タイの労働法制と実務 vol.3 休日に関する基本ルールと設計上の留意点

執筆:弁護士 靏拓剛弁護士 公文 大国際チーム

(※2021年3月12日に公開。2025年11月28日に記事内容をアップデートいたしました。)

2021年3月12日 公開
2025年11月28日更新



タイにおける休日の種類

タイでは、労働者保護法(以下「LPA」といいます。)によって、次の休日が定められています。

  • 週休日
  • 慣習としての休日
  • 年次有給休暇

また、次の休暇が定められています。

  • 病気休暇
  • 不妊手術休暇
  • 用事休暇
  • 兵役休暇
  • 研修休暇
  • 出産休暇
  • 労働組合委員としての活動のための休暇


週休日(Weekly Holiday)

週休日は、原則として、1週間に最低1日は付与しなければならず、週休日と週休日の間は6日以内である必要があります(LPA28条1項)。
タイでも、多くの企業が土曜日と日曜日を週休日に設定しています。
なお、ホテル、運送、林業、へき地での労働などの業種については、従業員との間で事前に合意により、週休日の累積や繰り延べを可能とする一定の例外が認められています(LPA28条2項)。


慣習としての休日(Traditional Holiday)

「慣習としての休日(Traditional Holiday)」とは、日本でいう祝日に近い概念です(そのため、便宜上、本コラムでは「祝日」と記載します。)
この祝日は、日本のように祝日法で全国一律に定められているわけではなく(タイで法定されているのは5月1日の全国労働者の日(メーデー)のみ)、タイでは、各会社が独自に祝日を設定する必要があります。

1.祝日を設定するにあたっての法律上のルール

祝日を設定するにあたり、会社は、タイ政府が告示する公休日や、宗教的・地域的な慣習を考慮したうえで、メーデーを含めた年間13日以上の祝日を設定し、事前に従業員への周知をする必要があります(LPA第29条1、2項)。
また、もし祝日と週休日が重なる場合は、翌労働日を振替休日とする必要がありますので注意が必要です(LPA29条3項)。

2.政府が告示する公休日

タイでは、毎年10月〜12月頃に、政府から一般的な公休日が発表されます。
上記のとおり、会社は、これを考慮する必要がありますが、必ずしも政府が発表する公休日の中から祝日を設定する必要はなく、(政府の発表する公休日に含まれていない)宗教的・地域的な慣習に従った祝日を設定することもできます。しかし、外国人にとって、このような慣習はなかなか把握が難しいため、政府が発表する公休日の範囲で指定することが最も安全といえます。
また、このような公休日は、文化的慣習ないし行動と結びついていることがあります(例えば、里帰りして両親や親族といっしょに過ごすなど)。そのため、タイ人マネージャーなど現地スタッフと一緒に、祝日を選ぶのが望ましいです。

3.周知時期

祝日を設定した場合、会社は、事前に従業員への周知をする必要があります。
具体的な周知時期については法律上規定されていませんが、遅くとも、翌年度の開始時点までには、設定・周知しておくことが望ましいでしょう。


年次有給休暇(Annual Holiday)

1.有給休暇取得に関する基本原則

タイでの年次有給休暇は、1年以上勤務した従業員に対し、年間6日以上付与する必要があります(LPA30条1項)。
日本のように勤続年数に応じて付与日数を増加させなければならないといった法律上の義務はないため、勤続年数にかかわらず年間6日を付与すれば足りることになります(LPA30条2項)。
なお、実務上、従業員の定着を図るなどという目的から、勤続年数1年未満であっても一定の年次有給休暇を与えたり、勤続年数に応じて付与日数を増加させたりしている会社も多く見られます。

2.年次有給休暇の取得・付与の方法

タイでは、有給休暇の付与の方法として、会社と従業員の合意によって休暇日を決めることも、あらかじめ会社が指定することもできることとされています(LPA30条1項)。
ただし、年次有給休暇をいつ取得するかは、従業員の休息や私生活にとって重要ですので、会社が一方的に設定するのではなく、申請・承認方式などによって従業員の意向を尊重するのが基本となるでしょう。
なお、従業員の有給休暇の申請に対して会社が不許可とすることもできますが、業務上の支障が大きい場合など、あくまでも不許可とするに足りる合理的な理由がある場合に限られると理解しておくべきでしょう。

3.実務上の運用

会社と従業員との間でのトラブルを防止するため、申請手続のルールを就業規則に明確に定め、従業員に周知しておくことが重要です。
実務上は、突然の休暇の取得を防止し、かつ、業務上の調整を可能とするため、「何日前までに所定のフォームによって申請しなければならない」といった規定を設け、余裕を持った事前申請制とすることが多いです。

4.未消化の年次有給休暇の取扱い

消化されなかった年次有給休暇(未消化年次有給休暇)は、次年度に繰り越すことができる旨を会社と従業員との間で合意することができます(LPA30条3項)。
もし、繰越しを認めない場合、判例上、未消化日数分について休日労働させたものとして、年度終了ごとに未消化日数分の休日労働手当が発生すると判断されています。そのため、会社としては、未消化年次有給休暇の取り扱いとしては、繰越しを認めて翌年度に消化させるか、休日労働手当に相当する金額を支払うか、どちらかが必要となります。
いずれにせよ、定期的に従業員の消化具合を確認し、未消化分がたくさん残っているような場合には消化を促すなどして、その年度の年次有給休暇はその年度中に全て消化してもらうというのが基本的な姿勢としては望ましいでしょう。

