【弁護士解説】大手企業のWeb3事業進出事例とその法規制について

執筆:弁護士 熊谷 直弥、弁護士 石川 泰輝(Web3チーム)

 本年上半期は、大手上場企業のWeb3進出や実際のサービス事例の公表が相次ぎ、生成系AIブームの中でも、Web3ビジネスの着実な発展と成長を感じることができました。本稿では、大手上場企業によるWeb3ビジネス進出の具体例を紹介するとともに、関連する法規制について概説致します。

1 「NFTチップスキャンペーン」(カルビー株式会社)について

(1)NFTチップスキャンペーン

 カルビー株式会社が本年4月から実施した「NFTチップスキャンペーン」とは、対象商品を購入する度に、おまけとしてついてくる「ポテトNFT」に、水やりなどをして、ポテトNFTの「成長」を楽しむことができる、というものでした。また、ポテトNFTの成長後にキャラクターを収穫することができ、収穫内容に応じて実際にポテトチップスがプレゼントされるというリアル体験も組み込まれているものでした。(※1)

 カルビー株式会社は2022年7月に第1弾としてCryptoGames株式会社の提供する農業体験ゲーム「Astar Farm」上でのNFTゲーム施策を実施しており、上記のキャンペーンは第2弾として展開されたものです。食品メーカーという一見、Web3とは距離があるように思える大手上場企業の先駆的な取り組みとして注目を集めました。

 NFTを用いた新規サービスの法律問題を検討する際には、当該NFTが法律上どのように位置付けられるかの性質決定が重要です。以下、NFTに関する法規制の概要を見ていきましょう。

(2)NFTに関する法規制について

 NFTとは、「Non-Fungible Token」(ノンファンジブルトークン)の略称であり、一般に「非代替性トークン」、「代替不可能なトークン」等と翻訳されます。現在の日本の法律上、「NFT」は法律上の用語ではなく、「NFTであること」によって適用される法規制が決まるものではありません(そもそも「NFT」をどのように定義するかは難しい問題でもあります)。NFTの法規制は、まずはその取扱いに関する業規制の有無という点で金融関連規制の対象となるかを検討することになります。そして、NFTに対して金融関連規制が適用されるかは、NFTの機能・用途によって異なるところ、当該NFTの①収益分配機能の有無、②代金決済又は送金機能の有無という2点が主な判断ポイントとなります。

①収益分配の受取機能がある場合

 「収益分配の受取機能」とは、当該NFTの保有者に対して、当該NFTの販売により集められた金銭等を元手に行った事業収益を分配し、それを受け取る機能があることをいいます。例えば、ある漫画作品のアニメ化に際し、キャラクター原画のNFTを販売し、NFTの発行者が当該NFTの販売利益によって当該漫画作品のアニメ化を実施して、当該アニメ事業により得られた収益をNFTの保有者にそのNFTの購入金額に応じて分配する、といったものが上記に該当します。

 このような収益分配の受取機能を備えるNFTは、金融商品取引法上の「有価証券」(金融商品取引法第2条第1項、第2項)に該当する可能性があります。具体的には、当該NFTがいわゆる「集団投資スキーム持分」(金融商品取引法第2条第2項第5号)をブロックチェーンによりトークン化したものとして、「電子記録移転権利」(金融商品取引法第2条第2項第3号)に該当するかを精査する必要があります。

②代金決済又は送金機能がある場合

 NFTに代金決済又は送金機能を備えさせた場合、ア:前払式支払手段(資金決済法第3条)、イ:暗号資産(資金決済法第2条第14項)、ウ:電子的支払手段(資金決済法第2条第5項)、エ:為替取引(銀行法第2条第2項第2号、資金決済法第2条第2項)の一部のいずれかに該当する可能性があります。そもそもブロックチェーン技術は、代金決済又は送金手段として利活用するビットコインをベースとしており、NFTが事実上、FT化した場合には、これらに該当しやすくなる可能性があるため、注意が必要です。

 ア:前払式支払手段

 当該NFTが法定通貨で販売され、当該NFTの発行体又は加盟店で商品又はサービスの代金支払手段として使用できる場合は、資金決済法上の前払式支払手段に該当する可能性があります。

 イ:暗号資産

 当該NFTが法定通貨又は暗号資産で販売され、当該NFTを不特定多数の者に対して、商品又はサービスの代金支払手段として使用できる場合は、資金決済法上の暗号資産に該当するおそれがあります。同一内容のNFTを大量発行した場合は、本来NFTが有する固有の価値が失われてしまい、当該NFTが自然発生的にFTと同様に通貨のように使用されるおそれがあり、その場合は、いわゆる2号暗号資産(資金決済法第2条第14項第2号)に該当する可能性が生じます。

 この点は、2023年3月24日の暗号資産事務ガイドラインの改訂及びパブリックコメントの公表によって、一定の整理がなされ、個別具体的な判断は必要であるものの、1点当たり1000円以上、発行数量を最小取引単位で除した数量(分割可能性を踏まえた発行数量)が100万個以下となるNFTは「暗号資産」に該当しないとの判断が行い易くなりました。

 ウ:電子決済手段

 当該NFTが法定通貨で販売され、当該NFTを不特定多数の者に対して商品又はサービスの代金支払手段として使用できる場合は、資金決済法上の電子決済手段に該当する可能性があります。なお、電子決済手段は、いわゆるステーブルコイン規制として、本年6月1日の改正資金決済法の施行により新たに規制対象とされました。

 エ:為替取引の一部

 当該NFTの発行体が、当該NFTの保有者に対し、限定なく現金への払い戻しを認める場合は、隔地者間の送金手段として機能するため、銀行法及び資金決済法の「為替取引」の一部に該当するおそれがあります。「為替取引」は、法令上定義されておらず、判例上、「顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること,又はこれを引き受けて遂行することをいう」と定義されております。

