【弁護士解説】<2024年版> IEOの法規制

執筆:弁護士 熊谷 直弥Web3チーム

1 IEOの現状

 新規暗号資産の発行体自らがトークンセールを行うICO(Initial Coin Offering)は、発行体が暗号資産交換業(資金決済法(以下「資決」と略記)2条15号)の登録を取得する必要があり、そのハードルの高さから近年、国内では実施例が見当たらなくなりました。

 現在、ICOに代わる暗号資産による資金調達手段として活用されているのは、既存の暗号資産交換業者を通じたトークンセールであり、IEO(Initial Exchange Offering)と呼ばれています。IEOは、2024年3月末時点で、国内で5例の実施実績があり、今後も計画中であることを公表しているプロジェクトが数件あります。

2 IEOの手続概要

 IEOの場合、発行体事業者の委託に基づき、新規暗号資産の販売行為を全て暗号資産交換業者が行い、発行体事業者は販売行為を全く行わない場合には、発行体事業者は、暗号資産交換業の登録を必要としない(暗号資産ガイドラインⅡ-2-2-8-1(注1)) とされています。

 したがって、発行体事業者においては、法的な手続きを必要としないものの、発行体事業者に代わり、販売行為等を引き受ける暗号資産交換業者において、取扱い暗号資産(資決63の3①七)を変更する事前届出(資決63の6①)が必要となります。

 もっとも、「届出」との名称ではあるものの、この届出に至るまでには以下のプロセスが必要であり、実態は許可制に近い厳格な運用がなされていることに注意が必要です。

 ① 発行事業者から暗号資産交換業者(取引所)へのIEOの打診

 ② 暗号資産交換業者によるJVCEA規則準拠の社内規則に基づく受託販売審査(JVCEA規則15①)

 ③ JVCEAによる暗号資産交換業者の審査結果の検証(同④)

 ④ 金融庁フィンテックモニタリング室による審査

 ⑤ 暗号資産交換業者による金融庁への取扱い暗号資産の変更の届出

3 IEOの審査項目及び審査対応

 JVCEA規則による審査項目は、ICOの場合と同じく対象事業の実現可能性等(JVCEA規則15①一)のほか、新規発行暗号資産の購入者に対する説明態勢(同二)や調達資金の管理態勢(同三)等について規定されています(同15①)。また、暗号資産の新規発行を行うシステム自体の安全性の検証(同17)や販売価格の妥当性の審査とJVCEAによる検証(同18)も規定されています。

 さらに、まずは、販売を受託する暗号資産交換業者との上場契約を締結するため、その引受基準もクリアする必要があります。

 発行事業者としては、主に対象事業の審査に対応する必要があり、審査項目は次のとおりです。

(1) 発行者の健全性及び独立性
 イ 関連当事者との取引の必要性及び取引条件の妥当性
 ロ 親会社等からの独立性
 ハ 関係会社の管理の適切性
(2) 発行者のガバナンス及び内部管理体制の状況
 イ 機関設計の妥当性
 ロ 代表取締役、取締役及び取締役会その他これに準ずる意思決定機関の責任遂行の状況
 ハ 監査役及び監査役会の責任遂⾏並びに内部監査機能の状況
 ニ 内部管理体制の運⽤状況及び牽制機能
 ホ 法令等遵守の状況
(3) 発行者の財政状態及び資⾦繰り状況の健全性
(4) 対象事業の適格性
 イ 対象事業の適法性及び社会性
 ロ 新規暗号資産の販売を資⾦調達⼿段とすることの適格性
(5) 対象事業の遂行のために必要な体制
 イ 対象事業の遂行に必要となる許認可等の取得の状況
 ロ 対象事業の遂行に必要となる知的財産権の保護の状況及び他者による権利侵害の状  況
 ハ 対象事業の遂行に必要となる重要な契約の締結状況及び権利の確保の状況
 ニ 対象事業の遂行のために必要となる⼈員の確保の状況
 ホ 業績管理の状況
(6) 対象事業の⾒通し
 イ 事業計画の合理性
 ロ 対象事業の技術的な実現可能性
 ハ 対象事業の成長性及び安定性
(7) 調達資⾦の使途の妥当性
(8) その他会員(※筆者注:暗号資産交換業者)が必要と認める事項

 上記の審査に対応するため、発行事業者では次の書類を準備する必要があります(JVCEA規則4②)。

(1) 登記事項証明書
(2) 税務申告書
(3) 計算書類及び事業報告書並びにこれらの附属明細書
(4) キャッシュ・フロー計算書
(5) 定款
(6) 関連当事者、親会社等及び関係会社の⼀覧表
(7) 関係会社の計算書類及び事業報告書並びにこれらの附属明細書
(8) 社内規則その他業務マニュアル⼀式
(9) 重要な契約書
(10)株主総会、取締役会、監査役会その他これに準ずる意思決定機関の議事録
(11)監査役監査に関する資料
(12)内部監査に関する資料
(13)事業計画表
(14)計画貸借対照表、計画損益計算書及び計画キャッシュ・フロー計算書
(15)調達資⾦の使途に関する資料
(16)会社概要
(17)株主名簿
(18)ホワイトペーパー
(19)経理に関する資料
(20)対象事業に関する資料⼀式
(21)その他会員が必要と認める資料

 JVCEAの検証後、さらに金融庁の事前審査手続きを経て、ようやく暗号資産交換業者は取扱い暗号資産の変更届出を提出することができます。

 暗号資産ガイドラインによれば、金融庁による審査内容は、概ねJVCEA規則による審査内容と同様であり(暗号資産ガイドラインⅡ-2-2-8-2(2))、暗号資産交換業者の審査及びJVCEAによる検証に誤りが無いかの確認が行われているものと考えられます。

4 法人税制の改正等

 国内でのIEO実施(暗号資産発行)に際して、自社発行の暗号資産につき、実際に売却等をしていないにもかかわらず、保有を継続しているだけで法人税の期末時価評価の対象となり、含み益があるとして多額の納税が必要となることが、大きな障壁であるとの指摘がされてきました。この税制の問題は、国内有力Web3企業の海外流出を招いた大きな原因として象徴的に取り上げられ、令和5年税制改正では、自社発行暗号資産の継続保有について期末時価評価の対象外とする改正が行われました。また、令和6年税制改正において、第三者発行の暗号資産についても、一定の要件のもと、期末時価評価の対象外とする法改正が行われています。

 実務上の大きな障壁となっていた税制面での改正により、IEOはよりWeb3ビジネスの資金調達の手段として利用しやすくなり、活用が期待されます。

 GVA法律事務所ではIEOサポートプラン を用意するなど、IEOを法務面からサポートすることが可能です。IEOの実施をご検討中の事業者の方は、是非お気軽にご相談ください

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