第1回では、種類株式の概要と活用方法について解説しました。
第2回では、各種類株式の内容について確認し、スタートアップとの関係についても解説していきます。
1. 剰余金の配当に関する種類株式
(1) 概要
剰余金の配当について異なる内容の種類株式を発行できます(会社法108条1項1号)。
この場合には、定款において、当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容を定めます(会社法108条2項1号)。
(2) 累積型と非累積型
剰余金の配当には、累積型と非累積型があり、これらの区別は以下のとおりです。なお、定款に累積・非累積に関する規定がない場合には、累積型と解されています。
① 累積型
ある事業年度に定款所定の優先配当金全額の支払が行われなかった場合には、翌期以降の分配可能額から当該不足分の補塡支払がなされます。
② 非累積型
累積型のような補填支払いはなされません。
(3) 参加型と非参加型
剰余金の配当には、参加型と非参加型があり、これらの区別は以下のとおりです。
① 参加型
種類株主が定款所定の優先配当金の支払を受けた後、さらに残余の分配可能額からの配当も追加して受け取ることができます。
② 非参加型
種類株主は、参加型のような追加の配当は受け取れません。
(4) スタートアップとの関係
スタートアップにおいては、そもそも剰余金の配当の前提となる分配可能額(会社法461条2項)がマイナスとなることが多いため、剰余金が配当されることはほとんどありません。
もっとも、投資家としては、経営陣その他の普通株主に対して安易な配当がなされるという事態を懸念する面もあり、実際には、剰余金配当の種類株式が発行されるケースは珍しくありません。この場合には非累積型かつ参加型とされることが多いように思われます。
2. 残余財産の分配に関する種類株式
(1) 概要
残余財産の分配について異なる内容の種類株式を発行できます(会社法108条1項2号)。
この場合には、定款において、当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容を定めます(会社法108条2項2号)。
(2) 参加型と非参加型
残余財産の分配にも、剰余金の配当と同様に、参加型と非参加型があります。内容としては、剰余金の配当と同様であり、種類株主が定款所定の優先分配を受けた後、さらに残余財産からも追加で分配を受けることができるものが参加型であり、追加の分配が受けられないものが非参加型です。
(3) スタートアップとの関係
剰余金の配当に関する種類株式と同様、スタートアップにおいては、清算時に残余財産が存在しないことが多いと思われます。もっとも、スタートアップでは、投資家や経営株主等の間で締結される財産分配契約等において、M&A等におけるEXITの際の対価の分配において残余財産の分配に関する規定を準用する(いわゆる「みなし清算条項」)形で投下資本の回収を行う、という運用が一般的に行われているため、残余財産の分配に関する規定は、基本的にほぼ全ての種類株式に規定されています。
なお、日本のスタートアップにおいては残余財産の分配の規定について参加型が一般的ですが、アメリカのスタートアップにおいては、非参加型が一般的です。
3. 議決権制限株式
(1) 概要
株主総会において議決権を行使できる事項についての異なる定めを置く種類株式を発行できます(会社法108条1項3号)。
この場合、定款において以下を定めます(会社法108条2項3号)。
- 株主総会において議決権を行使できる事項
- 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
(2) スタートアップとの関係
投資家は、スタートアップに対して急速な成長を期待していることから、スタートアップ経営に対して影響力を及ぼすことを重視しています。そのため、スタートアップにおいて議決権制限株式を発行することはあまり一般的ではないように思われます。
4. 譲渡制限株式
(1) 概要
譲渡による当該種類株式の取得について会社の承認を要する種類株式を発行できます(会社法108条1項4号)。
この場合、定款において以下を定めます(会社法108条2項4号、107条2項1号)。
- 当該株式を譲渡により取得することについて当該会社の承認を要する旨
- 一定の場合において会社が会社法136条(株主からの承認の請求)または会社法137条(株式取得者からの承認の請求)1項の承認をしたものとみなすときは、その旨および当該一定の場合
(2) スタートアップとの関係
株式公開前のスタートアップ企業では、通常全ての株式について譲渡制限が付されています。
5. 取得請求権付株式
(1) 概要
株主が株式会社に対して当該株式の取得を請求できる種類株式を発行できます(会社法108条1項5号)。
この場合、定款において以下を定めます(会社法108条2項5号、107条2項2号)。
- 株主が当該会社に対して当該株主の有する株式を取得することを請求することができる旨
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類(第六百八十一条第一号に規定する種類をいう。以下この編において同じ。)及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(2)に規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(3)に規定する事項
- (1)の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該会社の株式等(株式、社債及び新株予約権をいう。以下同じ。)以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
- 株主が当該株式会社に対して当該株式を取得することを請求することができる期間
- 当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
(2) スタートアップとの関係
投資家は、スタートアップ経営に対して影響力を及ぼすことを重視していますが、株主となった後の新規の募集株式の発行における払込価格が、当該投資家が出資した際の払込価格を下回ること(いわゆる「ダウンラウンド」)も想定され、この場合には、保有割合が急激に希薄化される可能性があります。
