【弁護士/司法書士解説】有償ストックオプションとは

執筆:司法書士 小林 哲士

(※2022年10月20日に記事内容をアップデートいたしました。)

 スタートアップの多くは、インセンティブプランとして税制適格ストックオプションを活用していますが、最近では有償ストックオプションを活用する企業も増えてきています。

 そのため、本稿では有償ストックオプションについて見ていくことにします。

有償ストックオプションとは

 企業が、役員や従業員にストックオプションを付与する場合、ストックオプションを行使する際に課税されてしまう、いわゆる「キャッシュ・インなき課税」(詳細は「税制適格ストックオプション(税制非適格ストックオプションとの比較)」をご覧ください。)を防ぐため、租税特別措置第29条の2の税制適格要件を満たすように設計する、税制適格ストックオプションを付与するのが一般的です。
 ただし、一定数の株式を保有している創業者(オーナー)や社外協力者に対してストックオプションを付与する場合には、税制適格の要件を満たすストックオプションの内容であっても、税制適格の対象外となってしまいます。
 そこで、このようなケースで多く活用されているストックオプションが、有償ストックオプションとなります。

 有償ストックオプションは、税制適格の対象外である創業者(オーナー)や社外協力者などに対して付与する場合でも、税制適格ストックオプションと同様の税制優遇措置の適用を受けることができます。
 一方で、税制適格ストックオプションは、ストックオプションの付与時に付与対象者である役員や従業員などは金銭の払い込みの必要がないのに対し、有償ストックオプションは、ストックオプションの付与時に、付与対象者がストックオプションの公正価値に基づく発行価額(金額)の払い込みが必要という特徴があります。

 

 

有償ストックオプションのメリットとは

①税制優遇措置が受けられる

 税制適格要件を満たさない無償のストックオプションは、税務上、労働の対価として取り扱われていることから、ストックオプションを行使し株式を取得した時点で、権利行使時の株価と権利行使価格との差額について課税されます。これはキャッシュを得られていない時点での課税となり、また、給与所得として税率は住民税も合わせて最大55%となりますので、大きな負担となります。
 一方で、有償ストックオプションの場合には、適正な対価を支払った上でストックオプションを取得しているため、労働の対価には該当せず、ストックオプションを行使して得た株式を、売却した時点で初めて課税されることになります。売却によりキャッシュを得られた時点での課税なので、この点で資金面の負担が軽減します。また、この課税は譲渡所得としての課税(最大約20%)なので、税率としても低くなります。

②付与対象者のモチベーションの向上につながる

 有償ストックオプションの場合、権利を行使するための条件(例えば、2年後に売上10億円など)を設定し、かかる条件を達成しないとストックオプションを行使することができない設計をすることが多いです。そのため、付与対象者において、会社の業績を向上させることについてインセンティブが期待できます。
 また、有償ストックオプションの場合、付与される際に付与対象者自身で金銭を支払うことになります。金銭を支払ったことにより、「支払った金銭を取り戻す」という意味でも、会社への在籍や業績向上にインセンティブが働くこととなります。

 

③社外協力者に対して付与することができる

 有償ストックオプションには、税制適格ストックオプションのような人的要件が課されておらず、自社の役員や従業員に限らず社外協力者に対して付与することも可能です。
 そのため、優秀な人材を登用したいが雇用できない場合や、外部のアドバイザーがキーマンとなる場合などに、有償ストックオプションを活用したインセンティブプランが有用となります。

 

④役員に付与する場合であっても報酬決議が不要

 通常、役員に対してストックオプションを付与する場合には、会社法上「報酬等」に該当します(会社法第361条)。一方で、有償ストックオプションについては、公正な価額で発行する限り、税務上は有価証券(金融商品)として取り扱われていることから、役員に対して付与した場合であっても「報酬等」には該当せず、株主総会において報酬決議を経る必要がありません。
 もっとも、スタートアップの多くは非公開会社であり、ストックオプションの発行自体に株主総会の特別決議が必要となるため、報酬決議が不要であることのメリットはそれほどありません。
 公開会社の場合は、ストックオプションの発行自体は取締役会の決議で可能であるため、機動的なストックオプションの発行が可能となります。

