【弁護士解説】グレーゾーン解消制度の基本

執筆:弁護士 林越 栄莉 (メタバース / エンターテインメントチーム

1. グレーゾーン解消制度とは

 グレーゾーン解消制度とは、新たな事業活動を行おうとする事業者が、新規事業内容についての現行法の適用範囲が不明確な場合に、経済産業省などの関係省庁に対し、自社の事業が既存の規制に該当するかどうかを照会する制度です。

 これから展開予定の新規事業内容に法規制上の懸念・不確実性がある場合には、グレーゾーン解消制度を活用することにより安心して新規事業を進めることが可能となります。

2. グレーゾーン解消制度を活用する場面

(1) 具体的な場面

 グレーゾーン解消制度は、新規事業における法規制の適用リスクを軽減し、事業上の障害を解消するために活用されます。

 より具体的には、

  • 新しいテクノロジーやビジネスモデルが既存の規制に該当するか不明確な場合

  • 従来の行政解釈では事業の実現が難しいと考えられる場合

等に使用されます。

 

 また、弁護士等に相談を実施する等により、ある程度新規事業の適法性を確認・検討できている場合であっても、規制当局と早期に対話し、明確な見解を得る目的でも活用されます。

(2) ノーアクションレター制度との違い

 グレーゾーン解消制度とは異なる制度として、法令適用事前確認手続があります。

 この手続は、いわゆる日本版ノーアクションレター制度とも呼ばれており、「民間企業等が、その事業活動に係る具体的行為が特定の法令の規定の適用対象となるかどうかについて、あらかじめその規定を所管する国の行政機関に確認し、その行政機関が回答し、その内容を公表する制度」と説明されています(参照:総務省「法令適用事前確認手続(いわゆる日本版ノーアクションレター制度)」)。

 グレーゾーン解消制度は新規事業が現行の法規制の適用対象となるかどうかを確認するためのものである一方、ノーアクションレター制度は事業者の具体的行為が違法ではないことを確認するためのものといえます。

▼ノーアクションレター制度の詳細はこちら

https://gvalaw.jp/blog/b20230830

(3) 規制のサンドボックスとの違い

 もう1つのグレーゾーン解消制度と異なる制度として比較されるものに、規制のサンドボックス制度があります。

 規制のサンドボックス制度とは、「IoT、ブロックチェーン、ロボット等の新たな技術の実用化や、プラットフォーマー型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく制度」と説明されています。

 上述のとおり、グレーゾーン解消制度は新規事業が現行の法規制の適用対象となるかどうかを確認するためのものである一方、規制のサンドボックス制度は一定期間・条件下で新しい技術やサービスの実証実験を許可し、規制の見直しを行うためのものといえます。

3. グレーゾーン解消制度の活用方法と活用事例

(1) グレーゾーン解消制度の活用の流れ

 グレーゾーン解消制度を活用する場合、事業者は、当該新事業活動の内容や、確認しようとする法令の規定等を記載した「新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定に係る照会書」を作成し、事業所管大臣及び規制所管大臣に提出する必要があります。

 この照会書の提出の前に、事業者は、新たに実施しようとする事業の内容と確認したい事項を整理し、事業所管省庁に事前相談を実施する必要があります。事前相談を受けた事業所管省庁は、規制所管省庁から、事業者が明確かつ分かりやすい回答が得られるよう照会内容を確認するとともに、照会の手続についてサポートを行います。

 このサポートの後、事業者は上記照会書を提出し、回答を求めることになります。回答は、照会書を受理した日から原則として1か月以内に行われます。

(2)近時のグレーゾーン解消制度の活用例

a. 株式会社タイミーの例

 株式会社タイミーは、同社が運営するアルバイトマッチングサービス「Timee」の適法性についてグレーゾーン解消制度を活用しています。

 具体的には、「Timee」を利用して行う労働者への賃金支払方法が、労働基準法第24条第1項本文が定める賃金直接払いの原則に違反しないかについて厚生労働省に照会しました。

 結論として、株式会社タイミーは「Timee」を通じた賃金の支払いは「労働基準法第24条に違反しない」との回答を得て、同サービスは賃金の直接払い原則との関係で適法であるとの回答を得ました。

b.株式会社グラファーの例

 株式会社グラファーは、同社が当時提供予定としていた運営する法人の本店移転登記に必要な書類の作成を支援するWEBサービス事業についてグレーゾーン解消制度を活用しています。

 具体的には、本店移転登記に関する法人登記申請時の必要書類の洗い出し、必要書類の作成等を含む当該新規事業は司法書士法第3条第2項第2号の司法書士の独占業務に該当しないかについて法務省に照会しました。

 結論として、株式会社グラファーは当該新規事業は直ちに司法書士法違反との評価がされるものではないとの回答を得ました。

4. まとめ

 事業者が新規事業を展開する際、その新規事業が現行の法規制に抵触しないかを確認することは、企業だけでなく消費者の安心にもつながる重要な事項です。

 近年、テクノロジーの発展に伴い新しいビジネスが次々と生まれる中で、規制の不確実性を解消し、スムーズに事業を推進するためにグレーゾーン解消制度を活用する事例が増加しています。

 GVA法律事務所では、グレーゾーン解消制度の利用方法やメリットデメリットに関するご相談、事前相談や照会手続についてのアドバイス、法務体制の整備の支援など様々なご相談もいただけます。ご不明点やご相談などありましたら、お気軽にお問い合わせください

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