このようなダウンラウンドに備えて、普通株式に転換する際の価額の調整条項が記載された取得請求権付株式を発行しておくことで、投資家は、保有割合の希薄化を一定程度にとどめることが可能となります。転換価額をどの程度調整するかについては、一般的に、フルラチェット方式、加重平均方式のナローベース、加重平均方式のブロードベースの3つの調整方法のいずれかの方法が用いられます。フルラチェットが投資家にとって最も有利な調整方法であり、次に有利な調整方法が加重平均方式のナローベース、最も不利な調整方法が加重平均方式のブロードベースです。
6. 取得条項付株式
(1) 概要
一定の事由の発生を条件として会社が当該株式を取得できる種類株式を発行できます(会社法108条1項6号)。
この場合、定款において以下を定めます(会社法108条2項6号、107条2項3号)。
- 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその株式を取得する旨及びその事由
- 当該株式会社が別に定める日が到来することをもって(1)の事由とするときは、その旨
- (1)の事由が生じた日に(1)の株式の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する株式の一部の決定の方法
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についての(4)に規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(5)に規定する事項
- (1)の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
- 当該種類の株式1株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
(2) スタートアップとの関係
取得条項付種類株式であれば、一定の事由を条件として、スタートアップ側からの一方的な意思表示のみで強制的に株式を買い取ることができますので、基本的には、スタートアップに有利なものといえます。
スタートアップにおいては、IPOをトリガー事由とする取得条項付種類株式を導入することが一般的であり、この場合の対価としては普通株式が交付されます。
7. 全部取得条項付株式
(1) 概要
株主総会の特別決議により当該種類の株式の全部を取得するという内容の種類株式を発行することができます(会社法108条1項7号)。
この場合、定款で以下を定めます(会社法108条2項7号)。
- 取得対価が当該株式会社の株式であるときは、当該株式の種類及び種類ごとの数又はその数の算定方法
- 取得対価が当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
- 取得対価が当該株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
- 取得対価が当該株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についての(2)に規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についての(3)に規定する事項
- 取得対価が当該株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
- 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
取得条項付種類株式であれば、一定の事由発生を条件として、スタートアップ側の一方的な意思表示のみで株式を買い取ることができます。
他方、全部取得条項付株式であれば、一定の事由発生を条件とはしませんが、株主総会の特別決議を経なければ株式を買い取ることができません。
(2) スタートアップとの関係
スタートアップにおいて、全部取得条項付株式が活用されることは通常ありません。
8. 拒否権付株式
(1) 概要
株主総会、取締役会または清算人会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を必要とするという内容の種類株式を発行できます(会社法108条1項8号)。
この場合、定款で以下を定めます(会社108条2項8号)。
- 当該種類株主総会の決議を必要とする事項
- 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
(2) スタートアップとの関係
投資家は、スタートアップの経営に対して影響力を及ぼすことを重視していますが、スタートアップでは、ラウンドを重ねるに連れて影響力を及ぼすべき事項が変化し得ることから、株主間契約等において事前承諾事項として規定されることが一般的であり、スタートアップにおいて拒否権付株式を活用している事例はそこまで多くありません。
9. 取締役・監査役の選任に関する種類株式
(1) 概要
当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役またはそれ以外の取締役)または監査役を選任することを定めた種類株式を発行できます(会社法108条1項9号)。
この場合、定款で以下を定めます。
- 種類株主総会において取締役等を選任すること及び選任する取締役等の数
- (1)により選任することができる取締役等の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役等の数
- (1)又は(2)に掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後の(1)又は(2)に掲げる事項
- その他法務省令で定める事項(種類株主総会において社外取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である社外取締役またはそれ以外の社外取締役)または社外監査役を選任しなければならないものとするときに定めるべき事項)
(2) スタートアップとの関係
投資家にとって、自らが指定する者をスタートアップの役員として派遣することは、スタートアップの監視等の点から重要な意義を有します。
もっとも、拒否権付種類株式と同様、株主間契約等において取締役の指名権やオブザーバーを派遣する権利を規定する方が柔軟に対応できるということから、あえて取締役・監査役の選任に関する種類株式を発行することはあまり一般的ではありません。
10. おわりに
本記事では、各種類株式の内容について確認し、スタートアップとの関係についても解説していきました。
次回第3回では、種類株式を発行する場合の手続きについて解説していきます。