 

 

有償ストックオプションのデメリットとは

①付与時点で払込みが必要

 ストックオプションの付与時に発行価額の払込みが必要となります。付与対象者は金銭の支払いを行うことはモチベーションアップにもつながりますが、付与対象者の資産状況によっては、支払いが難しいということもあります。
 ただし、有償ストックオプションの払込価額は、その設計次第では、ストックオプションの公正価値(評価額)を引き下げることも可能です。行使の条件として業績条件などを付けることにより、払込価額を大きく抑えることができます。

 

②公正価値の算定に一定の費用が発生する

 有償ストックオプションは公正価額に基づく発行価額の払込みが必要となりますが、その算定は一般の方では困難であり、また、前述したように条件付けによる払込価額の引き下げを行う場合も専門家への相談が必要となります。
 専門家へ相談するコストと、有償ストックオプションの効果・メリットを比較し、しっかりと検討した上で、発行の有無を判断する必要があります。

 

③行使条件を達成しないと行使できない

 有償ストックオプションは、行使条件を定めることで払込価額を引き下げて、付与対象者の金銭的な負担を減らすことができます。もっとも、行使条件が厳しすぎると、その条件を達成することができず、結果としてストックオプションを行使することができなくなります。
 厳しい行使条件は、付与対象者の金銭的な負担は減りますが、その分行使できなくなる可能性が高まりますし、達成が困難な条件では付与対象者のモチベーションは上がらないので、このあたりのバランスは非常に大事になってきます。

 

 

有償ストックオプションの会計処理

 有償ストックオプションの会計処理については、企業会計基準委員会が2018年1月12日に実務対応報告36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」を公表しています。

 公表された実務対応報告によると、権利確定条件付き有償新株予約権(権利確定条件として勤務条件および業績条件が付いている有償新株予約権や業績条件が付いている有償新株予約権をいいます。)に該当する場合、その新株予約権が従業員などから受けた労務の報酬として用いられていないことを立証できない限り、税制適格ストックオプションなどと同様の取り扱いとなり、ストックオプション等に関する会計基準およびストックオプション等に関する会計基準の適用指針が適用されることになります。

有償ストックオプションの活用場面とは

  • 創業者である代表取締役へ付与する

  • 監査役へ付与する

  • 社外協力者へ付与する

  • 特許の譲渡代金の対価の一部として付与する

 

最後に

 以上、有償ストックオプションについて説明いたしました。

 スタートアップは、高い成長率が求められ優秀な人材の確保が必須となります。近年ではフリーランスや副業といった様々な働き方も選択できるようになり、そういった働き方をする優秀な人材を確保し、どのようなインセンティブを付与するかも考慮する必要があります。

 有償ストックオプションは、税制適格ストックオプションが付与できない対象者へのインセンティブプランや、役員・従業員たちのモチベーションアップに関して有効な手段のひとつです。

 

 GVA法律事務所では、有償ストックオプションのほか、税制適格ストックオプションなどのさまざまなインセンティブプランについて相談いただけます。また、インセンティブプラン組成にあたって、新株予約権の公正価値の評価なども公認会計士と連携して対応していますので、ご不明点やご相談などありましたら、お気軽にお問い合わせください

監修
弁護士 小名木 俊太郎
(企業法務においては 幅広いサービスを提供中。 ストックオプション、FinTech、EC、M&A・企業買収、IPO支援、人事労務、IT法務、上場企業法務、その他クライアントに応じた法務戦略の構築に従事する。セミナーの講師、執筆実績も多数。)

2020年12月2日 公開
2022年10月20日 更新

執筆者

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