
執筆:Web3チーム
近年、ブロックチェーン技術を用いたサービスは多岐にわたっており、暗号資産(仮想通貨)のみならず、金融サービスにもその技術は採用されています。
前回の記事で述べたとおり、本稿では、DeFiに対して考えうる法規制の概要として、DeFiプロジェクトのうち、DEXとレンディングサービスを例にして、その内容を解説します。
なお、本稿は、特定のDeFiプロジェクトの適法性を検討・論じるものではありません。
第1 はじめに
DeFiプロジェクトは、プロジェクト独自のトークンを発行するケース、暗号資産を取り扱うケースが多いです。
このようなDeFiプロジェクトの特性から、金融商品取引法をはじめとする有価証券に関する規制、資金決済法による暗号資産に関する規制の適用有無が非常に重要な検討課題となります。
第2 考えうる法規制
1 DEXに対する法規制
(1) LPトークンに対する規制
(ア) はじめに
前回記事でも解説しましたが、DEXとは分散型取引所のことをいいます。その特徴については前回記事を参照ください。
DEXでは、DEXに対して流動性を提供したユーザーに、何らかの価値の分配を受ける権利を表象したトークンが発行される場合があります。このようなトークンは、「LPトークン」と呼ばれることが多いです。
LPトークンについては、金融商品取引法上の、「集団投資スキーム持分」(金融商品取引法2条2項5号)、「電子記録移転権利」(金融商品取引法2条3項括弧書)該当性を検討する必要があります。
(イ)「集団投資スキーム持分」とは
集団投資スキーム持分とは、下記のように定義されます(金融商品取引法2条2項5号参照)。
①民法上の組合等その他の権利のうち
②当該権利を有する者が出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であり
③金融商品取引法2条2項5号に定める除外事由に該当しないもの
なお、上記②の「金銭」には暗号資産も含まれますので(金融商品取引法2条の2)、暗号資産を出資する場合も、集団投資スキーム持分の定義に該当しえます。
集団投資スキーム持分は一般的にはファンドの持分が想定されてきたところですが、これに限定されず、上記定義への該当性は慎重に検討する必要があります。
集団投資スキーム持分に該当し、集団投資スキーム持分の発行者が自ら当該持分の取得勧誘をおこなう場合は、金融商品取引業に該当するため(金融商品取引法2条8項7号)、原則として、第二種金融商品取引業の登録が必要となります。また、発行者が「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」をおこなう場合も金融商品取引業に該当し(金融商品取引法2条8項15号)、原則として、投資運用業の登録が必要となります(以上、金融商品取引法28条・29条)。
(ウ) 「電子記録移転権利」とは
電子記録移転権利とは、下記のように定義されます(金融商品取引法2条3項括弧書)。
①法2条1項各号に掲げる有価証券又は法2条2項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利、特定電子記録債権若しくは同項各号に掲げる権利であり
②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値であるもの(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)
また、電子記録移転権利該当性の解釈については、「金融商品取引法等に関する留意事項について」(金融商品取引法等ガイドライン)において、下記の指針が示されています。
契約上又は実態上、発行者等が管理する権利者や権利数を電子的に記録した帳簿(当該帳簿と連動した帳簿を含む。)の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当することに留意する。
( https://www.fsa.go.jp/common/law/kinshouhou.pdf をもとに作成)
電子記録移転権利に該当する場合、その募集又は売出しについては、第一項有価証券と扱われる結果、原則として有価証券届出書の提出が必要となるといった厳格な開示規制に服することになります(金融商品取引法4条1項)。また、上述の集団投資スキーム持分が電子記録移転権利に該当する場合には、集団投資スキーム持分の勧誘及び運用にも該当しますので、業規制として、原則、第二種金融商品取引業及び投資運用業の登録が必要となります(金融商品取引法29条)。
(エ) LPトークンの「集団投資スキーム持分」「電子記録移転権利」該当性
