
執筆:GVAコラム編集局
リーガルチェックはビジネス成長に不可欠
法的リスク管理の基本と実践方法
こんにちは、GVAコラム編集局です。
ビジネスを行っていく上で法的リスクを最小限に抑えることは極めて重要です。企業活動が法律や規制に適合しているか、また取引は適正に行われているかなど、その合法性と法的リスクを評価するためのプロセスとして「リーガルチェック(法務確認)」があります。
一般的には、リーガルチェックは社内の法務部門や外部の顧問弁護士によって行われますが、これだけで十分なのでしょうか?
この記事では将来の安全保障と企業成長のための、より効果的なリーガルチェックの方法について詳しく解説します。
リーガルチェックとは?
リーガルチェックは企業活動を法的にチェックする手段です。企業はリーガルチェックを通じて潜在的な法的リスクを洗い出し、適切に対応することができます。
「リーガルチェック=契約書の確認」と誤解されがちですが、実際には企業の事業運営全般にわたるコンプライアンスの確認を意味します。具体的には、事業や取引の違法性の有無を確認し、将来的に想定される法的リスクへの対策を講じます。地域特有の法律や規制の順守確認、知的財産権の保護策の実施なども含まれます。
また、リーガルチェックでは必要に応じて取引先へのヒアリングなども行います。その後、契約書や重要なドキュメントを作成し、厳密に審査します。こうして適切に行うことで企業は法的リスクを最小限に抑えることができます。
リーガルチェックは単なるプロセスにとどまらず、ビジネスの持続的な成長を支える重要な取り組みなのです。
リーガルチェックの重要性
リーガルチェックが必要になる場面はさまざまです。一般的な企業間の取引はもちろん、新規事業の立ち上げや新会社の設立、提携や業務委託、雇用に至るまで広範多岐に渡ります。
もしもリーガルチェックを行わず、法令に抵触する内容を記載した契約書を渡してしまったら、相手からの信頼を大きく損なうことになりかねません。また、自社の不利益となるような条件で契約を締結してしまう可能性もあります。
不十分な契約条件や法的な漏れを事前に発見し、適切に対策することで、法的トラブルや訴訟リスクを回避できます。契約書や法的文書の精査をして潜在的なリスクを排除し、企業の安全性を確保します。
また、リーガルチェックを通じて安全で信頼性のある取引環境を構築できれば、ビジネスパートナーや投資家の信用を得ることができるでしょう。取引の際に法的リスクや条件が明確化されることで、透明性も確保され、双方の利益を守ることもできます。
リーガルチェックを怠ることは、企業にとって大きなリスクをもたらします。法的な不備や未対応が原因での訴訟リスクや罰金の支払い、または業務停止になる可能性もあります。企業の信用を保つためにもリーガルチェックは不可欠です。
日ごろから、地域や業界を含めて法的規制の確認を行うことで、罰則や制裁を避け、業務効率を高めることができます。リーガルチェックは、法律や規制の変化に対応し企業が持続的に成長するための基盤を築く手段でもあるのです。
リーガルチェックのポイント
リーガルチェックを効果的に行うためには、以下の具体的なポイントに注意する必要があります。
■コンプライアンス
地域や業界特有の関連法規や規制に適合しているかどうかを確認します。これには、税務、環境保護、労働法、消費者保護など幅広い領域が含まれます。企業の合法性と法的リスクを回避するための基本です。
■知的財産権
所有する知的財産権(特許、商標、著作権など)が適切に保護されているかを確認します。知的財産権の侵害を防止するための措置、また必要に応じて法的手続きを行います。他社の知的財産権や権利を侵害していないかも合わせて確認します。
■労働法
雇用契約や労働基準法に基づいて、労働者の権利を順守しているか確認します。労働条件や給与、安全衛生規定などが含まれ、労働紛争の予防にも役立ちます。
■契約書
すべての契約書や法的文書を詳細に精査します。契約条件の明確化や不利な条項の特定、法的保護が不十分な場合のリスク評価を行います。
また、契約書と法律の関係には注意が必要です。企業間取引では、原則として法律よりも契約書に定めた内容を優先しますが、下請法や消費者契約法、特定商取引法など一部例外があります。これらと重複する内容は契約書に記載があっても、その部分だけは法律の定めが優先されます。逆に契約書が優先される条項であっても記載がない場合、その背景にある法律の定めが適用されます。
■紛争解決
紛争が発生した際の対策を事前に検討します。紛争解決のための法的手続きや交渉方法を準備し、自社の利益を最大限守ります。
その契約書、大丈夫ですか?
