第1回では、種類株式の概要と活用方法について解説し、第2回では、スタートアップが発行することが多い種類に焦点を当てて各種類株式の内容について解説しました。
第3回では、種類株式を発行する場合の手続きについて、会社法に焦点を当てて解説していきます。
なお、以下では、非公開会社かつ取締役会設置会社を想定して解説していきます。
1. 種類株式を発行していない会社の場合
(1) 原則的な手続
発行会社が種類株式を発行していない会社の場合、種類株式を設定・発行する際の原則的な手続きは、以下のとおりです。
① 種類株式の内容の確定
投資家との間で発行する種類株式の内容を確定させます。
なお、締結予定の投資契約書の中に種類株式の内容が記載された定款変更案の抜粋を記載するのが一般的です。
②取締役会決議
取締役会にて、
- 種類株式を設定するための定款変更に関する決議
- 設定した種類株式を発行するための募集株式の発行に関する決議
を行うための株主総会の招集を決議します。
③株主総会の招集
上記②の取締役会決議に基づき、株主に対し、株主総会の招集通知を発送します。
④株主総会決議
株主総会で、以下の議案を決議します。いずれも特別決議事項です。
【決議事項】
議案1 定款一部変更の件(種類株式の設定)
議案2 募集株式の発行の件
*以下の募集事項(会社法第199条第1項)を決議
- 募集株式の種類及び数
- 募集株式の払込金額又はその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
- 払込期日又はその期間
- 増加する資本金及び資本準備金
⑤募集事項等の通知
会社は、上記④の募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、以下の事項を通知します(会社法第203条第1項)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
- 会社法施行規則第41条で定める事項
⑥引受けの申込み
募集株式の引受けの申込みをする者は、会社に対し、以下の事項を記載した書面を交付します(会社法第203条第2項)。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 引き受けようとする募集株式の数
⑦割当決議
取締役会にて、上記⑥の申込者の中から誰に何株を割り当てるのかを決議します(会社法第204条第1項、第2項)。
⑧割当通知
会社は、募集株式の割当てを受ける者に対し、上記⑦の取締役会にて決議した割り当てる募集株式の数を、払込期日(払込期間を定めた場合はその期間の初日)の前日までに通知します(会社法第204条第3項)。
⑨出資の履行
上記⑧によって割当通知を受領した申込者は、払込期日又は払込期間内に、募集株式の払込金額の全額を、会社の指定する銀行等の口座に払い込まなければならず(会社法第208条第1項)、これを履行しないときは、募集株式の株主となる権利を喪失します(会社法第208条第5項)。
なお、投資家が海外から払込みをする場合、送金に時間がかかり、払込期日又は払込期間内に着金できず、株主となる権利を喪失するおそれがあります。そのため、海外からの払込みの場合は、余裕を持った払込期日又は払込期間を設定するようにしましょう。
⑩登記申請
増資の効力発生日(払込期日又は払込期間を定めた場合は払込日)から2週間以内(なお、払込期間を定めた場合は当該期間の末日から2週間以内でも可)に、管轄法務局へ登記申請をします(会社法第915条第1項、第2項)。
(2) 原則的な手続きの修正
原則的な手続きの説明は以上のとおりですが、スタートアップにおいては、以下のような修正がなされることがよくあります。
(ア) 株主総会の書面決議
スタートアップにおいては、種類株式を発行していない会社の段階では既存株主が少ないことが多く、また、機動的な資金調達を行うためにも、株主総会の実際の開催を省略することが珍しくありません。
この場合の手続きは、株主総会の招集通知(上記③)に代えて、株主総会の決議省略の提案書とこれについての同意書を株主に対して送付し、同意書に押印の上、返送してもらいます。
株主総会の目的である事項について株主全員が同意をした時点で、株主総会決議(上記④)があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。
(イ) 総数引受契約
スタートアップにおいては、種類株式の内容の決定(上記①)の時点で、募集事項の内容、株式の引受人、引受けの株数等、当該種類株式の発行に必要な事項が全て決まっていることが一般的です。そのため、上記⑤~⑧の手続きの代わりに、取締役会にて、引受人との間で総数引受契約を締結することについて承認決議を行い(会社法第205条第1項、第2項)、これに基づいて会社と全ての引受人との間で総数引受契約を締結することで、⑤~⑧の手続きを省略することができます。
なお、原則的手続きである申込・割当方式においては、割当通知は払込期日又は払込期間の初日の前日までに行わなければならないとされていますが、総数引受契約方式においては、このような制限はありませんので、株主総会決議から払込までを1日で実施することも可能となります。
(ウ)取締役会への委任