LPトークンは、DEXに対して流動性を提供(暗号資産を拠出)したユーザーに、暗号資産に該当するトークン等何らかの価値の分配を受ける権利を表象したトークンが発行される点で「集団投資スキーム持分」への該当性が問題になります。また、当該トークンがブロックチェーンに記録され、当該記録の書換によって権利の移転がされる点で「電子記録移転権利」への該当性も問題になり得ます。
まず、DEXに対して流動性を提供したユーザーに、当該DEX上での取引により発生した交換手数料その他の収益が配当されていると考えた場合、「出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当」に該当すると考えらえます。また、LPトークンがDEXに対して、このような配当等を請求しうる権利との性質を観念することができる場合には、「民法上の組合等その他の権利」に該当するとも考えらえます。この場合、LPトークンは基本的には集団投資スキーム持分に該当するものと考えらえます。そして、当該LPトークンが、権利者や権利数を電子的に記録した帳簿の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合、すなわちブロックチェーン上でLPトークンの保有者や保有数が記録され、LPトークンの移転もブロックチェーン上で記録される場合には、電子記録移転権利に該当すると考えられます。
一方で、トークンを保有することで分配を受ける価値が、交換手数料その他の収益ではなく、暗号資産の拠出に対する「利息」であると考えられる場合には、当該LPトークンは「出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当」や当該出資対象事業に係る財産の分配」に該当しないため、「集団投資スキーム持分」に該当せず、また、その結果「電子記録移転権利」にも該当しないと整理することも可能かと思われます。
このように、トークンを保有することで分配を受ける価値の性質によって、法規制の可能性が変わってくることになり、慎重な検討が必要となります。
もっとも、仮にこのようなトークンが「集団投資スキーム持分」「電子記録移転権利」に該当する場合でも、DEXがスマートコントラクトによって、管理・運営され、その管理主体が存在しないといえる場合には、後述の(4)に記載のとおりの論点が存在する点には留意が必要です。
(2) ガバナンストークンに対する規制
(ア) はじめに
DEXでは、DEXに対して流動性を提供したユーザーやその他の条件を満たしたユーザーに対して、プラットフォームの運営に関する決定権・議決権を表象したトークンが発行される場合があります。このようなトークンは、「ガバナンストークン」と呼ばれることが多いです。
ガバナンストークンについては、他の暗号資産と交換できる性質をもっているケースが多く、その場合には資金決済法上の、「暗号資産」(資金決済法2条5項)、「暗号資産交換業」(資金決済法2条7項)該当性を検討する必要があります。
(イ) 「暗号資産」とは
暗号資産は資金決済法上、下記のように定義されています(資金決済法2条5項)。
(定義)
第二条
(略)
5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
上記のとおり、暗号資産は資金決済法上、2種類の定義があります。
1つ目は、物品の購入の代価の弁済のために使用することができる場合で、これを1号暗号資産といいます。ビットコイン、イーサ等がこれに該当します。
2つ目は、1号暗号資産と相互に交換することができるもので、これを2号暗号資産といいます。
ガバナンストークンの性質から、これらの暗号資産の定義への該当性を検討する必要があります。
(ウ)「暗号資産交換業」とは
次に、暗号資産交換業は資金決済法上、下記のように定義されています(資金決済法2条7項)。
(定義)
第二条
(略)
7 この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
一 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること。
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
ガバナンストークンが暗号資産に該当する場合には、「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」や、これらの行為の「媒介、取次ぎ又は代理」を業としておこなうことについて、暗号資産交換業該当性の検討が必要となります。
暗号資産交換業に該当する場合には、内閣総理大臣による登録が要求されます(資金決済法63条の2)。この登録要件は厳格なものが要求されるため、登録へのハードルは高いと考えられています。
