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第3回では、STOにまつわる法的課題について説明しましたが、第4回では、2023年11月20日に成立した金融商品取引法(以下「金商法」)の改正により、取扱いが大きく変更された不動産特定共同事業法に基づくセキュリティトークン(以下「不特法トークン」)について解説します。
(以下当該改正前の金商法を「改正前金商法」、改正後の金商法を「改正後金商法」といいます。)
1.改正前金商法における不特法トークンに関する取扱い
連載記事第1回で説明したとおり、匿名組合の出資持分等の集団投資スキーム持分は、基本的には、みなし有価証券に該当し、当該権利をトークン化することで、電子記録移転権利として金商法上の規制が適用されます。
他方で、金商法2条2項5号では、集団投資スキーム持分とは、「…出資者が出資又は拠出をした金銭を充てて行う…出資対象事業…から生ずる利益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であって、次のいずれにも該当しないもの…」とされ、同法同条同項同号イ~ニにその例外が規定されています。
改正前金商法2条2項5号
(イ及びロ 略)
ハ 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第一項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和二十三年法律第二百号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第十二号、第九十三条第一項第六号の二若しくは第百条の二第一項第一号に規定する事業を行う同法第二条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の二第七項に規定する共済事業を行う同法第三条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第三項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第九項に規定する特例事業者と締結したものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)
ニ 略
上記のとおり、改正前金商法によれば、不動産特定共同事業法(以下「不特法」)2条3項に規定する不動産特定共同事業契約に基づく権利は、匿名組合の出資持分の形態を採用していたとしても、基本的には集団投資スキームに該当せず(金商法2条2項5号ハ)、したがって、電子記録移転権利にも該当しないものとされていました。
この不特法に規定する不動産特定共同事業契約については、不特法2条3項において以下のとおり規定されています。
不特法2条3項
3 この法律において「不動産特定共同事業契約」とは、次に掲げる契約(予約を含む。)であって、契約(予約を含む。)の締結の態様、当事者の関係等を勘案して収益又は利益の分配を受ける者の保護が確保されていると認められる契約(予約を含む。)として政令で定めるものを除いたものをいう。
一 各当事者が、出資を行い、その出資による共同の事業として、そのうちの一人又は数人の者にその業務の執行を委任して不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約
二 当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため出資を行い、相手方がその出資された財産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる利益の分配を行うことを約する契約
三 当事者の一方が相手方の行う不動産取引のため自らの共有に属する不動産の賃貸をし、又はその賃貸の委任をし、相手方が当該不動産により不動産取引を営み、当該不動産取引から生ずる収益の分配を行うことを約する契約
四 外国の法令に基づく契約であって、前三号に掲げるものに相当するもの
五 前各号に掲げるもののほか、不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を行うことを約する契約(外国の法令に基づく契約を含む。)であって、当該不動産取引に係る事業の公正及び当該不動産取引から生ずる収益又は利益の分配を受ける者の保護を確保することが必要なものとして政令で定めるもの
上記5号の規定が不動産特定共同事業の要素を端的に示しており、事業者が出資を募って不動産を売買・賃貸等し、その運用益等の収益を出資者に分配する事業が不動産特定共同事業であり、当該事業のために当事者間で締結する匿名組合契約、任意組合契約等が不動産特定共同事業契約に該当します。
不特法は、不動産証券化事業等において、業務の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を図ることを目的として平成6年に制定された法令ですが、最近では同法の改正により、不動産クラウドファンディング等個人の投資家が少額出資により不動産投資を実現する仕組みでも同法が適用されます。
この不特法に基づく不動産特定共同事業契約に該当する場合、当該契約に基づく権利(匿名組合の出資持分等)をトークン化したものについては、改正前金商法における上記例外規定(金商法2条2項5号ハ)により、電子記録移転権利には該当せず、不特法の諸規定が適用されるものとされていました(なお、厳密には、不特法においても、金商法上の損失補てんの禁止(金商法39条)及び適合性の原則(同40条)等は準用されています(不特法21条の2))。