契約書は契約締結の証拠となるものです。これまでのリーガルチェックの結果をもとに契約書のレビューを行います。合法性や法的リスクの確認だけでなく、取引相手との信頼性を高め、ビジネスを成長させるために何を盛り込むべきかも考慮します。
契約書のレビューでは、表現や条件があいまいになっていないか、不利な免責条項が含まれていないか、権利や機密情報の保護は十分かという点に特に注意が必要です。実際に、部分的な契約書の確認だけで取引を結んだ結果、後に重大な問題が発生したケースもあります。
具体的にどういった点に気を付ければいいのでしょうか。弁護士法人GVA法律事務所 鈴木 景 弁護士に聞いてみました。
──契約書を作成、レビューする際に気を付けるポイントを教えてください。
鈴木弁護士:
契約書は、その契約内容によってさまざまですのでひと口に言えるものではありませんが、最も重要なことは、当事者間の合意内容を具体的に記載するということです。
情報を整理するためのフレームワークに「7W2H1G」があります。
7Hは①why(なぜ、何のために)②when(いつ)③who(誰が)④what(何を)⑤where(どこで)⑥whom(誰に、何に)⑦which(どちらから、どの順番で)、2Hは①how much(many)(どのくらい)②how to(どのように)、1Gはgoal(ゴール)──というものです。
基本的には、契約書の記載から、この7W2H1Gが明確になるよう、各条項について具体的に記載し、解釈の余地をなるべく残さないように記載することが大事です。
特に重要な業務項目や細かい業務内容、実行すべきタスクや成果物については明確に記載すること。例えば、「○○業務」という用語だけでなく、「○○を提供すること」とか、その具体的なスケジュールや成果物の詳細などが含まれるべきです。
──実際のトラブル事例としてどのようなものがありますか?
鈴木弁護士:
2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって企業活動は大きく変わりました。組織をスリム化するために業務の一部を外部委託するケースは少なくなく、企業、個人を問わず今もニーズは拡大しています。
業務委託の内容はさまざまですので法的トラブルの内容もまた多岐に渡ります。例えば、委託先から個人情報や機密情報が流出したといった事件はニュースでもよく報道されます。また、デジタルコンテンツ制作などで委託クリエイターが著作権侵害をしてしまうこともよくある事例です。
業務委託契約の条項によって生じたトラブルでは、あいまいな表現による双方の認識のズレによるものがあります。またその契約の性質によって生じるものもあります。たとえ業務委託契約を締結していても、実態において雇用契約とみなされ労働法の観点から法的トラブルに発展したケースもあります。
また業務委託契約のうち、請負型で締結した契約について、「仕事が完成したか否か」を巡って紛争かしたケースもあります。
加えて、そもそも、契約を結んでいないことによるトラブルも多く発生しています。
──契約を結ばないとはどういうことでしょうか。
鈴木弁護士:
企業の中には、独立した法務部門を持つ企業ばかりでなく、総務部門などが兼務していることもありますし、企業の成熟度によっては、CEOの方が契約事務を所管していることもあり得ます。こうした企業では契約に関する業務フローが整備されていないこともありますし、ビジネスのスピードを重視するあまりに契約書の締結過程を経ずに取引に入ることもあります。
契約書の締結が必要なケースがきちんと社内で整理されていなかったり、基本契約のみで案件ごとに契約書を交わさない、金額が小さいため契約書は必要ないと考えていたりするケースなどがあります。
また、たとえ契約書を交わしている場合でも、同じフォーマットの契約書を使い回し、上司や経営者の承認だけで大丈夫だろうとチェックを疎かにしてしまいリスクを過少評価してしまうなど、慣例的に処理してしまうこともあり得ます。相手が過去に取引実績のある会社であるからといった理由で安易に契約を締結することも問題です。
──ただ、法務部門を持たない企業にとって継続的に法務リソースを確保することは難しいのでは。
鈴木弁護士:
これは法務部門のあるなしに関わりません。現在、企業を取り巻く法的環境は複雑化しています。法務関連の業務範囲は拡大し、業務量が増加するなかで法務人材の確保や育成が大きな課題となっているように思います。国内の大手企業でも多くが法務部門のスタッフ不足に悩まされているのが現状です。
