【弁護士解説】連載記事:STOの法務~第1回~

執筆:弁護士 山地 洋平Web3チーム

連載記事
STOの法務~第2回~』はこちらから

1.はじめに

 昨今、ブロックチェーンを用いて発行する「セキュリティトークン」を用いた資金調達事例が増えてきています。

 特に不動産証券化の領域では、従来の証券化に係る法的スキームを基にして、当該スキーム上の権利をトークン化したセキュリティトークンを発行することで、これまで1口当たりの出資金額が高額になっていた不動産投資について、より小口化した少額での出資を実現することも可能になっています。

 このセキュリティトークンに関しては、一般的なものは「電子記録移転権利」として、2020年5月に施行された改正金融商品取引法により、法制度化されました。

 この連載記事では、主にSTOの代表例である電子記録移転権利の法令上の定義・要件から具体的な法規制等について、実際の事例も交えつつ解説をしていきます。

2.STOとは

 STOとは、セキュリティ・トークン・オファリング(Security Token Offering)の略称です。セキュリティトークンとは、有価証券(セキュリティ)をブロックチェーン上でトークンに紐づけたものであり、そのトークンの譲渡により有価証券を移転することを可能にしたものです。

 ここでいうセキュリティというは、情報セキュリティなどでいうセキュリティとは違って、株式などの“有価証券”を指す意味になります。デジタル証券というと分かりやすいかも知れません。

 このセキュリティトークンを用いた資金調達手法をセキュリティ・トークン・オファリング(Security Token Offering)といい、頭文字をとってSTOと呼ばれています(Offering は募集という意味です)。

 ここでいうトークンという用語の意味については、一義的には決まっていませんが、何か別の価値を代替するもの、といった意味を持っています。

3.STOのメリット

 では、このSTOがブロックチェーンビジネスの一つとしてなぜ注目されているのか、どういった点にこのSTOのメリットがあるのでしょうか。
 代表的なものとしては、(1)自動化・効率化、(2)小口化、(3)流動性の向上といった点がSTOのメリットとして挙げられます。

(1)自動化・効率化

 まずは、自動化・効率化です。イーサリアムなどのブロックチェーン基盤では、「スマートコントラクト」といって予め設定した取引条件を満たすと、自動で取引を執行してくれる機能があります。
 このスマートコントラクトによって、これまでの有価証券の発行手続や決済が自動的に処理され効率的な運用と即時決済が可能になり、その結果、大幅なコスト削減につながるといった特徴があります。

(2)小口化

 次に、小口化です。例えば、不動産など、物理的な分割が難しいアセットについて、その権利を小口化してトークン化することで、個人の投資家なども少額からの出資をすることができ、より多くの投資家から資金を調達することができる、そんな金融商品を生み出すことができるという可能性を秘めています。

(3)流動性の向上

 また、流動性の向上という点がメリットの一つとして挙げられます。デジタル化によってWeb上で完結する形で取引することができる、という点と、ブロックチェーンを用いて24時間365日安定的なシステム稼働を行うことで、いつでも、また、グローバルに取引ができる可能性が生じ、投資機会や流動性が向上するともいわれています。

4.関連法令

 上記のとおり、STOは様々なメリットを有していますが、STOを実施するにあたり、関連する主な法律としてはどういったものがあるでしょうか。

 冒頭でも述べたとおり、STOは“有価証券”をトークン化して資金調達を行う手法ですので、有価証券に関する規制である金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)という法律に規制が設けられています。

 セキュリティトークンについては、2020年5月に施行された改正金融商品取引法において、“電子記録移転権利”などといった概念が設けられ、金商法に規制が追加されたという形になっています。

 具体的には、金商法第2条第3項の「有価証券の募集」の定義の中に電子記録移転権利の定義が定められていますので、以下「5.定義等」で説明していきます。

5.定義等

(1)電子記録移転権利の要件

 電子記録移転権利の定義については、金商法上、以下の下線部に記載されています。

金商法2条3項
この法律において、「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(これに類するものとして内閣府令で定めるもの(次項において「取得勧誘類似行為」という。)を含む。以下「取得勧誘」という。)のうち、当該取得勧誘が第一項各号に掲げる有価証券又は前項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利、特定電子記録債権若しくは同項各号に掲げる権利(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。以下「電子記録移転権利」という。)(次項及び第六項、第二条の三第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第一項有価証券」という。)に係るものである場合にあつては第一号及び第二号に掲げる場合、当該取得勧誘が前項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項、第二条の三第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第二項有価証券」という。)に係るものである場合にあつては第三号に掲げる場合に該当するものをいい、「有価証券の私募」とは、取得勧誘であつて有価証券の募集に該当しないものをいう。