したがって、連載記事第2回で説明したとおり、電子記録移転権利の場合、電子記録移転権利の自己募集又は自己私募を行うには第二種金融商品取引業の登録が必要であり、電子記録移転権利の募集又は私募の取扱い等を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要ですが、STOの対象となる権利が電子記録移転権利ではなく、上記不特法に基づく所定の不動産特定共同事業契約に基づく権利である場合には、金融商品取引業の登録は原則として不要であり、不動産特定共同事業者としての許可等のみでも足りる可能性がありました。
なお、改正前金商法2条2項5号ハでは「不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第三項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第九項に規定する特例事業者と締結したものを除く。)に基づく権利」と規定されており、不特法2条9項に規定する特例事業者と締結した不動産特定共同事業契約は、上記例外から更に除外されていますので、当該特例事業者と締結した不動産特定共同事業契約に基づく権利は、改正前金商法においても集団投資スキーム持分に該当し、当該権利をトークン化したものは電子記録移転権利に該当します。
この特例事業者と締結した不動産特定共同事業契約とは、いわゆる「特例事業」と呼ばれる事業に係る契約であり、一方で、特例事業を除く基本的な形態の不動産特定共同事業は、当該事業を行うにあたり、不特法2条4項1号に定める事業に係る許可が必要なことから、「第1号事業」等と呼ばれることがあります。
余談ですが、第1号事業と特例事業との違いは、不動産特定共同事業への出資にあたり、倒産隔離がなされているかという点にあります。すなわち、第1号事業の場合、不動産特定共同事業者(不動産会社等)が自ら不動産を保有した上で、出資を募り、自ら匿名組合の営業者等として、当該出資金を運用するため、当該事業者の他の事業の負債等による倒産リスクを出資者が負ってしまう可能性があります。一方で、特例事業の場合は、不動産事業者が、SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)を設立した上で、当該SPCに当該不動産事業者が保有する不動産を取得させることで、当該SPCが匿名組合の営業者等となり、出資金の運用を行うため、不動産事業者の他の事業の影響を受けないという点で倒産隔離がなされている違いがあります(不動産証券化においては、この倒産隔離は投資家による出資を促進する上で重要な要素とされています)。
2. 改正後金商法における不特法トークンに関する取扱い
上記のとおり、改正前金商法では、第1号事業における不特法トークンは、電子記録移転権利には該当せず、したがって、当該不特法トークンを用いたSTOを実施する際には、金商法上の開示規制は適用されず、また、業規制についても金融商品取引業のライセンスは不要とされていました。
しかし、改正後金商法においては、以下のとおり、金商法2条2項5号ハの一部が改正され、「不動産特定共同事業契約に基づく権利が電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるもの」については、同ハに定める例外から更に除外されています。
改正後金商法2条2項5号
(イ及びロ 略)
ハ 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第一項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和二十三年法律第二百号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第十二号、第九十三条第一項第六号の二若しくは第百条の二第一項第一号に規定する事業を行う同法第二条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の二第七項に規定する共済事業を行う同法第三条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第三項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第九項に規定する特例事業者と締結したもの及び当該不動産特定共同事業契約に基づく権利が電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)
この改正により、不特法第1号事業における不特法トークンについても、改正後金商法下では、電子記録権利に該当することになります。すなわち、不特法トークンを用いたSTOを実施する際には、金商法上の開示規制に服することとなり、自己募集又は自己私募を行う場合には第二種金融商品取引業の登録が、募集又は私募の取扱い等を行う場合には、第一種金融商品取引業の登録が必要になるため、注意が必要です。
なお、セキュリティトークンでない従来の不動産特定共同事業契約に基づく権利については改正後金商法においても従前どおりの取扱いとなります。
この改正後金商法の施行日は、公布の日から一年を超えない範囲において政令で定める日とされています(金融商品取引法等の一部を改正する法律(※)附則1条)が、改正後金商法の施行日前に勧誘が行われた不特法トークンについては、改正後金商法の規定は適用されない(同附則5条)といった経過措置も規定されていますので、当該経過措置にもご留意ください。
※金融商品取引法等の一部を改正する法律
https://www.fsa.go.jp/common/diet/211/01/houritsuanriyuu.pdf
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監修
弁護士 熊谷 直弥
(2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。所内のWEB3チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務を対応。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。)