【弁護士解説】カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?基準と対策をわかりやすく解説

執筆:弁護士 鈴木 景 M&Aチーム

 弁護士が具体的にカスタマーハラスメント(カスハラ)の例、判断基準、関連法令を踏まえた上で、企業が取るべき実践的な対策について詳しく解説します。

 近年、カスハラの深刻化が進み、企業が適切に対応する重要性が高まっていますので、ぜひご参考下さい。

1.  カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?

 カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)とは、一般的に、顧客や取引先が企業の従業員に対して行う、不当で過剰なクレームや嫌がらせ行為を指すものとされています。

 厚生労働省が定める「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下「カスハラ対策マニュアル」といいます。)によれば、カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。

 単なる苦情や正当な意見表明ではなく、社会通念上許容される範囲を超えた攻撃的な言動がカスハラに該当します。

 近年、接客業やサービス業を中心に、従業員が顧客から理不尽な要求や暴言を受けるケースが増えており、企業にとって大きな課題となっています。

2.  カスハラの具体例と判断基準(クレームとの違い)

 カスハラに該当するものかどうかを判断するにあたっては、前記の、カスハラ対策マニュアルに定めるカスハラの定義が参考になります。

 すなわち、顧客等の要求の内容が妥当かどうか、当該クレーム・言動の手段・態様が社会通念上不相当かどうか、また、当該行為により、労働者の就業環境が害されるかどうか、という観点が、カスハラに該当するか否かの判断のポイントになると考えられます。

 

 「顧客等の要求の内容が妥当でない場合」の具体例としては、

  • 企業が提供する商品やサービスに欠陥が認められない場合や、認められたとしても、企業側の過失によるものではない場合

  • 要求の内容が、企業の提供する商品やサービスの内容とは関係がない場合

などが挙げられます。

 「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な場合」の具体例としては、

  • 身体的な攻撃

  • 精神的な攻撃(暴言や、SNS等での誹謗中傷など)

  • 威圧的な言動

  • 土下座の要求

  • 継続的・執拗な言動(頻繁に来店や店舗への架電をし、その都度クレームを行うなど)

  • 拘束的な行動(不退去・居座り)

  • 差別的な言動

などが挙げられます。

3.  カスハラに関する関連法令

 現在、カスハラを直接規制する法律は存在しませんが、カスハラに該当する行為は、以下の法令に該当・抵触する可能性があります。

(1)刑法

  • 不退去罪(刑法130条):要求されたにもかかわらず退去しない場合

  • 暴行罪(刑法208条):暴力を振るった場合

  • 脅迫罪(刑法222条):生命や身体に危害を加える旨を伝えた場合

  • 強要罪(刑法223条):土下座の強要など、相手の意思に反して何かを強いる行為

  • 名誉毀損罪(刑法230条):SNS等で企業や従業員の名誉を傷つけた場合

  • 業務妨害罪(刑法233条・234条):執拗なクレームにより業務を妨害した場合

  • 恐喝罪(刑法249条1項):恐喝により金銭等の財物を要求した場合

(2)民法

 不法行為責任(民法709条):カスハラによって業務が妨害された場合や、従業員が精神的苦痛を受けた場合、加害者の行為が民法上の不法行為に該当し、損害賠償責任の対象となります。

 このほかにも、東京都では、カスタマーハラスメント防止条例が制定され、令和7年4月1日から施行されます。

 この条例では、誰もがカスハラを行ってはならないことや、顧客等において、カスハラ問題に対する関心と理解を深めるとともに、従業員に対する言動に必要な注意を払うべき努力義務が定められています。

 条例によってカスハラが明確に禁止されたことや、条例により、顧客や、従業員、事業者、行政が一体となってカスハラに取り組むべき旨が規定されたことで、カスハラに対する抑止効果が期待できます。

 また、後記のとおり、現状カスハラ対策に関する法案整備も検討されています。

4.  企業が取るべきカスハラ対策

 カスハラは、本質的には、これを行うカスタマーの問題であることは言うまでもありませんが、企業においてカスハラを放置してしまうと、従業員の身体・精神に深刻な影響を及ぼしてしまい、場合によっては、従業員の方の休職や退職につながることも考えられます。