(エ)「暗号資産」「暗号資産交換業」該当性
DEXから発行されるガバナンストークンは、当該DEXで他の暗号資産と交換が可能な場合や、その他の暗号資産取引所に上場されている場合があります。このような場合、当該ガバナンストークンは、「不特定の者を相手方として」暗号資産と「相互に交換を行うことができる財産的価値」に該当し、又は「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」に該当する可能性が高いといえます。これらに該当する場合には当該ガバナンストークンは、他の要件を満たす限り、暗号資産に該当する可能性が高いといえます。
ガバナンストークンが暗号資産に該当する場合、暗号資産の取扱の方法によっては、暗号資産交換業への該当性を検討する必要があります。もっとも、ガバナンストークンがユーザーに対して無償で配布されているような場合には、「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」には該当しません。したがって、このような行為に限定される場合、暗号資産交換業の登録は不要となる可能性が高いです。
他方で、ガバナンストークンの取得に、対価が発生しているような場合、又はその取得に暗号資産との交換が発生しているような場合には、「暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換」をおこなっているものとして、暗号資産交換業に該当する可能性が出てくるものと思われます。
なお、上述の電子記録移転権利に該当するトークンは、暗号資産の定義から除外されていますので、同一のトークンが、電子記録移転権利と暗号資産の両方の性質を有することはありません(資金決済法2条5項但書)。
(3) 暗号資産の取引に関する規制
(ア)「暗号資産交換業」該当性
一部のDEXでは、ある特定の暗号資産を他の暗号資産と交換することによりユーザーが暗号資産を取得することを実現しているものがあります。例えば、ETHを取得したいユーザーが他の暗号資産(例えば、USDC)をDEXに拠出することで、当該拠出したUSDCと同価値のETHを取得することができるようなDEXです。このようなDEXでは、ETHとUSDCのペアのプール内で、拠出されたETHが同価値のUSDCと交換され、当該USDCがユーザーに移転する仕組みになっています。
このようなDEXの交換行為は、「他の暗号資産との交換」に該当し、当該DEXは暗号資産交換業をおこなっている、と評価することができると思われます。
もっとも、仮にこのような仕組みが「他の暗号資産との交換」に該当する場合で、DEXがスマートコントラクトによって管理・運営され、その管理主体が存在しないといえる場合には、後述の(4)に記載のとおりの論点が存在します。
(イ) 「デリバティブ取引」を扱う場合
DEXがデリバティブ取引を扱う場合には、上記の暗号資産交換業とは異なる規制の検討が必要となります。
デリバティブ取引の媒介、取次ぎ又は代理をおこなう場合には金融商品取引法の規制対象となり、第一種金融商品取引業の登録が必要とされています(金融商品取引法28条1項1号の2、同法2条8項2号)。
デリバティブ取引の対象は「金融商品」や「金融指標」とされています(金融商品取引法2条21項)。「金融商品」には、「有価証券」や「預金債権」の他、資金決済法上の「暗号資産」も含みます(金融商品取引法2条24項3号の2)。「金融指標」とは、「金融商品の価格又は金融商品の利率等」等が挙げられています(同条25項)。
したがって、暗号資産や暗号資産の価格等を参照指標とするデリバティブ取引は金融商品取引法上の「デリバティブ取引」となり、その取次ぎ又は代理をおこなう場合には第一種金融商品取引業の登録が必要となります。
このように、DEXがデリバティブ取引をおこなう場合には、第一種金融商品取引業の登録の要否が問題になるため、慎重な検討が必要となります。
(4) DEXがスマートコントラクトにより管理・運営されていることの影響
DEXでは、スマートコントラクトによって、自動で運営・管理されており、中央集権的な管理者がいないケースがあります。金融商品取引法上の登録が必要となる「金融商品取引業者」とは、金融商品取引法29条の登録を受けた「者」とされています(金融商品取引法2条9項)。また、資金決済法上の「暗号資産交換業」は、内閣総理大臣の登録を受けた「者」でなければおこなってはならないとされています(資金決済法63条の2)。スマートコントラクトによって、DEXが自動で運営・管理されている場合には、これらの「者」が存在せず、上述の金融商品取引法・資金決済法の規制が適用されない可能性があります。
