【弁護士解説】ノーアクションレター制度(法令適用事前確認手続)とは?

 新しいビジネスを始めるときに注意が必要なことは、規制があるかどうかの確認です。ビジネスを始めたけれど違法だった、ということを避けることが必要ですし、ビジネスモデルを適切に設計することで適法に行えることもあります。

 ここでは、そのチェックをするための制度であるノーアクションレター制度を解説します。

この記事で分かること
・ノーアクションレター制度の内容
・ノーアクションレター制度の手続
・他の制度との違い
・ノーアクションレター制度の活用事例

1.ノーアクションレター制度とは?

(1)ノーアクションレター制度

 ノーアクションレター制度は、正確には法令適用事前確認手続といいます。

 事業者が新しいビジネスを始めようとするときは、そのビジネスが法律に違反しないようにする必要があります。

 この制度は、ビジネスに関係する具体的な行為が、特定の法令の規定の適用対象となるかどうかを、あらかじめその規定を所管する行政機関に確認すると、その行政機関が回答を行うものです。その場合、その回答内容は公表されます。

 本稿では、ノーアクションレター制度の基本的な手続きの流れや、他の似た制度との違い、活用事例などについて概説いたします。

(2)成立の経緯

 まず、この制度の成立の経緯を説明します。

 ノーアクションレター制度は、もともと米国のSEC(証券取引委員会)で実施されていた制度で、日本では、2001年の閣議決定によって「法令適用事前確認手続」として導入されました。そのため、「日本版ノーアクションレター」とも呼ばれています。

 民間企業が新たなビジネスを興したり、新商品を販売しようとしたりしても、その行為が法令に抵触しないことがはっきりしないと、事業活動が萎縮してしまいます。そのようなケースがないようにするため創設されました。

(3)制度の対象

 皆さんの関心が高いのは、この制度がどんなことを対象にしているのかだと思います。

 ノーアクションレター制度は、新規事業や取引を具体的に計画している民間企業等が行う照会を対象としています。

 当初は「IT・金融等新規産業や新商品・サービスの創出が活発に行われる分野」の照会を想定していましたが、2004年の改正により、広く「民間企業等の事業活動に係る法令」を対象とすることになりました。

 そのため、現在は、かなり広い分野でこの制度を使えるようになっています。

 具体的には、以下のような事項が挙げられます。

① (許可等を受けないで)新規事業や取引を行うことが、 罰則の対象となっている無許可営業等にならないかどうか 

②(届出等を行わないで)新規事業や取引を行うことが、罰則の対象となっている無届営業等にならないかどうか 

③ 新規事業や取引を行うことによって、業務停止や免許取消等(不利益処分)を受けることがないかどうか

2.手続きの流れ

 ノーアクションレター制度を使うには、定められた手続で進めていく必要があります。次に、この手続きの流れを確認していきましょう。

(1)所管する省庁の特定

 手続きの流れについては、各所管省庁の細則により定められています。ノーアクションレター制度における所管省庁とは、規制を担当する行政庁です。

 そのため、ノーアクションレター制度の利用にあたっては、まずは、照会を行う法令を特定し、当該法令を所管する省庁の細則を確認する必要があります。

 まず、実施しようと考えているビジネスモデルを明確にして、その部分にどのような法規制があるのかを確認します。そして、法規制が及ぶのか不明な点が、照会を行う事項になります。1の⑶で挙げた例に該当するような場合は、この制度を活用できるのか検討します。

 なお、現代では様々な業界に複雑な法規制があります。ビジネスを始めたものの、法規制に気付かずに違法になってしまうことには大きなリスクがあります。ビジネスモデルのどの部分に法規制があるのか分からないときや不安があるときは、業界のルールに詳しい弁護士などの専門家に相談することも重要です。

(2)照会書の提出

 所管省庁を特定した後、所管省庁の照会窓口に照会書を提出します(Emailによる提出も可能とされています)。照会窓口は法令毎に定められており、所管省庁のホームページ等で窓口を確認することができます。