 このようなカスハラの影響を受け、カスハラ対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが、厚生労働省の労働政策審議会において議論されており、近い将来、立法化が実現する見通しです。

 また、前記の東京都におけるカスタマーハラスメント防止条例においては、事業者の責務として、従業員がカスハラを受けた場合における従業員の安全の確保や、当該行為を行った顧客等に対する中止の申し入れなどの適切な措置を講ずるべき努力義務が定められています。

 このように、企業としてカスハラ対策に取り組むことの重要性は、近時、非常に高まっているといえます。

 カスハラに対する平時の対応策としては、以下のような対応が考えられます。

(1) 企業の基本方針・基本姿勢明確化

 企業として、カスハラ対策の基本方針や基本姿勢を明文化し、全社員に周知徹底する。

(2) 従業員のための相談窓口の設置

 カスハラを受けた従業員が安心して相談できる窓口を社内に設置し、被害者の支援体制を整える。

(3) 対応マニュアルの作成と研修の実施

 カスハラが発生した際にどのように対応するかを定めたマニュアルを作成し、従業員に研修や教育を行う。また、実際の対応を想定した訓練なども行う。

(4) 社外への啓発(ポスター掲示など)

 厚労省の「STOP!カスタマーハラスメント」ポスターを活用し、カスハラ行為が許されないことを店頭や社内に掲示することで、顧客によるカスハラを抑止する。

(5) 法的対応の準備

 悪質なカスハラに対して、法的手段を検討できるよう、日ごろから弁護士と連携しておく。

 また、実際にカスハラが起きた場合の対応としては、以下のような対応が考えられます。

(1) 事実関係の確認

 カスハラに該当する行為か否かを判断するため、生じた事象について、確かな証拠から確認をする。

 カスハラに該当しない、正当なクレームについては、真摯に対応を行い、カスハラに該当する場合には、対応マニュアルに沿った毅然とした対応を行う。

(2) カスハラが生じた場合における従業員への配慮

 カスハラに対し、従業員に一人で対応をさせないなど、被害を受けた従業員に対してしかるべき配慮を行う。

 また、現場限りで解決するべき問題か、一旦社内に持ち帰って検討するべき問題かの判断を行う。

(3) カスハラ対応に関する再検証の実施

 具体的に発生した事案を受けて、策定したカスハラ対策に改善の余地がないかを改めて検証する。検証の結果、対応フローを変更した場合には、従業員への周知・教育と、実際の対応を想定した訓練を行う。

(4) 社内への周知・教育

 被害者のプライバシーに配慮し、必要な範囲において従業員に周知する。厚労省の「STOP!カスタマーハラスメント」ポスターを活用し、カスハラ行為が許されないことを店頭や社内に掲示することで、顧客によるカスハラを抑止する。

(5) 法的対応の準備

 悪質なカスハラに対して、法的手段を検討できるよう、日ごろから弁護士と連携しておく。

 また、どのタイミングで弁護士や警察に相談をするか、事前に検討しておく。

 具体的な対応については、厚生労働省が定める、前記「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が参考になりますので、こちらを参照しながら、自社の事業に即した基本方針や対応マニュアルを策定していただくのがよいかと思います。

5.  まとめ

 カスタマーハラスメントは、企業の従業員を不当に追い詰める非常に深刻な問題です。

 本来的には、ハラスメントを行うカスタマー側に問題があることは言うまでもなく、企業側は、いわばカスハラの「被害者」ではありますが、正当なクレームの域を超えた過剰な要求や威圧的な言動から従業員を保護するため、企業として適切に対応する必要があります。

 カスハラは、社内のハラスメントとは異なり社外の者が関与している点、また、その行為者が「顧客」であり、事業者として強い対応を取ることに躊躇してしまう面がある点で、対応に難しさが伴うものといえますが、従業員が安全・安心に働ける環境を守るため、厚生労働省の指針や関連法令を踏まえた防止策を講じるとともに、カスハラに対して毅然とした対応を取ることが求められています。

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