一方で、DEXが金融商品取引法・資金決済法の規制が適用されないと考えた場合でも、当該DEXへのアクセスを容易にするプロジェクトが存在する場合には、一定の留意が必要です。このようなプロジェクトを開発・提供する者が、DEXの運営者に該当すると判断された場合は、当該開発・提供する者が、金融商品取引法・資金決済法の規制対象と評価される可能性は否定できないものと思われます。また、このようなDEXへのアクセスを容易にするプロジェクトが、「電子記録移転権利」の媒介、取次ぎ又は代理(金融商品取引法2条8項2号)または、「暗号資産」の売買又は他の暗号資産との交換の媒介、取次又は代理(資金決済法2条7項2号)に該当すると判断され、金融商品取引法・資金決済法の規制対象と評価される可能性もありえるところかと思われます。
2 レンディングサービス
(1) はじめに
レンディングサービスは、ユーザーから暗号資産の借入れをおこない、ユーザーに対して暗号資産の貸付をおこなうサービスであり、これらの行為が暗号資産交換業に該当するかが問題となり得ます。また、金銭と類似性を有する暗号資産を貸し出すという性質を有することから、貸金業に該当するかも問題となり得ます。
(2)暗号資産交換業該当性
暗号資産交換業は、上述の暗号資産交換業の定義に該当することが必要ですが、当該定義のなかには、暗号資産の消費貸借契約は含まれていません。また、暗号資産の借入行為が含まれないことも同様です。そのため、暗号資産の貸出・借入を提供するレンディングサービスは、暗号資産交換業に該当しないと整理することができると思われます。
もっとも、暗号資産ガイドラインⅠ-1-2-2③(注)は、資金決済法2条7項4号の「他人のために暗号資産の管理をすること」(いわゆるカストディ業)への該当性に関連して、下記のように記載しています。
内閣府令第23条第1項第8号に規定する暗号資産の借入れは、法第2条第7項第4号に規定する暗号資産の管理には該当しないが、利用者がその請求によっていつでも借り入れた暗号資産の返還を受けることができるなど、暗号資産の借入れと称して、実質的に他人のために暗号資産を管理している場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。
( https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf より引用)
上記内閣府令は、暗号資産交換業者が、利用者保護のために諮るための措置等を定める規定であり、厳密には、暗号資産交換業の要件を定めるものではなく、また、上記暗号資産ガイドラインは法令ではありません。もっとも、上記暗合資産ガイドラインの記載に該当しないような整理ができるか、という点については十分に慎重な検討が必要になると考えられます。
(3) 貸金業該当性
貸金業とは貸金業法2条1項において、次のように定義されています。
金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うもの。
このように、貸金業法の貸金業の定義では、「金銭」の貸付が要求されています。
暗号資産は法定通貨ではなく(資金決済法2条5項1号により「本邦通貨」が暗号資産の定義から除外されています。)、「金銭」に該当しません。また、金融商品取引法2条の2のように、暗号資産を「金銭」とみなすことを認める規定は貸金業法には存在しません。
そのため、暗号資産のレンディングサービスはあくまで暗号資産の貸付け等をおこなうものであり、(貸金業法上の)「金銭」の貸付をおこなうものではなく、貸金業に該当しないと整理されています。
第3 まとめ
本稿では、DeFiに対して考えうる法規制について簡単に説明をしました。
法規制に関しては、個々のプロジェクトの設計に依存するものであるため、全てのプロジェクトに共通した見解を述べることは難しく、また法律の規制対象となる者が存在するのか、といった大きな論点も存在するところです。
このように、DeFiプロジェクトにおいては、その適用可能性のある法規制等を考慮することが必須となりますので、その設計においては慎重な判断が必要となります。
『DeFiの概要と法規制(第1回) DeFiの概要と代表的なDeFiプロジェクト』はこちらから
監修
弁護士 熊谷 直弥
(2012年の弁護士登録以来、一貫して企業法務を扱う。中小企業から上場企業まで広く担当し、契約法務、人事労務、紛争、渉外法務、商標等で研鑽を積む。2019年GVA法律事務所入所後、スタートアップ企業の法務支援に注力し、IPOやその先の成長までの伴走を複数経験。顧問先スタートアップSaaS企業の監査役を務める。 所内のWEB3チームのリーダーとして、NFT関連ビジネスや暗号資産、STO、その他トークンビジネス等の研究及び実務を対応。NFT書籍の監修の他セミナー等でのNFTに関する情報発信も多数。)