 このときに提出する照会書には主に以下の事項を記載します。

①将来照会者自らが行おうとする行為に係る個別具体的な事実

②適用対象となるかどうかを確認したい法令の条項

③当該法令(条項)の規定の適用対象となるかどうかについて、見解及びその結論を導き出す論拠

④照会及び回答内容が公表されることに同意していること。なお、照会対象法令(条項)の性質上照会者名を公にすることが回答にあたって必要とされる場合に、照会者名が公表されることに同意していること

(3)所管省庁からの回答

 照会書を提出すると、所管省庁は原則として照会書を受領してから30日以内に回答を行うとされています。

但し、合理的な理由によって30日以内に回答を行うことができない場合には、照会者等に対して、その理由及び回答時期の見通しを書面やメール等により通知の上、回答期間を延長することができます。さらに、所管省庁は以下のような場合には回答を行わないことができます。

①判断の基礎となる事実関係に関する情報が不明確である又は不足している場合

②類似の事案が争訟(訴訟、行政不服審査法に基づく不服申立て及びその他の法令に基づく不服申し立て)の対象となっている場合

③一般に提供されている逐条解説や一問一答集等により既に明らかにされている等ありふれた事案に関する照会又は既に各省庁のホームページにおいて回答が公表されている照会と同種類似の照会である場合

(4)公表

 照会及び回答の内容は、各所管省庁のホームページにおいて、公表されることとなります。照会者名は照会者の同意がある場合に限り、公にすることができるとされております。

 公表は、原則として、回答を行ってから30日以内に行われますが、以下に掲げる場合は30日を超えてから公表を行うことができるとされています。

①照会者が公表の遅延を希望し、照会書に公表の遅延を希望する理由及び公表可能とする時期を付記している場合であって、その理由が合理的であると認められる場合。但し、この場合において、必ずしも照会者の希望する時期まで公表を遅延されるものではなく、公表を遅延する合理的理由が消失した場合には、公表する旨を照会者に通知した上で公表することができることとする。

②公益上その他の理由で公表を遅らせる必要がある場合。
そのため、公表を希望しない場合には、①に記載のとおりその理由と併せて照会書に記載する必要があります。

(5) 小括

 このように、ノーアクションレター制度の利用にあたっては、照会対象となる具体的な法令の対象の特定や判断の基礎となる事実関係に関する情報の収集、他の照会事例と重複しないかどうかの確認等が必要となります。


3.他の制度との違い、使い分け

 ノーアクションレター制度は、20年以上前に始まった制度ですが、その後、新たな事業に関する規制の有無を確認するための制度が次々と作られています。

ここでは、各制度とノーアクションレター制度との違いを見ていきましょう。

(1)グレーゾーン解消制度

 ノーアクションレター制度と同様に、規制の適用の有無を確認するため、行政機関への照会を行う手続きとして、2014年に施行されたグレーゾーン解消制度が挙げられます。グレーゾーン解消制度とノーアクションレター制度との大きな違いは、所管省庁が「規制」を所管する省庁ではなく、「事業」を所管する省庁であるという点です。

 ノーアクションレター制度では、先に述べたとおり、規制毎に照会を行うこととなるため、照会する法令を特定する必要がありましたが、グレーゾーン解消制度では、自社の事業を所管する省庁に対して複数の法令にまたがった照会を行うことが可能です。  

 令和5年4月~6月の活用実績は242件と広く活用されている制度で、今後はノーアクションレター制度よりもグレーゾーン解消制度の利用が中心になるとの見解もあります。

グレーゾーン解消制度の詳細はこちら

https://gvalaw.jp/blog/b20250314

(2)新事業特例制度

 新事業特例制度は、安全等の確保など代替措置の実施を条件として、規制の特例措置を整備し、事業者単位で当該規制の特例措置の適用を認める制度です。

 事業者は新たに実施しようとする事業内容と具体的な提案内容(「●●法第●条に基づく規制について●●という代替措置を講じることにより、●●を可能とする特例を設ける」等。)を主務大臣(事業所管大臣及び規制所管大臣)に提出する必要があります。グレーゾーン解消制度と同様、2014年に創設され、たとえば、株式会社EXx、株式会社mobby ride、株式会社Luupの3社は、2020年に「新事業特例制度」を用いた電動キックボードの公道での実証実験の計画が認定されていました。

