。

 続いて、同様の長期勤続の従業員が正当事由に解雇され、労働訴訟をおこしたが解雇が認められ、金銭支給が課せられなかった事例を紹介します。

【事例2】例外的な解雇手当が認められなかった解雇事例

MANILA WATER COMPANY, vs. CARLITO DEL RPOSARIO
G.R No. 188747 January 29, 2014

 企業の上級技術者が会社の倉庫から備品である給水メーターを無断で持ち出し、個人の利益のために転売したことが発覚し、当該技術者が解雇された。
 これは解雇の正当事由1である、重大な違反行為(Serious Misconduct)に該当する。
解雇された従業員の勤続年数は20年を超えていたが、いかなる金銭補償も認められなかった。

【ポイント】

 重大な違反行為により解雇された労働者には、たとえ勤続年数が長くても、社会正義という観点から金銭補償は認められません。

【まとめ】

 労働仲裁では社会正義の観点から労働者に有利の判決がくだされるケースがあります。勤続年数が長い場合、特にその傾向が強いです。しかし重大な違反行為や雇用主に対する犯罪行為については、社会正義の観点から金銭補償が認められることはないとされています。しかし、どのような事由に基づくものでも、勤続年数の長い従業員を解雇する場合にはリスク(とくに金銭的なもの)を想定してから決断する必要があります。また、勤続年数の長い従業員は懲罰、解雇処分に対して強気な姿勢であることが多いのでやり取りやその文言には注意しましょう。

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