なお、未消化の年次有給休暇は、従業員の退職時にも問題となります。
この問題を考えるうえでは、「退職する年度」の未消化分と、繰越しにより「蓄積されている前年度まで」の未消化分を区別して整理する必要があります。
まず、退職年度の未消化分については、普通解雇の場合は買取り(休日労働手当相当額の支払)が必要となりますが、自主退職の場合、及び、懲戒解雇の場合は、買取りの必要はありません(LPA67条1項)。
次に、年次有給休暇の繰越しを認める場合には、自主退職、普通解雇、懲戒解雇のいずれの場合であっても、繰越しにより蓄積された前年度分までの年次有給休暇を買い取らなければならないとされています(LPA67条2項、30条3項)。

退職年度の未消化分繰越による前年度までの蓄積分
自主退職買取義務 なし買取義務 あり
普通解雇買取義務 あり買取義務 あり
懲戒解雇買取義務 なし買取義務 あり



休暇(Leave)

上記の休日に加えて、会社は、従業員に対し、以下の休暇を与えなければなりません。また、その多くは有給とされています。

1.病気休暇(LPA32条)

従業員は、病気を理由として休暇を取得することができます。
病気休暇は、年間30日間は有給としなければなりません(LPA57条1項)。
なお、会社は、従業員が連続して3日間以上休む場合、医師の診断書を提出させることができます(LPA32条1項)。
実務上は、従業員が仮病により病気休暇を取得する問題がしばしば生じます。このような悪用に対する対策としては、皆勤手当を支給するなど休まないことに対するインセンティブを付与する制度の導入や、悪用が判明した際には厳しく処分する旨を周知しつつ現実に厳しく処分していく、といった対策が考えられます。

2.不妊手術休暇(LPA33条)

従業員は、不妊手術を受けるために休暇を取得することができます。
その日数は、医師が必要と判断して診断書に明示された期間に限られますが、その全てを有給としなければなりません(LPA57条2項)。

3.用事休暇(LPA34条)

従業員は、私的な用事のため必要がある場合、年間3日間の休暇を取得することができます。
この3日間は、全て有給としなければなりません(LPA57/1条)。
用事休暇の対象となる「私的な用事」の範囲に関する法律上の規定はありませんが、休日では処理できない従業員本人が処理すべき事項、家族に関する重要な事項、その他やむを得ない個人的事情、がこの休暇の対象になると考えられます。
例えば、官公庁での手続(身分証に関する手続、婚姻登録など)、宗教・慣習に関連する用事(家族の葬儀の主宰・参列、宗教儀式への参加など)などです。

4.兵役休暇(LPA35条1項)

従業員は、兵役に関する法令に基づく検査や訓練等のため、休暇を取得することができます。
そのうち、年間60日間は有給としなければなりません(LPA58条)。

5.研修休暇(LPA36条)

従業員は、労働省令に従い、技能・専門性の向上させる研修や受験のため、研修休暇を取得することができます。
この休暇については原則的に有給とする必要はありませんが、18歳未満の従業員については、例外的に年間30日間を有給としなければなりません(LPA52条)。

なお、この休暇の対象となる研修は、省令上、以下の場合と定められています。
・労働や社会福祉の利益、労働者の技能等の向上、業務効率の向上を目的とする場合(明確に定められたプログラムまたはコースと、一定の期間を有するもの)。
・政府が主催又は認可した教育試験を受験する場合。

なお、省令上、従業員が研修休暇を取得する場合、その理由を示して資料とともに少なくとも7日前までに使用者へ通知すべきこととされています。
また、従業員がその年度中にすでに30日以上又は3回以上の研修休暇を取得しているときや、休暇取得により事業運営に損害が生じるときなど一定の場合には、会社が研修休暇の付与を拒絶できることとされています。

6.出産休暇(LPA41条)

妊娠中の女性従業員は、1回の出産につき98日まで休暇を取得することができます(この休暇には、出産それ自体ではなく検診のための休暇も含めて計算されます。)
また、98日という日数は週休日等の休日も含んで計算されます。
そして、このうち45日間は有給としなければなりません(LPA59条)。

7.労働組合委員としての活動のための休暇

労働関係法上、労働組合の委員を務める従業員について、一定の労働組合活動のために休暇を取得することが認められており、この休暇は有給としなければならないこととされています(労働関係法102条)。


タイの法令に即した制度設計と管理を

休日・休暇の制度は、従業員の生活と企業運営の双方に直結する重要な領域です。
タイでは、法定休日や休暇の種類・運用方法が明確に定められており、会社はこれを踏まえて制度を整備し、適切に運用することが求められます。

特に、休暇申請の方法や管理のルールを明確化しておくことは、実務上の混乱やトラブルを防ぐうえで欠かせません。
従業員が安心して休暇を取得できる環境を整えることは、結果として生産性や職場の信頼関係の向上にもつながります。

制度の形式的な整備にとどまらず、実際の運用を定期的に見直し、会社の実情と法令の要請を両立させることが、タイにおける労務管理の鍵となります。


補足:労働者保護法改正の動き

2025年11月1日現在、国会にて、労働者保護法改正の審議がされています。
改正案には、労働時間の上限の短縮(週48時間から40時間へ)のほか、週休日の増加(週1日から週2日へ)、年次有給休暇の日数の増加・支給条件の緩和(年6日から年10日へ。1年以上の勤務から1日以上の勤務へ)、出産休暇の日数の増加(98日から120日へ。有給分を45日から60日へ)など、休日や休暇に関する改正も多く含まれています。
当面の間、改正の動向について注目しておく必要があります。

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