(3)プロジェクト型規制のサンドボックス

 プロジェクト型規制のサンドボックスとは、参加者や期間を限定すること等により、既存の規制にとらわれることなく新しい技術等の実証を行う環境を整備することで、迅速な実証及び規制改革につながるデータの収集を可能とする制度です。

 事業者は、実証を行った結果、目標がどの程度達成されたか、実証について新たな規制の特例を措置した場合には、規制の特例措置をどのように活用したかを所管省庁に報告し、規制の見直し及び規制改革を推し進めていくことができます。

 2018年に導入された比較的新しい制度で、たとえば、日本コカ・コーラ株式会社も同制度を利用しています。2023年7月19日、自動販売機によるラベルレスペットボトルの販売に関し、法令上、本来容器に表記しなければならない製品情報を自動販売機自体に表示することで、ラベル付製品と同等の製品情報を認識し、安全性の確保や合理的な食品の選択の機会を妨げないことを確認するための実証を行う予定であるとのことです。

(4)各制度の使い分け

 各制度の使い分けとして、たとえば、事業計画を準備する前であれば、事業所管省庁ではなく、懸念している規制毎に規制所管省庁へ照会を行うノーアクションレター制度が有用であるといえます。

 事業計画を準備した後で、複数の法令にまたがって適用の有無について確認をする必要がある場合には、事業所管省庁を窓口とするグレーゾーン解消制度を利用する方が、法令毎の照会が不要となるため、コストがかからないと考えられます。

 ノーアクションレター制度やグレーゾーン解消制度を利用した結果、法令の適用があり現状では新事業を行うことはできないとの判断に至った場合には、法令適用の特別的取り扱いを検討するため、新事業特例制度を利用することが考えられます。

 他方で、法令改正そのものを目指す場合には、プロジェクト型「規制のサンドボックス」を活用することとなります。

 なお、各制度の使い分けの基準はあくまで目安となりますので、個別の事情に応じていずれの制度を選択すべきか検討をいただく必要がございます。

時期

法令の適用

制度

事業計画の準備前

不明

ノーアクションレター制度

事業計画の準備後

不明

グレーゾーン解消制度

適用あり

新事業特例制度

規制のサンドボックス

※あくまで目安。個別の事情でどの制度を活用するべきかは要検討。

 このように、明確にどの制度を活用するのかも事案ごとに変わってきますので、制度の対応実績のある専門家のアドバイスを受けることも必要になります。


4.活用事例

 最後に、ノーアクションレター制度の具体的な活用事例を見てみましょう。

 一般社団法人日本eスポーツ連合の照会に対し、消費者庁表示対策課が令和元年8月5日付で回答している事例をご紹介します。

(1)照会概要

 照会の内容は、対戦型コンピューターゲームを使用して参加者同士で勝敗を争い最終成績が決定される競技型のゲーム大会やリーグ戦の大会における賞金の提供が、不当景品類及び不当表示防止法第4条の「景品類」の提供に該当するか否かです。

照会の対象の行為

戦型コンピューターゲームを使用して参加者同士で勝敗を争い最終成績が決定される競技型のゲーム大会やリーグ戦の大会における賞金の提供

法令

不当景品類及び不当表示防止法第4条の「景品類」の提供に該当するか否か

 照会書には、照会の対象となる法令名及び条項のほかに「実現しようとする自己の事業活動における具体的行為」及び「当該行為と照会対象法令の規定との関係についての自己の見解及び根拠」として以下の内容が記載されています。