(3) NFTの法規制まとめ

 以上、簡単に紹介させていただきましたが、取り扱うNFTが上記の金融関連規制に該当する場合は、金融商品取引法や資金決済法等に基づき、対応する業登録が必要になる他、開示規制への対応等が必要になる可能性があります。

 これらの金融関連規制への対応のハードルは低くないことから、一般的にNFTビジネスを検討する際には、金融関連規制に抵触しない形での設計が第一選択とされることが多くなっています。

 なお、NFTビジネスを実施する際には、上記の金融関連規制とは別に、NFTの取引態様に応じた規制として、景品表示法や特定商取引法等への対応が問題となることもあります。

2 αU(KDDI株式会社)について

(1)αU

 株式会社KDDIは、2023年3月7日、「現実と仮想世界を軽やかに行き来する新しい世代に寄り添い、誰もがクリエイターになりうる世界に向けたメタバース・Web3サービス」として、「αU」を発表しました。

 具体的なサービスとしては、メタバースでエンタメ体験や友人との会話を楽しめる「αU metaverse」、360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめる「αU live」、デジタルアート作品などの購入ができる「αU market」、暗号資産を管理できる「αU wallet」、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」が挙げられており、今後もサービスが拡張されることが予定されております。(※2)

 以下、本稿では、「αU」のサービスに含まれる「αU wallet」を足掛かりとしてアンホステッド・ウォレットと法規制について解説をします。

(2)ウォレットの種類

 ブロックチェーン上の暗号資産その他のトークンを保管しておく「Wallet」を秘密鍵の管理主体によって分類する場合、以下のとおり①ホステッド・ウォレットと②アンホステッド・ウォレットの2種類に区別することができます。

①ホステッド・ウォレット

 ブロックチェーン上の暗号資産その他のトークンの秘密鍵が、暗号資産取引所やその他の中央集権型組織によって保有・管理されているタイプのウォレット。

②アンホステッド・ウォレット

 ブロックチェーン上の暗号資産その他のトークンの秘密鍵が、暗号資産取引所やその他の中央集権型組織ではなく、ユーザーによって保有・管理されているタイプのウォレット。

 アンホステッド・ウォレットの代表例は「MetaMask」であり、「αU Wallet」もアンホステッド・ウォレットに該当するものと考えられます。

 日本におけるWeb3のマス・アダプション(大衆受容)に必要な一要素として、簡易かつ使いやすいアンホステッド・ウォレットの普及が挙げられることがあります。現在、日本で使用者が多いと思われる「MetaMask」は日本語のサポートが無く、一定のブロックチェーンに関するリテラシーを持たない者が使いこなすには、ややハードルが高いものとなっているため、MetaMaskに代替する国産Walletサービスの座をめぐって、各社が競い合っている状況にあります。

(3)ウォレット事業に関する法規制

 ウォレット事業を開始する際の重要な法規制対応として、資金決済法上の暗号資産交換業登録(資金決済法第63条の2)の要否があります。

 具体的には、ウォレット事業の内容が、資金決済法第2条7項第4号の「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当し、いわゆるカストディ業務に該当しないかが問題となります。

・資金決済法第2条7項

 この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。

(中略)

四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

 「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して判断されるべきではありますが、暗号資産ガイドライン上、「利用者の関与なく、単独又は関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」には、同号に規定する暗号資産の管理に該当すると考えられています(同Ⅰ-1-2-2③)。より具体的には、例えば、以下のような場合は、「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」には該当しないものと整理されています。

・事業者が、単独又は関係事業者と共同しても、利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、事業者が単独又は関係事業者と共同して保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合。

・事業者が利用者の暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者が当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していない場合。

 

 したがって、暗号資産交換業を取得せずにwalletサービスを提供する場合には、上記の基準との関係で、ユーザーの秘密鍵をwalletサービス事業側で保管・管理しないことが原則となります。しかしながら、ユーザーの利便性を考慮した場合、ユーザーがwalletのリカバリーフレーズを失念等してしまった場合であっても何らかの方法で復旧することができることが望ましく、αUwalletのサービスでは、この点につきバックアップ機能を提供しています。

 このようなバックアップ機能を暗号資産交換業を取得せずに提供する際には、上記の基準に抵触しないような一定の工夫が必要であると考えられます。

 また、walletサービスの提供時には、利用促進等のため暗号資産交換所や暗号資産販売所との接続が考えらえますが、この点は接続の態様等によっては、暗号資産交換業の登録が必要な暗号資産の売買の媒介行為(資金決済法第2条7項2号)に該当するおそれがあるため、慎重な対応が必要となります。

3 総括

 以上、本稿では、実際に展開されているWeb3事業を足掛かりにNFTビジネスとウォレットビジネスの法規制についてその概要を解説させていただきました。

 実際に、これらのビジネスを展開するにあたっては、個別具体的なビジネスの設計によってさらに慎重な検討が必要な事項もありますので、ご不明な点は弊所Web3チーム所属弁護士へご相談ください。また、Web3ビジネスに関する法規制について、さらに広く詳細を確認したい方は拙著『Web3ビジネスの法務』(技術評論社刊)をご参照いただければ幸いです。

 なお、本稿は、ご紹介をさせていただいたものを含めて特定のサービスの適法性について論評するものではありませんので、この点ご了承ください。


※1 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000269.000041264.html

※2 https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2023/03/07/6588.html

監修
弁護士 小名木 俊太郎
(企業法務においては 幅広いサービスを提供中。 ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。)

執筆者

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