近年は特に、新たなビジネス分野の開拓や国際的な法整備を背景に、より専門的な法務に携わる人材が求められています。
セカンドオピニオンの活用
──戦略的にリーガルチェックを行うことがビジネスの成長に有効なアプローチだと考えていますが、現実的ではないのでしょうか。
鈴木弁護士:
いえ、リーガルチェックを適切に行うことは企業の成長に欠かせないものと考えます。ただ上記のような状況で包括的にリーガルチェックを行うことは非常に難しい。ですが、実現すれば大きな武器となります。
そのために活用したいのが「セカンドオピニオン」です。セカンドオピニオンは医療の分野では一般的になってきています。患者自身が納得のいく治療を選択できるように、主治医とは別の医師に「第二の意見」を聞くことをいいます。
リーガルチェックの場合でいえば、現在依頼している専門家(外部の顧問弁護士など)とは別の専門家に意見を求めることが、これに当たるといえます。
慣例やバイアスにとらわれず客観的にリーガルチェックを遂行できる独立した専門家の視点を取り入れることで、多角的なリーガルチェックが期待できます。また、継続的な外部の専門家との連携を通じて得られたフィードバックを反映し、リーガルチェックのプロセスやポリシーを見直すことでリスク管理能力が向上することも、期待できます。
社内の法務教育や知識の蓄積が促進され、組織全体での法的意識や能力の向上にも大きなメリットがあります。
──活用している企業は多いのでしょうか。
鈴木弁護士:
独立した外部の他の弁護士などに意見を聞いたり、協力してもらうことは特にめずらしいことではありません。ただ、これまでは、セカンドオピニオンという言い方はしておらず、そうした考え方も浸透していないように思います。
現在は、正式にリーガルセカンドオピニオンとしてサービスを行っている法律事務所もありますし、AIを活用した契約書レビューサービスなどもあります。これらを、取引先との契約を締結する際に利用している企業は増えてきているのではないでしょうか。
もちろん当GVA法律事務所にも契約書のレビューやセカンドオピニオンとしてリーガルチェックを行ってほしいという依頼は多くあります。またBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)として、法務を一括でお引き受けすることも可能です。
──具体的にどういったことを行うのですか?
鈴木弁護士:
リーガルチェックはもちろん、企業様の業務内容を把握した上で的確なアドバイスや社内の法務フロー構築などもサポートいたします。
当事務所の場合、顧客の多くはスタートアップ企業で、契約関係をはじめとする法務対応に十分なリソースを割くことが困難な状況にある企業をサポートさせていただく機会も多くあります。もしお困りのことがございましたらお気軽にご相談いただければと思います。ビジネスに踏み込んだコミュニケーションやスピード感を持ったコミュニケーションにも慣れておりますのでご安心ください。
──ありがとうございました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は効果的なリーガルチェックの方法について解説し、契約書レビューのポイント、法務リソースの確保と外部専門家の活用について 鈴木弁護士に聞いてみました。
多くの企業で課題になっている法務リソースの確保を部分的にでも専門性のある外部へアウトソースすることは、法的リスクを最小限に抑え、法的トラブルを予防する有力な手段です。また、法務においてセカンドオピニオンを活用することでリーガルチェックの精度と信頼性を高めることができます。
GVA法律事務所では、法務部門の機能を丸ごと委託できる「法務部アウトソーシングサービス」を提供しています。また部分的に、週2〜3回弁護士が企業に常駐する形でサポートする出向サービスもありますので、ぜひ活用してみて下さい。
監修
弁護士 鈴木 景
(都内法律事務所からインハウスローヤーを経て、2017年GVA法律事務所入所。 スタートアップから大手上場企業まで、新規事業開発支援、契約書作成レビュー支援、株式による資金調達、M&AやIPOによるExitの支援など幅広く対応。 対応領域も、医療・美容に関する広告規制対応や、食品関連ビジネス、旅行関連ビジネス、NFT関連ビジネスと幅広い。)