  • ア「ライセンス選手に対してのみ賞金を提供するケース」/イ「一定の方法で参加者を限定したうえで大会などの成績に応じて賞金を提供するケース」を設ける予定である。

  • アの場合のライセンス選手は、別途照会者が公認する大会において好成績を収め競技性、工業製ある大会等へ出場するゲームプレイヤーとしてプロフェッショナルであるという自覚を持ち、技術向上に精進することを誓約する者でライセンス取得にふさわしいと判断された者である。

  • ライセンス選手は、試合を自らの業務として実施しその報酬として賞金をゲーム会社等から受領している。

  • イの場合における参加者は所定の審査基準に基づいて大会等運営団体から審査を受けて参加資格の承認を受けた者に限られる。

  • イの場合の参加者は、ライセンス選手と同様に、高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演により大会等の競技性及び興行性の向上に資する者であることが保証されている。

  • イの参加者はライセンス選手と同様に自らの業務の報酬として賞金を受領する。

(2)回答

 (1)の照会内容を受けて、消費者庁は、結論として、「照会のあった具体的事実については、照会者から提示された事実関係を前提とすれば、景品表示法第4条の規定の適用対象とならないものと考えられる。」としています。

 具体的には、以下の内容です。

  • 景品表示法上の「景品類」の定義及び「景品類等の指定の告示の運用基準」を根拠に、仕事の報酬等と認められる金品の提供は景品類の提供にあたらないといえる。

  • 大会の賞金の提供先は、照会者がプロライセンスを付与した選手又は所定の審査基準に基づく審査を受けて参加資格を得た参加者に限定されており、いずれも高い技術を用いたゲームプレイの実技又は実演により大会等の競技性及び興行性の向上に資する者であることが類型的に保証され、また求められている。

  • 大会の参加者への賞金の提供は、「仕事」の報酬等と認められる金品の提供にあたり、「景品類の提供にあたらない」と考えられる。

(3)小括

 以上のように、所管省庁は、照会内容に記載された法令と具体的事実を前提に検討を行い、適用の有無に関し法的な見解を回答することとなっております。

 ノーアクションレター制度の活用には、新規事業、サービスを行うにあたって、どのような法令が問題となるのか、また、どのような具体的事実が挙げられれば適用の可否を判断できるのかについて、十分に検討を行うことが必須であると考えられます。


5.おわりに

 以上のとおり、ノーアクションレター制度は、その事業が違法ではないことを明確にし、安心して事業活動を始めるにあたって有用な制度です。他方で、これを活用するには、先に述べたとおり他制度との比較検討や照会の対象とする法令の特定、また適用の有無を根拠づける事実の精査等が必要となります。

 GVA法律事務所では、制度選択に関するアドバイスや問題となり得る法令のリサーチ、照会書の作成、所管省庁との調整等のサポートを行っております。ノーアクションレター制度やその他行政機関への照会制度の活用をお考えの方、又は新規事業開始にあたり法令の抵触が気になる方は、お気軽にお問い合わせください。


参考文献

塩野誠、宮下和昌(2021)『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック第2版』. 東洋経済新報社,8頁.

アンダーソン・毛利・友常法律事務所編(2022)『スタートアップ法務』.中央経済社,103頁.

阿部・井窪・片山法律事務所服部誠ほか『第4次産業革命と法律実務 ─クラウド・IoT・ビッグデータ・AIに関する論点と保護対策─』.民事法研究会,230頁.

監修
弁護士 早崎 智久
(スタートアップの創業時からIPO以降までの全般のサポート、大手企業の新規事業のアドバイスまでの幅広い分野で、これまでに多数の対応経験。 特に、GVA法律事務所において、医療・美容・ヘルスケアチームのリーダーとして、レギュレーションを踏まえた新規ビジネスのデザイン、景表法・薬機法・健康増進法などの各種広告規制への対応、医療情報に関する体制の整備などが専門。)

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