【弁護士解説】連載記事:STOの法務~第3回~

執筆:弁護士 山地 洋平Web3チーム

連載記事
STOの法務~第1回~』はこちらから

STOの法務~第2回~』はこちらから

 前回第2回では、電子記録移転権利に関わる一般的な法規制について説明しましたが、第3回では、STOビジネスにまつわる主要な法的課題について解説していきます。

1.二次流通市場(セカンダリー)について

 第1回で説明をしたとおり、STOに係るメリットの一つとして、「流動化」という点が挙げられます。

 例えば、現状STOは不動産証券化手法として代表的に用いられていますが、当該不動産証券化の一般的なケースでは、J-REIT等の上場事例を除いて、投資家が出資後に当該出資後の持分を第三者(他の投資家)に譲渡することが難しい(流動性が低い)ものとされています。

 他方で、STOは、ブロックチェーン技術を用いることで、当該出資持分の第三者への譲渡を容易に、かつ、安全に行うことを可能にし、流動性を高めることができるといった点が注目されています。つまり、STOのプラットフォーム上で投資家が手元のスマートフォン、PC等の端末操作等のみで、24時間365日いつでも自己の保有する出資持分が表象されたセキュリティトークンを第三者に譲渡して投下資本の回収を行うことができれば、特に一般の個人投資家等の出資に対するハードルが低くなることが想定され、資金調達の手法としてより有力な選択肢になるものと考えられます。

 上記のようにセキュリティトークンを他の投資家に譲渡するようなケースにおいて、最初にSTOを募集発行する市場を一次流通市場(プライマリー)といい、その後、投資家が自己の出資持分を第三者に売却等する市場を二次流通市場(セカンダリー)といいますが、このセカンダリーの形成に関連する主な課題として、①私設取引システム(PTS)に関する問題、②出資持分の譲渡に係る第三者対抗要件具備に関する問題が存在しています。

2.私設取引システム(PTS)に関する問題

 電子記録移転権利等の二次流通市場を事業者が自ら用意する場合、私設取引システム(Proprietary Trading System:PTS)運営業務に該当する可能性があります。

 具体的には、有価証券の売買又は媒介等であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者又は各当事者として、競売買の方法、顧客間の交渉に基づく価格を用いる方法等の売買価格の決定方法又はこれに類似する方法により行う場合、このPTS運営業務に該当します(金融商品取引法2条8項10号)。

 したがって、セカンダリーが当該要件を充足する場合、当該セカンダリーの運営はPTS運営業務に該当する可能性があり、金商法所定の認可を受けなければならないことになりますが、その前提として第一種金融商品取引業者の登録が必要であり、一般の事業者が自らセカンダリーの運営事業に参入するには、ハードルが高いものとなっています。

 もっとも、このPTSについては、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社が、PTS認可を取得し、2023年12月に、ついに日本国内初のSTOのセカンダリーマーケットでの取引が開始されたことから、今後、セカンダリーにおけるセキュリティトークンの売買、流通が活性化されることが期待されます。

3.出資持分の譲渡に係る第三者対抗要件に関する問題

(1)論点

 セキュリティトークンのうち、電子記録移転権利を組成する場合のスキームとしては、信託受益権を用いたものや匿名組合の出資持分を用いたもの等が考えられますが、まず、信託受益権の譲渡については、信託法上、受託者への通知または受託者による承諾が対抗要件となり、また、かかる通知や承諾が確定日付のある証書により行われることが第三者対抗要件とされています(信託法94条)。

 また、匿名組合等の出資持分の譲渡の場合、匿名組合員の地位の移転においては、組合員としての義務の移転のみならず、利益分配請求権(商法535条)、出資価額返還請求権(同542条)等の債権の譲渡も含む複合的なものであると捉えられています。

 そのため、匿名組合契約上の地位の譲渡についても、債権譲渡のケースに準じて、第三者対抗要件として、譲渡人(投資家)から債務者(匿名組合の営業者)への通知又は債務者(匿名組合の営業者)による承諾を確定日付のある証書により実施する必要があるとするのが実務上の解釈とされています。

 以上のとおり、上記いずれの場合においても、投資家がセカンダリーにおいて他の投資家等に自己の保有する信託受益権や匿名組合の出資持分の譲渡を行う場合には、第三者対抗要件として、受託者又は債務者への通知等を確定日付のある証書によって行う必要があります。

