
執筆:弁護士 阿久津 透( AI・データ(個人情報等)チーム )
2024年に施行される法律のうち、企業法務に影響が大きいものをピックアップしてその概要をご紹介します。
各トピックの詳細をご覧になりたい方は今後追加していくリンク先の記事もあわせてご覧ください。
1.労働法関係
(1)労働条件明示
2024年4月1日以降に締結、更新される労働契約から、労働条件明示のルールが変わります。
すべての労働者を対象に、労働契約の締結時と有期労働契約の更新時の明示事項として、就業場所・業務変更の範囲が追加されます。
また、有期契約労働者を対象に、有期労働契約の締結時と更新時の明示事項として、更新上限の有無と内容が追加され、無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時の明示事項として、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件が追加されます。
労働条件通知書に自社ひな型を作成している事業者は、2024年4月1日までに改正後のルールに適合するよう見直す必要があります。
(参照:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」)
(2)裁量労働制の制度改正
2024年4月1日以降、新たに又は継続して裁量労働制を導入する場合のルールが変わります。
専門業務型裁量労働制については、対象となる業務に「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」、いわゆるM&Aアドバイザーの業務が追加されるとともに、労使協定に本人同意や同意の撤回に関することを定める必要があります。
企画業務型裁量労働制については、労使委員会の運営規定に労使委員会に対する賃金・評価制度の説明に関すること等を定めるとともに、同意の撤回手続きに関する事項を労使委員会で決議する必要があります。
裁量労働制を導入するすべての事業場で必ずこれらの手続きを行い、導入・適用するまでに労働基準監督署に協定届や決議届の届出を行う必要があるので、対象となる事業者は注意が必要です。
(参照:厚生労働省「裁量労働制の概要」)
(3)労働時間の上限規制
働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限が法律に規定され、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用がされていました。
一方で、自動車運転の業務など一部の業界については、長時間労働の背景に、業務の特性や取引慣行の課題があることから、時間外労働の上限について適用が5年間猶予され、また、一部特例つきで適用されることとされていました。
この猶予があけ、2024年4月から、建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師の時間外労働の上限規制が適用されます。
いわゆる物流の2024年問題と呼ばれるものです。
上記の各事業に該当する方だけでなく、ECや小売りなど物流との関係が深い事業の方は、商品提供のスピードやコストアップなどに影響するものですので、対応を検討しておく必要があります。
(参照:厚生労働省「適用猶予業種の時間外労働の上限規制特設サイト はたらきかたのススメ」)
(4)フリーランスの保護
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日)において、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討され、令和5年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立しました。
交付日である2023年5月12日から1年6か月を超えない範囲内で施行されることになっていますので、2024年11月までには施行されることになります。
フリーランス・事業者間取引適正化等法では、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等が義務付けられることとなります。
在宅勤務や副業の広がりによって、雇用ではなく業務委託の形態で人材を賄う事業者は増えていますので、事業の種類に関わらず対応の検討が必要です。
(参照:厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」)
2.知的財産法関係
(1)概要
「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が令和5年6月7日に可決・成立し、6月14日に法律第51号として公布されました。
この改正は、知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏まえ、スタートアップ・中小企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするなど、時代の要請に対応した知的財産制度の見直しが必要との観点から行われたものです。
デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、国際的な事業展開に関する制度整備の3つを柱として、不正競争防止法や、不正競争防止法や商標法、意匠法などが改正されました。
(参照:特許庁「不正競争防止法等の一部を改正する法律」)
(2)不正競争防止法
不正競争防止法の改正のポイントは、デジタル空間における模倣行為の防止と、営業秘密・限定提供データの保護の強化の2つです。
不正競争防止法では、模倣した商品を譲渡したり貸渡したりする行為を不正競争としていますが、今回の改正では電気通信回線を通じて提供する行為もこの類型に加わりました(不正競争防止法第2条第1項第3号)。これにより、商品形態の模倣行為について、デジタル空間上でも不正競争行為の対象となり、権利者は差止請求権等を行使できるようになります。
次に、「限定提供データ」(不正競争防止法第2条第7項)の定義に修正が加わり、ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等が可能となったほか、損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求が可能(不正競争防止法第5条)となったりするなど、営業秘密等の保護が強化されています。
(3)商標法
商標法に関しては、登録可能な商標が拡充する方向での改正がされています。
現行法では、承諾を得たものを除き、他人の肖像、氏名・名称等を含む商標は商標登録を受けることができないとされています。条文上は「他人の」となっていますが、同一の氏名・名称を有する者が複数存在する場合には、いずれの者も自己の氏名・名称を含む商標について登録を受けることができないため、自己の氏名での商標登録を受けることはほぼできない状況でした。
これが、自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるようにするため、今回の改正により、氏名を含む商標も一定の場合には、他人の承諾なく登録可能になりました。
また、他人が既に登録している商標と類似する商標は登録できませんが、先行商標権者の同意があり、かつ出所混同のおそれがない場合には登録可能にするという条文が追加されています。
(4)意匠法
意匠法に関しては、新規性喪失の例外規定の適用手続きの要件が緩和する改正がされています。
2024年1月1日以後の出願については、意匠登録を受ける権利を有する者(権利の承継人も含む)の行為に起因して公開された意匠について、最先の公開の日のいずれかの公開行為について証明することで、その日以後に公開した同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用が受けられるようになります。
(参照:特許庁「意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について(出願前にデザインを公開した場合の手続について)」)
3.金融商品取引法
2023年11月20日に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」では、四半期報告書制度に関する規定(改正前金融商品取引法24条の4の7、24条の4の8)が削除され、上場会社等は四半期報告書に代えて半期報告書の提出が必要になりました。
改正法の施行は2024年4月1日を予定しています。
四半期報告書は、施行日以後開始する四半期会計期間に係るものから提出が不要となりますが、施行日前に開始する四半期会計期間に係るものについては提出が必要となるので、自社の会計期間と施行日の確認にはご注意ください。
(参照:金融庁「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について」)
4.景品表示法
事業者の自主的な取組の促進、違反行為に対する抑止力の強化等を講ずることで、一般消費者の利益の一層の保護を図るため、景品表示法が改正されました。
改正法は2023年5月10日に成立、同月17日に公布されており、施行日は公布の日から1年6月を超えない範囲内となっていますので、2024年11月までには施行される予定です。
今回の改正では、確約手続(優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置、命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度)の導入や、課徴金制度における返金措置の弾力化、課徴金制度の見直しや罰則規定の拡充といった規定が盛り込まれています。
(参照:消費者庁「国会提出法案」)
5.税務会計
2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法には2年間の猶予期間が付されていたため、2024年1月1日から電子取引データのデジタル保存義務が本格化します。
2023年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにすれば問題なかったものが、2024年からは保存要件に従って電子データの保存をする必要が出てきます。
電子帳簿保存法については、電子取引、電子帳簿・電子書類、スキャナ保存それぞれについて一問一答が作成されているため、事業者の方はこれらを参照しながら対応を行っていく必要があります。
(参照:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」)