
執筆:弁護士 小名木俊太郎
スタートアップの成功において、資本政策の作成は必要不可欠です。資金調達を行う際に、ベンチャーキャピタルとのやり取りにおいて資本政策に関する話は必ず出てきます。
この記事ではスタートアップに必須となる資本政策について、法的な視点を交えて解説を行っていきます。
1 資本政策とは?
資本政策とは、事業を拡大していく上で必要となる資金調達に関して株主構成や各株主の持ち株比率等を調整して、最終的な目的達成のために最適化した資本構成を実現するための戦略や方針をいいます。
資本政策を作らずに場当たり的に株式を発行して資金調達を行っていると、結果として、資金調達が自由にできなくなったり、取締役を突然解任されたりするリスクが発生するので、このようなリスクを回避するためにも、資本政策はできるだけ早い段階で作成しておくことが望ましいです。
2 スタートアップにおける資本政策の目的
(1)計画的な資金調達
資金調達は資本政策と密接に関連します。IPOを見据えて、どの段階でいくらの資金が必要となるのかを検討して、その資金をどのような方法で調達するのかということをシミュレーションしておくことは、スタートアップの経営において非常に大切です。
スタートアップにおける資金の調達方法としては、大きく分けると2種類あります。株式を発行して調達するエクイティファイナンスと、借り入れによるデットファイナンスです。スタートアップは、エクイティファイナンスをメインの資金調達手法として検討することがほとんどですが、最近では、日本政策金融公庫のスタートアップ向け融資制度の金額の拡充やデットファイナンス専門のVCの設立など、スタートアップにおいてデットファイナンスを行いやすい環境が整ってきているので、エクイティファイナンスによる調達のみだけではなく、デットファイナンスによる調達もしっかりと検討し、資本政策の中に組み込んでいきましょう。
(2)役職員へのインセンティブ設計
スタートアップは、成長の過程で、役職員へのインセンティブとしてストックオプションの付与を検討することが一般的です。ストックオプションの発行割合は、通常、発行済株式の10~15%程度です。ストックオプションの制度を予め設計しておくと有能な人材を新たに獲得する際にも利用することができるので、ストックオプションによるインセンティブ設計は、資本政策を検討する上で検討しておくべき事項です。
(3)イグジットに向けた株主構成の管理
会社経営の観点からは、外部株主の持株比率は非常に重要です。特に譲渡制限株式を発行しているスタートアップでは、定款の変更や資金調達のための株式の発行、ストックオプションとしての新株予約権の発行など会社経営において重要な事項が、株主総会の特別決議事項(出席株主の3分の2以上の賛成が必要となる決議事項)となっているため、外部株主の持株比率が全株主の議決権の3分の1を超えてくると、これらの事項が否決されるリスクがあります。また、経営株主の持株比率が低下しすぎると、経営株主自身のモチベーションにも影響してしまいます。そのため、経営株主の持株比率を最終的にどの程度にしておきたいのか、という観点は非常に重要です。
一般的にIPO時点の経営株主の持株比率は20~30%程度です。ただし、当初の計画時からIPO時点の経営株主の持株比率を20~30%に設定すると、計画の下方修正が必要となった場合、経営株主の持株比率が低下し過ぎてしまうので注意しましょう。
3 スタートアップにおける資本政策の失敗事例
それでは、資本政策を失敗するとどのようなことが起きるのでしょうか。会社を設立する際に、お世話になった外部の方や当初の運転資金を出していただいた外部の方に大量の株式を渡してしまった事例を元に検討してみましょう。
具体的なケースとしては、過半数を渡してしまったり、過半数まではいかなくとも40%程度を渡してしまっているケースがよくあります。この場合、何が起こるかというと、まず株主総会決議事項が、経営に何ら関与していない外部株主の意向次第で否決されるリスクがあるため、経営株主が自由かつ迅速に経営上の意思決定を行うことができず、スタートアップの成長を阻害するおそれがあります。
次に、資金調達が難しくなります。経営に何ら関与していない外部株主の意向次第で株主総会決議事項が否決されるリスクがあるため、そのような不安定な会社に投資を行うのはリスクが高いためです。
また、会社が大きくなっていき、事業が上手く軌道に乗ってくると、会社の成長と反比例するように経営株主のモチベーションは低下していきます。外部株主に過半数も株式を保有されていると、何もしていない外部株主のために働いているようなものだからです。
このように、いくらお世話になったとしても、会社の経営に何ら関与しない外部の方に対して株式を大量に発行してしまうと、結果として会社の成長が阻害されてしまうこととなるため、資本政策を作成することなく、無計画に外部株主に株式を大量に発行するべきではありません。なお、もしお世話になった外部の方に何らかのインセンティブを付与したいということであれば、ストックオプションを少し発行するなどで対応するのが良いかと思います。
4 資本政策は是正できる?
それでは、資本政策を失敗してしまった場合、是正することはできるのでしょうか?
一度発行してしまった株式は、株主の意思に反して強制的に買い戻すことは原則としてできないため、基本的に資本政策を会社の都合で一方的に巻き戻して是正することはできません。
そのため、是正するとなると、外部株主の方にお願いをして任意に譲渡してもらうこととなりますが、是正しようとするタイミングでは、通常、外部株主が株式を取得した時よりも企業価値が向上していることが多いため、譲渡価格で揉めてしまい、株式を譲渡してもらうのが難しいケースがほとんどです。
もっとも、外部株主の持株比率によりますが、有償の新株予約権や劣後する種類株式を経営株主に発行することで経営株主の持株比率を是正する、という方法はあり得ますので、諦めずにまずは弁護士に相談しましょう。
5 終わりに
スタートアップにおける資本政策の重要性は理解いただけましたでしょうか?資本政策は後戻りができないため、必ず事前に検討しておくことをお勧めします。
もし資本政策に関して悩みがあったり、資本政策に失敗してしまい困っている場合は、弊所までお気軽にご相談ください。