 実務上、この確定日付のある証書としては、公正証書や内容証明郵便等が用いられていますが、ブロックチェーン上の電子的な帳簿の記録では、この確定日付のある証書には基本的に該当しないため、STOプラットフォーム等のシステム外で確定日付を取得するための事務的な対応が必要になります。

 このように、セキュリティトークンのセカンダリー取引がオンライン上で完結できないのであれば、既存の証券化との差別化が困難となることから、当該問題を解消するための法改正等の措置が必要という課題が存在しています。

 なお、上記第三者対抗要件の観点もあり、本記事執筆時点において実施されているSTOの実例では、証券不発行型の受益証券発行信託を用いるケースが多くを占めています。

 受益証券発行信託は、信託法に基づき受益権を表示する有価証券(受益証券)を発行する信託をいいます(信託法185条1項)。

 これは、委託者から拠出された信託財産を受託者が管理し、信託財産からの収益や信託財産を受領する権利等(受益権)を受益証券という形にして発行するものであり、このような信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券については、金商法2条1項14号に規定されており、いわゆる一項有価証券に分類されています。

 受益証券については、通常、受益証券の引渡しが権利移転の効力発生要件とされています(同194条)が、特定の受益権については、信託法上、受益証券を発行しないことも可能とされており(同185条2項)、必ずしも現実に紙の証券を発行する必要がなく、また、受益証券不発行型の受益証券発行信託における受益権の譲渡については、受益証券の引渡しは効力発生要件とはされていません(同194条括弧書)。

 その上で、当該受益証券不発行型の受益証券発行信託における受益権の譲渡に係る第三者対抗要件は、受託者の作成・管理する受益権原簿の書換によって具備されるものとされています(同195条1項、2項)。

 そして、受益権原簿の作成、書換に関しては、紙媒体の書面で実施しなければならない、という制限は特段存在していません。

 このような受益証券不発行信託における受益権の対抗要件の規定等を踏まえ、ブロックチェーン上の記録の移転をもって受益権の権利移転の合意があったものとして取り扱い、また、受益権原簿の記録・更新にブロックチェーン技術を活用することで、セキュリティトークンの移転と受益権の権利移転・対抗要件を紐づけるスキームを用いたSTOの実例が複数存在しており、当該実例では、セカンダリーにおける権利移転について対抗要件具備までデジタル上で完結することも可能となっています。

 一方で、上記スキームは、受益証券発行信託という仕組みを用い、受益権原簿の管理を行う信託銀行等のプレイヤーを中心に実施されているケースが現状は主であり、他の事業者が主体となって、従来のGK-TKスキーム等を用いる形でSTOを実施するには、やはり上記第三者対抗要件に係る課題を解決する必要があることから、当該課題解決のニーズは本書執筆時点においても依然存在しているものと考えられます。

(2)最近の動向

 この債権譲渡に係る第三者対抗要件具備のデジタル化については、近年、電子的な方法による取引がますます盛んになっており、債権譲渡に係る手続も含めて、電子的なやりとりのみで迅速に手続を完結させることに対するニーズが高まっています。

 これを背景として、令和3年8月10日、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号)において、産業競争力強化法に基づく新事業活動計画の認定を受けた事業者(以下「認定新事業活動実施者」という。) によって提供される情報システムを利用して債権譲渡の通知等が行われた場合には、当該情報システムを利用した通知等を、民法等上に定める確定日付のある証書による通知等とみなす特例(以下「本特例」という。)が創設されました。

 本記事執筆日現在、当該情報システムとして認定を受けた事業者は2社のみであり、更にどのような情報システムが認定されるかといった点は今後の動向を注視して見守ることになりますが、セキュリティトークンにおける第三者対抗要件に関する問題の解消策につながるか、今後も注目かと思います。

 なお、本特例については、別稿にて詳細な要件等を紹介する予定です。

 これまで主に金商法に係る規制を取り上げてきましたが、次回第4回は、STOの先行事例として注目された不動産特定共同事業法に基づくSTOについて説明していきます。

連載記事
STOの法務~第1回~』はこちらから

STOの法務~第2回~』はこちらから

監修
弁護士 熊谷 直弥
(2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。所内のWEB3チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務を対応。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。)

執筆者

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)