 

 少し読みづらい部分があるかと思いますが、上記条文に記載のある電子記録移転権利の定義を噛み砕くと、大きく分けて以下の3つの要件を満たす必要があります。

①みなし有価証券(金商法2条2項各号)に該当するもの
②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるもの
③流動性等の事情を勘案して内閣府令で定める適用除外にあたらないもの

 まず、①電子記録移転権利に表示される権利は、金商法上のみなし有価証券(金商法第2条第2項)に該当するものである必要があります。
 そして、その権利は、②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値、すなわちトークン化されているものが主にこれに該当します。
 さらに、③内閣府令に定める適用除外に該当しないことも要件となります。

 ①のみなし有価証券は、金商法第2条第2項各号に列挙されており、集団投資スキーム持分(匿名組合の出資持分等)や信託受益権が代表的なものになります。
 集団投資スキーム持分(金商法第2条第2項第5号)の定義も複雑なのですが、ざっくりと申し上げると、投資家が出資を行い、出資対象の事業から得られる利益の分配を受ける権利というイメージです。

 ②の電子情報処理組織については、必ずしもブロックチェーンのみを指すものではありませんが、本稿では、ブロックチェーンを想定して説明をしていきます。

 最後に③の要件について詳しく見ていきます。

 金商法第2条第2項に記載される「内閣府令で定める場合」がどのような場合かは、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」といいます。)第9条の2に規定されています。

金商法定義府令9条の2
(電子記録移転権利から除かれる場合)
第九条の二 法第二条第三項に規定する内閣府令で定める場合は、次に掲げる要件の全てに該当する場合とする。

一 当該財産的価値を次のいずれかに該当する者以外の者に取得させ、又は移転することができないようにする技術的措置がとられていること。
イ 適格機関投資家
ロ 令第十七条の十二第一項第一号から第十一号まで又は第十三号に掲げる者
ハ 企業年金基金であって、金融商品取引業等に関する内閣府令(平成十九年内閣府令第五十二号)第二百三十三条の二第二項に定める要件に該当するもの
ニ 金融商品取引業等に関する内閣府令第二百三十三条の二第三項に定める要件に該当する個人
ホ 金融商品取引業等に関する内閣府令第二百三十三条の二第四項に定める者

二 当該財産的価値の移転は、その都度、当該権利を有する者からの申出及び当該権利の発行者の承諾がなければ、することができないようにする技術的措置がとられていること。

 具体的には、次に掲げる要件の全てに該当する必要があります。

㋐取得者制限:定義府令で定められる一定の者(定義府令第9条の2第1項各号(※))以外の者に移転できないようにする技術的措置がとられていること

※銀行、金融商品取引業者、ファンド事業者等(いわゆるプロの投資家等)がこれに該当します。

㋑譲渡制限:その都度、権利を有する者からの申出及び権利の発行者の承諾がなければ、譲渡できないようにする技術的措置がとられていること

 上記に③に該当する場合には、適用除外の電子記録移転権利として、電子記録移転権利に係る規制の一部が除外されることになります。

 ㋐、㋑いずれも「技術的措置」が必要とされていますが、どのような場合であれば、この「技術的措置」を満たしているといえるか、については必ずしも明確な基準は定められていません。

 ただ、金融庁のパブリックコメント(※)では、

トークン取得に必要なアカウント保有者を技術的に適格機関投資家等に限定する措置がとられており、財産的価値を当該アカウント保有者以外の者に移転することが技術的に不可能な場合等は当該「技術的措置」がとられていると考えることができる(パブリックコメントNo.150回答)

 とされており、例えば、STO発行のためのweb上のシステムでアカウント保有者を一定の者に限定し、トークンをそのような者以外に移転できないような設計とする方法等が考えられます。

(※)金融庁パブリックコメント:https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200403/01.pdf

 以上のとおり、第1回では、いわゆるSTOの定義等について説明しましたが、次回は、STOに係る法規制について具体的に説明していきます。

連載記事
STOの法務~第2回~』はこちらから

監修
弁護士 熊谷 直弥
(2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。 所内のWEB3チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務を対応。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。)

執筆者

顧問契約やその他各種法律相談については、こちらからお気軽にお問合せください。

※営業を目的としたお問い合わせはご遠慮願います。

GVA法律事務所の最新情報をメールで受け取る(無料)