
執筆:弁護士 林越 栄莉 (メタバース / エンターテインメントチーム)
1. はじめに
音楽業界では「原盤権」という言葉が一般的に使用されています。
もっとも、「原盤権とは何か?」と具体的に問われた場合には、説明できない場合が多いのではないでしょうか。
本記事では、原盤権に関する基本的な知識を弁護士が解説致します。
2. 原盤権とは何か?
著作権法は、「レコード製作者の権利」(著作権法2条1項6号)として、著作権法96条から97条の3まで6つの条文に分けて定めた様々な権利やその他の著作隣接権を定めています。これらの権利は、一般的に総称して「原盤権」と呼ばれています。
原盤権の特徴のひとつとして、作曲者ではなくレコード製作者に権利が発生するという点があります。
レコードの製作には、録音のためのスタジオ費用や演奏者・歌手の報酬、編集費用など多額の費用がかかることが通常です。そのため、レコード製作者がこれらの費用とリスクを負担する見返りとして、完成した原盤に対する権利がレコード製作者に与えられる、というのが原盤権の趣旨です。
3.「レコード製作者」とは?
では、「レコード製作者」とは具体的に誰を指すのでしょうか。
「レコード製作者」とは、著作権法上、レコード(CD)原盤の音源を最初に固定した者(会社)と定義されています。
すなわち、ミュージシャンAが『●●』という曲を作曲し、レコード会社BでCD音源を録音した場合、『●●』の曲の著作権者はミュージシャンAになりますが、原盤権はCD音源を最初に固定したレコード会社Bに生じることになります。
4.原盤権を構成する権利について
以下では、レコード製作者の権利である原盤権を構成する複数の権利のうち、特に知っておくべき3つの権利について解説致します。
(1) 複製権
著作権法96条は、レコード製作者の権利のひとつとして複製権を規定しています。
同条は、製作したレコード音源の複製する権利はレコード製作が専有することを定めています。
「専有」とは、言い換えるとレコード製作者が100%有することを意味しますので、例えば、レコード音源の海賊版CDを作成することが複製権の侵害に該当します。
(2) 送信可能化権
著作権法96条の2は、レコード製作者の権利のひとつとして送信可能化権を規定しています。
同条は、製作したレコード音源をインターネット上にアップロードする権利はレコード製作者が専有することを定めています。
これにより、レコード音源を無断でインターネット上にアップロードすることは送信可能化権の侵害に該当します。
(3) 貸与権
著作権法97条の3は、レコード製作者の権利のひとつとして貸与権を規定しています。
同条は、製作したレコード音源を貸与により公衆に貸し出す権利はレコード製作者が専有することを定めています。
これにより、レコード音源を無断で貸与することは貸与権の侵害に該当します。
5.著作権と原盤権の違い
いわゆる原盤権も著作権法上定められている権利ではありますが、著作権と原盤権は異なる権利です。
すなわち、著作権は楽曲を製作した人である作詞者・作曲者等が持つ権利であり、作詞、作曲、編曲により、歌詞や曲を対象として生じる権利です。
他方、原盤権は、上記のとおり録音されたレコード音源、すなわち音を対象とする権利であり著作権とは別途成立します。
6.JASRACと原盤権
音楽に関する知的財産権というと、JASRACが頭をよぎる方が多いのではないでしょうか。JASRACとは、音楽クリエイターと音楽出版社で構成される一般社団法人であり、音楽の著作権を管理している団体です。
例えば、あるアーティストの曲を商用広告として作成する動画内でそのまま使用したい場合、著作権については、JASRACに申請すれば通常は足りることになります。
しかしながら、上記のとおり、著作権と原盤権は異なる権利であり、また原盤権はJASRACの管理するものではありません。そのため、著作権だけでなく、原盤権も侵害することなくJASRACへの申請だけでは足りず、その曲の原盤権を持っているレコード会社等から許諾を受ける必要があります。
7.原盤権の存続期間
原盤権は永久に存続するものではなく、著作権法上、「その音を最初に固定した時」、すなわち原盤の製作時点が開始時点とされています(著作権法101条1項2号)。また、原盤権の存続期間の満了日は、レコードが発行された日の翌年から70年経過の時までと定められています(同条2項2号)。
8.最後に
本記事では、原盤権の基礎知識について概説致しました。
GVA法律事務所では、著作権法や商標法といった知的財産権法務や、インフルエンサー・YouTuber・VTuber等のエンターテインメント業界に関する法律問題について専門的に取扱うチーム(メタバース・エンターテインメントチーム)がございますので、原盤権をはじめとする音楽にまつわる様々な案件についてもご相談いただけます。ご不明点やご相談などありましたら、お気軽にお問い合わせください。