スタートアップにおいては、資金調達を実施する際に、投資家がある程度固まった段階においても最終的に発行する総株式数が定まらず、1stクローズ、2ndクローズというように、払込期日をずらすケースもあります。
これに対応すべく、株主総会決議(上記④)において、募集株式の数の上限及び払込金額の下限だけを決議しておいてその他募集事項を取締役会に委任するという手法も用いられます(会社法第200条第1項)。
この手法によると、決議した募集株式の上限数を超えない限りは、募集株式の発行時に株主総会手続きを省略することができるため、手続き負担を軽減できます。
2. 種類株式発行会社の場合
以下、普通株式とA種優先株式を既に発行している種類株式発行会社を想定して解説します。
(1) 既発行種類株式を追加発行するケース
まず、普通株式とA種優先株式を既に発行している種類株式発行会社が、A種優先株式を追加で発行するケース(以下「ケース1」といいます。)を想定します。
ケース1においては、基本的に種類株式を発行していない会社の場合と同じ手続きが必要となりますが(ただし、A種優先株式は既に設定されているため、種類株式の設定のための定款変更の決議は不要となります。)、以下のとおり異なる点もあります。
- A種優先株主による種類株主総会の開催
既に発行のA種優先株式には譲渡制限が付されているのが一般的ですので、A種優先株式を追加で発行する場合には、A種優先株主による種類株主総会の承認決議が必要となります(会社法第199条第4項)。
もっとも、このA種優先株主による種類株主総会の承認決議を要しない旨を定款で定めることができ、この定めがある場合は、A種優先株主による種類株主総会の承認決議は不要となります(会社法第199条4項)。 - 発行可能種類株式総数の増加のための種類株主総会の開催
A種優先株式を追加で発行する際に注意するべき点として、当該追加発行によって定款記載のA種優先株式の発行可能種類株式総数を超えてしまわないか、という点です。もし、追加発行によってA種優先株式の発行可能種類株式総数を超えてしまう場合は、定款を変更して、A種優先株式の発行可能種類株式総数を増加させる必要があります。
また、種類株式発行会社において、ある種類の発行可能種類株式総数を増加させたことで、他の種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を行う必要があるところ(会社法第322条第1項第1号ハ)、ある種類の発行可能種類株式総数を増加させると、他の種類株主の配当を受ける権利や議決権などに不利益を与えると考えられるため、ケース1においてA種優先株式の発行可能種類株式総数を増加させる場合は、普通株式の種類株主総会の決議を行うことが必要となります。なお、会社法第322条第1項における決議は、定款において当該種類株主総会の決議を要しない旨を定めることで、種類株主総会の決議を行わなくて済むのですが(会社法第322条第2項)、定款の変更に関する事項(単元株式数についてのものを除く。)については適用が除外されているため(会社法第322条第3項但書)、上記定款の記載があったとしても種類株主総会の決議が必要となる点は注意が必要です。
(2) 新たに別の種類株式を発行するケース
次に、普通株式とA種優先株式を既に発行している種類株式発行会社が、B種優先株式を追加で発行するケース(以下「ケース2」といいます。)を想定します。
ケース2においても、基本的には、種類株式を発行していない会社の場合と同じ手続きが必要となりますが(ケース1と異なり、B種優先株式は設定されていないため、種類株式の設定のための定款変更の決議は必要となります。)、以下の点が異なります。
- 株式の種類の追加のための種類株主総会の開催
種類株式発行会社において新たな種類の株式を追加する場合、当該行為によって他の種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を行う必要があります(会社法第322条第1項第1号イ)。ケース2の場合、一般的にB種優先株式は、普通株式とA種優先株式よりも残余財産の分配を受ける権利などで優先することから、普通株式とA種優先株式に不利益を与えると考えられるため、普通株主による種類株主総会の決議とA種優先株主による種類株式総会の決議を行うことが必要となります。
なお、前述のとおり、会社法第322条第1項における決議は、定款において当該種類株主総会の決議を要しない旨を定めることで、種類株主総会の決議を行わなくて済むのですが(会社法第322条第2項)、株式の種類の追加は、定款の変更に関する事項(単元株式数についてのものを除く。)であり適用が除外されているため(会社法第322条第3項但書)、上記定款の記載があったとしても種類株主総会の決議は必要となります。
3. おわりに
今回は、種類株式を発行する場合の手続きについて解説しました。
スタートアップのファイナンスは、時間的に余裕のない中で実施されることが多いですので、手続きの履践について心配な場合は、是非GVA法律事務所までご相談ください。
監修
弁護士 小名木 俊太郎
(企業法務においては 幅広いサービスを提供中。ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。)


